神々が住まうインドの4大聖地のひとつに数えられる南のラーメーシュワラム。
その周辺には、64の聖なるティールタが存在するといわれます。
ティールタは、主に水辺に関係する聖地を意味します。
中でも、とりわけ有名なジャターティールタは、ラーマ神がラーヴァナを倒した後、シヴァ神を礼拝するために身を清めようと、髪の毛(ジャター)を洗った場所として崇められる聖地です。
ラーメーシュワラムだけでなく、インドの寺院の多くには、大きな池などの水辺が存在します。
寺院に備わる池にはさまざまな呼び名がありますが、その多くは、ティールタと呼ばれ崇められています。
寺院を包み込む静寂を映し出すかのように備わるティールタには、言葉では言い表せないほどの美しさを垣間見る瞬間があります。
ラーマ神がその髪を清めたように、ティールタは寺院を訪れた人々が神に謁見する前に身を清める場所として重要視されていました。
また、寺院で唱えられるマントラの波動を吸収する池の水は、聖水としての恩恵をもたらすと信じられます。
その他、寺院の維持や供物の調理などにも、池の水は欠かすことのできないものであったとされています。
インドでは、約4ヶ月のモンスーンの間に、1年の75%の雨が降るといわれ、乾季にはまったく雨が降らないことも少なくありません。
寺院に備わる大きな池は、生活に欠かすことのできない水を供給する貯水池としての大きな役割を担い、周辺地域の水位の改善にも役立っていたと伝えられます。
信仰に基づいて受け継がれてきた池は、人々の生活に安定と繁栄をもたらしました。
しかし、文明とともに物質的に生活が豊かになった現在は、さまざまな理由により、池を備えない寺院が増えているといわれます。
かつてあった池も、手入れがされず、水の問題に直面している地域もあると伝えられています。
心身の穢れを清める聖地としてのティールタは、精神的にも物質的にも、人々の拠り所となる場所です。
持続可能で真に豊かな生活を受け継いでいくためにも、こうした叡智の価値を常に心に留めておきたいと感じます。
そして、それが明るい未来への渡し場となることを心より願っています。
(文章:ひるま)
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