サンスクリット語 aで終わる名詞の格変化の例文(バガヴァッドギーターを例に)

Detail of Gita Stambha

二回に分けて、aで終わる男性名詞と中性名詞の格変化をやりました。
今回、例として、aで終わる男性名詞と中性名詞が多く出てくる
バガヴァッドギーター(10.12~13)の実際の一文を見てみましょう。

サンスクリット語の文章では、単語の性、数、格を
どのように解釈するかによって、
意味が変わってしまう場合が多々あります。
ブログでの説明は難しい面もありますが、
各単語(名詞や形容詞)の語尾の形が
どの性、どの数、どの格を表わしているのか、
そういう部分に注目してみてください。
aで終わる男性名詞、中性名詞の変化はこちらを参照

(1)परं ब्रह्म परं धाम पवित्रं परमं भवान् |
paraṁ brahma paraṁ dhāma pavitraṁ paramaṁ bhavān |
「あなたは最高のブラフマン、最高の住処、最高の浄化具である。」
(バガヴァッドギーター 10.12.a)

この一行に出てくる単語を、次に、順番に説明していきます。
文中に出てきた単語はそのままデーヴァナーガリーで表し、
語根はローマ字で表し、意味、文法機能、と続きます。

परं / para- 最高の(形容詞、中性・単数・主格)
ब्रह्म / brahman- ブラフマン、宇宙の根本原理(中性名詞・単数・主格)
परं / para- 最高の(形容詞、中性・単数・主格)
धाम / dhāman- 住居、住処(中性名詞・単数・主格)
पवित्रं / pavitra- 浄化具(浄化のための道具)(中性名詞・単数・主格)
परमं / parama- 究極の、最高の(形容詞、中性・単数・主格)
भवान् / bhavat- あなた(男性名詞・単数・主格)*ここではクリシュナのこと

ほとんどが中性名詞と、それを修飾する形容詞ですね。
aで終わる中性名詞の場合、主格(~は)も、対格(~を)も、
同じ格語尾-amになるため、
主格なのか、対格なのかは文脈から判断します。
形容詞は、修飾する名詞と同じの性数格です。

これらを、後で出てくる√ah (呼ぶ)という動詞の目的語、
つまり対格とする解釈もありますが、
一番最後のभवान् bhavānという単語は
男性名詞bhavat- 「あなた」の単数、主格の形で、
対格ではありません。(語根が-atで終わる名詞は
aで終わる名詞とは異なった語尾になります。)

ここでは、

あなたは=最高のブラフマン=最高の住処=最高の浄化具(である)

という関係を表わしており、すべて、単数、主格、と解釈します。

「AはBである(A=B)」という文章の場合、
Aも、Bも、それぞれ主格であるとき、
“=”の役割をするbe動詞は省略されても意味が通じます。

(2)次の文章は、(1)の続きです。

पुरुषं शाश्वतं दिव्यम् आदिदेवम् अजम् विभुम् ॥१०. १२.b॥
puruṣaṁ śāśvataṁ divyamādidevamajaṁ vibhum || 10.12.b ||
「永遠にして神聖なプルシャ、原初の神、不生なる主であると、」
(バガヴァッドギーター 10.12.b)

पुरुषम् / puruṣa- (一般名詞)人間、最高精神、 (男性・単数・対格)
शाश्वतम् / śāśvata- 永遠の (形容詞、男性・単数・対格)
दिव्यम् / divya- 神聖な (形容詞、男性・単数・対格)
आदिदेवम् / ādideva- 原初神(男性名詞・単数・対格)
अजम् / aja- 不生の、永遠の(形容詞、男性・単数・対格)
विभुम् / vibhu- 支配者(男性・単数・対格)

語尾だけを見ると、(1)の例文と同じ –am で終わっているのですが、
ここで出てくるプルシャなどはaで終わる男性名詞なので、
-am という語尾は、単数、対格(~を)のときしかありませんので、
男性形、単数、対格です。
形容詞も、修飾する名詞と同じ性、数、格になります。

これらの対格「永遠にして神聖なるプルシャ~」「原初の神~」「不生の主~」といった単語は、
次の文章(13番)に出てくる動詞「~と呼ぶ」の目的語です。

(1)と(2)をあわせて、バガヴァッドギーター第10章12番という
一つのシュローカ(定型句)であり、
普通は一つのシュローカごとに文章の意味が区切れますが、
ここでは12~13番という複数のシュローカに渡って意味が繋がっています。

(3)次は13番のシュローカです。

आहुस्त्वामृषयः सर्वे देवर्षिर्नारदस्तथा ।
असितो देवलो व्यासः स्वयं चैव ब्रवीषि मे ॥१३॥
āhustvāmṛṣayaḥ sarve devarṣirnāradastathā |
asito devalo vyāsaḥ svayaṁ caiva bravīṣi me ||13||
「すべての聖仙たちは、あなたをそのように呼んだ。
神仙ナーラダも、アシタ・デーヴァラ仙も、ヴィヤーサ仙も。
そしてあなた自身も私にそう語る。」

आहुस् (āhus)/ 動詞 √ah- 呼ぶ (完了、能動態、3人称、複数)

√ah- (呼ぶ)という意味のこの動詞は、二つの対格とともに使うとき、
「~を(対格)・・・と(対格)呼ぶ」の意味になります。
完了形なので、「(かつて)呼んだ」という
過去の出来事を表しています。

さらに、

त्वाम्  / tvat- あなた(二人称代名詞、男性、単数、対格)「あなたを」

これも対格です。
12番の後半に出てきた単語
「永遠にして神聖なプルシャ、原初の神、不生なる主」も対格なので、
それぞれ、√ah- の直接目的語と間接目的語で、
「あなたを永遠にして神聖なプルシャ、原初の神、不生なる主と呼んだ」
という意味になります。

次に、

ऋषयः / ṛṣi- 聖仙、ヴェーダの詩人(男性名詞、複数、主格)「聖仙たちは~」
सर्वे / sarva- 全ての(男性、複数、主格)「全ての~は」

この二つは男性名詞の主格で、複数形です。
動詞のआहुस्が複数形だったので、数が一致しています。
つまり「全ての聖仙は」と、「呼ぶ」という動詞の主語です。

さて、次に出てくる単語は副詞以外は全部が男性名詞の主格ですが、

今度は単数形になっています。

देवर्षिर् / deva-rṣi- 神にして聖仙、神仙(男性名詞、単数、主格)
नारदस्  / nārada- ナーラダ仙(男性名詞、単数、主格)
तथा tathā / そのように(副詞)
असितो / asita- アシタ仙(男性名詞、単数、主格)
देवलो / devala- デーヴァラ、アシタ仙と同一(男性名詞、単数、主格)
व्यासः / vyāsa- ヴィヤーサ仙(男性名詞、単数、主格)

これらは、聖仙の中でも特に有名な聖仙たちの名前です。
一つ一つは単数形ですが、まとまって複数として扱い
आहुस् (呼んだ)の主語になっています。

この次の部分では、文章の意味に区切りがあります。

स्वयं / svayam ~自身、自ら(副詞)
च / ca そして(接続詞)
एव / eva 実に(強調のための副詞)「実にまた」
ब्रवीषि / 動詞 √brū 言う(現在、能動態、2人称、単数)
मे / me 私に(一人称代名詞mahyamの附帯形、単数、為格)

ここで出てきたब्रवीषिは、動詞 √brū(言う)の現在形、2人称単数形です。

日本語と違って、サンスクリット語の場合、
動詞の語尾そのものに、主語が誰なのかを示す機能があるので、
「あなた」にあたる単語が入っていなくても
ब्रवीषि という単語だけで、
主語は「あなた」であることが分かるようになっています。
つまり意味は、「あなたは~と言う」になります。
最後のमेは「私に対して」という意味の人称代名詞です。

次回は、āで終わる女性名詞を紹介します。

(文章:prthivii)