スピリチュアルインド雑貨SitaRama

ディーワーリー

光の道しるべ

薄暮の空が紫色に染まり始めた頃、14歳のアーシャは祖母のラクシュミーと共に、古びた団地の階段を一段一段上っていた。両手には、手作りのスイーツが詰まった重たい籠を抱えている。

「おばあちゃん、本当にこんなに大量のラッドゥー(ひよこ豆の粉とギーで作った球形のお菓子)とジャレビ(オレンジ色の渦巻き状の揚げ菓子)を配って回るの?足が痛くならない?」アーシャは少し心配そうに尋ねた。

ラクシュミーは優しく微笑んで答えた。「ディーワーリーは光の祭りよ。でも、光というのは必ずしもディヤー(灯明)やランプの明かりだけじゃないの。時には、人の心の中に灯る温かな光こそが大切なのよ」

この団地には、高齢者や病人、独り暮らしの人々が多く住んでいた。ラクシュミーは毎年のディーワーリーの時期になると、一軒一軒を訪ねてスイーツを配り、話し相手になることを日課としていた。

「でも、私たちだって裕福じゃないのに…」アーシャは躊躇いがちに言った。

「そうね。でも、分かち合える喜びこそが本当の富よ。カルマ・ヨーガの教えを知っているでしょう?行為による精神的な高みへの道。必ずしも大きな行為である必要はないの。小さな親切の積み重ねが、やがて大きな光となるのよ」

5階に着くと、最初の訪問先である203号室のドアをノックした。開けたのは、半年前に夫を亡くしたばかりのシャルマさんだった。

「まあ、ラクシュミーさん!アーシャちゃんも!」シャルマさんの憔悴した顔に、久しぶりの笑顔が浮かんだ。

部屋に招き入れられた二人は、シャルマさんの話に耳を傾けながら、スイーツを分け合った。シャルマさんは夫との思い出、寂しい日々の心情を、涙を浮かべながら語った。アーシャは、おばあちゃんが相手の話をどれほど丁寧に聞いているかに、感銘を受けた。

その日、二人は12軒の家を訪ねて回った。病気の子どもがいる家庭、仕事を失って困窮している家族、認知症の親の介護に疲れ果てている世帯…。どの家でもラクシュミーは、ただスイーツを渡すだけでなく、相手の話に耳を傾け、励ましの言葉をかけ、時には実践的なアドバイスも送った。

夜も更けた頃、最後の家を訪ね終えた二人は、団地の中庭のベンチに腰掛けた。辺りには、各家庭が灯したディヤーの明かりが、星のように瞬いている。

「おばあちゃん、今日はすごく勉強になったよ」アーシャは静かに言った。「みんな、表面では普通に暮らしているように見えるけど、それぞれに悩みや苦しみを抱えているんだね。でも、誰かが訪ねてきて、話を聞いてくれるだけで、こんなにも救われるんだって…」

ラクシュミーは孫娘の肩を優しく抱いた。「そうよ。ヒンドゥー教では、神様は様々な姿で現れるとされているわ。でも時には、神様は私たち人間を通じて働きかけることもあるの。困っている人に手を差し伸べること、悲しみに寄り添うこと、孤独な人の話し相手になること—それこそが、最も崇高な礼拝の形なのよ」

「でも、私たちにできることって、本当に小さなことばかりじゃない?」

「ガネーシャ神が教えてくれているように、障害物は少しずつ取り除いていけばいいの。大切なのは、続けること。小さな親切の種は、やがて大きな愛の木に育つものよ」

その時、中庭に設置された大きなランプに火が灯された。オレンジ色の明かりが、二人の表情を柔らかく照らし出す。

「見てごらん」ラクシュミーは夜空を指差した。「一つ一つの家の明かりは小さいけれど、みんなの灯りが集まると、こんなにも美しい光景になる。私たちにできる親切も同じよ。一つ一つは小さな光かもしれないけれど、それが集まれば、暗闇を照らす大きな光になるの」

アーシャは深くうなずいた。彼女の心の中で、新しい理解の光が静かに灯り始めていた。奉仕とは、必ずしも大きな行為や派手な慈善活動である必要はない。日々の小さな思いやりの積み重ねこそが、真の光となって人々の心を照らすのだ。

その夜、アーシャは決心した。来年からは、自分からおばあちゃんの奉仕活動に加わろうと。そして、いつか自分も、おばあちゃんのように誰かの人生に光をもたらせる存在になりたいと。

夜空には無数の星が輝き、団地の窓々には温かな明かりが灯っていた。それは、人々の心と心をつなぐ、目には見えない光の道筋のようだった。

翌朝、アーシャは早起きして、台所でおばあちゃんの隣に立った。「おばあちゃん、今日は私もラッドゥーの作り方を教えて」

ラクシュミーは、孫娘の目に宿る新しい光を見て、静かに微笑んだ。ディーワーリーの本当の奇跡は、このように一人一人の心の中で起こる小さな変化なのかもしれない—そう思いながら。

コメント

    • 髙橋 勝
    • 2024.10.30 9:15pm

    とても心の奥に届くお話でした。
    ありがとうございました。
    生きる力をいただいたように思います。
    私達が遠い昔に忘れてしまった
    純粋な心を思い出させていただきました。
    ありがとうございました。

  1. SitaRama

    コメントをいただき、ありがとうございます。このお話が心に響き、生きる力を与えてくれたとのことで、これ以上の喜びはありません。

    おっしゃる通り、この物語は私たちの中にある純粋な心、思いやりの心を呼び覚ますものだと思います。ラクシュミーおばあちゃんの行動は、小さな親切の積み重ねが大きな影響を与えうることを教えてくれていますね。

    現代社会では忘れがちですが、他者への思いやりや共感は、実は私たち自身も癒し、強くしてくれるものなのかもしれません。アーシャが体験したような「気づき」の瞬間を、読者の皆さまにも感じていただけたなら幸いです。

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