馬頭の神の力

一年の中でとりわけ神聖とされるシュラヴァナ月の満月には、兄弟姉妹の愛の絆を祝うラクシャ・バンダンが盛大に祝福されます。
2019年は、8月15日にあたります。
一方で、この満月はガーヤトリー女神の降誕祭となる、ガーヤトリー・ジャヤンティが祝福される時でもあります。

ガーヤトリー女神は、知識の象徴であるヴェーダの母として崇められる存在です。
そんなガーヤトリー女神の降誕祭となるこの満月は、ヴェーダの学習に取り掛かる重要な日として伝えられてきました。
それは、この満月において、ヴィシュヌ神が馬の頭をしたハヤグリーヴァとなり、悪魔によって盗まれたヴェーダを取り戻したと伝えられるからです。
ヴェーダを失い、暗闇に包まれていた世界が、光を取り戻した時でした。

ヴィシュヌ神は、なぜ馬の頭を持つハヤグリーヴァとなってヴェーダを取り戻したのでしょうか。
ヒンドゥー教には、アシュヴィンという双子の馬の神格がいます。
アシュヴィンは医術の神であり、それぞれ日の出と日の入の輝きを象徴するとされます。
一方、太陽神であるスーリヤは、7頭の馬に率いられた乗り物に乗って世界を駆け巡ります。

太陽の光は、不幸や病気を取り除くものとして、古来より世界の各地で崇められてきました。
インドでは、そんな太陽の光をもたらす力が、馬としてあらわされています。
馬力という言葉もあるように、さまざまな文化において、馬の力は重要視されるものです。
この世界に万物を育む太陽を招き、その光を率いる馬は、私たちの内なる世界においては、生命力であるプラーナの象徴です。

インドでは古来より、プラーナを巧みに統べる術がさまざまな霊性修行として伝えられてきました。
この生きる力が正しく導かれる時、まるで目覚めたように、物事がくっきりと見えるように感じることがあります。
光が灯り、暗闇が消えていくその瞬間は、まさに、自分自身の本質に気づく時に他ありません。

ヴェーダが世界に取り戻されたとされるシュラヴァナ月の満月は、太陽を讃えるガーヤトリー・マントラを唱える吉祥な時でもあります。
内なる世界に光が昇るように、自分自身の生命力と向き合う霊性修行を実践したいと感じます。
欲望という無知の悪魔によって光を奪われ、暗闇の中でもがき苦しむ私たちに、本質への気づきをもたらす知識が明るく輝くはずです。

(文章:ひるま)