特殊な文字(結合文字)

これまでにサンスクリット語のすべての子音と母音を紹介しましたが、
デーヴァナーガリー文字には独特な表記法があり、
二つ以上の子音が続く場合、構成する子音の文字が結合して
別の一つの文字のように書かれます。
それを結合文字(結合体)と呼びます。

結合文字の一覧表(画像、pdf)を添えました。
構成する子音の原形と見比べ、
どのように結合しているのか確認しながら結合文字に慣れていきましょう。

結合文字一覧表1

結合文字一覧表2

結合文字一覧表3

結合文字一覧表4

結合文字一覧表5

結合文字一覧表.pdf

<注意>
お使いのパソコンまたはスマホの環境やインストールされている
フォントの種類によって、結合文字の見え方が異なる可能性があります。
そのような違いを避けるため一部の文字は画像にしてありますが、
基本的にデーヴァナーガリー文字にはwindowsに標準装備の
mangalというフォントで表示することを前提としています。
ご了承ください。

ほとんどの結合文字は、元の文字の一部を残しているため、
子音の形をしっかり覚えておけば読み取れる文字がほとんどです。

例  : त्स (tsa) = त् (t) + स (sa)
例  : ष्ण (ṣṇa) = ष् (ṣ)+ ण (ṇa)

しかし、元の文字とは大きく異なった形に変形するものもあります。
それらは個別に覚える必要があります。
一覧表では青い字で表示しています。

(kra) = क् (k) + र (ra)
*र ra が後ろの子音のとき、左払いの線がर raを表しています。च्र त्र प्र म्र
क्ष (kṣa) = क् (k) + ष (ṣa)
ज्ञ (j) = ज् (j) + ञ (ña)
द्म (dma) = द् (d) + म (ma)
*ट्(ṭ)+ म (ma)のように見えますが、द् (d)+ म (ma)なので注意してください。
 (śca) = श् (ś) + च (ca)
*श् (ś) が最初の子音のとき、e の筆記体に似た形に変わる場合があります。

r が最初の子音になるときは、r を示す記号が上に付きます。
र्क rka र्का rkā र्कि rki र्की rkī र्कृ rku र्कू rkū
र्के rke र्कै rkai र्को rko र्कौ rkau
र्कं rkaṃ のようにアヌスヴァーラが付いている場合はंṃを最後に読むので注意してください。

また、同じ発音の結合文字でも、いくつか異体字が存在します。
異字体がある結合文字は赤い字で表示しています。

例えば次の文字はそれぞれどちらも同じ単語で、後者がmangalフォントです。

(1)     brahman (ブラフマン)
(2)    aṅgiras (アンギラス)

個人的には、ヴィラーマを多用するmangalのフォントより
コンパクトに繋がっているクラシカルな結合文字の書体が好みですが
mangalのように元の形をはっきり残す書体の方が
初学者には読みやすいですね。

サンスクリット語は、基本的には単語をひとまとまりとして、
上の横線(śirolekha シローレーカ、頭線)で繫げて書きます。
(前後の音によっては、いくつもの単語を繋げて書くこともあります)

例:
गणेशाय नमः
(ガネーシャ神に帰依し奉ります)

IASTでは
gaṇeśāya namaḥ

となります。

(文章:prthivii)

サンスクリット語の文字の表し方(子音+a以外の母音の場合)

Close-up of the open Bible

前回まで、サンスクリット語の母音と子音の発音/文字を紹介しました。
でも、サンスクリット語を読み書きするには、もう少しだけ覚えることがあります。

これまでに出てきた子音の文字は、そもそもaを含んだ音を表していました。
例えばक は、ka と読みますが、ki とか、ku とかの a以外の母音のときには、
それぞれの母音を表す別の文字記号を付け加えます。

今回は、今まで出てきた文字のおさらいとともに、
子音に添えて母音を表す文字を覚えていきましょう。

次の表の三行目「添え字」は、子音に添えるときの母音文字で、
点線で表した丸は、その部分に子音の文字が入ることを意味していますが、
一番最初の् (文字の下に付ける右下がりの線)は、
子音だけを表すためのvirāmaと呼ばれる記号です。
(ヒンディー語ではこの記号をhalとかhalantと呼びます)

 

デーヴァナーガリー文字一覧表

母音

a

ā

i

ī

u

ū

e

ai

o

au

添え字

ि

子音

क्

k

का

कि

की

कु

कू

कृ

कॄ

कॢ

के

कै

को

कौ

ख्

kh

खा

खि

खी

खु

खू

खृ

खॄ

खॢ

खे

खै

खो

खौ

ग्

g

गा

गि

गी

गु

गू

गृ

गॄ

गॢ

गे

गै

गो

गौ

घ्

gh

घा

घि

घी

घु

घू

गृ

गॄ

गॢ

गे

गै

गो

गौ

ङ्

ङा

ङि

ङी

ङु

ङू

ङृ

ङॄ

ङॢ

ङे

ङै

ङो

ङौ

च्

c

चा

चि

ची

चु

चू

चृ

चॄ

चॢ

चे

चै

चो

चौ

छ्

ch

छा

छि

छी

छु

छू

छृ

छॄ

छॢ

छे

छै

छो

छौ

ज्

j

जा

जि

जी

जु

जू

जृ

जॄ

जॢ

ज़े

जै

जो

जौ

झ्

jh

झा

झि

झी

झु

झू

झृ

झॄ

झॢ

झे

झै

झो

झौ

ञ्

ñ

ञा

ञि

ञी

ञु

ञू

ञृ

ञॄ

ञॢ

ञे

ञै

ञो

ञौ

ट्

टा

टि

टी

टु

टू

टृ

टॄ

टॢ

टे

टै

टो

टौ

ठ्

ṭh

ठा

ठि

ठी

ठु

ठू

ठृ

ठॄ

ठॢ

ठे

ठै

ठो

ठौ

ड्

डा

डि

डी

डु

डू

डृ

डॄ

डॢ

डे

डै

डो

डौ

ढ्

ḍh

ढा

ढि

ढी

ढु

ढू

ढृ

ढॄ

ढॢ

ढे

ढै

ढो

ढौ

ण्

णा

णि

णी

णु

णू

णृ

णॄ

णॢ

णे

णै

णो

णौ

त्

t

ता

ति

ती

तु

तू

तृ

तॄ

तॢ

ते

तै

तो

तौ

थ्

th

था

थि

थी

थु

थू

थृ

थॄ

थॢ

थे

थै

थो

थौ

द्

d

दा

दि

दी

दु

दू

दृ

दॄ

दॢ

दे

दै

दो

दौ

ध्

dh

धा

धि

धी

धु

धू

धृ

धॄ

धॢ

धे

धै

धो

धौ

न्

n

ना

नि

नी

नु

नू

नृ

नॄ

नॢ

ने

नै

नो

नौ

प्

p

पा

पि

पी

पु

पू

पृ

पॄ

पॢ

पे

पै

पो

पौ

फ्

ph

फा

फि

फी

फु

फू

फृ

फॄ

फॢ

फे

फै

फो

फौ

ब्

b

बा

बि

बी

बु

बू

बृ

बॄ

बॢ

बे

बै

बो

बौ

भ्

bh

भा

भि

भी

भु

भू

भृ

भॄ

भॢ

भे

भै

भो

भौ

म्

m

मा

मि

मी

मु

मू

मृ

मॄ

मॢ

मे

मै

मो

मौ

य्

y

या

यि

यी

यु

यू

यृ

यॄ

यॢ

ये

यै

यो

यौ

र्

r

रा

रि

री

रु

रू

रृ

रॄ

रॢ

रे

रै

रो

रौ

ल्

l

ला

लि

ली

लु

लू

लृ

लॄ

लॢ

ले

लै

लो

लौ

व्

v

वा

वि

वी

वु

वू

वृ

वॄ

वॢ

वे

वै

वो

वौ

श्

ś

शा

शि

शी

शु

शू

शृ

शॄ

शॢ

शे

शै

शो

शौ

ष्

षा

षि

षी

षु

षू

षृ

षॄ

षॢ

षे

षै

षो

षौ

स्

s

सा

सि

सी

सु

सू

सृ

सॄ

सॢ

से

सै

सो

सौ

ह्

h

हा

हि

ही

हु

हू

हृ

हॄ

हॢ

हे

है

हो

हौ

デーヴァナーガリー一覧表.pdf

ु -u 、ू -ū 、 ृ -ṛ 、ॄ -ṝ は、
普通は子音文字の下に付きますが、
रु ru 、रू rū は横に付いています。
हृ hṛ、 हॄ hṝ は内側に付いていますので注意してください。

神に関連する単語をデーヴァナーガリー文字で表してみましょう。

अवतार  avatāra アヴァターラ(化身、自分をキャラ化した「アバター」(分身)の語源です)
महाकाल  mahākāla マハーカーラ(偉大なる黒い神=シヴァ神=大黒天のこと。カーラは「時」の意味も)
कामदेव  kāmadeva カーマデーヴァ(愛の神)
भगवत्  bhagavat バガヴァット(最高神、ヴィシュヌ神)
शिव  śiva シヴァ(シヴァ神)
हरि  hari ハリ(ヴィシュヌ神)
काली  kālī カーリー(カーリー女神、シヴァ神の妃とされる)
देवी devī デーヴィー(女神)
सीता  sītā シィーター(叙事詩「ラーマーヤナ」のヒロイン)

सीता  sītā を一般的にはカタカナで「シーター」と表記しますが、
実は、स् s にि i を添えたसि siは、「スィ」のような音になります。
日本語のシの音に最も近いのは、श् ś にiを添えたशि śi なのです。

歯音「サ」 saと言うときの舌の位置を保ちながら「イ」と発音するのと、
口蓋音「シャ」 श śaと言うときの舌の位置を保ちながら「イ」と発音するのと、
比べてみると音が変わることが分かると思います。

つまり、日本語のサシスセソの発音をデーヴァナーガリー文字で表すなら
स शि सु से सो
sa śi su se so
となります。

次回は、「結合文字」を紹介します。

前回に出てきた
सत्त्व sattva サットヴァという単語のなかの
त् + त् + व ( t + t + va )という三つの子音が続いた
त्त्व ttva の部分が結合文字です。

(文章:prthivii)

サンスクリット語の子音 その7

Close-up of the open Bible

サンスクリット語の子音の続きです。
いよいよ33の子音の最後になりました。

今回の発音/文字は次の4つです。

デーヴァナーガリー

カタカナ

IAST

音声記号

備考

口蓋音

「シャ」

śa

ɕə

日本語のシャと同様

反舌音

「シャ」

ṣa

ʂə

舌を反り上げて発音

歯音

「サ」

sa

日本語のサに近い

喉音

「ハ」

ha

ɦə

喉の奥で息を出す

visarga

気音

「ハ」*

h

*直前の母音によって変わる

anusvāra

鼻音

「ン」

鼻母音

歯擦音は、順番に、口蓋音、反舌音、歯音のグループに分けられます。
つまり、
शは、口蓋のあたりで発音する「シャ」、IASTではśa のように、sの上にアクセント記号を付けます。
日本語のシャと同じです。

षは、舌を反り上げて発音する「シャ」、IASTではṣaのように、sの下に点を付けます。
शよりも舌足らずな感じです。

सは、日本語の「サ」に似ていますが、もっと前の方で発音する乾いた音です。IASTではsaと書きます。

この三つをネット上などでは区別しないで全部  sa で現したり、
最初の二つを区別せず sha と書いている例がよく見られます。

例えば、ガネーシャ神をganeshaとかganesaとローマ字だけで書いてあったら、
そのsaやshaは本来の発音がशなのか、षなのか、सなのか、全く分かりません。
neも、反舌音のणे なのか、歯音のने なのか、分かりません。

ややこしいのは、インド人でさえそれらを区別せずにローマ字で書いていることです。
現代語でニュースやメールを読んだり書いたりする場合なら不都合は少ないかもしれませんし、
間違った書き方や言い方が時代と共に「正しい」とされてしまうことは、
身近な日本語でもよくあることです。

ですが、サンスクリット語でマントラや聖典を正しく知りたい人、読みたい人にとっては、
こうした表記方法の混乱は、とても困った状況なのです。

ガネーシャ神は、正しくはगणेश gaṇeśaと書きます。
(ṇe は ण にेを添えます。母音の添え字については後日)
デーヴァナーガリー、あるいはIAST で書いてあれば、
णे ṇe は反舌音のナ、श śa は口蓋音のシャであることが分かりますね。

表では便宜的にカタカナで読み方を表していますが、
サンスクリット語に関心を持つ方には、
こうした発音の違いを踏まえた表記法IASTや
デーヴァナーガリーを理解して欲しいと思います。

次に、ह haがあります。
日本語のハと似ていますが、やや口の奥の方で発する音。
気音のグループで、(摩擦音という場合もあります)
有気音扱いになります。

次のvisargaとanusvāraは、普通は子音には数えませんが、
単独で出てくることはない、特定の条件下で現れる発音です。

visargaは語末の -r や –s の音が変化した音。
直前の母音がaḥなら「アハ」、iḥなら「イヒ」、uḥなら「ウフ」のようになります。
デーヴァナーガリー文字では縦に点を二つ書いた形。
IASTではhの下に点を付けて、ḥと表します。
例えば देवः devaḥ(神は:男性名詞主格単数) デーヴァハ、のようになります。

anusvāraは語末の鼻音が変化した鼻母音。
デーヴァナーガリー文字では、文字の上に点を付けます。
例えば देवं devaṃ 、読み方はデーヴァン(神を:男性名詞対格単数)
この語尾は本来は –m ですが、後に子音が来ると-ṃになります。
カタカナでは便宜的に「ン」と書きますが、このṃをnと間違えないようにしてください。
普通は無意識にこの発音になっています。

これで、13(ॡを入れると14)の母音と33の子音を紹介しました。

もしかしたら、サンスクリット語のアルファベット順と五十音順、
似ている部分に気づいた方がいるでしょうか。

日本語では認識しない音を除いて、カタカナ表記で並べてみたとき、
ア、イ、ウ、エ、オ…、
マ、ヤ、ラ、ワ…、
のところは、とても似ています。

偶然の一致?

ではなくて、これは唐を経由してサンスクリット語学=悉曇(しったん)学を学んだ
僧侶たちによって五十音図が作られた歴史的な痕跡なのです。
サ行は、古代日本語ではチャあるいはツァのような口蓋音、
ハ行は、江戸時代初めまでパやファのような唇音だったことを踏まえると
ア・カ・チャ・タ・ナ・パ・マ・ヤ・ラ・ワ、
サンスクリット語と同じように、調音点の移動を考えた配列になっています。

日本人は知らず知らず、身近な五十音図を通してサンスクリット語の恩恵を得ていたんですね。

以下は、歯擦音、気音が入っている単語の例です。
口蓋音のशと反舌音のषの違いに注意してください。

शास्त्र śāstra シャーストラ(教典、論書)

पुरुष puruṣa プルシャ(人間、リグヴェーダに登場する「原人」、サーンキヤ哲学の「精神原理」)
(puは प् にुを添えます)

षष् ṣaṣ (数字の6)

सत्त्व sattva サットヴァ(存在、善性、サーンキヤ哲学の「純質」)
(त्त्व ttvaは、त् + त् + व という三つの子音が繋がった字形)

सरस्वती sarasvatī サラスヴァティー(現在の印パ国境付近をかつて流れていた川が神格化されたもの。弁才天。)
(स्व svaは、स् + व という二つの子音が繋がった字形)
(tī はत् にीを添えます)

次回は、子音+a以外の母音のときの文字の形を紹介します。

(文章:prthivii)

サンスクリット語の子音 その6

Background with ancient sanskrit text etched into a stone tablet

サンスクリット語の子音の続きです。
今までは5つずつ出てきましたが、今回は4つ。
子音ですが、半母音と呼ばれるグループです。(接近音、中間音とも)
これらは母音との関わりが顕著な発音で、そのことは後になって意味を理解できると思います。
ちなみに日本語のヤ行、ワ行も半母音です。

今回の発音/文字は次の4つです。

半母音

デーヴァナーガリー

カタカナ

IAST

音声記号

備考

口蓋音

「ヤ」

ya

日本語のヤと同様

反舌音

「ラ」

ra

舌を反り上げるラ

歯音

「ラ」

la

日本語のラに近い

唇音

「ヴァ」

va

ʋə

上歯と下唇を接触させる

有気音、無気音の違い、有声音、無声音の違い、鼻音はなく、
それぞれ順番に、口蓋音、反舌音、歯音、唇音のグループに分けられます。
今回は調音点のイラストはありませんが、以前の回の調音点を思い出しながら発音してみてください。

最初のयは日本語のヤとほぼ同じ発音です。IASTではyaと書きます。

次のरは、反舌音のグループに属していて、
舌を反り上げて発音するラです。IASTではraと書きます。

次のलは、歯音のグループに属しているように、
舌を歯に当てて発音するラです。IASTではlaと書きます。
カタカナではरとलの違いを区別せずに便宜的に「ラ」と書きますが、
英語のrとlの違いのように、舌の位置で発音が変わってきますので注意してください。

最後のवは、唇音のグループですが、いわゆる英語の「v」と同じように
上の歯を下唇に当てて発音する音です。
カタカナではヴァと書きます。
現代語ではこの文字を wa ワ と読む場合がありますが、
サンスクリット語ではヴァの音として読んでください。

また、व va と ब ba は文字の形も音も似ているため、
カタカナやローマ字で書くときに混同しやすく、
たとえばヴェーダ聖典の वेद veda を「ベーダ」と表記しているケースがたまに見られます。
(ve は व् にेを添えます。母音の添え字については後日詳しく)

アーユルベーダ、とか、リグベーダ、じゃなくて、アーユルヴェーダ、リグヴェーダ。
ベーダ、よりも、ヴェーダの発音の方が、深く神秘的な音に感じますよね。

半母音が入っている単語の例

यम yama ヤマ (ヤマ神=閻魔)
*リグ・ヴェーダでは人類の始祖、最初に死んだ人間ゆえに死後の世界への道を発見した冥界の王とされています。
当時、地獄の概念はなく、ヤマの居処は最高天と呼ばれています。

योग yoga ヨーガ (yo は、य्にोを添えます。)

राम rāma ラーマ (ラーマ神=二大叙事詩「ラーマーヤナ」の主人公ラーマ王子)

लोक loka ローカ (世界) (lo は、ल्にोを添えます。)

देव deva デーヴァ(神)
*このदेव devaという単語は漢文で「天」と訳されて、インド由来の神、大黒天や弁財天の名前に使われています。

देवलोक  devaloka デーヴァローカ (字義通りには「神の世界」=天界、)

次回は4つの子音(歯擦音、気音)を紹介します。
発音は次で一通り終わりますが、
子音+a以外の母音のときの文字の形、子音+子音の結合文字、と続きます。
だいぶゴールが見えてきましたよ。
デーヴァナーガリー文字とローマ字(IAST)を
眺めながら形に馴染んでくださいね。

(文章:prthivii)

サンスクリット語の子音 その5

Background with ancient sanskrit text etched into a stone tablet
サンスクリット語の子音の続きです。

今回の発音/文字は次の5つです。

唇音

デーヴァナーガリー

カタカナ

IAST

音声記号

備考

無気音

「パ」

pa

pə

有気音

pha

pʰə

無気音

「バ」

ba

有気音

bha

bʱə

鼻音

「マ」

ma

このグループは唇音(しんおん)と言われ、
上唇と下唇を接触させて発する音です。

パ、バ、マは日本語とほぼ同じ発音ですので、特に難しくはないですね。
カタカナではパ、、バ、、マと便宜的に書き(太字は息を強く出しながら発音)
ローマ字(IAST)では、pa、pha、ba、bha、maを使います。

唇音が入っている単語の例

पाप pāpa パーパ (悪、罪)の「パ」(無気音)
कफ kapha カ (粘液:アーユルヴェーダに基づく三つの体質のうちの一つ)の「」(有気音)
ただし現代語の発音では「カファ」と聞こえます
बल bala バラ (ちから)の「バ」(無気音)
महाभारत  mahābhārata (マハーーラタ、叙事詩の名前)の「マ」(鼻音)、「」(有気音)
ちなみに、ヒンディー語でのインドの国名は
भारत गणरज्य bhārata gaṇarajya (現代語読み ーラト・ガナラジャ)です。
मकर makara マカラ (伝説上の怪魚。ワニ、サメ、イルカ等と同一視される。占星術では山羊座に相当)
の「マ」(鼻音)

ここまで、25の子音を紹介しました。

次回は子音のなかで半母音(あるいは中間音、接近音)と呼ばれるグループを紹介します。

(文章:prthivii)

サンスクリット語の子音 その4

サンスクリット

前回までで15個の子音が出てきましたが、
それでもまだ33個の子音の半分です。
新しい言語を学ぶとき、一番最初の難関が文字を覚えることで、
ここで挫折してしまう方も多いのですが、
英語では、同じ c という文字を、cake、candy、city、といった具合に、
カ、キャ、シ、と様々な読み方をしますね。

それに比べるとサンスクリット語の場合、デーヴァナーガリー文字は
गは必ずga と読むし、जは必ずjaと読む、という具合で、
発音と文字がほぼ一致するので、
実は初心者に優しい言語なのです。

(単語の意味がわからなくても)文字がわかれば
マントラや聖典を音で読むことができてくるので、
ぜひ覚えた実感を喜びにして欲しいと思います。

今回の発音/文字は次の5つです。

歯音

デーヴァナーガリー

カタカナ

IAST

音声記号

備考

無気音

「タ」

ta

t̪ə

日本語のタより舌はやや前

有気音

tha

t̪ʰə

無気音

「ダ」

da

d̪ə

有気音

dha

d̪ʱə

鼻音

「ナ」

na

このグループは歯音(しおん)と言われ、
歯の根元に舌を当てて発する音です。

カタカナではタ、、ダ、、ナと便宜的に書き、
(太字は息を強く出しながら発音)
タ、ダ、ナは日本語とほぼ同じですが、日本語よりも若干前の方に調音点があるようです。

ローマ字(IAST)では、ta、tha、da、dha、naを使います。

二番目のथは tha と書くため、英語のthatやthree のth音と誤解されることがありますが、
息を強く出しながら発音する「」なので間違えないようにしてください。

歯音が入っている単語の例

तथागत tathāgata ターガタ(仏教の如来)
最初のタは無気音、次のは有気音、最後のタは無気音、

जगन्नाथ jagannātha ジャガンナー(「世界の主」の意味で、ヴィシュヌ、クリシュナと同一視される神)
「ナ」(鼻音)、「」(有気音)、

वेद veda ヴェーダ(聖典、知識)の「ダ」(無気音)

धर्म dharma ルマ(秩序、法)の「」(有気音)

नमस्कार namaskāra ナマスカーラ(「こんにちは」、ヒンディー語のナマスカールと同じ)の「ナ」(鼻音)

歯音のグループは日本人にも発音しやすいので、
特に無気音と有気音の違いを意識しながら口に出して読んでみてくださいね。

(文章:prthivii)

サンスクリット語の子音 その3

サンスクリット

「子音」の続きを紹介します。

今回の発音/文字は次の5つです。

反舌音

デーヴァナーガリー

カタカナ

IAST

音声記号

備考

無気音

「タ」

ṭa

ʈə

舌を反りあげて発音するタ

有気音

ṭha

ʈʰə

無気音

「ダ」

ḍa

ɖə

舌を反りあげて発音するダ

有気音

ḍha

ɖʱə

鼻音

「ナ」

ṇa

ɳə

舌を反りあげて発音するナ

今回のグループは反舌音(はんぜつ音)と言われ、
舌先を上に反らせて、口蓋に触れて発する音です。
反り舌音(そりじた音)とも言います。

ローマ字(IAST)では、t、d、nの下に点を付けた記号ṭ、ḍ、ṇ、を使います。

このグループの発音が、カタカナや記号無しローマ字で普通のタ、ダ、ナと区別なく書かれているケースが多いので、反舌音である点に注意が必要です。

また、繰り返しになりますが、デーヴァナーガリーの子音の基本字形(字母)は母音aを含んでいるので、純粋に子音だけのṇを書き表すときは、ण्のように、右下がりの短い線を足します。

今回出てきた発音/文字を使った単語の例

नटराज naṭarāja ナタラージャ(舞踏王=シヴァ神の異名)の「タ」、
अष्ट aṣṭa アシュタ(8つの)の「タ」 (ष् も反舌音のシュ)、
गणपति gaṇapati ガナパティ(ガネーシャの異名)の「ナ」、
कृष्ण kṛṣṇa クリシュナの「ナ」、

などもこの反舌音です。

舌を反り上げて、音の違いを感じてみてくださいね。

(文章:prthivii)

サンスクリット語の子音 その2

サンスクリット

「子音」の続きを紹介します。

今回の発音/文字は次の5つです。

口蓋音

(硬口蓋音)

デーヴァナーガリー

カタカナ

IAST

音声記号

備考

無気音

「チャ」

ca

有気音

チャ

cha

cʰə

息を強く吐く「チャ」

無気音

「ジャ」

ja

ɟə

有気音

ジャ

jha

ɟʰə

息を強く吐く「ジャ」

鼻音

「ナ」(ニャ)

ña

ɲə

硬口蓋で発音するナ

これらは口蓋音と言います。
(कカのグループを軟口蓋音と呼ぶ場合は、その対比で硬口蓋音と言います)
カタカナではチャ、チャ、ジャ、ジャ、ニャ
となりますが、太字のところは、息を強く出しながら発音する有気音です。

これらを発音するときの舌の位置が、
前回のकカのグループよりも少し手前になってるのがわかりますね。
鼻音のञ ñaニャは、例えば日本語の「安直」「暗示」と言うときの「ん」と同じ。
後ろに来る子音に従って無意識に鼻音のときの舌の位置を変化させているのですね。
そうした音の変化を区別するのがサンスクリット語の特徴であり、
文字にも反映させます。

カタカナでは同じ「ン」の音も、

सङ्ग saṅgaサンガ(集会) (सはsa サと読む)
सञ्जय sañjayaサンジャヤ(マハーバーラタ登場人物) (यはya ヤと読む)

このように、異なった文字を使っています。

また、前回のおさらいになりますが、
デーヴァナーガリーの子音の基本字形(字母)は母音aを含んでいるので、純粋に子音だけのñを書き表すときは、ञ्のように、右下がりの短い線を足します。

ただ現代語では、すべての鼻音をビンドゥと呼ばれる点で代用して書き表すことも多く、
先ほどの単語なら संग 、संजय 、という書き方になります。

今回出てきた発音/文字を使った単語の例

चरक caraka(チャラカ、アーユルヴェーダの医学書「チャラカ・サンヒター」の著者)
छाया chāyā(影)
जय jaya(勝利)
झर jhara(滝)
सञ्चर sañcara(道)

(文章:prthivii)

サンスクリット語の子音

sanskrit前回の母音に続いて、今回は「子音」を紹介します。
サンスクリット語に子音は全部で33あります。
全部を一気に紹介すると頭がパンクしてしまうので、段階的に出していきます。

最初にあげるこの5つの文字/発音は、喉音あるいは軟口蓋音と言われるグループです。

喉音

(軟口蓋音)

デーヴァナーガリー

カタカナ

IAST

音声記号

備考

無気音

「カ」

ka

kə

日本語のカと同じ

有気音

kha

kʰə

息を強く吐く「カ」

無気音

「ガ」

ga

日本語のガと同じ

有気音

gha

gʰə

息を強く吐く「ガ」

鼻音

「ナ」(ンガ)

ṅa

ŋə

舌の根本の方で発音するナ

デーヴァナーガリーの子音の基本字形(字母)は、もともと母音aを含んでいるので、कはka、カと読むことに注意してください。aを含まない、純粋に子音だけのkを書き表すときは、क्のように、右下がりの短い線を足します。

最初のक と三番目のगは、日本語の「カ」、「ガ」とほぼ同じ、
舌の位置を喉に近い口蓋の部分に当ててから発音します。
खとघは、カタカナでは「」「」と書いてありますが、
これは「有気音」です。強い息を出しながら発音します。

例えば कर(~を為すもの)、खर(固い)はどちらもカタカナでは「カラ」としか書けませんが、
कは無気音の「カ」、खは有気音の「」で(रはraと読む)、
デーヴァナーガリーで書いてあればまったく別の単語であることは一目瞭然だし、
ローマ字(IAST)でも、それぞれkara、khara と書くので別の単語であることが分かります。
前回、短母音と長母音の違いで意味が変わってしまう、という話を書きましたが、
無気音と有気音の違いでもまた意味が変わってしまうのですね。
馴染みのない有気音の発音ですが、実は日本語のなかにもあります。
口の前に指をかざして、岡(オカ)と顔(カオ)と言ってみると、
岡のときは感じなかった風を、顔のときは「カ」を発音した後にかすかに感じるはずです。
(東京地方の標準語を基準にしているので地方語の場合は異なるかもしれません)
日本語の場合はかすかな違いですが、サンスクリット語の有気音は、
もっと強く息を出すよう意識して発音してみてください。

五番目のङはカ行と同じ位置で発音する鼻音で、
やはりカタカナでは「ナ」としか書けませんが、(むしろ「ンガ」の発音に近い)
ローマ字(IAST)ではnの上に点を付けてṅaと書きます。
これも馴染みの無い発音のようですが、「温厚」「恩義」などを発音してみると、
「ん」のとき舌の位置が奥の方になっていることがわかるはずです。
例えばヨーガをされている方には馴染みのある単語、
अष्टाङ्ग、aṣṭāṅgaアシュターンガのङ् 「ン」がこれです。
(アシュタは「8つ」、アンガは「手足;支分」という意味。本来の発音は「アシュタンガ」ではありません。)
日本語では聞き分けないような音の違いを正確に分析しているので、
サンスクリット語には、全部で5つの鼻音があります。

このような発音を細かく分析した音声学(शिक्षा、śikṣā、シクシャー)が
発達した目的は、ヴェーダ聖典を正しく読誦するため。
ヴェーダの聖句を正しく唱えてこそ神々の力を享受できるからです。
古来、ヴェーダの学習はバラモン、クシャトリヤ、ヴァイシャの
三階級の男子のみに許されていました。
古代インドのバラモンたちは、まさか数千年後に遠い地の外国人がヴェーダに親しみ唱えるようになるとは想像もしていなかったでしょう。

अङ्ग aṅga(支分)のンの舌の位置、
कर kara(~を為すもの)と
खर khara(固い)の無気音、有気音の違い、
こういったところを意識してみてくださいね。

(文章:prthivii)

サンスクリット語の母音

hindi alphabet texture background - high resolution

今回はサンスクリット語の母音の話ですが、その前に問題です。

ヨーガ、ヨガ、二つの書き方がありますね。

サンスクリット語の発音に則れば、どちらが正しいでしょうか。

答えは、母音の説明の後で。

では、サンスクリット語の母音を紹介します。

1.単母音(単一の母音)

単母音

デーヴァナーガリー文字

カタカナ

IAST

音声記号

備考

短母音

「ア」

a

ɐ or ə

日本語のアよりやや弱い

長母音

「アー」

ā

日本語の長母音より短め

短母音

「イ」

i

i

長母音

「イー」

ī

日本語の長母音より短め

短母音

「ウ」

u

u

長母音

「ウー」

ū

日本語の長母音より短め

短母音

「リ」

ɻ

母音としてのr

長母音

「リー」

ɻː

rの長母音

短母音

「リ」

ɭ

母音としてのl

長母音

「リー」

ɭː

理論的にlの長母音。

実例が無いので

母音の数に含めない場合も

 
表の左列から、
1.短母音、長母音の区別
2.デーヴァナーガリー文字
3.カタカナ読み。サンスクリット語をカタカナで表すには限界がありますが、慣例に従っています。
4.その次のIASTとは、The International Alphabet of Sanskrit Transliteration の略で、
ローマ字に発音記号を加えてサンスクリット語を正確に表記する転写方式です。
5.国際音声記号(IPA)で表しています。発音の手がかりにしてください。

(文字の書き方まで触れると一気に煩雑になってしまうので、それはまた別の機会にします。)

母音にrやlが入っていることに戸惑ったのではないでしょうか。
はなかなか馴染めない発音ですが、英語のr、lを発音するのと同じ舌の位置で軽く舌を震わせると感じが出ると思います。
日本語にはアイウエオという五つの母音しかありませんが、本当はないわけではなく、短母音と長母音の区別を意識しないだけ。例えば、おばさんとおばあさん、鳥と通り、の違いのように。

次に、二重母音(二つの母音が混じった母音)です。

デーヴァナーガリー文字

カタカナ

IAST

音声記号

備考

常に「エー」

e

日本語の長母音より短め

アイ

ai

ai

常に「オー」

o

日本語の長母音より短め

アウ

au

au

 
二重母音は4つとも長母音として扱います。
eは必ず「エー」、oは必ず「オー」と発音するのがサンスクリット語のきまりです。
最初の質問の答え、これでわかりましたよね。
サンスクリット語では

ヨーガ

が正解です。

(注:ヒンディー語では短く発音されるため、ヨガ、とか、ヨゥガと聞こえます)

短母音と長母音の区別でいえば、たとえばクリシュナ神の異名として知られている
वासुदेव vāsudeva ヴァースデーヴァは、「ヴァスデーヴァの息子」、というのが本来の意味で、クリシュナを指します。
ヴァースデーヴァとヴァスデーヴァをうっかり間違えてしまうと、
クリシュナに祈っているつもりが、相手はお父さんだった、なんてことに…。
それはちょっと残念ですよね。
だからこそ、サンスクリット語では短母音なのか長母音なのかの区別が、とても大切なのです。

ちなみにदेव devaは神という意味の男性名詞。
eは長母音なのでデーヴァ、が正しいのですが、現代語ではデウと発音されます。(ややこしいですね)

このように、現代語では、本来長母音だった発音が短母音に、
語中や語末の短母音aは消える傾向があり、また、ローマ字で
長母音と短母音の違いを意識せずに書いている人が多いため、
サンスクリット語の原文がわかりにくくなっています。

ただ、文意が変わってしまうような読み方の間違えさえ気を付ければ、
古代インドでも、おそらくは地方ごとに多少の訛りによる差異はあったでしょうから、
日本語訛りは寛容なるインドの神々にお許しいただきましょう。

次回は子音を紹介します。

(文章:prthivii)