豊かな自然のあらわれが神々として崇められるインドにおいて、とりわけ重要視されるのが聖なる河の数々です。
穢れを清める聖地として崇められてきたその数多の河には、巡礼者を精神的な旅に誘うかのようにボートがひっそりと浮かんでいます。
ヨーガには、そんなボートの形を真似るポーズの実践があります。
ナウカ・アーサナ(ナーヴァ・アーサナ)と呼ばれるボートのポーズは、身体をV字に形作るポーズです。
このポーズの実践を通じては、人生という時に荒れ狂う深い河に沈んでしまうことがないよう、日々を歩むための術を学びました。
ラーマーヤナにおいて、ラーマ神たちがガンジス河を渡ろうとした時のこと、ラーマ神を心から崇拝するひとりの船頭がボートを出しました。
船頭は、ラーマ神の御足の埃がボートに触れないよう、乗船前に御足を洗わせて欲しいと頼みます。
ラーマ神の御足の埃は、触れたものを別の何かに変えてしまうという特別な力があるとされていたからです。
船頭は、その特別な力を求めるのではなく、唯一の生計手段であるボートが何かに変わってしまうことを恐れていました。
ラーマ神は、船頭の謙虚な姿勢に心を打たれ、解脱という祝福を船頭に授けます。
インドの文化において、古代より最高の礼拝として捉えられてきたのが、チャラナスパルシャ(接足作礼)と呼ばれる御足に触れる行いです。
意図せずにその最高の礼拝を行った船頭は、輪廻の海を渡り、最高の境地に至りました。
この船頭の姿は、常にラーマ神を想うことで障壁を乗り越え、正しい道を進み、やがて解放に達することを象徴しています。
ボートのポーズでは、腹筋と背筋を使いながら、不安定な姿勢を維持しなければなりません。
苦手意識を持ちやすいポーズのひとつであり、全身に力が入りすぎて、呼吸を止めてしまうことも多くあります。
それは、人生という深い河を泳ぐことに等しいものです。
しかし、何かに焦点を合わせると、すっと呼吸が楽になり、容易にバランスを取ることが可能になります。
その修練を通じて体幹が鍛えられる時、何事にも動じない強い心身が生まれていきます。
私たちは、ラーマ神のような至高の存在に焦点を当て、こうしたヨーガの修練を日々に活かすことが大切です。
それは、正しい道を歩むための強さとしなやかさを身につける修練にも他ありません。
その学びによって、人生の浮き沈みにも惑わされることなく、やがて最高の境地に辿り着くことができるはずです。
(文章:ひるま)
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