霊性修行において、沈黙が持つ力は計り知れないほど偉大であることが伝えられます。
これを象徴する美しい神話が、ムーカーンビカー女神の誕生において描かれています。
知恵の女神として崇められるムーカーンビカー女神の神話は、言葉を超えた霊性の深さを伝え、沈黙の中で真の知恵を見つける道筋を示しています。
言い伝えによれば、カウマースラという悪魔が苦行を通じてシヴァ神から強大な力を授かり、世界を恐怖に陥れていました。
カウマースラは女性にしか討伐されないという恩恵を悪用していたため、聖者たちは女神に助けを求めます。
これを察知したカウマースラは、シヴァ神にさらなる苦行を捧げ、その恩恵として不死を願おうと試みました。
しかし、その願いを口にしようとした時、言葉の女神であるサラスワティーがカウマースラから言葉を奪います。
こうしてカウマースラは願いを伝えることができず、不死の身を得ることもできませんでした。
その後、ドゥルガー女神、ラクシュミー女神、サラスワティー女神が一体となり、カウマースラは倒されます。
カウマースラは言葉を失った悪魔を意味するムーカースラと呼ばれるようになり、ムーカースラを倒した女神は、ムーカーンビカー女神として人々の崇敬を集めるようになりました。
このムーカーンビカー女神の神話は、私たちの内なる悪魔である憤怒や嫉妬、執着や悪意といった負の感情を沈黙させることの重要性を教えてくれています。
その沈黙は、単に言葉を発しない状態を示すものではなく、内なる声に耳を傾け、本当の自分と向き合う貴重な機会として存在しています。
瞑想や内省を通じて得る静寂は、そうした負の感情を適切に処理し、本当の自分を取り戻す力を私たちに与えてくれるものであると、この神話は示唆しています。
ムーカーンビカー女神のムーカースラに対する勝利は、単なる物理的な力の誇示ではありませんでした。
沈黙が霊的な実践において何よりも強い力を持つということを示すこの神話は、私たちに否定的な言葉や破壊的な行動を制御する術を教えてくれています。
そうして内なる悪魔を倒しながら生きる時、私たちは飛躍的に成長し、やがて究極の境地に至ることができるはずです。
沈黙の中に真の力があることを私たちに教えてくれるムーカーンビカー女神。
その姿は、喧騒に満ちた現代社会において、時に立ち止まり、内なる声に耳を傾けることの大切さを思い出させてくれています。
沈黙の中から湧き出る知恵こそが、人生の課題を乗り越える力となることを心に刻み、日々を歩んでいきたいと感じます。
(文章:ひるま)
※ムーカーンビカー女神の神話については、この他にも異なる形で伝えられることがあります。
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