インドで人気の神様といえば、まずはじめに思い浮かぶのがガネーシャ神です。
ガネーシャ神は、礼拝が盛んなインドでも、他の神様を差し置いて、第1番目に礼拝されるとても重要な神様です。
このガネーシャ神は、人間の身体に象の頭をもち、ネズミを乗り物とするという、とても不釣り合いな姿をしていますが、実はこの姿形は神聖なシンボルとして大きな意味を持っています。
ここでは、「Ganapati」(H.H. Dr. Jayant Balaji Athavale & Dr. [Mrs.] Kunda Jayant Athavale編、Sanatan Sanstha出版)より、ガネーシャの姿の宗教的な意味についてみてみましょう[1]。
1. ガネーシャ神の全身はオームカーラ、すなわちプラナヴァ(原初音)と呼ばれるオームの音を表しています。象は、サンスクリット語の「オーム」を体現する唯一の生き物といわれておりますが、ガネーシャの頭が象になったのは、そのような意味から必然だったのかもしれませんね。
2. ガネーシャの鼻の向きは、多くの場合ガネーシャから見て左曲がりになっています。左曲がりの鼻のガネーシャは、別名ヴァーマムカとも呼ばれています。ヴァーマはサンスクリット語で、左側や北の意味があり、ムカ(ムキ)には顔の意味があります。そして、チャンドラ・ナーディ(月の管)が左側にあるといわれているため、左曲がりのガネーシャは、静寂をもたらすといわれます。加えて、北の方角は、霊的に有益な方角であり、祝福(アーナンダ)を与えるといわれます。また左曲がりのガネーシャは、女性的な面を表し、お金、名声、幸運、幸福な家庭などの生活に恵まれるとされています。
一般的に入手できるガネーシャ像のほとんどが左曲がりの鼻のもので、この「ヴァーマムカ・ガネーシャ」は通常の方法で礼拝してよいといわれています。
一方、右曲がりのガネーシャは、ダクシナームールティまたはダクシナービムカと呼ばれます。ダクシナーは南、ムールティは像、ムカは顔を意味するので、それぞれ「南向きの像」あるいは「南向きの顔」の意味になります。
南の方角は、死の神であるヤマ(閻魔大王)の方角といわれています。また、右側にはスーリヤ・ナーディ(太陽の管)があるといわれています。
ヤマやスーリヤから想像できるように、この方角はとても強力な組み合わせです。したがって、右曲がりのガネーシャ神は、とても強力で活動的なガネーシャ像といわれています。また男性的な面を表し、厳格、誠実、高潔、節制、そして道徳にもとづいた規則正しい生活などを象徴しているといわれます。
3. モーダカ(甘い蒸し団子)は、ガネーシャの大好物です。ガネーシャは、消化に悪い油が嫌いなため、甘いお菓子でも蒸したものでなければ召し上がりません。「モーダ」は喜びやうれしさを意味する語で、「カ」は小さなという意味があります。
またモーダカの形は、霊的な知識の到達度を象徴しています。はじめは霊的な知識が少なく、甘美さを味わえない状態(皮しか食べられない)から、霊的な知識が増すにすれ、やがて大きな甘みが味わえる状態(中身まで食べられる)になります。ガネーシャは、霊的な知識を与える神様であるといわれるゆえんです。
4. ガネーシャが乗り物としているネズミは無知の象徴といわれています。またネズミは素早く動き回るために、激情的な性質の象徴といわれています。ガネーシャがネズミに乗る姿は、無知や激質を克服することを象徴しています。
私たちも素早く動き回るネズミに振り回されずに、ガネーシャのように上手な「ネズミ乗り」になってみたいものですね。
同じガネーシャでも、入手できるガネーシャ像は、製作者によって姿形が様々に変わってきます。今一度、いつもお世話になっている手元のガネーシャ像を良く見直して、ガネーシャの姿形や手にしているものの意味を考え直してみるのもよいでしょう。
参考文献:
[1]H.H. Dr. Jayant Balaji Athavale & Dr. [Mrs.] Kunda Jayant Athavale, "Ganapati", Sanatan Sanstha, India
雑記帳
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