105、Raga-Chikitsa (アーユルヴェーダ音楽療法)

ラーガをどう説明したら良いか?

「ラーガって何ですか?」とか、「ラーガを『一言』で説明するならば?」と問われる時、私はかれこれ40年近く、四苦八苦しながらより分かり易い説明に苦心して来ました。

しかし、最も重要なことが「説明の分かり易さ」ではなく、「問うた人の思考性の問題」であると分かってからは、その説明の仕方も随分変わって来ました。

初期の頃の説明は、既に存在した文献や、学者先生や音楽評論家氏の言葉に倣ったものでした。1970年代のことです。

その中の極めて大雑把で、或る意味いい加減な説明が「ラーガとはインド古典音楽で用いる音階(Scale)の総称である」です。しかしこれは、「同じ音階を用いて複数のラーガが在る」ということで、いとも簡単に崩れさってしまうのです。
なので、やむなく「旋法」という「せめて音階よりも意味が深そうな」用語を用いる訳ですが、音楽のジャンルや音楽家によっては、音階との区別が曖昧ですから、「旋法」もラーガを充分に示しているとは言い難いのも事実です。

例えば、日本の唱歌で最も良く用いられる「四七抜調(ファとシを省く)」と同じ音階のラーガには、「Raga:Bhupali」と「Raga:Deshkar」がありますが、これらは全く異なる音の動きをします。

また、いささか上級編ですが、叙情的な歌で好まれる「Raga:Bhairavi」は、「レとミとラとシがフラット(半音低い)」音階を用います。「レ」がナチュラルですと、西洋の短調と同じになりますが、これはインドでは「Raga:Asawari」が代表格とされています。勿論、この音階を用いても十種前後異なるラーガがあります。

ところが「Raga:Komal(フラット)-Reshav(インド楽音名のレ)-ki-Asawari」というものがあるのです。「レが半音下がったAsawari」という名前ですから、音階としては「Raga:Bhaitavi」と同じになってしまいます。勿論、音の動きは全く異なります。

私は逆に、「ラーガの視座」から日本の「四七抜調の唱歌」を検証した「Raga:赤とんぼ」と「Raga:海」を説明したものをYouTubeに上げています。唱歌の「赤とんぼ」と「海」は、音の動きが全く異なるから「別なRaga」となる訳です。

これらのことは、「Raga-Lakshan(ラーガの身上書)」によって、基本的なことが分かります。そこでは「属するグループ、基本音列、主音、副主音、重要な音の動き、音域、演奏すべき時間帯(や季節)、関連する感情」などが最低明記されています。

実際、この知識レベルで、あとは好き勝手な即興に興じている演奏家は、日本のみならずインドでも多くなって来ました。尤も、その程度の深みしかない「簡易なラーガ」もけっこう多く存在し、そのようなラーガに限って「一般聴衆のウケが良い」ということもあります。

これらをアーユルヴェーダや中国古代医療・漢方の「生薬や方剤」に喩えると、「ほぼ同じ生薬のブレンドだが、その配分比が異なる」と言うことが出来ます。

「生薬方剤」には、「主薬、主薬を助け(効果を高め)る副薬、主薬の反作用を中和する為の助薬、主薬の反作用をフォローする為の助薬」が、数百年数千年の経験で配合されています。しかし、「方剤」と言えば、古代のものばかりと思いがちですが、アーユルヴェーダでも中国古代医療・漢方でも、意外に近代に「飲み易くする為に改良(改悪?)」したものも少なくありません。

有名な「葛根湯」などは「甘くて飲み易い」と人気が高く、実際喉が一瞬楽になったりしますから、ブラセボの助けもあって効いた気がして来ます。しかし、甘味の正体の「甘草」は、本当は注意深く遣うべき生薬です。ところが、もっと怖い(量によっては毒薬ろしても有名)生薬を用いる方剤でさえ今日ドラッグストアーで簡単に売られ、常駐している薬剤師さんも、実に「対処療法的」に「○○だったら、これが効きますよ」と「売らんかな」です。「一般聴衆のウケが良いラーガ」は、さしずめ「葛根湯」のような感じです。幸いに「ラーガ」の場合は、分かっていない人が弾いても「危険」ということはないようです。そもそも「音自体の力」が薄ければ、「薬効が飛んでしまった」ようなものだからなのでしょう。

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アーユルヴェーダ音楽療法では、

上記しました「Raga-Lakshan(ラーガの身上書)」は、「インド古典音楽」即ち、「観賞用芸術音楽」に於ける演奏者が、最低限熟知しておくべき話しですが、これを「音楽療法」に用いるとなると尚一層、数十倍も深く理解していなければならないことは言う迄もありません。

私は、町の獣医さんが「予後不良」とおっしゃった猫たちを助け、お医者さんが「奇跡だね」とおっしゃった数例や、画期的に延命を記した例が多くありますが。(勿論力及ばずの哀しい結果もあります)、その自宅での治療・看病では、「西洋ハーブ・アーユルヴェーダ生薬・中医・漢方生薬と方剤」を適材適所に使い分けています。

前二者は、「単味(単体)」を入手し、同時に飲ませたりずらしたりしていますが、漢方方剤は、「良く出来た方剤」でも、適材適所、タイミング良く、短期間(数日)のみ使用し、慎重に用いるべき方剤は、症状に合わせた「配合比」を漢方屋さんに特注します。ここ数年は、単味(単体)で入手し、自分でブレンドすることが主体になって来ましたが、滅多に使わない生薬は、鮮度を考えると「加減特注」が有難いのです。

「Raga-Chikitsa(ラーガ療法)」でも同じように、否、より自由自在にその「配合比」を変えて対処します。つまり、この段階の「ラーガ(旋法)」は、「同じラーガでも異なる性質を持たせる」という領域なのです。

何故に「より自由自在に」と言えるか? それは、基本が即興演奏だからです。しかし、言い換えれば、「アーユルヴェーダ音楽療法」を施術する者の知識・経験・分析力・把握力によっては「効くものも効かない」ということがあるからです。

かく言う私も、東洋生薬による治療を試み始めた初期の頃は、効果を見極める選択眼も、そもそもその生薬の成分や、それらの働きについて良く理解出来おらず、「○○にはこれが効く!」という話しを真に受けて「あれもこれも」という出鱈目な感じでした。「下手な鉄砲数打ちゃ当たる」とでも思ったかのような。

結果として、運良く「同じ成分」が多くの生薬に共通し重複した場合は、充分な量が得られたものもありますが、多くは「最低限必要な量」が得られず、様々な生薬を飲まされる苦痛に反比例して「効果が薄い」という有り様だったのです。

ひとつ言い訳をすれば、人間に対してでさえも、漢方薬剤師さんやハーバリストさんによって処方量が異なることも少なくなく、ましてや猫の場合の前例が殆ど無いので、「どれが正しいの?!」と困惑し、控えめ(少なめ)になっていたこともあります。

そもそも方剤によって、その生薬の品質が異なれば、同じ量でも効果は驚く程変わります。その点では、「特定の成分を抽出した化学製剤」の場合、「量と効果は、与える対象の体重で比較的正確に認識出来る」という安定感(故に信頼感を抱くのでしょう)があります。

人間は、自分自身の考えや行いを美化したがる悪い癖があります。その当時の私は「仮に、各生薬の効果効能が弱くとも、沢山集まればなんとかなる筈だ」と正当化していました。その当時のイメージは、(病気によって)天井が徐々に落ちて来る状態を「棒で支える」というもの。その棒が仮にか弱い細いものでも、「沢山あれば大丈夫だろう」という感じでした。

しかし、事実は「棒の太さの問題」ではなかったのです。

その後により深く理解した後のイメージは、「短い橋ならば、幾ら丈夫でも川に掛けることさえ出来ない」というものです。勿論、「多ければ良い」という考えは、「少なくて効かない」よりも重大な危険を招きます。
そもそも「薬は全て毒」と言っても過言ではないからです。

「Raga-Chikitsa(ラーガ療法)」でも全く同様で、「どの音遣い」をどのように配列させ、強調させるか? によって、やはり効果は覿面に異なります。

今回の二枚(3Shot)の写真は、

中医・漢方の生薬をすりつぶす「薬研(やげん)」と、インドの生薬から家庭料理のスパイスまで幅広く活躍する石のすりこぎ&すり鉢。

「薬研」は、茎・根・穂などを切断しながら細かくすることに長けており、乾燥した生薬に特化している感じです。インドの場合は、「生の植物」を摩り下ろすことに長けています。

保護猫の看病・治療のための西洋ハーブの棚。2割ほどがブレンドなので、生薬120種は優に超えています。が、実際頻繁に活躍するのは四割以下です。それを分かるためには、市販されている殆どを入手し試行せねばなりませんでした。

何時も、最後までご高読を誠にありがとうございます。

10月も、インド楽器とVedic-Chant、アーユルヴェーダ音楽療法の「無料体験講座」を行います。詳しくは「若林忠宏・民族音楽教室」のFacebook-Page「Zindagi-e-Mosiqui」か、若林のTime-Lineにメッセージでお尋ね下さい。
九州に音楽仲間さんが居らっしゃる方は是非、ご周知下さると幸いです。

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You-Tubeに関連作品を幾つかアップしております。
是非ご参考にして下さいませ。

Hindu Chant講座Vol.1

Hindu Chant講座Vol.2

Hindu Chant講座Vol.3

Hindu Chant講座Vol.4

Vedic Chant入門講座(基本理解編)

Ayurveda音楽療法紹介(基礎理解編)

アーユルヴェーダ音楽療法 (実践編1)

アーユルヴェーダ音楽療法 (実践編2)

アーユルヴェーダ音楽療法 (実践編3)

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(文章:若林 忠宏

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若林忠宏氏によるオリジナル・ヨーガミュージック製作(デモ音源申込み)
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