スピリチュアルインド雑貨SitaRama

シヴァ・マントラ

シヴァ神の五音に浸る——瞑想と悟りへ誘う「オーム・ナマハ・シヴァーヤ」

目次

はじめに:シヴァ神と「五字の真言」

ヒンドゥー教にはさまざまな神格が崇拝されていますが、その中でもシヴァ神は「創造・維持・破壊」という宇宙の根源的な働きを司る重要な存在です。とりわけ、南インドを中心とするシヴァ派(シャイヴァ教)では、シヴァ神が万物の根源でありながら、同時に最も身近な守り神でもあると考えられています。そのシヴァ神を讃えるマントラが「ॐ नमः शिवाय(オーム・ナマハ・シヴァーヤ)」、通称「シヴァ・パンチャークシャラ・マントラ」です。

このマントラは「ナ・マ・シ・ヴァ・ヤ(न・मः・शि・वा・य)」という5つの音節から成っており(冒頭の「ॐ」は聖音として別格に扱われることが多い)、古来より「五字の真言」「五音のマントラ」として特別な尊崇を受けてきました。ナ(na)・マ(ma)・シ(śi)・ヴァ(va)・ヤ(ya)のそれぞれに、五大元素やシヴァ神の五つの面(働き)、あるいは私たちの身体内にあるチャクラなど、さまざまな象徴的意味が込められています。さらに深めていけば、「五字がそのままシヴァ神の御身体そのものを表している」とまで説かれているのです。

本記事ではまず、このマントラの基本的な意味と意義を確認し、その後、瞑想やクンダリニー覚醒との関係、歴史上の聖者・グルの証言、そして伝統的な聖典における記述などを概観してみたいと思います。皆さまが「ॐ नमः शिवाय」の響きを味わい、その背後にある深遠な教えを感じ取っていただければ幸いです。


1. マントラの基本的な意味と意義

1-1. 分解と直訳

「ॐ नमः शिवाय(オーム・ナマハ・シヴァーヤ)」はサンスクリット語として分解すると、

  • ॐ(オーム)
    ヒンドゥー教やインド哲学において“宇宙の根源的振動”を表す聖音。「オーム」という音そのものが究極的な真理を含むとされる。

  • नमः(ナマハ)
    「礼拝する」「帰依する」「明け渡す」という意味を持つ語。直訳すれば「私(のエゴ)を捨て、あなたにひれ伏します」というニュアンス。

  • शिवाय(シヴァーヤ)
    シヴァ神への呼格(与格)形。「シヴァ神に対して」「シヴァ神へ」といった意味。

全体としては「私はシヴァ神に帰依いたします」「シヴァ神を礼拝いたします」という短い祈りの文言になります。単純に敬虔な信徒が「シヴァ神にお仕えします」と述べている、というわけです。

1-2. 五つの音節「ナ・マ・シ・ヴァ・ヤ」

では、なぜこのマントラが「パンチャークシャラ(五字の真言)」と呼ばれるほど特別な位置づけなのでしょうか。それは、「ナ・マ・シ・ヴァ・ヤ」という五つの音が、シヴァ派において宇宙や人間存在そのものを象徴するとされているからです。

  • ナ(na)
  • マ(ma)
  • シ(śi)
  • ヴァ(va)
  • ヤ(ya)

この5音に、五大元素(地・水・火・風・空)の働きが凝縮されるという伝統的教えがあります。たとえば「ナ」は地、「マ」は水、「シ」は火、「ヴァ」は風、「ヤ」は空を表すとされ、シヴァ神が万物の根源であることを示しているのです。南インドのシッダやシャイヴァ・シッダーンタでは、五字それぞれを神の働きと人間側の魂(アートマン)や世界の現象(プラクリティ)に対応づける見解も示されており、実に多面的な象徴が秘められています。

1-3. 古代から続く権威あるマントラ

「ॐ नमः शिवाय」の起源は『ヤジュル・ヴェーダ』のシヴァ讃歌「シュリー・ルドラム」にまで遡ります。そこには「नमः शिवाय च शिवतराय च(ナマハ・シヴァーヤ・チャ・シヴァタラーヤ・チャ)」という有名な一節があり、明確に「シヴァに礼拝を」と唱えられています。ヴェーダ時代から既にシヴァ神を讃える根本マントラとして機能していたわけです。

後のウパニシャッドやプラーナ文献でも「五字のマントラ」が格別に崇拝され、「この五音(パンチャークシャラ)こそヴェーダ全体を要約した真言である」といった賛嘆が数多く見られます。ゆえに、ヒンドゥー教全般においても権威が高く、シヴァ派の枠を超えて多くの人々に唱えられてきました。


2. 五字の深い霊的内涵:瞑想とクンダリニーとの関係

2-1. マントラの反復唱念(ジャパ)がもたらす心の浄化

「ॐ नमः शिवाय」を唱える最も一般的な方法は、声に出して繰り返すジャパ(反復唱念)です。これは単に祈りの言葉を口にしているようでいて、実際には音の力によって意識を一点に集中させ、心を清める役割を果たします。

近代インドの聖者ラマナ・マハルシは、自らは「私は誰か」という自己探求法を勧める一方で、「神名のジャパは心(チッタ)の浄化に非常に効果的である」とも説きました。音声による唱念が習熟してくると、やがては内なる静かな唱念(無声のジャパ)へと移り、それが深い瞑想状態(ディヤーナ)を促すというのです。最終的にはマントラの響きさえも意識の源に溶け込み、純粋な沈黙の中で「真我」を悟る境地に至ります。

したがって、初学者にとっては「外面的に声を出して繰り返すこと」こそが第一ステップであり、日々の習慣として続けることで雑念が減り、心の集中力が増し、精神的安定を感じられるようになると伝えられています。

2-2. 五音によるチャクラ活性とクンダリニー覚醒

シヴァ派ヨーガやタントラ的な解釈では、この五字のマントラは体内の主要チャクラ(ムーラーダーラからヴィシュッディまで)を浄化・覚醒させるとも言われます。

  • 「ナ」は第一チャクラ(ムーラーダーラ)に対応し、地の元素を洗練する
  • 「マ」は第二チャクラ(スヴァーディシュターナ)に対応し、水の元素を清める
  • 「シ」は第三チャクラ(マニプーラ)に対応し、火の元素を輝かす
  • 「ヴァ」は第四チャクラ(アナーハタ)に対応し、風(プラーナ)の流れを整える
  • 「ヤ」は第五チャクラ(ヴィシュッディ)に対応し、空(エーテル)の要素を活性化する

さらに冒頭の「ॐ」は第六チャクラ(アージュニャー、いわゆる“第三の眼”)に共鳴し、全体のエネルギーを統合する働きがあると説かれることもあります。これらを総合すると、ジャパを行うことで五大元素が順次浄化され、クンダリニー(会陰部に潜む霊的エネルギー)の上昇がスムーズになり、やがては高次意識を獲得し得る、と古来からのヨーガ行者たちは主張してきました。

もちろん、これは各流派やグルによって細かな解釈が異なる領域ではありますが、少なくとも「音の振動によって微細身(プラーナ・身体)を整え、深い瞑想や悟りに導く」という観点は、多くのヨーガ行者や霊的指導者が共有していると言えます。

2-3. アドヴァイタ哲学との融合:不二一元論としての「ナマハ・シヴァーヤ」

さらに興味深いのは、あくまで“神への礼拝”という形を保ちながら、不二一元論(アドヴァイタ・ヴェーダーンタ)的な悟りの教えへつながる解釈も可能だという点です。アドヴァイタの立場から見ると、「シヴァ」とは外的な人格神ではなく、宇宙の唯一絶対の実在(ブラフマン)を象徴し、同時に私たちの内奥にある真我(アートマン)そのものだ、と考えます。

  • ナマハ(namah)
    「私のものではない」「私ではない」という語根的含意があり、これは自我(エゴ)の放棄を象徴する
  • シヴァーヤ(śivāya)
    宇宙の根源的実在(ブラフマン)または真我(アートマン)を指す

つまりマントラ全体としては「私(個我)を明け渡し、本来の真我(シヴァ、ブラフマン)に帰します」という宣言になり得るのです。したがって、単なる信仰にとどまらず「自他の区別を超えた不二の悟り」を示す言葉として捉えることもできるでしょう。


3. 歴史上の聖者たちによる証言と解釈

3-1. 南インドのシヴァ派聖者たち:ティルムーラル、ナーヤンマール

南インド・タミル語圏には、シヴァ派の大聖者たちが数多く現れ、彼らは「五字(パンチャークシャラ)こそシヴァ神の精髄」と繰り返し説きました。聖者ティルムーラルは『ティルマンディラム』という重要なタミル語聖典を著し、そのなかで、

「シヴァ神の御足はナ(na)に対応し、御臍はマ(ma)、両肩はシ(śi)、御口はヴァ(va)、光り輝く御頭はヤ(ya)である」

と示しています。ここでは五字がシヴァ神の身体各部に対応し、マントラと神格が完全に重なり合っていることが強調されているのです。またナーヤンマールと呼ばれるタミルのシヴァ派聖者集団は、この五字を何百何千回も唱える修行を奨励し、「五音にすべての恩寵が含まれている」と謳いました。

3-2. アーディ・シャンカラ:不二一元論者による「シヴァ・パンチャークシャラ・ストートラム」

不二一元論(アドヴァイタ)を大成したアーディ・シャンカラ(8世紀頃)は、哲学者であるだけでなく篤いシヴァの崇拝者でもありました。彼の作と伝えられる「シヴァ・パンチャークシャラ・ストートラム」(シヴァ五字礼賛歌)は、シヴァ神への帰依を表す五つの聖なる音節—「ナ・マ・シ・ヴァ・ヤ」—を一つずつ讃える五節からなる賛歌です。

各節は以下のように構成されています:

  1. 第1節:「ナ」の音を讃え、「タスマイ ナ カーラーヤ ナマハ シヴァーヤ」(その「ナ」という音に礼拝を、シヴァに礼拝を)で締めくくられます
  2. 第2節:「マ」の音を讃え、「タスマイ マ カーラーヤ ナマハ シヴァーヤ」で締めくくられます
  3. 第3節:「シ」の音を讃え、「タスマイ シ カーラーヤ ナマハ シヴァーヤ」で締めくくられます
  4. 第4節:「ヴァ」の音を讃え、「タスマイ ヴァ カーラーヤ ナマハ シヴァーヤ」で締めくくられます
  5. 第5節:「ヤ」の音を讃え、「タスマイ ヤ カーラーヤ ナマハ シヴァーヤ」で締めくくられます

このように、各節は讃える音節が変化するものの、同じ形式のリフレイン(繰り返し)で終わる優美な構造となっています。ここでの「カーラーヤ」とは「〜という音に対して」という意味を表し、各音節への深い崇敬の念が込められています。

シャンカラはこの賛歌の中で、それぞれの音が持つ聖なる特質を称揚しつつ、最後に「… ナマハ シヴァーヤ」と締めくくる構成をとっています。ここでも五字がシヴァ神のあらゆる面を象徴し、それを賛嘆する行為が真理への帰依と悟りを両立させる道であることが強調されています。

3-3. ラマナ・マハルシ:自己探求とマントラ修行の結合

近現代の聖者ラマナ・マハルシ(1879–1950)は「私は誰か」という自己探求メソッドで有名ですが、弟子たちから「マントラを唱えてもよいでしょうか」と問われると、「もちろん、ジャパは心の浄化に大いに役立つ」と勧めました。彼の語るところによれば、神の名(例えば「オーム・ナマハ・シヴァーヤ」など)を絶えず唱えていれば、思考の奔流が静まり、やがては深い瞑想に入ることができる。そうして心が単一に集中すれば、自ずと最終的には自己探求と同じ地点、すなわち「真我」へ至るというのです。

ラマナの教えは一見すると純粋に内観的・哲学的ですが、実践面ではマントラ唱念という奉愛(バクティ)的アプローチも認めていたことが、後世の弟子らの記録に残っています。

3-4. 近・現代のスピリチュアル・グル:ムクターナンダ、サドグル、シュリ・シュリ・ラヴィ・シャンカール

スワミ・ムクターナンダ

シッダ・ヨーガを提唱したスワミ・ムクターナンダ(1908–1982)は、自らが師から授かった「オーム・ナマハ・シヴァーヤ」を“マントラの王者”と呼び、生涯を通じて弟子たちに唱和を勧め続けました。彼の道場では毎朝夕にこのマントラを108回以上唱える集団ジャパが行われ、そこから多くの弟子がクンダリニー覚醒や深い内的変容を体験したと報告されています。

サドグル(ジャッギー・ヴァスデーヴ)

現代インドの著名なヨーガ指導者サドグル(Isha財団創始者)も、「ヨーガの文化における基本中の基本は“オーム ナマハ シヴァーヤ”である」と明言しています。五音の持つ力は計り知れず、正しい方法でジャパを続ければカルマの澱(おり)を解消し、高次の覚醒に近づくと説き、実際、世界各地の門弟たちにこのマントラを唱えるワークショップを提供しています。

シュリ・シュリ・ラヴィ・シャンカール

「アート・オブ・リビング」創始者のシュリ・シュリ・ラヴィ・シャンカールも、この五字マントラとチャクラの対応、五大元素の浄化をよく解説しています。初心者向けにもシンプルに唱える方法を勧め、「五音を丁寧に発声しながら各チャクラに意識を向けると、身体と心に自然な調和が生まれ、神聖な平安を得られる」と述べています。


4. ヒンドゥー教聖典での言及

4-1. ヴェーダ・ウパニシャッド

前述したように『ヤジュル・ヴェーダ』の「シュリー・ルドラム」において「ナマハ・シヴァーヤ」が確立されています。またウパニシャッド群(奥義書)の中でも、シヴァへの唱名が極めて大きな霊的価値を持つことが説かれています。たとえば『ジャーバーラ・ウパニシャッド』では、シュリー・ルドラム(シヴァ讃歌)を繰り返し唱えることが不死への道だと述べ、『カイヴァリヤ・ウパニシャッド』でも同様にシヴァへの真言唱和が罪業の消滅や解脱につながると説かれています。

4-2. プラーナ文献

『シヴァ・プラーナ』などのプラーナ文献でも「五字のマントラ」が最重要視されています。そこでは、

「ナマハ・シヴァーヤは、五大元素を含み、ॐ と同義の究極音である。これを唱える者はシヴァ神と一体になり、一切の望みが成就する」

という趣旨の賛辞が見られます。また『リンガ・プラーナ』や『スカンダ・プラーナ』など、シヴァ神に焦点を当てるプラーナ群にも同様の記述が散見されます。

4-3. タミル語聖典『ティルマンディラム』

南インド・タミル語圏のシヴァ派聖典として特に重要なのが『ティルマンディラム』です。ここで繰り返し述べられるのは、「五つの音(ナ・マ・シ・ヴァ・ヤ)はシヴァ神そのものの身体であり、それを唱える者は神聖な御身体の中に自らを浸すことになる」という考え方です。五字は神を呼び起こす手段であると同時に、神と合一する象徴でもあるのです。


5. 実践の功徳と日常への取り入れ方

5-1. マントラを唱える功徳

ヒンドゥー伝統において、神名やマントラを唱えることを「ジャパ」と呼び、数えきれないほどの功徳(メリット)が説かれています。

  • 浄化作用: 業(カルマ)や罪業が焼き尽くされ、魂が軽くなる
  • 内面の安定: 雑念や不安が減り、深い平安と集中力を得る
  • 覚醒への導き: クンダリニーや霊的エネルギーが活性化し、高次意識へ至る可能性
  • シヴァ神の恩寵: 五音の力によって、守護・導きが得られると信じられる

タミルの聖句には「シ(śi)とヴァ(va)を口にするだけでも罪が滅びる」と述べるものすらあります。それほどまでに「シヴァ」という音自体が神聖な力を宿すと考えられているのです。

5-2. 日常における簡単な実践法

多くのシヴァ派の教えでは、毎朝の沐浴や礼拝(プージャー)の後に「オーム・ナマハ・シヴァーヤ」を108回唱えることが推奨されています。108という数字は宇宙論的にも神聖視され、インドの伝統でマントラの反復回数としてよく使われるものです。

実践の際には下記のようなステップを参考にするとよいでしょう。

  1. 静かな場所で座る
    可能であれば早朝や夜の落ち着いた時間を選ぶ。

  2. 姿勢を整え、軽く目を閉じる
    背筋を伸ばして呼吸をゆったりと整える。

  3. オーム・ナマハ・シヴァーヤを唱え始める
    マーラー(数珠)を持つ場合は、一音ずつ数珠を繰りながら唱えると集中しやすい。

  4. 呼吸とマントラを同調させる
    息を吸いながら「オーム」、吐きながら「ナマハ・シヴァーヤ」など、自分がしっくりくるペースで行う。

  5. 音と振動を心身に浸透させる
    単なる言葉の反復にとどまらず、五音が身体に響き、チャクラを開くイメージを持つ。

  6. 最後に静寂の余韻を味わう
    指定回数(108回など)を終えたら、マントラの音が消え入る静寂をしばらく感じる。

日々の忙しい生活の中でも、朝夕わずか数分から始められます。大切なのは、形式よりも継続と敬虔な気持ちだと言われます。

5-3. 祭礼「マハー・シヴァラートリ」の徹夜礼拝

毎年ヒンドゥー暦で特定の日に行われる「マハー・シヴァラートリ」(大シヴァ祭)は、シヴァ神への最大のお祭りとして知られています。この日(夜)には多くの寺院や家庭で徹夜の礼拝が捧げられ、「オーム・ナマハ・シヴァーヤ」の大合唱が行われます。参加者は断食や断眠を行いながら聖水をリンガ(シヴァ神の象徴)に捧げつつ何度もマントラを唱え、夜明けを迎えます。南インドでは特に盛大で、街中がこのマントラの響きに満たされるほどです。


6. 歴史的・社会的影響と現代における普遍性

「シヴァ・パンチャークシャラ・マントラ」は何千年にもわたり唱えられ続け、インド社会全体にも深い影響を与えてきました。南インドの王朝は寺院でのマントラ詠唱を保護し、中世の詩聖や宗教改革者たちはこの五字を庶民に広めてきました。17世紀のマラーター王シヴァージーの名(Shivaji)も、「シヴァ神に属する者」という意味を帯びています。

現代では、ヒンドゥー教徒に限らず世界中のヨーガ行者が「オーム・ナマハ・シヴァーヤ」を学び、実践しています。宗教色というよりは、「宇宙全体と自分自身が根源的に一つである」というスピリチュアルな感覚を得るための普遍的なツールとして、広く受け入れられている印象です。国境や文化の垣根を超えて、マントラの響きが人々の内面を豊かにしているという点は、まさにこの五字の深遠さと万能性を証明していると言えるでしょう。


まとめ:五字がもたらす「一体性」と「浄化」の道

最後に、「ॐ नमः शिवाय(オーム・ナマハ・シヴァーヤ)」というマントラの核心を要約してみましょう。

  1. 意味と由来

    • 「私はシヴァ神に帰依(礼拝)します」という敬虔な言葉
    • 五文字(ナ・マ・シ・ヴァ・ヤ)に宇宙の五大元素や神の五つの働きが凝縮されている
    • ヴェーダやウパニシャッド、プラーナなど古代聖典にも源流があり、長い歴史を通じて最高位のマントラとして崇められる
  2. 霊的意義

    • ジャパ(反復唱念)により心が集中・浄化され、瞑想が深まる
    • 五音が体内のチャクラを浄化し、クンダリニー上昇を助けるとされる
    • アドヴァイタ的には「個我を捧げ、真我(シヴァ=ブラフマン)との合一をめざす」という悟りのマントラでもある
  3. 歴史上の聖者たち

    • ティルムーラルやナーヤンマールなど南インドのシヴァ派聖者が五字を絶賛
    • アーディ・シャンカラも「シヴァ・パンチャークシャラ・ストートラム」を著し、信仰と哲学を兼ね備えた賛美を行う
    • ラマナ・マハルシやムクターナンダ、サドグルなど近現代の聖者・グルもその実践効果を証言
  4. 実践と功徳

    • 朝夕や礼拝時に108回など、決めた回数を落ち着いて唱える
    • シヴァラートリーなどの祭礼で大合唱すると、強い霊的波動を得られると信じられている
    • 日々の継続的なマントラ唱念が、浄化・集中・内的平安・悟りへの道を拓く

このマントラの本質は、「神への礼拝」という形を取りながら、私たちが宇宙(ブラフマン)と本来一体であることを実感し、エゴの垣根を溶かしていくプロセスにあると言えます。シヴァ神はしばしば「荘厳なる破壊神」として恐れられるイメージを持つかもしれませんが、実際にはすべてを受容し、あらゆる存在を純粋な意識へと導く慈悲深い存在として捉えられています。そして「ॐ नमः शिवाय」は、そうしたシヴァ神の恩寵と一体となるための極めて力強い橋渡しなのです。

もし皆さまが日々の生活に少しでも精神的な落ち着きや深い平安を求めておられるなら、ぜひ一度、「オーム・ナマハ・シヴァーヤ」のマントラを静かに繰り返し唱えてみてください。意味を意識しながらゆっくりと発声し、その響きが心身に満ちてくるのを感じるだけでも、さまざまな雑念やストレスから離れ、「今ここ」に集中する感覚を得られることでしょう。

そして、マントラをさらに深く味わい続けるならば、いずれ私たちが神聖なる存在と切り離されていないことを、理屈や思考を超えた次元で実感できるかもしれません。五字に含まれるエネルギーは、その境地へと私たちを誘う羅針盤のようなものです。長い歴史のなかで、数えきれないほどの人々がこのマントラに支えられ、励まされ、悟りの高みに至ったという伝承が残っているのは、決して偶然ではないでしょう。


終わりに

ヒンドゥー教やサンスクリットの伝統を詳しく知らなくても、「ॐ नमः शिवाय」という5つの音は、私たちの内なる平安を呼び覚ます一種の“サウンドテラピー”としても機能します。特定の宗派や信仰体系にこだわる必要はありません。大切なのは、素直な気持ちでマントラを唱え、その振動を身体と心で感じるという姿勢です。

このシヴァ・パンチャークシャラ・マントラには、「個我を超えて宇宙と一体になる」という非常に壮大な哲学的・霊的ビジョンが潜んでいます。そして同時に、「たとえ一瞬でも心が安らぎ、素朴な信頼感に包まれる」という日常的な安寧の感覚を与えてくれる懐の深さも持ち合わせています。言い換えれば、“偉大なる超越”と“ごく身近な癒やし”を同時に備えているのが、この不思議な五字の真言の大きな魅力なのです。

願わくばこの記事が、読者の皆さまが「オーム・ナマハ・シヴァーヤ」の響きを味わい、その背後に広がる深遠な伝統と結びつきを少しでも感じ取るきっかけになれば幸いです。もし心惹かれるなら、どうぞ今日からご自身のペースで唱え始めてみてください。シヴァ神への帰依という形を取りながら、いつしか自分自身の内に眠る“神聖さ”を発見することになるかもしれません。

どうぞ、静かで力強いこの五音のマントラが、あなたの人生に優しい変容と光をもたらしてくれますように。

ॐ नमः शिवाय

コメント

この記事へのコメントはありません。

CAPTCHA


RANKING

DAILY
WEEKLY
MONTHLY
  1. 1
  2. 2
  3. 3
  1. 1
  2. 2
  3. 3
  1. 1
  2. 2
  3. 3

CATEGORY

RECOMMEND

RELATED

PAGE TOP