「苦しみや憎しみのない穏やかな生活を送り、あらゆる物事を正しく理解しながら、神聖な心で崇高な存在と繋がるためにはどうしたら良いのでしょうか。」シヴァ神の妃であるパールヴァティは、ある時シヴァ神にそう訪ねます。そしてシヴァ神は答えます。「呼吸を観察し、操ること。」と。
ヨーガの修練を行う人々に最高意識として捉えられいつの時も崇められているのが、ヨーガの創始者であるシヴァ神です。そして、数多く存在するヨーガの経典の中に、その崇高な存在に繋がるための教えが記された、シヴァ神とパールヴァティーのやり取り「シヴァ・スヴァローダヤ」があります。
スヴァラ・ヨーガと呼ばれるその教えに従う修練は、シヴァ神が述べたように呼吸の統制に他ありません。「音」を意味する「スヴァラ」は、インドの古い哲学の中で音が宇宙の根源として捉えられるのと同様、極めて大切なものとされています。そして私たちの体においてその「音」は、この生命を司る「息・呼吸」であり、それ故、その息づかいの統制は、自分自身を、そしてこの世界の全てを理解することに繋がるのだと、人々はここで修練を続けています。
不安や緊張を感じれば呼吸が早まり、いつしか止まっていることがあるように、その乱れた呼吸によって、私たちは無意識のうちに大きく揺り動かされて止みません。意識的にその生命の音の中へと深く入り込み、ゆっくりと穏やかな状態へと導くことで、揺らぐ世界は不動なものへ落ち着いてゆくのだと、私もここでその実りを実感しています。
音を通じて合一を得るこのスヴァラ・ヨーガは、呼吸だけに留まらず、鼻腔を通じて取り入れられる呼吸によって体の中を流れる気の流れをも統制していくとても深い科学的な行いでもあります。そして、この世界にある全てのものが私たちの思考の現れだと捉えられるように、私たちの命を維持する呼吸の統制は、その世界の現われに確実に変化をもたらすに違いありません。
ここにいて、パールヴァティーの持つ疑問と同じものを抱えながら過ごす中、呼吸は少しずつその答えを見せてくれるように思うことがあります。全てのものが生まれるその源を整えること、私たちは今、その原点に戻る時にいるような気がしています。
(文章:ひるま)
雑記帳
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