133、インド音楽の楽しみ方(6)北インド古典器楽の掛け合い

Vol.131でご紹介した「北インド古典音楽の主題と即興の図」でも、器楽の場合、既に或る意味主奏者(Sitar、Sarodなど)と太鼓:タブラの掛け合いではあります。が、この場合、タブラは主奏者が弾いた「旋律の拍節的翻訳」を応えているのではなく、その時のラーガの個性、ラーガ演奏全体の個性、全体の流れ、流れの中のそのタブラ・ソロの瞬間に求められているもの、を感じ取った上ですが、あくまでタブラ奏者の音楽的センスと技量によるソロです。

尤もこの30年ほどの間に、ラーガ全体云々などおかまい無しに、その場その場で最も自分をアピール出来るソロを取る輩ばかりになりました。その証拠にラーガが変われど、主奏者が変われど、毎度お決まりのソロが目立ちます。昔気質のタブラ奏者ですと、それは毎回異なりました。このような節度と理知的なソロを含むタブラ伴奏を「Sangat」と呼びます。

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それに対して、今回ご紹介する「主奏者とタブラの掛け合い」は、主奏者が弾いた「旋律の拍節的翻訳」をタブラが応えるというもので「Sawal(Question)-Jawab(Answer/Reply)」と呼ばれます。

これは、二人以上の主奏者の間でも行われるため、サンガットだけのことではありません。良く知られたところではバングラデシの独立に伴うバングラ難民の問題に対し、ジョージ・ハリスンが提起して師匠ラヴィ・シャンカル氏と義弟アリ・アクバル・カーン氏、タブラのアラ・ラカ氏を招いて行ったチャリティー・コンサート(第二部はロックの大御所を招いた大セッション)でも知られ、シタールとサロードの「Sawal-Jawab」が記録されています。
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「旋律の拍節的翻訳」とは、例えば日本の歌の「静かな湖畔の森影近く」の一節を歌ってサワールされたら、タブラは「ティラキタ・ティダーナ・ディナギナ・テテダー」などと応えるということです。
よって、主奏者も、旋律重視・ラーガ重視のフレイズより、「拍節的翻訳」時に面白いフレイズ(拍節重視の旋律)に努めます。
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図は、器楽の基本ターラである16拍子のトゥリターラで説明しています。
まず一行目は、主奏者が「1サイクルのソロ」を取り、タブラが応えます。

通常の主奏者の即興演奏から突然これに入りますが、前述したように、旋律・ラーガ重視の即興から、聴衆にも分かる「拍節重視」に変わりますし目配せもあるでしょうから、タブラ奏者も気付く訳です。主奏者がピタっと止まってもまだ気付かないタブラ奏者も居ますけど。

また、主奏者のサワールの最中にタブラの基本伴奏パターン(Tekha)を止めて手拍子や太鼓で手拍子を取るタブラ奏者も居れば、基本パターンを伴奏している人も居ます。主奏者の好みもあるでしょうが、基本的にはリハーサルをしないので、初顔合わせの場合、どう出てどうなるかは未知数です。

この掛け合いが「1サイクル→半サイクル→4拍(1小節)」と縮んで行き、最後は1拍にまでなりますが、大概かなりテンポアップしたところで行われる(演奏のラスト直前など)ので1拍の掛け合いはかなりスリリングです。
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四行目がミソで、3拍の掛け合いを4拍子系のターラで行っていますから、3小節か6小節、12小節のところでしかキリが着きません。大概は図のように3小節でキリを付け、そのサイクルの最後の1小節から2拍掛け合いに移行します。

これがズレて居なければ良しと思っている演奏者も近年多いですが、サワール・ジャワーブ全体を俯瞰してみて下さい。図の行数が七行ということは、16拍のサイクル数が奇数なのです。これはトゥリタールの概念に反するのです。

この図で想定したエンディング前の時点では16拍のサイクルが守られていますが、もし全てが八分音符で演奏されているとしたら、奇数(半)サイクルの〆は、第一拍目の「サム」には来ないのです。トゥリタールは、一曲丸々が「四の倍数」であることが必須です。よって、図の第一行目を二回繰り返してこの問題をクリアーします。
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次の図「Larant-Sangat」は、発展した高度なサラール・ジャワーブです。主奏者が「拍節的旋律」と「目配せ」を投げかけたので、タブラ奏者はテカからジャワーブに替えます。ところが、主奏者が、そこで「お休み」をしないのです。タブラ奏者は「えっ!掛け合いじゃなかったの?」と焦るかも知れませんが、「来やがったな!」っと理解して、この「ララント・サンガット」が繰り広げられます。

ララント・サンガットでタブラ奏者は、例えば図の場合、まず主奏者の8拍のフレイズを8拍終わった次からリプレイします。そしてリプレイしながら次の8拍を聴き、記憶して、その後に叩きます。まるで先に比喩で上げた「静かな湖畔」の曲で良く知られる「輪唱」のようなことになるのです。

しかし、このことが理解出来ない聴衆には、タブラが基本伴奏パターン:テカを叩かずに、主奏者も主題ではないことを弾き、二人して勝手な即興を演っているようにしか見えないかも知れませんし、基本のターラを忘れてしまう聴衆も居るかも知れません。

いずれにしても、これらは、「演奏者のターラ理解(即興中でもどれほど分かっているか?)」「リズム的センス」「ラーガのどの音を選ぶか?太鼓のどの音を選ぶか?のセンス」も問われますが、古典音楽の本懐からすれば、あくまでも「余興」に過ぎないのです。

しかし、宮廷音楽の終焉は、そもそも宮廷音楽として発展した古典音楽が無くなったということです。宮廷音楽の場合、「耳の肥えた貴族と同業者」が聴衆でしたが、一般向けのクラッシック・コンサートとなって以降は、聴衆のレベルを求めることは厳しいものになります。勿論、中世から貴族の邸宅などで行われた「愛好者の集い(Mehfil-e-Mosiqui)」の場合は、質を高めることが出来ますが、数百人、千数百人の大ホールでは、掛け合い位演らないと、ウケないのです。

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(文章:若林 忠宏

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