「瞑想」と聞いて、みなさんはどんな姿を想像するでしょうか。多くの人は、静かに座り、目を閉じて呼吸に意識を向ける、いわゆる「座禅」のようなイメージを思い浮かべるかもしれません。しかし、実は世界中には驚くほど多種多様な瞑想法があります。マントラを唱える、身体の特定の部位に集中する、愛情や慈悲の感情を育てる、体を動かしながら行う……など、その形態は千差万別です。そして、それぞれの瞑想法は「なんとなく違う」と感じられる一方で、共通する部分もどこかにあるようにも思えます。
とはいえ、こうした多種多様な瞑想法を「どのように整理するか」という大きな課題が、これまでの研究者たちを悩ませていました。実際のところ、瞑想と一口に言っても、技法・伝統・目的・身体との関わりなど、要素があまりに多く、どのようにまとめればよいか分かりにくかったのです。
そんな中、ドイツの研究者であるカリン・マトコ(Karin Matko)氏とペーター・ゼドルマイアー(Peter Sedlmeier)氏は、“瞑想にはどのような主要カテゴリがあるのか”を、実際の熟練者からの評価をもとにボトムアップ(下から積み上げる)で明らかにしようと試みました。その結果、瞑想の多様性をまとめるうえで「身体への注目度(Amount of Body Orientation)」と「活性度(Activation)」という2つの軸が重要であることを導き出し、さらに7種類の大きなクラスター(グループ)が浮かび上がってきたのです。今回の研究は学術誌『Frontiers in Psychology』に掲載されており、瞑想をより深く理解したい方にとっては必読の内容となっています。この記事では、彼らのユニークな研究の概要と、その示唆するところを分かりやすく紹介します。
「瞑想」は何を指すのか?
まず前提として、瞑想研究のなかで昔からよく言われているのが「瞑想は単一のものとして扱えない」という指摘です。ひとくちに「瞑想」と言っても、細かく見ていくと数百ものテクニックが存在し、宗教的伝統のちがいや指導者、修行体系、目的によって使われる技法や姿勢が異なります。そのうえ、学術研究では長い間、呼吸への集中・マントラ・マインドフルネスといった一部のメジャーな瞑想だけが中心的に取り上げられることが多く、他のマイナーな瞑想法はあまり知られていませんでした。
こうした背景もあって、研究者たちの間では「集中型(Focused Attention: FA)」「オープンモニタリング型(Open Monitoring: OM)」という二分法が広く引用されてきました。FAとは、たとえば呼吸やマントラなど特定の対象に意識を集約するテクニック、OMとは、外界や内面的な体験を“あるがままに”見つめ続けるテクニックを指します。しかし近年では、「この2分類だけでは、実際に現場で行われている瞑想法の豊富さを捉え切れないのではないか」という声が高まっていました。
ボトムアップで瞑想を分類する試み
今回の研究では、まず大規模な予備調査によって300を超える瞑想テクニックをリストアップ。そこから重複や極度に専門的なもの、日常動作の延長と見なされるようなものを整理し、最終的に20種類の代表的な瞑想法を抽出しました。次に、これらの瞑想法について「長年瞑想してきた熟練者たち」が、テクニック同士の類似度を評価するという方法をとりました。
評価に際しては、それぞれのテクニックが「どのような効果をもたらすか」という観点から、参加者が直感的に「AとBは似ているか?」「どれほど似ているか?」を0〜10の数値スケールで答えていきます。ここで特徴的なのは、あらかじめ研究者が「集中型か、オープンモニタリング型か」などのカテゴリーを設定してしまうのではなく、あくまで熟練者たちが感じる直感的な“似ている・似ていない”という感覚をもとに、下から積み上げる(ボトムアップ)という分析を行った点です。
「MDS」という統計手法が明らかにした2次元
集めたデータを解析するために用いられたのは「多次元尺度法(Multidimensional Scaling:MDS)」という手法です。これは、各テクニック同士の類似度をできるだけ保ったまま、できるだけ次元の少ない空間にマッピングしようとする統計的アプローチです。たとえば、テクニックAとBはかなり類似度が高い評価を得たら近くに配置され、逆にCとDはあまり似ていないと判断されたら遠くに配置されるというわけです。
分析の結果、もっとも見やすく解釈しやすいのは2次元のマップでした。それぞれの次元は、テクニック群がどのように配置されているかを注意深く観察することで「この軸は何を表しているか?」を研究者が推定します。その結果、下記の2つの軸が導き出されました。
- 身体への注目度(Amount of Body Orientation)
- 軸の一方にあるのは、思考の対象として抽象的・概念的なもの(たとえば「矛盾を内省する」や「慈悲の感情を育てる」など)を重視する瞑想。一方の極にあるのは、「身体そのものの感覚」や「特定のエネルギーセンター」への集中を重視する瞑想。
- 活性度(Activation)
- 軸の一方には、じっと静かに座ったり横になったりして行う瞑想が配置され、もう一方には、歩行や動き・呼吸の操作など身体的アクションを活用する瞑想が配置される。
この2軸でプロットすると、たとえば「身体スキャン」や「呼吸を操作する瞑想」は「身体への注目度」が高い上に「活性度」もそこそこ高い方に位置します。一方、「質問や逆説を熟考する瞑想」は「身体への注目度」が低く、なおかつ「活性度」も低い方に位置するなど、全体的に見ると納得できる配置が得られたのです。
瞑想の7クラスター
さらに、この2次元空間で自然とまとまった位置にあるテクニック同士を「クラスター」としてグルーピングしたところ、次の7つの主要なグループが浮かび上がりました。
-
ボディセンタード瞑想(Body-Centered Meditation)
例)ボディスキャン、呼吸観察、身体感覚に焦点を当てる、特定のエネルギーセンター(チャクラなど)に集中する -
マインドフル観察(Mindful Observation)
例)座って静かに内面をモニタリングする、横になって瞑想する、思考や感情が湧き上がる様子を俯瞰する -
ビジュアル集中(Visual Concentration)
例)外部の対象物(絵、像、幾何学模様)やイメージ(視覚化した光・花など)に意識を向ける -
コンテンプレーション(Contemplation)
例)「自分は誰か」といった霊性の問いを熟考する、または矛盾やパラドックス(禅の公案など)に向き合う -
アフェクト中心(Affect-Centered Meditation)
例)慈悲や共感、愛情や感謝といった感情を育てる、祝福を受け取るイメージを持つ -
マントラ瞑想(Mantra Meditation)
例)マントラ(音のフレーズ)やお経を唱える、声に出して唱えたり、心のなかで繰り返したりする -
動きを伴う瞑想(Meditation with Movement)
例)歩行瞑想、ヨガ的動作、呼吸法を伴うダイナミックな動き、気功や太極拳など
これを見ると、私たちが日頃「瞑想」と言う場合にイメージしがちな「呼吸に集中する座禅」は、(1)のボディセンタード瞑想寄りだったり、(2)のマインドフル観察的な側面もあったり、人によってはコンテンプレーション成分も入ることがあるかもしれません。また、「マントラを唱える」などは単に“集中”ではなく、身体への注目度や感情的な響き、宗教・文化的文脈によっては「祝福」や「神聖さ」とのつながりを感じる面もあるでしょう。
新しい軸から見えてくる「瞑想=身体を含むプロセス」
過去の多くの研究では、瞑想を「脳内の認知プロセス」という視点で捉えがちでした。集中力や注意制御の変化、マインドフルネスによるメタ認知の発達など、いわば“頭の中の働き”に焦点が当てられやすかったのです。
ところが今回、熟練者たちの直感的な評価を統計的にまとめた結果浮かび上がったのは、「瞑想は身体性と深く結びついている」という事実でした。
- 「身体をじっくり観察する」(ボディセンタード)から、「体を動かす」「呼吸を積極的に操作する」(活性度が高い)まで、瞑想はかなり身体を使う手法が多い。
- 心や認知だけでなく、身体を“どう使うか”によって瞑想の様式や効果が変わるらしい。
研究者たちは、こうした結果を「Embodied Cognition(身体性認知)」という理論の文脈で捉えています。脳と身体は不可分であり、身体運動や身体感覚は私たちの思考や感情にも影響を与えるという考え方です。瞑想法を細かく見ると、たとえ座りっぱなしの瞑想でも、呼吸や身体感覚への意識づけなど、身体という“プラットフォーム”を通じて自己や世界を観察する手法が多いことに気づきます。「瞑想は頭だけで完結するのではなく、身体的プロセスとして行われる」というのが今回の研究から改めて示唆されるメッセージです。
「集中/オープンモニタリング」分類だけでは足りない?
本研究のもう一つの大きな発見は、「集中(Focused Attention: FA)とオープンモニタリング(Open Monitoring: OM)の二分法では捉えきれない実態」です。たとえば、呼吸集中はFAに分類されがちですが、呼吸の観察を続けるうちに感覚はより受容的なモード(OM寄り)になったりします。また、マントラ瞑想もFAに数えられることが多いのですが、他のFAテクニックと比べると主観的な印象や効果がだいぶ異なる場合があります。
つまり、従来の分類枠組み(FA/OM)だけでは、多様な瞑想テクニックを充分に整理しきれないというわけです。そこで研究者らは、上記の(1)〜(7)のクラスターに示されるような多次元的なカテゴリーの方が、実際の瞑想をより細やかに把握できるのではないか、と提言しています。
今後の研究と実践への応用
本研究によって提案された2次元・7クラスターという新しい瞑想の地図は、多くの疑問と可能性を投げかけています。
- たとえば、「身体に注目する瞑想」と「身体とはあまり関係のない瞑想」とでは、生理学的・心理学的な効果にちがいが生まれるのか?
- 「高い活性度」を伴う瞑想(動きを大きく使うヨガや気功など)と「非常に低い活性度」の瞑想(静かに座る、仰向けに寝るなど)では、脳波や心拍変動のパターンはどのように異なるか?
- 人それぞれの性格や体質によって、合うテクニック・合わないテクニックはあるのか?
こうした問いに答えるには、それぞれのクラスターに属する複数の瞑想法を比較実験する必要があります。もしも今後「瞑想の身体性」や「活性度」に注目して研究が進めば、私たちは自分に合った瞑想を選びやすくなり、特定の悩み(ストレス、集中力低下、感情のコントロールなど)に対してどんな瞑想が効果的なのか明確になるかもしれません。
同時に注意したいのは、多くの瞑想法は本来、特定の宗教や哲学的文脈の中で体系的に組み合わされているという点です。呼吸法とイメージングを組み合わせるような手法や、慈悲の瞑想と呼吸集中をセットで行う伝統など、単独のテクニックとして切り分けにくい例も山ほど存在します。このため、今後の研究は「伝統的枠組み全体で見るときに、どんな効果が顕著に現れるのか?」という観点も大切になってくるでしょう。
まとめ
今回紹介した研究は、瞑想の大きな多様性を「身体への注目度」と「活性度」という2つの軸で整理し、そこから7つのクラスターを浮かび上がらせた初の本格的な試みです。専門家による「こう分類できるはずだ」といったトップダウンな理論ではなく、さまざまな瞑想伝統の熟練者が感じる“体感的な効果”に基づいている点がユニークといえます。
これまで瞑想というと、「頭のなかで行われる心のトレーニング」というイメージを抱く人が少なくありませんでした。しかし本研究の結果は、瞑想が常に身体を通じて行われるものであることをあらためて示唆しています。姿勢や動き、感覚に着目するかどうかが、思考や意識のあり方にも深く影響しているらしい。これは、脳と身体を切り離さずに捉える「身体性認知(Embodied Cognition)」の発想ともつながります。
瞑想に興味があるけど「どのやり方が良いんだろう……?」と悩んでいる方や、「自分のやっている瞑想は、どのような特性を持っているのか」を知りたいという方は、ぜひ本研究のマッピングを参考にしてみてください。もし自分のスタイルが「身体にほとんど注目しない、低活性度」の瞑想ばかりなら、あえて「身体を意識的に動かす瞑想」にチャレンジしてみるのも面白いかもしれません。新たな発見や効果が得られる可能性があります。
瞑想の世界にはまだまだ未解明な部分が多く残されていますが、今回のように多様な技法を体系的に整理していくことで、科学的にもプラクティカルにも役立つ「瞑想の地図」が整備されていくでしょう。それによって私たちは、自分に合った瞑想との出会い方や、より深いレベルでの内観や自己理解へとつながる道を見つけやすくなるはず。今後ますます研究が進むことで、瞑想がもたらす恩恵をより多くの人が享受できるようになることが期待されます。
参考文献
Matko, K., & Sedlmeier, P. (2019). What Is Meditation? Proposing an Empirically Derived Classification System. Frontiers in Psychology, 10, 2276. https://doi.org/10.3389/fpsyg.2019.02276
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