ビージャ・アクシャラ

「ビージャ」とは、サンスクリット語で「種」をあらわす言葉です。またアクシャラとは、「音節」をあらわします。したがって、ビージャ・アクシャラは、仏教では種字(しゅじ:天台系)または種子(しゅじ:真言系)といわれています。ビージャ・アクシャラ(種字)は通常、サンスクリット語1文字であらわされるものとなります。マントラは、このビージャ・アクシャラを基本にして構成され、またビージャ・アクシャラそのものもマントラとして唱えられます。師から弟子へと口伝によって伝授されるマントラは、このビージャ・マントラが多いでしょう。
ビージャ・アクシャラについては、かの有名なスワミ・シヴァナンダが、著作の中で詳しい解説をしていますので、ここでは、その一部をご紹介いたします[1]。
『ビージャ・アクシャラとは、種となる言葉(種字)です。それはとても強力なマントラです。すべての神々は、それぞれのビージャ・アクシャラを所有しています。すべてのビージャ・アクシャラの中で、もっとも偉大なものは「オーム」すなわちプラナヴァです。それは、パラ・ブラフマン【註:ブラフマンとは宇宙の根本原理であり、それを超越(パラ)するもの】あるいはパラマートマン【真我】の象徴です。オームはそれ自身の中に、他のすべてのビージャ・アクシャラをを含んでいます。オームは、あらゆるものの源泉、すなわちすべての特定音に共通の種であり、また経過音として二次的な種ともなります。アルファベットの文字は、すべての音と文字の根源であるオームから発生します。オームよりすばらしく偉大なマントラは他にありません。オームは、日常的に発音されるとき、きわめて繊細で、耳では聞こえない状態の音がかたまりとなって放出されます。それはアマートマ、すなわち第4段階の超越状態【註:第1段階では、口を使い音として発声する。第2段階ではささやき声で発声する。第3段階では唇だけを動かして、声には出さない。そして第4段階では、こころの中でマントラを唱えるようになります。アマートマとは境界のない、計り知れないの意味で、ここでは無音を意味します】に達します。さまざまな神々は、ひとつの至高的存在のさまざまな姿や側面をあらわしているように、ビージャ・アクシャラあるいはビージャ・マントラもまた、至高のビージャ、至高のマントラである「オーム」のさまざまな姿や側面をあらわしているにすぎません。「ア」「ウ」「ム」の文字だけでは、超越的かつ根本的な音の状態を与えることはまずありません。この3音から構成される音は、もっとも神聖で原初的なドゥヴァニ(波動)のあらわれでしかありません。オームの超越的な音は、通常の耳で聴こえるものではなく、ヨーギンたちによってのみ聴くことができます。オームの正しい発音は、太く調和的な波動とともに、へそから音が生まれ、アヌスヴァーラ【鼻音】つまりチャンドラビンドゥ【”月のような点”の意味で、鼻音】が発音される場所である鼻孔の上部まで段階的に少しずつあらわれていきます。
ビージャ・マントラは、時には数文字からなる場合もありますが、基本的には、一文字でできています。たとえば、ビージャ・マントラである「カム」は、すべてのビージャ・マントラを終結させるアヌスヴァーラあるいはチャンドラビンドゥで、一文字からなります。チャンドラビンドゥでは、ナーダ(音)とビンドゥ(点)がひとつに融合します。いくつかのビージャ・マントラは、「フリーム」のマントラのように複数の文字からできていることもあります。ビージャ・マントラは、その内部に重要な意味をもち、表面的には意味を持たないことが多いでしょう。それらの意味は、非常に微細で、神秘的なものです。ビージャ・マントラの姿は、それを示している神々の姿となります。
5つのマハーブータ(偉大な元素)、すなわち地、水、火、風、空のビージャは、それぞれラム(Lam)、ヴァム(Vam)、ラム(Ram)、ヤム(Yam)、ハム(Ham)となります。ここで、次に例としていくつかのビージャ・マントラの意味を示します。
「オーム」
オームは「ア」「ウ」「ム」の3つの文字からなります。それは時間の3つの周期、意識とすべての存在の3つの状態を示します。「ア」は目覚めの状態、すなわちヴィラートとヴィシュヴァ(目覚めの意識状態、有限宇宙)です。「ウ」は夢見の状態、すなわちヒランニャガルバとタイジャサ(夢見の意識状態)です。「ム」は眠りの状態、すなわちイーシュヴァラとプラージュナ(眠りの意識状態、叡智)です。オームの意味を理解するためには、マンドゥキョーパニシャッド(Mandukyopanishad)を詳細に学ぶといいでしょう。』
[1]Swami Sivananda, “Japa Yoga, A Comprehensive Treatise on Mantra-Sastra”, pp94-, The Divine Life Society, India, 1992