価値ある霊的叡智をこの世に伝え続けるナーラダ仙は、ヴィシュヌ神を心から愛することで知られる聖仙です。
そんなナーラダ仙がヒマーラヤの山奥を彷徨っていた時、ヴィシュヌ神を想う瞑想の中で超越状態に至ったことがありました。
神々の王であるインドラ神は、ナーラダ仙の崇高な姿を目にし、自分の地位が脅かされるのではないかと不安を抱き始めます。
こうして始まる神話には、私たちの歩みを導く貴重な教えが秘められています。
ナーラダ仙の姿に慄いたインドラ神は、かつてシヴァ神の瞑想を邪魔した欲望の神であるカーマデーヴァを仕向け、ナーラダ仙の瞑想の邪魔を試みました。
しかし、何をしてもナーラダ仙を邪魔することができず、カーマデーヴァは敗北を認めます。
すると、ナーラダ仙は欲望に打ち勝ったと、自分の功績を自慢し始めました。
高慢になったナーラダ仙は、シヴァ神の恩寵によって感覚に打ち勝つことができたことを忘れ、シヴァ神にもその自慢を始めます。
シヴァ神はただ微笑み、ヴィシュヌ神には何も言わないようにと諭しました。
しかし、理性を失ったナーラダ仙はヴィシュヌ神を訪れ、同じように自慢を始めます。
そんなナーラダ仙の姿勢に、ヴィシュヌ神は注意をするよう忠告しました。
帰り道、ナーラダ仙はシーラニディという名の王が支配する美しい街を見つけます。
その宮殿を訪れると、シーラニディの娘であるシュリーマティーの婿選びの儀式があることを知らされました。
シュリーマティーは際立って美しく、ナーラダ仙は心を奪われます。
そして、彼女と結婚したいという欲望を抱くようになりました。
ナーラダ仙は再びヴィシュヌ神を尋ね、ハリ(ヴィシュヌ神の別名)に似た顔を与えてくれるように祈ります。
ヴィシュヌ神はナーラダ仙の祈りを聞き入れるも、ナーラダ仙はハリに猿の意味があることを知りませんでした。
自分の顔が猿になっていることに気がつかずに、ナーラダ仙は婿選びの儀式に参加します。
そして、シュリーマティーの前に意気揚々と姿を現すと、そこにいた全員から嘲笑されてしまいました。
そこで自分の顔が猿の顔になっていることを知ったナーラダ仙は、これまでの自分の過ちに気づいたと伝えられます。
シヴァ神の恩寵によって欲望を倒すことができたナーラダ仙でしたが、慢心によってその恩寵を忘れると、感覚に惑わされ、欲望に溺れ、無知に陥り、自ら失墜の道を歩みます。
しかし、ヴィシュヌ神の厳しくも愛ある導きによって、その道は正されました。
ナーラダ仙は、こうした自らの歩みを通じて、私たちに大切な気づきを与えてくれます。
それを可能にするのは、ヴィシュヌ神を誰よりも深く想う信愛の心に他なく、その心は、価値ある叡智により近く、私たちを近づけてくれています。
そうして示される叡智を日々に生かしながら、実りある日々を過ごしたいと感じます。
(文章:ひるま)
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