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インド音楽

45、天才の心の闇:Baiju Baura

Indian dance

Baiju Bawra(生没年不明)は、16世紀、全インドを統一した名君Akbar大帝の時代にグワリオールのヒンドゥー藩主に使えた音楽家で、前述のMiyan Tan Senの兄弟子、つまり、Swami Haridasの弟子の一人で、三百年前のAmir KhusrawとGopal Nayakの「歌合戦」よろしく、Tan Senとの「歌合戦」の逸話も語られています。

Baiju Bawraもまた、Tan Senに劣らぬ多くの逸話があり、映画も作られたほどです。もちろん眉唾ものも少なくないようですが、Tan Senとの数奇な運命の巡り合わせは事実のようです。

熱心なKrishna信者の母の影響で、自らも深くKrishnaに帰依していたBaijuは、母の望みのまま、Krishnaの森Vrindavan(ヴリンダーヴァン)に在るSwami Haridasの修行舎(Ashram/アシュラム)に入門し、師も驚く才能を開花させ、やがて後にTan Senも仕えたグワリオール宮廷で、自らも音楽家であった藩主Raja Man Singh Tomarの楽師となります。

Baijuはヤムナ河の畔で練習中に、生まれたばかりの捨て子を保護し、師Swami Haridasに届けます。世捨て人のようだった師は、何を思ったかその子を我が子のように育て、やがてBaijuに音楽指導を任せます。後にBaijuは、師が貧農から引き受けた幼い姉妹の指導も務め、その一方は、成人となりDhrupad免許皆伝となった元捨て子Gopalの妻となり、一人娘Miraを授かります。Miraの名は、Krishna Bhajan(クリシュナ献身歌)の名作者、Mira Bai(ミーラー・バーイ)にちなんだに他なりません。

Baijuは、我が孫同様のMiraを溺愛したと言われます。近代でこそ「依存症」という心の病としての認識も治療法も試みられるようになりましたが、16世紀のことです。また、伝説的な楽聖と肩を並べる程の才能と実力を持ちながらも、心の弱さに克てなかった様には、色々な意味で切ない想いがこみ上げて来ます。

Baijuは、GopalがMiraを連れてKashmir宮廷に登官してしまった裏切りに耐えられず心を病み、アテもなく毎日Miraを探しに徘徊するようになってしまったと言われます。Baiju Bawraもまたニックネームですが、「Bawra」は「狂人」の意味です。

そのような状態で、如何にしてTan Senとの「歌合戦」が成り立ったのか? それはTan Senの執拗な願いのせいでした。

Tan Senは、グワリオール宮廷、Vrindavanのアシュラムと、自らの音楽探求と修行の道のりの行く先々で、Baiju Bawraの評判と足跡とに向かい合わされたのです。

やっとのことで、Akbar大帝の見守る中、Vrindavanの森での「歌合戦」が行われ、美談が語るには、Tan Senは、Baijuの音楽の奥深さに涙し、ひれ伏して手合わせの光栄に感謝をしたと言われます。

「俗世を捨てた」ようなSwami Haridasが、晩年に見せた恵まれない子供たちに向けられた熱心な教育願望も、修業時代に家族をないがしろにした罪悪感と後悔であるとしたら......。

名だたる聖人たちはいずれも、崇高な音楽の深み高みのみを目指しているようでいて、その内面には、葛藤に負けた弱さを持ち、自尊と切り離すことが出来なかった孤独感を抱いていたと見ることができます。

もちろん、これを「人間くささ」と容認することは可能でしょう。逆に言うと、そのような自分の弱さを知り、少なからず恥じ、罪悪感を抱く分、音楽探求に突き進んだと見ることもできるのかもしれません。

いずれにしても、やはり「二元性/両極端の共存」のインドのこと、「清く正しい精神で音楽の真理探究に邁進する想い」と「ありふれた」と言っては語弊がありますが、普通の人間が普通に抱く「俗世の平凡な情感」もまた、二元的・両極端として一人の人間の中に混在することも、ある意味「自然」として容認されるのかもしれません。

(文章:若林 忠宏

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若林忠宏氏によるオリジナル・ヨーガミュージック製作(デモ音源申込み)
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