Vol.124,シーター&ラーマを歌った名曲:Ragpati Ragav (2)

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Raghpati-Bhajanが生まれた土壌
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Raghupati Rāghav Rājā-Rām, Patit Pāvan Sītā-Rām

Sītā-Rām, Jai Sītā-Rām, Bhaj Pyāre tu Sītā-Rām

Ishwar Allah tero naam Sab ko Sanmati de Bhagavān

前回に引き続いた「世界で一番知られたインドの歌:Raghpati Raghav Raja-Ram」のご紹介の今回は、その文化的背景について述べたいと思います。

まず、シーター・ラーマさんのファンの方には、ご存知の方も多いと思いますが、この歌のスタイル「讃歌:Bhajan」の原点は、6世紀に南インドに興った、シヴァ派とヴィシュヌ派のヒンドゥーの庶民運動(勿論その中心には僧侶が居ましたが、従来の権威的寺院のそれとは異なり、民衆の間に入って『ひとりひとりの信仰』をテーマに説いた人々と考えられます。)だと言われます。これらは、「Bhakti(献身運動)」というよりは、前矩型かも知れません。

7~10世紀には、「掛け合い形式の讃歌:Kirtan」の全土的な流行を育みます。そしてBhajanは、15世紀に大流行します。

10世紀以降は、イスラム勢力の侵入による戦禍の日々の中、相変わらずの権威主義的な寺院に反発して、新たな庶民信仰運動:Bhaktiが興ります。

11世紀の聖人:Rama-Nuja(1017?~1137?)は南インドから東インドを行脚し地道な啓蒙を行いました。12世紀の北部では北東部ベンガル地方を中心とした詩人:Jaya–Deva(1170~1245)が現れましたが、生前の知名度は低かったとも言われます。

「Radha-Krishna物語」とも言える代表作『Gita–Govinda』は、没後数百年に渡って多くの文人・思想家に強い影響を与えると同時に、それ迄は、深く重い哲学的・禅問答的な教えの師のような存在であったKrishnaが、一気に庶民にとって極めて親しみ深い神となったのです。

Jaya-Devaと同様なことが南インドでも興りました。その思想を汲む後世の一門の活躍と知名度と比較すれば、やはり孤高な存在であった哲学者:Madhva-Acharya(1238~1317)は、敬虔なヴィシュヌ派の宗教家でもありながら、ヴェーダに叡智を求め、Vedantaの先駆け的な存在でもありました。

15世紀の南インドでは、今日もタミールの古典舞踊「バラタナティヤム」の演目に書かせない、叙情詩「Padam」によって庶民の意識を変革し高揚させたAnna-Machariya(1408~1503)が現れます。「Padam」はタミールの言語習慣で「m」で締めますが、北インド古典声楽の古曲「Dhrupad」の前駆「Dhruva-Pada」に通じる「Pada」であることは言う迄もありません。彼の作品は、エロティックとさえも言える官能的な神との一体感を説いて庶民を驚かせましたが、勿論前述のベンガルのJaya-Devaに通じるものがあります。

15世紀末から16世紀に掛けての南インドでは、上記の哲学・思想家:Madhvaが建てたアシュラムの門下から放浪吟遊詩人として諸国を行脚する「Haridas」と呼ばれたヴィシュヌ派のBhakti詩人たちの或る種の「説教節」が台頭しました。十数人の著名な放浪僧が居ますが、中でもPurandra-Dasa(1489~1564)、Vadirajatirtha(1480~1600)、Kaanaka-Dasa(1508~1606)は大変有名です。

Purandra-Dasaは、近現代の南インド古典音楽にもその強い影響を残す、ヴィシュヌ讃歌「Devar-Nama」を数多く創作しました。
彼らHaridasたちは、紐で肩から吊るした木彫りの小型ヴィ―ナである「Tamburi」を右手で掻き鳴らし、左手でKaltalという木枠に小さな(西洋タンバリンに付いている程度の)シンバルを組み込んだ二個セットの打楽器を打ち鳴らして吟じました。この習慣は、全インドに伝わり、中西部では大型の「Tandoora」をビート感を付けて掻き鳴らし、北部では瓢箪胴の「Ektar、Dotar、Ram-Saghar」などとKaltalの組み合わせでBhajanを歌いました。

Haridasと同様の「放浪大道説教節」は北部では「Sant」と呼ばれ、その中には、後の北部のBhajanの先駆となるとともに、ヒンドゥーとイスラームの習合の要素では、北西部のシク教教祖ナーナク、北東部の音楽宗教「Baul」の祖であるLalon–Shah-Fakirにも影響を与えた(前者については多くの研究者の定説になっています)Kabirが現れます。彼はガンジスの聖地ヴァラナシで活動しました。

一方、Jaya-Devaの流れとも言える15世紀のベンガル詩人:Chaitanya-Mahaprabhu(1486~1533)は、掛け合い大合唱でクリシュナ讃歌を唱え踊り、或る種のトランス体験を通してBhaktiを啓蒙する「San-Kirtan」を創始しました。これが後の「Kirtan」であることも言う迄もありません。

そして、6世紀の南インドに興ったBhaktiの原点、庶民的なヒンドゥー献身運動「Alwar(ヴィシュヌ派)」「Nayanar(シヴァ派)」の啓蒙運動からは、実に九百年経って、前述のChaitanyaやKabirの歌を基に、しかし当時の西アジア経由の叙情詩の二行連句形式にも則って歌われたBhajanが大流行する訳です。

その中に『Raghpati』の冒頭の歌詞の作者Tulsi-Das(1511-1623)が居ます。同じ16世紀の彼よりやや前の時代には、元王妃であるMira-Bai、百年前の日本の琵琶法師を彷彿とさせる盲目の詩人Sur-Dasなどが現れ、クリシュナ讃歌:BhajanやDholaの数多くの作品を残します。

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BhajanとKirtanの違い
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BhajanとKirtanの違いを簡単に言うならば、当コラムVol.88でもお話したように、Bhajanは、独唱者が神棚に背を向けて聴衆に対して説教節的に歌い、聴衆は、独唱者と神棚を共に見つめながら「その場に居る(参加する)ことが業」というものですが、Kirtanは、主唱者の他に掛け合い合唱隊があり、聴衆は合唱隊と共に歌うことが許されている、というか奨励されているのです。

これを如実に表した好例があります。古典声楽Khayalの最も重い流派Gwalior派の「宮廷音楽終演後の最初の世代」の名手であるD.V.Paluskar(1921~)が歌った「Raghpati」です。著作権関連が分からないので、ここにURLを貼ることは出来ませんが、You Tubeにあるようです。

彼の父「宮廷楽師最後の世代」であったV.D.Paluskarも同派と戦後(共和国以降)のインド古典声楽を代表する名歌手です。たいがい上記のように名前を略すので、逆にややこしいですが、父がVishnu-Digambarで、息子がDattatray-Vishnuです。

D.V.Paluskarの「Raghpati」に「流石!」と感心させられたのは、例の「IshwarもAllahも」の歌詞は勿論、その他の歌詞も含め、展開部は一切歌わずに、Tulsi-Das作の確証がある主題の二行だけを歌って当時のSP盤を満たしていたことです。

録音には、女性の合唱隊も加えているので、結果として「Tulsi-Bhajanの名曲」は、完全に「Kirtan」となっています。

Bhajanの最初の二行の主題は、D.V.Paluskarが歌ったように、主唱者は、様々な旋律に即興的に置き換えて歌い(Neraval)、合唱隊は、常に同じ旋律で応えます。

Bhajanで合唱掛け合いをすることは、完全に御法度ではないのでしょうが、所謂Bhjanと銘打った場合には見たことがありません。しかしMira-Baiの伝記の中では、夫王がイスラム軍との闘いで殉職した後、城内の庭に修行僧たちを招き入れ、日々クリシュナ讃歌を歌って過ごしたことで、夫一族から「お家の恥」と毒を盛られた話しが有名です。
ということは、数人で合唱もあったのだろう、となります。

イスラム文化圏にも共通しますが、当時の二行連句の歌は、音楽としてだけでなく、即興詩としても会が催され、車座になっては順に即興を披露するというものがありました。詩の会の場合はテーマを決め、讃歌の場合は、同じ「ラーガ(旋法)」同じ「ターラ(拍子)」を続けながら回して行きます。従って、「庭に呼び込まれた修行僧たち」は、Kirtanの合唱団ではなく、交互に主唱する仲間だったのでしょう。 しかし、展開部から主題に戻ったとき、囃しと共に合唱もしたかも知れません。旋律楽器が無ければ、掛け合い(合唱)が、主唱者にとって唯一の「喉休め」のタイミングでもあります。

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何時も、最後までご高読を誠にありがとうございます。

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(文章:若林 忠宏

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