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インド音楽

44、ムガール宮廷最高位楽師:Miyan Tan Sen

Man playing the sitar

16世紀に、ほぼインド全土を支配したムガール王朝歴代君主の中でも抜きん出た名君とされるAkbar大帝の宮廷楽士長であり、音楽のみならず様々なことを含む師のような存在であったのが、Miyan Tan Sen( 1493?/1506?~1586?/1589?)というインド音楽史最大の楽聖です。

Tan Senにまつわる逸話は、他の楽聖や偉人より数桁違いに多く残されており、当然眉唾ものも少なくありませんが、やはりそれらから読み取るべき古典音楽の有様や、科学音楽の片鱗を知る手だても少なくありません。

大帝Akbarは、様々な宗教に対しても寛大以上に敬意と関心を抱き、ヒンドゥー教徒の義母の為に城内にヒンドゥー寺院を建てたり、イスラム正派の立場にありながら、彼のAmir Khusrawが帰依したスーフィー教団Chishtiを信仰し、一時は、その教えに従って遷都さえ行ったと言われます。

そのような君主に仕えたTan Senもまた、ある意味「多宗教」的な側面を隠さなかった人物と言えましょう。後継者である二人の息子はムスリム名ですが、娘の名はSaraswati Deviです。

そもそもTan Senは、ヒンドゥー・バラモンの家系で生まれ、彼の代でイスラムに改宗したのであって、旧名はRamtanu Pande(Ramtanu Misra/Tanna Mishraの愛称も在)です。改宗のきっかけは、宮廷楽師として登官するためだったとも言われますが、それ以前、グワリオールのヒンドゥー藩主の楽士をしていた時点で、Faqir(イスラム修行僧) Muhammad Gausを精神面の詩と仰いでいたことも良く知られています。Faqirとの付き合いは父親の代から、の説もあります。

Tan Senの音楽的業績は、数え上げればキリがないほど語られていますが、特徴的なもののひとつが、彼のAmir Khusrawと同様に、西域、主に中央アジアの楽器をインド楽器と融合させたことでしょう。それは、今日のタジキスタン山岳部であるパミール高原の弦楽器「Rubab(ルバーブ)」にインド弦楽器「Vina(ヴィーナ)」の「さわり駒」を取り付ける発想で生まれた融合楽器「Rabab/Tan Sen Rubab」です。

Tan Senは、その後継を、次男のBilas Khanと、娘婿のふたつの家に継がせましたが、息子の本家がDhrupad声楽とRababを専門とし、娘婿は、Dhrupadと従来のVinaをそのまま専門楽器とし、前者を「Seni-Rababiya派」後者を「Seni-Vinkar派」と呼ぶようになりました。それほどに中央アジア楽器との融合創作楽器Rababの地位は高く不動だったのです。

逆に音楽の方は、Khusrawのような西域との融合はほとんどせず、Gopal Nayakの時代の「Prabandha」から発した「Dhrupad(ドゥルパド)」に徹していました。Dhrupadは、Tan Senが楽壇デビューをした頃には既に確立されており、Tan Senが最初に登官したグワリオールでは、ヒンドゥー藩主自身もVinaとDhrupadの名手でした。したがって、「Dhurpad様式の完成者」という解釈は、遠からずとも当らずなのです。

しかし、言い換えれば、Tan Senの存在が無ければ、「Prabandha」が廃れた頃に、「Dhrupad」が後継の地位を得る前に、イスラム宮廷楽壇におけるヒンドゥー系音楽は廃れてしまっていた可能性も大いにあり、「Dhrupad」の「中興の祖」という言い方は出来るはずです。

その精神的背景には、Tan Senが生まれ育ったヒンドゥー・バラモンの叡智、幼少期からのイスラム聖者の教え、そして、タントラ音楽の探究者である師Swami Haridasの教えがあることは言うまでもありません。

なお、Miyan Tan Senは、愛称、タイトルで、「Miyan(尊敬に値する)Tan(旋律)Sen(主)」で、ムスリム本名は、Muhammmad Ata Ali Khanです。

インドに限らず、かなり昔から近代迄、古今東西で、芸術家や著名な文化人は、本名で呼ばないことが礼儀という風習がありました。卓越した非凡な人物である印であったと思われます。Tan Senの子孫の中には「Kan(耳/聴力)Sen」という音楽家も居ます。

(文章:若林 忠宏

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