154、アーユルヴェーダ音楽療法入門15(そもそも精神世界とは?-その3-)

1、世界一用語が混乱している日本
「精神世界の語彙」のみならず、そもそも日本は世界で一番「現地専門用語のそのまま使用」が多く、そして混乱している国ではないでしょうか?

例えば昭和30年代生まれの私の子どもの頃は、お医者さんはほぼ全ての人がカルテをドイツ語で書いていました。「何故ドイツ語で書くの?」と訊けば「患者に分からないように」と正直に答えたお医者が居たそうな。まだインフォームド・コンセントの観念が普及していない時代のことで、むしろ逆に「秘密主義」的な姿勢が強かった時代です。そこで、「ではドイツのお医者は?」と訊けば「そりゃあドイツ語に決まってるだろう」という呆れた返答だったと言います。おそらく昔からイタリアのお医者、スペインのお医者は母国語でしたでしょう。「世界で日本だけが」の典型例です。

ところが、クラッシック音楽用語に関しては西洋でも、日本の「カルテはドイツ語」と同じ状況(音楽用語はイタリア語)があったようで、バッハ(独)、モーツァルト(墺)の時代(18世紀前半)はイタリア語を用いていたようです。中世~ルネサンス~バロック時代を通じて、長らく「イタリアは、西洋クラッシック音楽の発祥の国でありリーダー」と考えられていたからと言います。それがベートーヴェン(独)の時代(18世紀後半)まで続き、徐々に母国語を用いる(加える)ようになり、19世紀後半のマーラー、ブルックナー(墺)、ドビュッシー、ラベル(仏)の時代になると母国語の比率が増したと言われます。

必然的に明治以降の日本に於ける西洋クラッシック音楽教育では、イタリア語の楽語を完全に記憶していなければならず、ドイツ・オーストリア人の作品、フランス人の作品を学ぶときには、ドイツ語、フランス語の音楽用語も覚えなければならなくなってしまったのです。
ところがアメリカの交響楽団などは、早々に全てを英語に換えたとも言われます。そもそも各国の母国語の音楽用語の大半は日常用語なのです。ところが、合理主義に徹したアメリカのように「ならば母国・日常語で良いじゃないか」とならないのが日本なのです。

インド古典音楽の楽語の場合、今では日常用いられなくなったサンスクリット語の用語が3割程度で、中世イスラム王朝宮廷音楽時代のペルシア語、トルコ語、アラビヤ語が3割、今日日常も通じるヒンディー語が2割、今日も通じる筈ですが、「かなりかしこまった言い方やハイソな言い方、古臭い言い方」のヒンディー語が2割、といった感じです。

インドのリキシャ(人力車が伝わり現代はもっぱら自転車リキシャやオートリキシャ)ワラ(人夫)に、「ダヤン!(右)、バヤン!(左)、(いずれもインド古典太鼓タブラ・バヤンの左右の太鼓の名称と同じ)」は通じました。「Drut!(音楽用語の「早い」)」は、日常語でも「スピーディー、早い」ですが、人夫によっては通じませんでした。(通じないフリもありましょうが) 対語「Vilambit(Slow)」はより通じないでしょうし、使い時もないので試していません。しかし、これも音楽だけの言葉ではありません。

2、多国語が入り乱れることの功罪
今もドイツ語でカルテを書いている(随分少なくなったとも聞きます)お医者さんには嫌われるかも知れませんが、その習慣には「(昔の日本の医師に抱かれた)ドイツ語で書くことのステイタス」と「むやみに患者に医者の所見を明かさない(良くも悪くも)」という二つの性質があったと思われます。前者は、その習慣が薄れ、後者は「インフォームド・コンセント」の時代になって覆されました。私見としては、近年のあらゆる事柄に関する「平等・公開・権利保護」の風潮には、「やり過ぎ」と「それによって失われる大切なもの」も思わざるを得ないのですが…………………….。

音楽用語に関しては、今も相変わらず「イタリア語、ドイツ語、フランス語、英語」で全てを覚えなければならないだけでなく、「調名」に関しては未だに「変ホ長調」などと、明治に創案された日本語の「ドレミ=ハニホ」が使われています。かと思えば、実際の現場で「ドレミ」などと言うと「素人臭い」とされ「ドイツ語のツェー、デー、エー、エフ」が好まれるとも言い、ポピュラー・ミュージックでは「英語のシー、ディー、イー、エフ」ですが、バンドマン(まだ居るのか?※)の「業界用語」では、「おい!こないだ立て替えたゲーセン(G千円=五千円)何時返してくれるんだい!?」のように「ドイツ読み音名」が隠語になっています。
(※)私が洋楽で最初に仕事をしたのが19歳の時の「キャバレーバンド」でした。

これらの混乱の原因に見られる性質には、「郷に入っては郷に従う」的な、日本人が得意な「適応性」の素晴らしさと、「形から入りたがり、形で満足し、形で終わる(仏作って魂入れず)」の欠点が併せ持たれていると考えられます。

かく言う私も「インド古典音楽」を学び、教える時には、前述のような「現地の専門用語」を用います。手持ちのレコードやCDの資料リストを作る時でも、欧米盤のライナーに「Raga Yaman-Kalyan Slow-Tempo-Composition in 16Beats Teental」などと書かれていれば「Raga:Yaman-Kalyan Vilambit-Gat:Trital」に書き直します。リストの全ての情報が、統一された書式・用語で整理されていないと、一目で確認や比較が出来ないからです。

ちなみに、そのようなCDが日本盤で出ると、私のようにインド語に徹底することがないのは勿論、日本語にも替えず、英語のままなのです。「ゆっくりな器楽」と日本語で書いてしまうと「なんだか興ざめする」ということでしょう。

しかし、ここにも「語彙が混乱する」原因のひとつがあります。日本人は外来文化に関するものを「日本語にしたがらない」ということと、欧米以外の文化に関しても「英語」を好むという、明らかに「コンプレックス」が存在する風潮です。ヒンドゥー関連に関しても「Veda賛歌」を「Vedic-Chant」と言いたがる。「インド占星術」に至っては、正しくは「Jyotish(ジョティーシュ)」なのに、一旦アメリカナイズされたものをそのまま使いたがるので「ショーティッシュ」と思い込んでいる専門家が少なくない。同じことで昔から憤慨しているのが、「猫の学名」。学名=ラテン語なのですから「Feline=フェリーネ」でしょうに、「知ったか連中」は、英語化した「フィーライン」を用います。

私は、同じく、ペルシア音楽、アラブ古典音楽、トルコ古典音楽、ギリシア…………ブルガリア…….キューバ、ヴェネスエラ音楽…………でも、それぞれの現地の音楽用語を頭に叩き込みました。そのような実体験から、明治以降の日本のクラッシック音楽の担い手たちが、「憧れとより深い理解の為」に、現地用語を懸命に覚え活用する気持ちはとても良く分かり、それらを無下に「形から入る」とは言い切れない思いです。

ただ、どんな音楽ジャンルにも言えることですが、「専門用語や演奏家、楽器職人など」の音楽ファン~マニアが知らないことを「ひけらかす」ようなタイプの人間も少なくありません。そのような人々は、極めて限られたジャンルや地域の情報に執着しており、関連の情報には全く目もくれないという特性があり、そこには比較も全体把握も全く価値を感じていないかのようです。(音楽だけのことではないかも知れませんが)

この場合の「現地専門用語」は、「形から入って形で終わるの姿がある」と感じざるを得ません。「何かを理解する」ということが、「一点集中でより詳しい情報を得ること」だと思っているのは、世界で日本人だけだからです。しかもその感覚には「探究心の結果」というよりも「ステイタス・自尊心の道具」と感じされるものが多いのですから尚更です。

幸いにアーユルヴェーダ関連の専門用語と理論は、並みのインド古典音楽用語より膨大に多い上に難解なので「調べたことをネットに並べる」のが精一杯なのでしょう。その解説も「分かっているように見せている」ものばかりで、いろいろ落ちや矛盾がありますから「ひけらかし」に至ってもいない感じです。
(ただ、深刻な問題は、読者も「分かった気になりたいだけ」の人が増えたので、むしろ「分かってもいないけれど、分かった気になっている人の解説」の方が好まれる方向性があることです。)

しかし「精神世界の語彙」に関する問題は、これらのこと以上に深刻なものがあります。
「現地音楽専門用語や思想、哲学、文化用語を、日本人が様々に受け止め活用しているか?」としても、いずれも現地ではその「意味・価値」が確定しており、「人によって解釈が異なる」ということはありません。ところが「精神世界の語彙」に関しては、より詳しい専門的な用語は普遍的ですが、最も基本的な「気分・感情・思考・心・魂」の定義と「感じた・思った・考えた・想った」の解釈と語法さえもが「(世界中で)人それぞれ好き勝手」なのです。それでは、その先の「専門的な理解」も幾ら詳しく学んでも大きく異なってしまいます。

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何時も最後迄ご高読をありがとうございます。

福岡市南区の自宅別棟楽器倉庫の教室では、インド楽器とVedic-Chant、アーユルヴェーダ音楽療法の「無料体験講座」を行っています。詳しくは「若林忠宏・民族音楽教室」のFacebook-Page「Zindagi-e-Mosiqui」か、若林のTime-Lineにメッセージでお尋ね下さい。 九州に音楽仲間さんが居らっしゃる方は是非、ご周知下さると幸いです。

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是非ご参考にして下さいませ。

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(文章:若林 忠宏

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