インド音楽だけが堅持する基音持続法

Om symbol on the sand at the beach near the ocean

世界各地の音楽の起源を探ってみますと、ほぼ全てが「単旋律」から始まっています。そして、いずれもほどなく「基音」を伴う手法「基音持続法」が開発されました。ドレミで言うと、ドの音を鳴らしながら、ドレミなどの旋律を奏でるという手法です。世界の様々な地域で、シンクロニシティーにこの手法が生まれながら、ほとんどの地域で、後にこれをやめているという不思議な現象があります。それに対し、インド音楽では、科学音楽から民謡に至るまで、今日まで、これを継続しているのです。言うまでもなく、世界的に希なことであるとともに、「基音持続」の発祥と割愛、もしくは継承の全ての答えがインド音楽に在るということなのです。

この「基音持続法」は、英語で「Drone(ドローン)」と呼ばれます。字義は「雄蜂の羽音」であり、「ブーン」という持続音が由来なわけですが、恐らく昨今話題流行の「超小型ヘリ・無人飛行カメラ」の語源でもあるのでしょう。

ところが意外にも、用語が豊富なインド音楽にもかかわらず、この「基音持続法」を指す用語が見当たらないのです。強いて言えば「Shrti(シュルティー)」なのですが、「Shrti」は、古代の一時期の「オクターブの分割音」のことであり、「基音」を指す語ではありませんでした。おそらく、その言葉が死語になった後に、「基音」を指すようになったらしいのですが、実は論理的にも理論的にも正しくないうえに、演奏家でもその呼称を言わない、知らない人は少なくありません。それほどに基音はインド音楽にとっては「当たり前」「在って当然」のものであったのでしょう。

かと思うと、どうしても「基音持続」を言わねばならないとき、例えば、オーボエの元祖管楽器である「Shahnay(シャーナイ)」楽団で、何時間も「ド」だけ吹いている伴奏専門楽器は「Shrti-Upangi(シュルティー・ウパンギ)」と言いますし、近代になって声楽家やセミクラッシックの歌手の演奏旅行用に開発され、そこそこ人気の「基音」を出す、ラジオ型の電子楽器は「Shrti-Box」という商品名ですから、「Shrti」の呼称は、全インドで共通に認識されているのでしょう。

そもそも「基音持続」は、絶対音感でもない限り、「ドレミのド」なのか? 「ファソラのファ」なのか?は、誰も決めつけることができないはずです。そこで、旋律とは別に「ド」を鳴らし続けると、それが水平線、地平線、または絵画のキャンバスのような役割を担い、上下に動く旋律の曲線がイメージできる、というのが世界各地で「基音持続」が生じた理由です。

西洋でも、スコットランドのバグパイプは、いわゆる「コード進行」を持つ音楽であるにもかかわらず、「ドローン管」の音が常に鳴らされています。西洋における不協和音になってしまっても「基音持続」を堅持している楽器と音楽は、古楽器を別として、おそらくバグパイプだけと思われます。

日本でも津軽三味線の曲弾きの冒頭に鳴り響きますが、ほどなく、旋律弦だけになってしまいます。シルクロードや西アジアでは、民謡楽器では少なくありませんが、古典音楽ではほとんど「基音持続」をしません。

つまり、インド音楽以外では、「基音持続」を捨てることが、「新しい」「洗練された」と考えられた歴史があるのでしょう。

しかし、インド音楽は、数千年の長きに渡って、決して捨てることをしなかったばかりか、一曲の間に途切れることさえしないのです。

それは「基音」こそが「全ての原点、源」であるかれでもあり、「基音=OM」を捨てるはずがないからに他なりません。

(文章:若林 忠宏

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