サンスクリット語 名詞の性と数

Close-up of the open Bible

今回からは、文法について少しずつ触れていきたいと思います。

サンスクリット語が世界一難解な言語、と呼ばれる理由の一つが、
「語尾変化の多さ」です。
いきなり完璧に覚えようと思えばハードルが高すぎるので、
とりあえず、「サンスクリット語ってこういう特徴があるのか」ということを
ちょっと知るだけでもいいと思います。
それだけで、マントラや聖典の言葉が違って見えてきますよ。

まず、名詞の語尾が変化するとはどういうことなのか説明します。

1. 性(せい)・・・男性、中性、女性

サンスクリットの名詞には、文法的な性別という分類があります。
男性名詞、中性名詞、女性名詞、の3つ。

人や神や生き物を表す名詞の場合は、生物学的性別と一致します。

例:विष्णु- viṣṇu-(ヴィシュヌ)男性名詞、 काली- kālī-(カーリー)女性名詞
पितृ- pitṛ-(父)男性名詞、 मातृ- mātṛ-(母)女性名詞
अश्व- aśva-(牡馬)男性名詞、 अश्वा- aśvā-(牝馬)女性名詞

(*単語の後に “ – ” の記号を付けているのは、語尾が変化する前の語根であることを表します。)

ところが無生物の場合、性は文法的な分類以上の意味はありません。

例: ग्राम- grāma-(村)男性名詞、 नगर- nagara-(都)中性名詞、 सेना- senā-(軍隊)女性名詞

軍隊が女性名詞、というのは不思議な気がしますね。
なかには、文法的性に従って男性的イメージや女性的イメージが付いている単語もあります。

例:नदी- nadī-(川)女性名詞、 भूमि- bhūmi-(大地)女性名詞=女神のイメージ
सूर्य- sūrya-(太陽)男性名詞=男性神

形容詞は、修飾する名詞の性に応じて語尾が変化します。

例:「黄色い」という意味の形容詞गौर- gaura-の場合

男性名詞を修飾するとき गौरः gauraḥ (主格単数のとき)
中性名詞を修飾するとき गौरम् gauram ( 〃 )
女性名詞を修飾するとき गौरी  gaurī  ( 〃 )

性に応じて語尾が変化する、というのは、日本語や英語にはないので、最初はピンと来ないかもしれません。
普通、それぞれの名詞は固有の性が決まっていますが、男性と中性のいずれにもなる名詞もあります。

例えば、
ब्रह्मन् brahman ブラフマンという単語は、文中の主語として出てくるとき、

宇宙原理としてのブラフマンの意味なら、ब्रह्म  brahma (中性名詞、主格単数)
神格としてのブラフマー神の意味なら、ब्रह्मा brahmā (男性名詞、 〃 )

というふうに、性によって意味が変わり、語尾も変わります。

また別の例では、「神」の意味の देव- deva-
という名詞がありますが、これは男性名詞なので
「女神」の意味なら語尾が変わって、女性名詞 देवी- devī-になります。

2.数(すう)・・・単数、両数、複数

サンスクリットの名詞や動詞は、単数、両数、複数、という数(すう)で語尾が変化します。
単数は一つのものを表し、両数は二つのものを表し、複数は三つ以上のものを表すときに使われます。
(形容詞も、修飾する名詞の数にあわせて変化します。)

例えば देव- deva-
देवः devaḥ 「一柱の神は~」 (男性名詞、主格、単数)
देवौ  devau 「二柱の神は~」 ( 〃 、 〃 、両数)
देवाः devāḥ 「複数(=三柱以上)の神は~」 ( 〃、 〃 、複数)

devaḥ と devāḥ のように、最後の母音が短母音か長母音かの違いだけで、一柱の神なのか、複数の神なのか、意味が違ってきます。

以前にも書きましたが、インターネット上では短母音と長母音の区別があまり注意を払われずに転載されているので、マントラなどを参照するときには注意が必要です。

次回は、文中の役割を表す名詞の「格」について説明します。

(文章:prthivii)