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ディーワーリー

光の約束

夕暮れの空がオレンジ色に染まり始めた頃、ムンバイの古い寺院近くの路地で、12歳のディーパクは一つの真鍮の油灯を手に持っていました。その小さな炎は、彼の手のひらの中で静かに揺らめいていました。

ディーパクという名前には「小さな灯火」という意味があります。しかし、この1年間、彼はその名前に込められた明るさを感じることができませんでした。父親を病気で亡くし、母親は二人の生活を支えるため、朝から晩まで働いていました。今年のディーワーリーは、きっと寂しいものになるだろうと思っていました。

通りには既に何百もの灯りが輝き始めていました。寺院からは線香の香りが漂い、遠くで爆竹の音が鳴り響いています。ディーパクは寺院の階段に座り、手の中の油灯を見つめながら、父との思い出に浸っていました。

去年のディーワーリーの夜、父は彼にこう語りかけました。「ディーワーリーの灯りには、特別な力があるんだよ」と。「それは単なる明かりじゃない。私たちの心の中の光なんだ。どれだけ暗い夜でも、その光は私たちを導いてくれる」

「でも、お父さん」とディーパクは尋ねました。「時々、光が見えないときはどうすればいいの?」

父は優しく微笑んで答えました。「そういう時こそが大切なんだよ。光が見えないときでも、それは必ずそこにある。ちょうど太陽が雲の向こうに隠れているように。私たちがすべきことは、その光を信じ続けることだけさ」

現在のディーパクは、その言葉の意味を深く考えていました。参拝客が次々と彼の前を通り過ぎていきます。誰もが祝祭の喜びに満ちた表情を浮かべています。

そのとき、寺院の世話をする高齢の僧侶、グルデーヴ・ジーが、ゆっくりと階段を降りてきました。彼の手にも一つの油灯が握られていました。

「ディーパク、一人で座っているのかい?」とグルデーヴ・ジーが声をかけました。

ディーパクはうなずきました。「母は仕事です」

「そうか...」グルデーヴ・ジーは、ディーパクの隣にゆっくりと腰を下ろしました。「私も若い頃は一人ぼっちだったよ。家族を残して修行の道を選んだときは、とても孤独だった」

二人は黙って夕暮れの空を見上げました。街全体が、まるで星空のように輝き始めていました。

「私はね」とグルデーヴ・ジーが静かに話し始めました。「修行を始めた頃、自分の選択が正しかったのか、何度も疑問に思いました。でも、不思議なことに、一番迷いが深かった時期に、最も明確な導きの光に出会うのです」

ディーパクは興味深そうに僧侶の顔を見つめました。

「ある年のディーワーリーの夜」とグルデーヴ・ジーは続けました。「私は全てを投げ出そうと思っていました。でも、その夜、一人の旅人が寺院を訪れ、こう言ったのです。『一つの灯りは小さくても、それを分け合えば、世界を明るく照らすことができる』と。その時、私は理解したのです。希望とは、分かち合うことで増していく光のようなものだと」

ディーパクの目に涙が浮かびました。グルデーヴ・ジーは優しく彼の肩に手を置きました。

「あなたのお父さまは、よくこの寺院に来られました。毎朝の礼拝を欠かさず、困っている人がいれば必ず助けの手を差し伸べていた。そして、あなたは確かに彼の光を受け継いでいるよ」

その時、寺院の中庭から誰かが呼ぶ声が聞こえました。振り返ると、近所の子供たちが手を振っていました。

「ディーパク!手伝ってくれない?寺院の中庭でディヤを並べるんだ!」

ディヤとは素焼きの小さな油皿のことで、ディーワーリーの夜には何百、何千という数が並べられ、美しい光の模様を描きます。

ディーパクは迷いながらグルデーヴ・ジーを見ました。

「行っておいで」とグルデーヴ・ジーは微笑みました。「私も見守っているよ。光の配置を指導してあげよう」

ディーパクは立ち上がり、自分の油灯を大切に持ち直しました。そして、もう一つ灯りを取り出すと、それをグルデーヴ・ジーの灯りで灯しました。

「グルデーヴ・ジー、これを寺院の入り口に置いていきませんか?」

グルデーヴ・ジーの目が潤みました。二人は並んで歩き始めました。その夜、ディーパクは久しぶりに心から笑顔になれました。子供たちと一緒に、何百ものディヤを丁寧に配置していきました。グルデーヴ・ジーは、それぞれのディヤが持つ意味を説明してくれました。

「見てごらん、この円形の配置は永遠を表しているんだ。そして、この螺旋の形は人生の旅路を表している。私たちは一歩一歩、光に導かれながら進んでいくんだよ」

夜が更けるにつれ、寺院の中庭は幻想的な光の庭園へと変わっていきました。その光の中で、ディーパクは父の言葉を思い出していました。確かに、光は決して消えていなかったのです。それは形を変えて、様々な場所に存在していました。寺院の祈りの中に、子供たちの笑い声の中に、そして何より、自分の心の中に。

夜遅く、仕事を終えた母が寺院に迎えに来たとき、ディーパクは中庭で待っていました。今では数百のディヤが美しい模様を描き出しています。その光は、グルデーヴ・ジーや参拝者たち、そして子供たちが、一つずつ心を込めて灯したものでした。

母は疲れた表情を見せながらも、その光景に目を細めました。ディーパクは母の手を取り、静かに言いました。

「お母さん、お父さんは私たちのことを見守ってくれているよ。この光の中に」

母は黙ってうなずき、ディーパクを強く抱きしめました。二人の周りで、無数の灯りが優しく揺らめいていました。それは希望の光であり、信仰の証であり、そして新しい始まりの象徴でした。

この物語は、ディーワーリーの本質的な意味を描いています。それは単に光が闇を打ち払うという物理的な現象以上の、深い精神的な真理を表しています。私たちの人生には、時として深い闇が訪れることがあります。しかし、その闇こそが、私たちの内なる光、そして信仰と共同体の光の存在を、より鮮やかに照らし出します。

希望は決して一人で携えるものではありません。それは信仰の場で分かち合い、育んでいくものです。一つ一つの小さな灯りが集まって、最も暗い夜をも照らす大きな光となるように、私たちの小さな祈りの行為も、誰かの人生に大きな希望をもたらすことができるでしょう。

ディーワーリーは、まさにこの真理を祝う祭りです。光の勝利を祝うと同時に、私たち一人一人の中にある神聖な光の存在を確認し、それを分かち合うことの素晴らしさを再確認する機会なのです。

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