サンスクリット語の子音 その7

Close-up of the open Bible

サンスクリット語の子音の続きです。
いよいよ33の子音の最後になりました。

今回の発音/文字は次の4つです。

デーヴァナーガリー

カタカナ

IAST

音声記号

備考

口蓋音

「シャ」

śa

ɕə

日本語のシャと同様

反舌音

「シャ」

ṣa

ʂə

舌を反り上げて発音

歯音

「サ」

sa

日本語のサに近い

喉音

「ハ」

ha

ɦə

喉の奥で息を出す

visarga

気音

「ハ」*

h

*直前の母音によって変わる

anusvāra

鼻音

「ン」

鼻母音

歯擦音は、順番に、口蓋音、反舌音、歯音のグループに分けられます。
つまり、
शは、口蓋のあたりで発音する「シャ」、IASTではśa のように、sの上にアクセント記号を付けます。
日本語のシャと同じです。

षは、舌を反り上げて発音する「シャ」、IASTではṣaのように、sの下に点を付けます。
शよりも舌足らずな感じです。

सは、日本語の「サ」に似ていますが、もっと前の方で発音する乾いた音です。IASTではsaと書きます。

この三つをネット上などでは区別しないで全部  sa で現したり、
最初の二つを区別せず sha と書いている例がよく見られます。

例えば、ガネーシャ神をganeshaとかganesaとローマ字だけで書いてあったら、
そのsaやshaは本来の発音がशなのか、षなのか、सなのか、全く分かりません。
neも、反舌音のणे なのか、歯音のने なのか、分かりません。

ややこしいのは、インド人でさえそれらを区別せずにローマ字で書いていることです。
現代語でニュースやメールを読んだり書いたりする場合なら不都合は少ないかもしれませんし、
間違った書き方や言い方が時代と共に「正しい」とされてしまうことは、
身近な日本語でもよくあることです。

ですが、サンスクリット語でマントラや聖典を正しく知りたい人、読みたい人にとっては、
こうした表記方法の混乱は、とても困った状況なのです。

ガネーシャ神は、正しくはगणेश gaṇeśaと書きます。
(ṇe は ण にेを添えます。母音の添え字については後日)
デーヴァナーガリー、あるいはIAST で書いてあれば、
णे ṇe は反舌音のナ、श śa は口蓋音のシャであることが分かりますね。

表では便宜的にカタカナで読み方を表していますが、
サンスクリット語に関心を持つ方には、
こうした発音の違いを踏まえた表記法IASTや
デーヴァナーガリーを理解して欲しいと思います。

次に、ह haがあります。
日本語のハと似ていますが、やや口の奥の方で発する音。
気音のグループで、(摩擦音という場合もあります)
有気音扱いになります。

次のvisargaとanusvāraは、普通は子音には数えませんが、
単独で出てくることはない、特定の条件下で現れる発音です。

visargaは語末の -r や –s の音が変化した音。
直前の母音がaḥなら「アハ」、iḥなら「イヒ」、uḥなら「ウフ」のようになります。
デーヴァナーガリー文字では縦に点を二つ書いた形。
IASTではhの下に点を付けて、ḥと表します。
例えば देवः devaḥ(神は:男性名詞主格単数) デーヴァハ、のようになります。

anusvāraは語末の鼻音が変化した鼻母音。
デーヴァナーガリー文字では、文字の上に点を付けます。
例えば देवं devaṃ 、読み方はデーヴァン(神を:男性名詞対格単数)
この語尾は本来は –m ですが、後に子音が来ると-ṃになります。
カタカナでは便宜的に「ン」と書きますが、このṃをnと間違えないようにしてください。
普通は無意識にこの発音になっています。

これで、13(ॡを入れると14)の母音と33の子音を紹介しました。

もしかしたら、サンスクリット語のアルファベット順と五十音順、
似ている部分に気づいた方がいるでしょうか。

日本語では認識しない音を除いて、カタカナ表記で並べてみたとき、
ア、イ、ウ、エ、オ…、
マ、ヤ、ラ、ワ…、
のところは、とても似ています。

偶然の一致?

ではなくて、これは唐を経由してサンスクリット語学=悉曇(しったん)学を学んだ
僧侶たちによって五十音図が作られた歴史的な痕跡なのです。
サ行は、古代日本語ではチャあるいはツァのような口蓋音、
ハ行は、江戸時代初めまでパやファのような唇音だったことを踏まえると
ア・カ・チャ・タ・ナ・パ・マ・ヤ・ラ・ワ、
サンスクリット語と同じように、調音点の移動を考えた配列になっています。

日本人は知らず知らず、身近な五十音図を通してサンスクリット語の恩恵を得ていたんですね。

以下は、歯擦音、気音が入っている単語の例です。
口蓋音のशと反舌音のषの違いに注意してください。

शास्त्र śāstra シャーストラ(教典、論書)

पुरुष puruṣa プルシャ(人間、リグヴェーダに登場する「原人」、サーンキヤ哲学の「精神原理」)
(puは प् にुを添えます)

षष् ṣaṣ (数字の6)

सत्त्व sattva サットヴァ(存在、善性、サーンキヤ哲学の「純質」)
(त्त्व ttvaは、त् + त् + व という三つの子音が繋がった字形)

सरस्वती sarasvatī サラスヴァティー(現在の印パ国境付近をかつて流れていた川が神格化されたもの。弁才天。)
(स्व svaは、स् + व という二つの子音が繋がった字形)
(tī はत् にीを添えます)

次回は、子音+a以外の母音のときの文字の形を紹介します。

(文章:prthivii)