108、シヴァ神のラーガ(1)Raga:Shivaranjani

インド古典音楽の旋法「Raga(ラーガ)」には、「ヒンドゥーの神々に因みその名を持つラーガ」「ヒンドゥーの神々に因み、その別名、化身名を持つラーガ」「ヒンドゥーの神々に因み、その物語に関する名を持つラーガ」、そして、ヒンドゥー以外の文化に関わるラーガがあります。

数千のラーガの中では、上記三種のヒンドゥー系の名を持つラーガは、全体の3~4割でしょうか。勿論、10世紀から1945年の宮廷廃止に至るまでの千年近い年月、北インド古典音楽では、イスラム教徒の音楽家がその中心的存在でしたので、彼らにとっては、上記三種のヒンドゥー教の意味合いは、関係ないと言うことが出来ます。

しかし、何度もお話ししていますように、イスラム教徒の高いレベルの音楽家の場合、並のヒンドゥー教徒音楽家より遥かにヴェーダ科学音楽を踏襲し具現している場合が少なくないのです。このテーマもいずれまた、より深く音楽的にご説明します。
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シヴァ神のRaga:Shivaranjani
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「Ranjani」の字義は、「Ranj=彩り/Ranjani=彩るもの」ですが、ここでの「Shiv(a)-Ranajni」は、「シヴァ神の効能」即ち「シヴァ神のご加護」のような意味合いと思われます。

この連載の初期に説きましたが、不思議に神々のラーガは、「七音全て用いる=Sampurna(字義は完全な/揃った)」ではなく、「五音音階=Audava」が多いのです。

「Shiv(a)-Ranajni」は、ドレミで言うと、「ド、レ、ミ♭、ソ、ラ、ド」の音階を用います。「ファとシ」が抜かれている、つまり日本の「四七抜調」と同じ構造の「Audava-Audava(上下行とも五音)」の音列(音階のようなもの)を用います。
しかし、「ミ♭」であり短調系か?と思えば「ラ♮」なので、下のテトラコルド(ドレミファの4音/Purab-Ang)では短調。上のテトラコルド(ソラシド/ファソラシの4音/Uttar-Ang)では長調という「二面性」を持っています。

ラーガ(旋法)の約束事は、とかく「形而上の論理」に基づいていますから、形而下の感覚での喩えも推測も正しくはないのですが、奇しくも「シヴァ神の二面性」とも一致します。

ここで言う「シヴァ神の二面性」とは、「創造と破壊の二極性」にやがては関連しますが、直接的な関係性ではない、あくまでも形而下の人間目線の感覚の「たくましく頼り甲斐の在る父性」と「凶暴で冷酷で容赦ない恐ろしさ」の二面性です。
従って、Purab-Angの短調性も、所謂「お涙頂戴」的な情感のそれではなく、実際、極めてクールで整然とした感じが醸し出されます。

この性質は、シヴァ神の極めて重要な性質であると考えられます。より正確に言うと元来古代宗教に於いて「神」というものはそのような「クールさとたくましさ」だったのですが、紀元前数千年も前に世界的にシンクロして、「人間に都合の良い神々」に転換した、という経緯があります。言い換えれば、ヴェーダの神々は、かなりに前者なのですが、ヒンドゥーの時代になると、かなり後者に偏って来たという経緯があります。同様のことは、古代エジプト、メソポタミア、当然ペルシアでも見られます。

実際、クリシュナ神、ラクシュミ女神、サラスワティー女神、ガネーシャ神などはいずれも「優しさ」に満ち満ちていますが、ガネーシャを例外として、シヴァ神ファミリーは、畏怖の念を禁じ得ない神々が多いと言えます。つまり、シヴァ神とその関連の神々は、ヒンドゥーの神々の中でも、根本的で、より太古の感覚に近い神々である、ということが言えるのです。

一方、シヴァ神の「たくましさ/父性的な包容力のある優しさ」は、シヴァ神の南インドに於ける別名とされる「Shankar/Shankara神」の性質であるとも考えられます。
尤も、私の個人的な意見では、「Shiva=Shankara=Bhairaw=Maha-Kala=大黒天」というような図式には大いに疑問・反論がありますが。仮に神話的な解釈で、「強い神が隷下の神を取込んだ(まるで飲み込んだかのように)」としたら、取込まれた神の性質が反映されるのは当然とも言えます。

また、そもそもヴェーダの神々が、「宇宙の様々な意志」を人間が分かり易いために具現化(象徴化)したものであるとするならば。もしかしたら数百年後には、物理・科学でも証明されるかも知れない「波動(や重力波のような)=粒子(素粒子のような)=意志=神々」という図式に至るに違いありません。

そもそも人間感覚で「クール・冷酷・凶暴で、破壊の神」や「たくましい・包容力がある父性的な神」は、上記したような様々な「(素粒子のような)意志」の象徴的な具現化の試みの結果であり、それがヒンドゥーでは、Maha-KalaやShanakaraとなったのであるならば、その要素が他の神にも見られたり、何かひとつが特化したりすることは大いにあり得るわけです。例えば、Shiva神の妃Parvati女神が、男神以上に強烈な力を発揮しShaktiやDurga、更にはKaliへと研ぎすまされて行くのも極めて自然で必然的であると言えます。

この連載の冒頭で、「楽音Swar」は、「宇宙の波動Nada」を楽音として肉声や楽器の音で受信したものである、と説きました。同様に、まるで人気タレントのようにポスターが売られるヒンドゥーの神々も。(私はデリーの問屋で買っていたのですが、とんでもなく大きな店で、数千種類のポスターがあり、並の寺院よりも神秘的な場所でした) 「宇宙の波動(意志)を、人間の姿(多面や多手だったりしますが)にヴィジュアル的に受信したものであるとも言える訳です。故に、それを「言語」で受信(具現)すれば「Mantra」となり、図形・図式・文様で受信すれば、「Yantra」となるのも、極めて摂理的な道理と言えるのです。

そもそもヒンドゥー教、ブラフマン教は、かなりにアニミズム的ですから、、「宇宙の意志」が、山や大樹や、時には岩や石、川、海に集約(結集)したとする古代エジプト、メソポタミアの宗教、アフリカの古代宗教や、日本の神道と同様になるのもまた自然なことなのでしょう。

従って、Raga:Shivaranjaniもまた、「シヴァ神を想って、捧げて奏でる」ではなく、Shiva神の意志を「楽音で受信した結果」と考えるべきであり、「弾いた感じ、聴いた感じ」は、おそらくほとんど無意味に近いのかも知れません。

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Raga:Shivaranjaniの音の構造
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Raga:Shivaranjaniをインド楽器のみならず洋楽器で弾いてみると、当連載コラムのこのシリーズでも後ほどご紹介するクリシュナ神のラーガのひとつである「Raga:Bhupali(Mohanam)」の「長調の四七抜調」の「ミ」を「ミ♭」に替えたような感じがするかも知れません。
しかし、Raga:Bhupali(Mohanam)の主音は、「ミ」で、Raga:Shivaranjaniの主音は「ソ」なので、音の動きは全く異なります。かと思えば、全く異なる音階のラーガで、♭#を変換しただけで「音の動きはほとんど同じ」別なラーガに転換出来たりもします。が、Raga:ShivaranajaniとBhupaliは、そうは行かないわけです。むしろ、ファを基音(Sa)として転調させた場合の擬似的なRaga:Durgaの方が音の動きは近いものがあります。偶然かも知れませんが、流石Shivaとその妃の関係のようにも思えます。

また、Raga:Bhupali(Mohanam)で割愛された四番目と七番目は、「ファ#とシ」ですが、Raga:Shivaranajaniでは、「ファ♮とシ♭」なので、主音の如何に関わらず音の動きは当然異なって来ます。

いずれにしてもRaga:Shivaranajaniには、シヴァ神の「Maha-Kala、Rudra、Bhairaw」的な冷酷で厳しい側面は余り感じられず、全体的に柔らかく、しかし澄んだ感じや瑞々しさが感じられる爽快なラーガです。

写真は、シヴァ神のポスターと、Sita-Ramaさんで販売されているシヴァ神のヤントラです。

何時も、最後までご高読を誠にありがとうございます。

また、この度「インド音楽旋法ラーガ・アンケート」を実施致します。
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是非ご参考にして下さいませ。

Hindu Chant講座Vol.1

Hindu Chant講座Vol.2

Hindu Chant講座Vol.3

Hindu Chant講座Vol.4

Vedic Chant入門講座(基本理解編)

Ayurveda音楽療法紹介(基礎理解編)

アーユルヴェーダ音楽療法 (実践編1)

アーユルヴェーダ音楽療法 (実践編2)

アーユルヴェーダ音楽療法 (実践編3)

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(文章:若林 忠宏

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