スピリチュアルインド雑貨SitaRama

ガーヤトリー・マントラ

ガーヤトリーの奥義:至高のマントラに秘められた宇宙の智慧 —『ガーヤトリー・ラハスヨーパニシャッド』解説

ガーヤトリー・ラハスヨーパニシャッドへようこそ:深遠なるマントラの奥義を探る

ヒンドゥー教の広大な霊的伝統において、ガーヤトリー・マントラ (गायत्री मन्त्र, gāyatrī mantra) は、夜明けの太陽のように、無数の探求者たちの心を照らし続けてきました。ヴェーダの最も古層、リグ・ヴェーダにその源を発し、生命の根源であり知性を啓発する太陽神サヴィトリ (सविता, savitā) への祈りとして生まれたこのマントラは、単なる音節の連なりを超え、宇宙の根源的な響き、すなわちシャブダ・ブラフマン (शब्दब्रह्मन्, śabdabrahman) そのものと見なされています。通過儀礼 (उपनयन, upanayana) において授けられ、日々の礼拝 (सन्ध्यावन्दन, sandhyāvandana) で唱えられるこの聖句は、自己と宇宙を結びつけ、内なる光を目覚めさせるための鍵とされてきました。

本書が深く探求する『ガーヤトリー・ラハスヨーパニシャッド (गायत्रीरहस्योपनिषत्, gāyatrīrahasyopaniṣat)』は、この至高のマントラに秘められた「ラハスヤ (रहस्य, rahasya)」—すなわち表面的な意味を超えた「奥義」—を解き明かすウパニシャッド文献です。「ウパニシャッド (उपनिषत्, upaniṣat)」とは、師の足元に座し(upa-ni-sad)、密やかに授けられるヴェーダーンタ(वेदान्त, vedānta、「ヴェーダの終極」)の智慧を意味します。後期ウパニシャッドの一つに数えられる本書は、ガーヤトリー・マントラの一音一音、一句一句に込められた宇宙論的、神学的、そして霊的な深遠なる意味を体系的に紐解き、その実践がもたらす変容の力に光を当てます。

この解説記事は、『ガーヤトリー・ラハスヨーパニシャッド』という智慧の海への羅針盤となることを目指します。ガーヤトリーという聖なる音の船に乗り、創造の神秘、神々の本質、宇宙の構造、そして自己の内なる深淵へと至る旅へと、皆様をご案内いたしましょう。このマントラが、なぜ「ヴェーダの母」と讃えられ、無数の聖賢たちによって尊重されてきたのか。その秘密の扉を、共に開いてまいりましょう。本書を通じて、ガーヤトリー・マントラの詠唱と瞑想が、単なる儀式ではなく、宇宙的真理と自己の本質を悟るための、力強いヨーガの実践となることを感じていただければ幸いです。

表題

॥ गायत्रीरहस्योपनिषत् ॥
|| gāyatrīrahasyopaniṣat ||
ガーヤトリー奥義ウパニシャッド

逐語訳:

  • ॥ ... ॥ (|| ... ||) - 吉祥句やテキストの区切りを示す伝統的な記号です。
  • गायत्री (gāyatrī) - ガーヤトリー。ヴェーダで最も著名な聖なる詩節(マントラ)の名であり、また、それを人格化した女神の名でもあります。
  • रहस्य (rahasya) - 秘密、奥義、深遠な教え、神秘。単に隠された事柄ではなく、内的な理解や霊的体験を通じてのみ把握される深遠な真理を指します。
  • उपनिषत् (upaniṣat) - ウパニシャッド。「近くに座る」を語源とし、師から弟子へと密やかに伝えられるヴェーダの終極にある哲学的・霊的教えを収めた聖典群です。

解説:
この「ガーヤトリー奥義ウパニシャッド(गायत्रीरहस्योपनिषत्, gāyatrīrahasyopaniṣat)」は、ヒンドゥー教の霊的伝統において、太陽のように輝く至高のマントラと讃えられるガーヤトリー(गायत्री, gāyatrī)の深遠なる意味と、その実践に秘められた力を解き明かすウパニシャッド文献です。

ガーヤトリー・マントラは、古代インドの叡智の結晶であるヴェーダ聖典群の中でも、最も古層に属するリグ・ヴェーダ(ऋग्वेद, ṛgveda, 3.62.10)にその起源を持ちます。元来は、生命の源であり、私たちの知性を啓発する太陽神サヴィトリ(सविता, savitā)へ捧げられた祈りの詩節でした。「ガーヤトリー」という名は、この詩節が持つ特有の韻律、すなわち24の音節が8音節ずつ3行に整えられた「ガーヤトリー韻律」に由来します。このマントラは、古来より、特に上位三階級(バラモン、クシャトリヤ、ヴァイシャ)の人々が、師から弟子へと受け継ぐ通過儀礼(उपनयन, upanayana)において授けられ、生涯を通じて日の出、正午、日没に行う礼拝(सन्ध्यावन्दन, sandhyāvandana)の中心的な要素として唱えられてきました。それは単なる祈りの言葉ではなく、宇宙の根源的な力と自己を結びつけ、内なる光を目覚めさせるための聖なる音(शब्दब्रह्मन्, śabdabrahman - シャブダ・ブラフマン)と見なされています。

タイトルに含まれる「रहस्य (rahasya)」という言葉は、単なる「秘密」以上の深い意味合いを持ちます。これは、表面的な文字面だけの理解を超えた、内的な洞察や霊的な体験を通してのみ把握される「奥義」や「深遠な教え」を指し示します。しばしば、師から選ばれた弟子へと直接、口伝によって伝えられるべき秘儀的な知識や実践法を意味し、ガーヤトリー・マントラに込められた宇宙論的、神学的、そして霊的な真髄が、このウパニシャッドにおいて「ラハスヤ」として開示されます。

「उपनिषत् (upaniṣat)」は、その語源「upa(近くに)+ ni(下に)+ sad(座る)」が示すように、師の足元に恭しく座り、直接教えを受けるという、古代インドの霊知伝達の理想的な姿を象徴しています。ウパニシャッド文献群は、ヴェーダ(वेद, veda)の知識体系の最終部分(वेदान्त, vedānta - ヴェーダーンタ、「ヴェーダの終極」または「ヴェーダの精髄」)を形成し、宇宙の根本原理であるブラフマン(ब्रह्मन्, brahman)と、個々の存在の内なる本質であるアートマン(आत्मन्, ātman)の同一性(महावाक्य, mahāvākya - マハーヴァーキヤ、「大いなる言葉」)を探求する、深遠な哲学的・神秘的思索の宝庫です。これらは、インド哲学の源流であり、後の多くの思想体系に絶大な影響を与えました。

この「ガーヤトリー奥義ウパニシャッド」は、歴史的には主要な古ウパニシャッド群の後に成立した、いわゆる後期ウパニシャッドの一つに分類されます。後期ウパニシャッドは、しばしば特定の神格(देवता, devatā - デーヴァター)、ヨーガ(योग, yoga)の実践、あるいは特定の聖句(मन्त्र, mantra - マントラ)に焦点を当て、その専門的な探求を深める傾向があります。本文献は、まさにガーヤトリー・マントラを主題とし、その一音一音、一句一句に込められた宇宙的な意味、対応する神々、瞑想の対象、そしてマントラ誦唱がもたらす精神的・霊的な恩恵について、詳細かつ体系的に解説しています。読者をガーヤトリーという聖なる音の舟に乗せ、存在の根源へと至る智慧の海へと誘うことを目指す、実践的な霊性の書と言えるでしょう。

第1節

ॐ स्वस्ति सिद्धम् । ॐ नमो ब्रह्मणे ।
ॐ नमस्कृत्य याज्ञवल्क्य ऋषिः
स्वयंभुवं परिपृच्छति ।
हे ब्रह्मन् गायत्र्या उत्पत्तिः श्रोतुमिच्छामि ।
अथातो वसिष्ठः स्वयंभुवं परिपृच्छति ।
यो ब्रह्मा स ब्रह्मोवाच ।
ब्रह्मज्ञानोत्पत्तेः प्रकृतिं व्याख्यास्यामः ।
को नाम स्वयंभू पुरुष इति । ॥ 1 ॥
oṃ svasti siddham | oṃ namo brahmaṇe |
oṃ namaskṛtya yājñavalkya ṛṣiḥ svayaṃbhuvaṃ paripṛcchati |
he brahman gāyatryā utpattiḥ śrotumicchāmi |
athāto vasiṣṭhaḥ svayaṃbhuvaṃ paripṛcchati |
yo brahmā sa brahmovāca |
brahmajñānotpatteḥ prakṛtiṃ vyākhyāsyāmaḥ |
ko nāma svayaṃbhū puruṣa iti || 1 ||
オーム、吉祥あれ、成就あれ。オーム、至高なるブラフマンに帰命する。
オームと唱え、敬虔なる礼を捧げた後、聖仙(リシ)ヤージュニャヴァルキヤは、自ずから存在する御方(スヴァヤンブー)に問いかけた。
「おお、ブラフマンよ。私はガーヤトリー(聖なる賛歌)の起源について、ぜひとも聞きたい。」
そして今、ヴァシシュタもまた、かの自ずから存在する御方に問いかける。
かのブラフマー(創造神)は、答えた。
「我々は、ブラフマンに関する叡智(ブラフマ・ジュニャーナ)が生じる、その根源たる本性(プラクリティ)について、これから説き明かす。
実に、かの自ずから存在する霊妙なる存在(スヴァヤンブー・プルシャ)とは、いかなる御方なのか。」

逐語訳:

  • ॐ (oṃ) - オーム(聖音)
  • स्वस्ति (svasti) - 吉祥、安寧、繁栄
  • सिद्धम् (siddham) - 成就された、完成した、確立された
  • नमो (namo) - 帰命(敬礼)
  • ब्रह्मणे (brahmaṇe) - ブラフマンに(至高の実在へ、与格)
  • नमस्कृत्य (namaskṛtya) - 敬礼して、礼拝の後(完了分詞、先行行為を示す)
  • याज्ञवल्क्य (yājñavalkya) - ヤージュニャヴァルキヤ(聖仙の名)
  • ऋषिः (ṛṣiḥ) - 聖仙、リシ(叡智ある者、主格)
  • स्वयंभुवं (svayaṃbhuvaṃ) - 自ら存在する御方を(自存者、対格)
  • परिपृच्छति (paripṛcchati) - 周到に尋ねる、問い質す(現在三人称単数)
  • हे (he) - おお(呼びかけ)
  • ब्रह्मन् (brahman) - ブラフマン(呼格)
  • गायत्र्याः (gāyatryāḥ) - ガーヤトリーの(属格)
  • उत्पत्तिः (utpattiḥ) - 発生、起源、誕生(主格)
  • श्रोतुम् (śrotum) - 聞くことを(不定詞、目的)
  • इच्छामि (icchāmi) - 私は欲する、願う(現在一人称単数)
  • अथातो (athāto) - そして今、さて次に
  • वसिष्ठः (vasiṣṭhaḥ) - ヴァシシュタ(聖仙の名、主格)
  • यो (yaḥ) - ~であるところの(関係代名詞、主格)
  • ब्रह्मा (brahmā) - ブラフマー(創造神、男性名詞、主格)
  • सः (saḥ) - かの、その(指示代名詞、主格)
  • उवाच (uvāca) - 語った、述べた(完了三人称単数)
  • ब्रह्मज्ञान (brahmajñāna) - ブラフマンの知識、神聖なる叡智
  • उत्पत्तेः (utpatteḥ) - 発生の、起源の(属格)
  • प्रकृतिं (prakṛtiṃ) - 根源、本性、原質(対格)
  • व्याख्यास्यामः (vyākhyāsyāmaḥ) - 我々は解説するであろう(未来一人称複数)
  • कः (kaḥ) - 誰が、何が(疑問代名詞、主格)
  • नाम (nāma) - まさに、実に(強調の副詞)
  • स्वयंभू (svayaṃbhū) - 自ら存在する
  • पुरुषः (puruṣaḥ) - 人、霊、原人、至高存在(主格)
  • इति (iti) - ~と(引用の終わりを示す)

解説:
このウパニシャッドは、聖なる音「ॐ (oṃ)」と吉祥成就を祈る言葉で厳かに始まります。オームは宇宙の根源的な響きであり、あらゆるマントラの源とされ、これに続く教えが深遠な真理であることを示唆しています。続く「ब्रह्मणे नमः (brahmaṇe namaḥ)」は、万物の根源であり究極の実在であるブラフマン(ब्रह्मन्, brahman)への深い敬意と帰依を表します。

物語は、古代インドの霊的伝統において最も尊敬される二人の聖仙(ऋषि, ṛṣi)、ヤージュニャヴァルキヤ(याज्ञवल्क्य, yājñavalkya)とヴァシシュタ(वसिष्ठ, vasiṣṭha)が、知識を求めて問いを発する場面から展開します。ヤージュニャヴァルキヤは、特に『ブリハッド・アーラニヤカ・ウパニシャッド』において、その深遠な哲学的洞察で知られる聖仙です。ヴァシシュタは、リグ・ヴェーダにもその名を残す、伝説的な七聖仙(सप्तर्षि, saptarṣi)の一人です。彼らのような偉大な探求者が問いを発するという形式は、これから語られる内容が極めて重要で価値あるものであることを示しています。

彼らが問いかける相手は「स्वयंभू (svayaṃbhū)」、すなわち「自ら存在する御方」と呼ばれています。これは、誰によっても創られたのではなく、自らの力によって存在する根源的な存在を指し、文脈上、創造神ブラフマー(ब्रह्मा, brahmā)を指していると考えられます。しかし、ウパニシャッド哲学の観点からは、人格神ブラフマーの背後にある、非人格的で絶対的な実在、ブラフマンをも含意していると解釈できます。

ヤージュニャヴァルキヤの問いは明確です。「ガーヤトリー(गायत्री, gāyatrī)の起源(उत्पत्तिः, utpattiḥ)を知りたい」。ガーヤトリーは、前節で述べたように、単なるマントラや韻律ではなく、宇宙の創造力や霊的覚醒に関わる神聖な力そのものとして捉えられています。その起源を問うことは、存在の根源に迫る問いかけに他なりません。

ヴァシシュタも同様に問いを発し、それに応えるのはブラフマー自身です。ブラフマーは、「ブラフマンに関する叡智(ब्रह्मज्ञान, brahmajñāna)」、すなわち究極の真理についての知識が、どのようにして生じるのか、その「根源たる本性(प्रकृति, prakṛti)」を解き明かすと宣言します。ここで用いられる「プラクリティ」は、通常、サーンキヤ哲学などで物質世界の根源原理を指しますが、ここではより広く、物事の起源や本質という意味で使われています。

そして、節の最後は、「実に、かの自ずから存在する霊妙なる存在(स्वयंभू पुरुष, svayaṃbhū puruṣa)とは、いかなる御方なのでしょうか」という、核心的な問いで締めくくられます。「プルシャ(पुरुष, puruṣa)」は、霊的な原理、意識、あるいは宇宙の原人を意味する重要な概念です。この問いは、宇宙創造の神秘と、その背後にある意識的存在の本質を探求する旅への序章となります。このウパニシャッドは、ガーヤトリー・マントラという具体的な対象を通して、存在の究極的な謎へと読者を導いていくのです。

第2節

तेनाङ्गुलीमथ्यमानात् सलिलमभवत् ।
सलिलात् फेनमभवत् । फेनाद्बुद्बुदमभवत् ।
बुद्बुदादण्डमभवत् । अण्डाद्ब्रह्माभवत् ।
ब्रह्मणो वायुरभवत् । वायोरग्निरभवत् ।
अग्नेरोङ्कारोऽभवत् । ओङ्काराद्व्याहृतिरभवत् ।
व्याहृत्या गायत्र्यभवत् । गायत्र्या सावित्र्यभवत् ।
सावित्र्या सरस्वत्यभवत् । सरस्वत्या सर्वे वेदा अभवन् ।
सर्वेभ्यो वेदेभ्यः सर्वे लोका अभवन् ।
सर्वेभ्यो लोकेभ्यः सर्वे प्राणिनोऽभवन् । ॥ 2 ॥
tenāṅgulīmathyamānāt salilam abhavat |
salilāt phenam abhavat | phenād budbudam abhavat |
budbudād aṇḍam abhavat | aṇḍād brahmābhavat |
brahmaṇo vāyur abhavat | vāyor agnir abhavat |
agner oṅkāro'bhavat | oṅkārād vyāhṛtir abhavat |
vyāhṛtyā gāyatry abhavat | gāyatryā sāvitry abhavat |
sāvitryā sarasvaty abhavat | sarasvatyā sarve vedā abhavan |
sarvebhyo vedebhyaḥ sarve lokā abhavan |
sarvebhyo lokebhyaḥ sarve prāṇino'bhavan || 2 ||
その御方(スヴァヤンブー)の指が攪拌されたことから、原初の水(サリラ, salila)が生じた。
水から泡(フェーナ, phena)が生じ、泡から水泡(ブドゥブダ, budbuda)が生じた。
水泡から宇宙の卵(アンダ, aṇḍa)が生じ、宇宙の卵から創造主ブラフマー(ब्रह्मा, brahmā)が生じた。
ブラフマーから風(ヴァーユ, vāyu)が生じ、風から火(アグニ, agni)が生じた。
火から聖音オーム(ओङ्कार, oṅkāra)が生じ、聖音オームから神聖なる発声(ヴィヤーフリティ, vyāhṛti)が生じた。
神聖なる発声からガーヤトリー(गायत्री, gāyatrī)が生じ、ガーヤトリーからサーヴィトリー(सावित्री, sāvitrī)が生じた。
サーヴィトリーからサラスヴァティー(सरस्वती, sarasvatī)が生じ、サラスヴァティーからあらゆるヴェーダ(सर्व वेद, sarva veda)が生じた。
あらゆるヴェーダからあらゆる諸世界(सर्व लोक, sarva loka)が生じ、あらゆる諸世界から生きとし生けるものすべて(सर्व प्राणिन्, sarva prāṇin)が生じた。

逐語訳:

  • तेन (tena) - その(御方)によって(具格)
  • अङ्गुलीमथ्यमानात् (aṅgulīmathyamānāt) - 指が攪拌されることから(指 (aṅgulī) + 攪拌される (mathyamāna, 受動現在分詞) の奪格)
  • सलिलम् (salilam) - 水、原初の水(主格)
  • अभवत् (abhavat) - 生じた、現れた(√bhū, 不完了過去三人称単数)
  • सलिलात् (salilāt) - 水から(奪格)
  • फेनम् (phenam) - 泡、泡沫(主格)
  • फेनात् (phenāt) - 泡から(奪格)
  • बुद्बुदम् (budbudam) - 水泡、気泡(主格)
  • बुद्बुदात् (budbudāt) - 水泡から(奪格)
  • अण्डम् (aṇḍam) - 卵、宇宙卵(主格)
  • अण्डात् (aṇḍāt) - 卵から(奪格)
  • ब्रह्मा (brahmā) - ブラフマー、創造神(主格)
  • ब्रह्मणः (brahmaṇaḥ) - ブラフマーから(奪格)
  • वायुः (vāyuḥ) - 風、空気(主格)
  • वायोः (vāyoḥ) - 風から(奪格)
  • अग्निः (agniḥ) - 火、火神(主格)
  • अग्नेः (agneḥ) - 火から(奪格)
  • ओङ्कारः (oṅkāraḥ) - オームの音、聖音オーム(主格)
  • ओङ्कारात् (oṅkārāt) - オームから(奪格)
  • व्याहृतिः (vyāhṛtiḥ) - 発声、神聖なる発声(特に भूर्भुवःस्वः, bhūr bhuvaḥ svaḥ)(主格)
  • व्याहृत्याः (vyāhṛtyāḥ) - 神聖なる発声から(奪格、『व्याहृत्या』は奪格の異形または誤写の可能性。通常は『व्याहृतेः (vyāhṛteḥ)』) (原文ママ vyāhṛtyā)
  • गायत्री (gāyatrī) - ガーヤトリー(韻律・マントラ・女神)(主格)
  • गायत्र्याः (gāyatryāḥ) - ガーヤトリーから(奪格、『गायत्र्या』は奪格の異形または誤写の可能性。通常は『गायत्र्याः (gāyatryāḥ)』) (原文ママ gāyatryā)
  • सावित्री (sāvitrī) - サーヴィトリー(サヴィトリ神に関連するもの、ガーヤトリー・マントラ)(主格)
  • सावित्र्याः (sāvitryāḥ) - サーヴィトリーから(奪格、『सावित्र्या』は奪格の異形または誤写の可能性。通常は『सावित्र्याः (sāvitryāḥ)』) (原文ママ sāvitryā)
  • सरस्वती (sarasvatī) - サラスヴァティー(言葉・知恵の女神)(主格)
  • सरस्वत्याः (sarasvatyāḥ) - サラスヴァティーから(奪格、『सरस्वत्या』は奪格の異形または誤写の可能性。通常は『सरस्वत्याः (sarasvatyāḥ)』) (原文ママ sarasvatyā)
  • सर्वे (sarve) - 全ての(男性複数主格)
  • वेदाः (vedāḥ) - ヴェーダ、聖典(複数主格)
  • अभवन् (abhavan) - 生じた、現れた(√bhū, 不完了過去三人称複数)
  • सर्वेभ्यः (sarvebhyaḥ) - 全てから(複数奪格)
  • वेदेभ्यः (vedebhyaḥ) - ヴェーダから(複数奪格)
  • लोकाः (lokāḥ) - 世界、領域(複数主格)
  • लोकेभ्यः (lokebhyaḥ) - 世界から(複数奪格)
  • प्राणिनः (prāṇinaḥ) - 生命を持つもの、生き物(複数主格)

解説:
この第2節は、第1節で提起された聖仙たちの問い、すなわち「ガーヤトリー(गायत्री, gāyatrī)の起源」に対する創造主ブラフマー(ब्रह्मा, brahmā)からの深遠な回答です。ここでは、宇宙の創成が、原初の存在(स्वयंभू, svayaṃbhū - スヴァヤンブー、「自ら存在する御方」)による一つの行為から始まり、段階的に展開していく様子が、詩的かつ象徴的に描かれています。

創造のプロセスは、「指の攪拌(अङ्गुलीमन्थन, aṅgulīmanthana)」という神秘的なイメージから始まります。これは、インド神話における乳海攪拌(समुद्रमन्थन, samudramanthana)を想起させ、混沌とした原初の状態から秩序ある宇宙を生み出すための創造的なエネルギーの発動を象徴していると考えられます。この行為によってまず「原初の水(सलिल, salila)」が生じます。水は多くの文化において生命の源、未分化な可能性の象徴とされます。

そこから、泡(फेन, phena)、水泡(बुद्बुद, budbuda)という、より形を持ち始めた、しかし依然として儚い存在が生じ、やがて「宇宙の卵(अण्ड, aṇḍa)」へと凝縮します。この「宇宙卵」は、ヴェーダ文献に見られる「ヒラニヤガルバ(हिरण्यगर्भ, hiraṇyagarbha - 黄金の胎)」の概念と響き合い、万物がその内に潜在する宇宙の原型を示します。この卵から、人格的な創造主であるブラフマー神(ब्रह्मा, brahmā)が誕生し、具体的な創造活動が開始されます。

次に、ブラフマーから風(वायु, vāyu)と火(अग्नि, agni)という、より精妙な元素が生じます。これらは宇宙を構成する基本的な力であり、生命活動にも不可欠な要素です。特に火(アグニ)は、ヴェーダ儀礼の中心であり、神々への供物を運ぶ媒体として、また浄化と変容の力として重視されます。

そして、この節の核心とも言える転換点が訪れます。「火から聖音オーム(ओङ्कार, oṅkāra)が生じた」という記述です。これは、物質的な次元から、音・言葉という非物質的でありながら根源的な力を持つ次元への移行を示しています。オーム(ॐ, oṃ)は、宇宙の始まりの音、あらゆるマントラの源泉であり、ブラフマン(ब्रह्मन्, brahman)そのものを象徴する聖なる音です。インド思想における「シャブダ・ブラフマン(शब्दब्रह्मन्, śabdabrahman)」、すなわち「音としての絶対実在」の観念がここに表れています。言葉や音は、単なるコミュニケーションの手段ではなく、存在を形作る創造的な力そのものなのです。

聖音オームからは、「神聖なる発声(व्याहृति, vyāhṛti)」が生じます。これは通常、「भूर् भुवः स्वः (bhūr bhuvaḥ svaḥ)」という、地界・空界・天界を象徴する三つの聖句を指し、ガーヤトリー・マントラの冒頭にも唱えられます。宇宙の構造そのものを表すこれらの言葉から、ついに「ガーヤトリー(गायत्री, gāyatrī)」が生じます。これは、ガーヤトリーが単なる祈りの詩ではなく、宇宙の根源的な秩序と創造の力に深く結びついていることを示唆します。

ガーヤトリーから「サーヴィトリー(सावित्री, sāvitrī)」が生じ、サーヴィトリーから「サラスヴァティー(सरस्वती, sarasvatī)」が生じるという流れは、ガーヤトリーの持つ複数の側面、あるいはその力の展開を示していると考えられます。サーヴィトリーは文字通りには「太陽神サヴィトリ(सविता, savitā)に関するもの」を意味し、ガーヤトリー・マントラの内容そのもの、特に知性を啓発する太陽の力を指すと言えます。そしてサラスヴァティーは、言語、学問、芸術、そして究極的にはヴェーダの叡智そのものを人格化した女神です。

したがって、サラスヴァティーから「あらゆるヴェーダ(सर्व वेद, sarva veda)」が生じるという記述は、理に適っています。ヴェーダは単なる書物ではなく、宇宙の真理と秩序を内包する神聖な知識体系です。そして、このヴェーダの叡智から「あらゆる諸世界(सर्व लोक, sarva loka)」が展開し、最後にそれらの世界に「生きとし生けるものすべて(सर्व प्राणिन्, sarva prāṇin)」が満たされるのです。

このように、第2節は、ガーヤトリーの起源を、宇宙創造の壮大なプロセスの中に位置づけています。それは、物質的な要素から始まり、神々、元素、そして聖なる音と言葉へと展開し、最終的にヴェーダの叡智を通じて世界と生命を顕現させるという、息をのむような連続体として描かれます。ガーヤトリーは、この創造の連鎖の中心近くに位置し、根源的な聖音オームと、宇宙を成り立たせるヴェーダの叡智とを繋ぐ、極めて重要な霊的な力として示されているのです。

第3節

अथातो गायत्री व्याहृतयश्च प्रवर्तन्ते ।
का च गायत्री काश्च व्याहृतयः ।
किं भूः किं भुवः किं सुवः किं महः किं जनः किं तपः
किं सत्यं किं तत् किं सवितुः किं वरेण्यं किं भर्गः
किं देवस्य किं धीमहि किं धियः किं यः किं नः किं प्रचोदयात् । ॥ 3 ॥
athāto gāyatrī vyāhṛtayaśca pravartante |
kā ca gāyatrī kāśca vyāhṛtayaḥ |
kiṃ bhūḥ kiṃ bhuvaḥ kiṃ suvaḥ kiṃ mahaḥ kiṃ janaḥ kiṃ tapaḥ
kiṃ satyaṃ kiṃ tat kiṃ savituḥ kiṃ vareṇyaṃ kiṃ bhargaḥ
kiṃ devasya kiṃ dhīmahi kiṃ dhiyaḥ kiṃ yaḥ kiṃ naḥ kiṃ pracodayāt | || 3 ||
さて今、ガーヤトリーと、かの聖なる発声(ヴィヤーフリティ)が、ここにその深奥を開示する。
ガーヤトリーとは、果たしていかなるものなのか。そして、かの聖なる発声(ヴィヤーフリティ)とは、いかなるものなのか。
「भूर् (bhūḥ)」とは何を意味するのか、「भुवः (bhuvaḥ)」とは、「स्वः (svaḥ)」とは、「महः (mahaḥ)」とは、「जनः (janaḥ)」とは、「तपः (tapaḥ)」とは、「सत्यम् (satyam)」とは。
そして、ガーヤトリーの聖句における「तत् (tat)」とは何か、「सवितुः (savituḥ)」とは、「वरेण्यम् (vareṇyam)」とは、「भर्गः (bhargaḥ)」とは。
「देवस्य (devasya)」とは何か、「धीमहि (dhīmahi)」とは、「धियः (dhiyaḥ)」とは、「यः (yaḥ)」とは、「नः (naḥ)」とは、「प्रचोदयात् (pracodayāt)」とは、何を意味するのか。

逐語訳:

  • अथातो (athāto) - さて今、それゆえに(अथ (atha) + अतः (ataḥ))
  • गायत्री (gāyatrī) - ガーヤトリー(聖なる詩節・マントラ・女神)(主格)
  • व्याहृतयः (vyāhṛtayaḥ) - 聖なる発声(複数主格)
  • च (ca) - そして、また
  • प्रवर्तन्ते (pravartante) - 展開する、生じる、始まる、動き出す(√vṛt に接頭辞 pra が付いた動詞の現在三人称複数、中動相)
  • का (kā) - 何であるか(疑問代名詞、女性単数主格)
  • च (ca) - そして
  • काः (kāḥ) - 何であるか(疑問代名詞、女性複数主格)
  • च (ca) - そして
  • किम् (kim) - 何か、何を意味するか(疑問代名詞、中性単数主格/対格)
  • भूः (bhūḥ) - 地界(第一のヴィヤーフリティ)
  • भुवः (bhuvaḥ) - 空界(第二のヴィヤーフリティ)
  • सुवः (suvaḥ) - 天界(第三のヴィヤーフリティ)
  • महः (mahaḥ) - マハル界(第四のヴィヤーフリティ)
  • जनः (janaḥ) - ジャナル界(第五のヴィヤーフリティ)
  • तपः (tapaḥ) - タパル界(第六のヴィヤーフリティ)
  • सत्यम् (satyam) - サティヤ界(第七のヴィヤーフリティ)
  • तत् (tat) - それ(ガーヤトリー・マントラ冒頭の語)
  • सवितुः (savituḥ) - 太陽神サヴィトリの(属格)
  • वरेण्यम् (vareṇyam) - 選ばれるべき、最も優れた、崇拝に値する(対格)
  • भर्गः (bhargaḥ) - 輝き、光輝、栄光(主格)
  • देवस्य (devasya) - 神の(属格)
  • धीमहि (dhīmahi) - 我々は瞑想する(√dhī/dhyai の一人称複数現在、祈願)
  • धियः (dhiyaḥ) - 知性、理解力、思考(複数対格)
  • यः (yaḥ) - ~であるところの(関係代名詞、男性単数主格)
  • नः (naḥ) - 私たちの、私たちを(代名詞の人称複数与格/対格/属格の短縮形)
  • प्रचोदयात् (pracodayāt) - 促すように、鼓舞するように(√cud に接頭辞 pra が付いた動詞の祈願法三人称単数)

解説:
前節において、宇宙の創造が原初の水から始まり、聖なる音「ॐ (oṃ)」、聖なる発声「व्याहृति (vyāhṛti)」、そして「गायत्री (gāyatrī)」へと至る壮大なプロセスとして描かれました。この第3節は、その流れを受け、「अथातो (athāto) - さて今」という伝統的な導入句と共に、主題をガーヤトリーとヴィヤーフリティそのものの内実へと深く掘り下げていきます。原文の「प्रवर्तन्ते (pravartante)」は、単に「解説される」という受動的な意味に留まらず、「自ずから展開する」「その本質が現れ出る」という、より能動的で内在的な開示のニュアンスを含みます。

ここで提示されるのは、一連の深遠な問いかけです。「ガーヤトリーとは何か? ヴィヤーフリティとは何か?」という根本的な問いに始まり、続いてヴィヤーフリティの各要素、そしてガーヤトリー・マントラの各語句の意味が一つ一つ問われます。

ヴィヤーフリティ(व्याहृति, vyāhṛti)は、単なる発声ではなく、宇宙の構造と存在の階層を象徴する聖なる言葉です。一般的に知られる「भूर् भुवः स्वः (bhūr bhuvaḥ svaḥ)」、すなわち地界・空界・天界の三界に加え、ここではさらに高次の四つの界、「महः (mahaḥ)」「जनः (janaḥ)」「तपः (tapaḥ)」「सत्यम् (satyam)」が挙げられています。これら七つのヴィヤーフリティは、物質的な世界から最も精妙な真理の世界(サティヤ・ローカ)に至る宇宙論的な階層を示すと同時に、人間の意識が到達しうる様々な段階をも象徴しています。この七界すべてを問うことで、ガーヤトリーが内包する宇宙観の広大さと深遠さが示唆されます。

さらに、ガーヤトリー・マントラそのもの、すなわち「तत् सवितुर् वरेण्यं भर्गो देवस्य धीमहि धियो यो नः प्रचोदयात् (tat savitur vareṇyaṃ bhargo devasya dhīmahi dhiyo yo naḥ pracodayāt)」が、構成要素である個々の言葉(पद, pada)に分解され、それぞれの真意が問い質されます。「तत् (tat)」という指示代名詞は何を指すのか。「सवितुः (savituḥ)」の「輝ける太陽神」とは。「वरेण्यम् (vareṇyam)」の「崇拝すべき」とは。「भर्गः (bhargaḥ)」の「光輝」とは。神「देवस्य (devasya)」の本質とは。「धीमहि (dhīmahi)」と瞑想する主体と対象の関係は。「धियः (dhiyaḥ)」という「知性」とは。「यः (yaḥ)」が導くものとは。「नः (naḥ)」という「我々」とは誰か。そして「प्रचोदयात् (pracodayāt)」という「促し」の力とは何か。

この問いかけの形式は、単なる知識の要求ではありません。ウパニシャッドの伝統において、問いはしばしば答えそのものよりも重要であり、真理への探求心を喚起し、内省と瞑想を促すための力強い手段となります。一つ一つの言葉に意識を向け、その背後にある深遠な意味を探るプロセスは、マントラの表面的な誦唱を超え、その本質的な力と繋がるための道筋を示しています。これらの問いは、続く節々で与えられるであろう答えへの序章であり、読者をガーヤトリーという智慧の海への深遠な旅へと誘うのです。

第4節

ॐ भूरिति भुवो लोकः । भुव इत्यन्तरिक्षलोकः । स्वरिति स्वर्गलोकः ।
मह इति महर्लोकः । जन इति जनोलोकः । तप इति तपोलोकः । सत्यमिति सत्यलोकः । ॥ 4 ॥
oṃ bhūriti bhuvo lokaḥ | bhuva ityantarikṣalokaḥ | svariti svargalokaḥ |
maha iti maharlokaḥ | jana iti janalokaḥ | tapa iti tapalokaḥ | satyamiti satyalokaḥ || 4 ||
聖音オーム。「भूर् (bhūr)」とは地界(ブール・ローカ)である。「भुवः (bhuvaḥ)」とは空界(ブヴァル・ローカ、すなわち中空界)である。「स्वः (svaḥ)」とは天界(スヴァル・ローカ)である。
「महः (mahaḥ)」とはマハル界(マハル・ローカ)である。「जनः (janaḥ)」とはジャナ界(ジャナ・ローカ)である。「तपः (tapaḥ)」とはタパ界(タパ・ローカ)である。「सत्यम् (satyam)」とはサティヤ界(サティヤ・ローカ、すなわち真理の界)である。

逐語訳:

  • ॐ (oṃ) - オーム(聖音)
  • भूः (bhūḥ) - 「ブール」(第一のヴィヤーフリティ)
  • इति (iti) - ~とは
  • भुवो लोकः (bhuvo lokaḥ) - 地界(本来は भूर्लोकः (bhūrlokaḥ) か भूः लोकः (bhūḥ lokaḥ) が音便変化したもの。भूः (bhūḥ)「地」+ लोकः (lokaḥ)「世界」)
  • भुवः (bhuvaḥ) - 「ブヴァハ」(第二のヴィヤーフリティ)
  • इति (iti) - ~とは
  • अन्तरिक्षलोकः (antarikṣalokaḥ) - 中空界(अन्तरिक्ष (antarikṣa)「中空、大気」+ लोकः (lokaḥ)「世界」)
  • स्वः (svaḥ) - 「スヴァハ」(第三のヴィヤーフリティ)
  • इति (iti) - ~とは
  • स्वर्गलोकः (svargalokaḥ) - 天界(स्वर्ग (svarga)「天国」+ लोकः (lokaḥ)「世界」)
  • महः (mahaḥ) - 「マハハ」(第四のヴィヤーフリティ)
  • इति (iti) - ~とは
  • महर्लोकः (maharlokaḥ) - マハル界(महर् (mahar)「偉大なる」+ लोकः (lokaḥ)「世界」)
  • जनः (janaḥ) - 「ジャナハ」(第五のヴィヤーフリティ)
  • इति (iti) - ~とは
  • जनोलोकः (janolokaḥ) - ジャナ界(本来は जनलोकः (janalokaḥ)。जनः (janaḥ)「人々、創造物」+ लोकः (lokaḥ)「世界」が音便変化したもの)
  • तपः (tapaḥ) - 「タパハ」(第六のヴィヤーフリティ)
  • इति (iti) - ~とは
  • तपोलोकः (tapolokaḥ) - タパ界(本来は तपोलोकः (tapolokaḥ)。तपः (tapaḥ)「苦行、熱」+ लोकः (lokaḥ)「世界」が音便変化したもの)
  • सत्यम् (satyam) - 「サティヤム」(第七のヴィヤーフリティ)
  • इति (iti) - ~とは
  • सत्यलोकः (satyalokaḥ) - サティヤ界(सत्य (satya)「真理」+ लोकः (lokaḥ)「世界」)

解説:
前節において、聖仙たちはガーヤトリー(गायत्री, gāyatrī)の本質と、それを構成する聖なる発声(व्याहृति, vyāhṛti)の意味について問いを発しました。この第4節は、その問いに対する直接的な答えとして、まず七つのヴィヤーフリティが象徴する宇宙の諸次元(लोक, loka)を明らかにします。これらのヴィヤーフリティは、単なる言葉ではなく、宇宙の構造と存在の階層を示す鍵となる響きです。

冒頭に置かれた聖音「ॐ (oṃ)」は、これら全てのヴィヤーフリティとローカの根源であり、全体を包み込む宇宙的意識を示唆します。

続く七つの句は、それぞれ一つのヴィヤーフリティと、それが顕現するローカ(世界、次元)を結びつけています。
まず、最もよく知られた三つのヴィヤーフリティ、「भूर् (bhūr)」、「भुवः (bhuvaḥ)」、「स्वः (svaḥ)」が示されます。これらは「三界(त्रिलोक, triloka)」として知られ、多くの儀式や祈りの際に唱えられます。

  • भूः (bhūḥ) は、私たちが感覚器官を通して直接経験する物質的な世界、すなわち「地界(भूर्लोकः, bhūrlokaḥ)」を意味します。私たちの肉体が存在し、日々の生活が営まれる基盤となる次元です。
  • भुवः (bhuvaḥ) は、地界と天界の間に広がる「空界(भुवर्लोकः, bhuvarlokaḥ)」、すなわち「中空界(अन्तरिक्षलोकः, antarikṣalokaḥ)」です。大気、プラーナ(生命エネルギー)、そして微細な存在が息づく領域とされます。
  • स्वः (svaḥ) は、神々(देव, deva)や天上の存在が住まう「天界(स्वर्गलोकः, svargalokaḥ)」です。善行の果報として到達できる喜びと光に満ちた領域とされますが、これも輪廻の範囲内にあるとされます。

これら三界に加え、ウパニシャッドはさらに高次の、より精妙な四つのローカを提示します。

  • महः (mahaḥ) は、「マハル界(महर्लोकः, maharlokaḥ)」を意味します。ここは、劫(कल्प, kalpa)の終わりにおける部分的な宇宙の破壊(プララヤ)を生き延びる偉大な聖仙(ऋषि, ṛṣi)たちの住まう、輝かしい大いなる領域です。三界を超えた、より永続的な次元の始まりを示します。
  • जनः (janaḥ) は、「ジャナ界(जनलोकः, janalokaḥ)」です。ここは霊的に高度に進化した存在、ブラフマー神の子とされるサナカなどの聖者たちが住む、純粋な喜びと創造の力が満ちる領域です。
  • तपः (tapaḥ) は、「タパ界(तपोलोकः, tapolokaḥ)」を意味します。ここは、極めて高度な霊的修練(तपस्, tapas - タパス、苦行、内的熱)を成就した聖者や神々が存在する領域です。自己犠牲と深い瞑想によって到達される、霊的な炎が輝く次元です。
  • सत्यम् (satyam) は、最も高次の「サティヤ界(सत्यलोकः, satyalokaḥ)」、すなわち「真理の界」です。ここは究極の真理、ブラフマン(ब्रह्मन्, brahman)が顕現する領域であり、創造神ブラフマー(ब्रह्मा, brahmā)の住処とも言われます。この次元に達した者は、もはや輪廻の束縛から完全に解放されるとされます。

これらの七つのローカは、単なる空間的な場所として理解されるだけでなく、意識の異なる状態や霊的な進化の段階をも象徴しています。物質的な束縛から始まり、生命エネルギー、天上の喜び、聖仙の叡智、純粋な創造性、霊的修練の力、そして最終的には究極の真理へと至る階層は、人が内なる探求を通して経験しうる意識の広がりと深まりを示しています。

ガーヤトリー・マントラの詠唱の前にこれらのヴィヤーフリティを発することは、自らの意識をこれら広大な宇宙の次元、そしてそれに対応する内なる意識の階層へと開き、調和させる行為です。それは、マントラの持つ深遠な力を受け入れ、その光によって自らの存在全体を変容させるための、聖なる準備となるのです。この節は、ガーヤトリーの理解に不可欠な宇宙観の基礎を提示し、続くマントラ本体の解釈へと私たちを導きます。

第5節

तदिति तदसौ तेजोमय तेजोऽग्निर्देवता ।
सवितुरिति सविता सावित्रमादित्यो वै । वरेण्यमित्यत्र प्रजापतिः ।
भर्ग इत्यापो वै भर्गः । देवस्य इतीन्द्रो देवो द्योतत इति
स इन्द्रस्तस्मात् सर्वपुरुषो नाम रुद्रः ।
धीमहीत्यन्तरात्मा । धिय इत्यन्तरात्मा परः ।
य इति सदाशिवपुरुषः । नो इत्यस्माकं स्वधर्मे ।
प्रचोदयादिति प्रचोदित काम इमान् लोकान्
प्रत्याश्रयते यः परो धर्म इत्येषा गायत्री । ॥ 5 ॥
tad iti tad asau tejomaya tejo'gnir devatā |
savitur iti savitā sāvitram ādityo vai | vareṇyam ity atra prajāpatiḥ |
bharga ity āpo vai bhargaḥ | devasya itīndro devo dyotata iti
sa indras tasmāt sarvapuruṣo nāma rudraḥ |
dhīmahīty antarātmā | dhiya ity antarātmā paraḥ |
ya iti sadāśivapuruṣaḥ | no ity asmākaṃ svadharme |
pracodayād iti pracodita kāma imān lokān
pratyāśrayate yaḥ paro dharma ity eṣā gāyatrī || 5 ||
「तत् (tat)」とは、かの輝きに満ちた本質、火(アグニ)なる神性である。
「सवितुः (savituḥ)」とは、太陽神サヴィトリ、すなわち輝けるアーディティヤに他ならない。「वरेण्यम् (vareṇyam)」とは、ここでは万物の父祖プラジャーパティを指す。
「भर्गः (bhargaḥ)」とは、原初の水(アーパハ)、実にこれこそ光輝そのものである。「देवस्य (devasya)」とは、「神」とは「輝く者(द्योतते, dyotate)」を意味するゆえにインドラ神であり、そのインドラこそ、万物の内なる存在(サルヴァプルシャ)、名をルドラと呼ばれる御方である。
「धीमहि (dhīmahi)」とは、内なる自己(アンタラートマン)のことである。「धियः (dhiyaḥ)」とは、至高なる内なる自己(パラ・アンタラートマン)のことである。
「यः (yaḥ)」とは、永遠なる吉兆なる存在(サダーシヴァ・プルシャ)である。「नः (naḥ)」とは、我々が自らの本来的使命(スヴァダルマ)において、ということである。
「प्रचोदयात् (pracodayāt)」とは、「(我らの知性を)促したまえ」という祈願であり、その促しとは、「(それによって)聖なる意志(カーマ)が目覚め、これらの諸世界をあまねく支える。その根源なる最高の法(ダルマ)よ」という深遠なる意味を内包する。これこそがガーヤトリー(の本質)である。

逐語訳:

  • तत् (tad) - それ(指示代名詞 中性 単数 主格/対格、『ガーヤトリー・マントラ』の冒頭の語)
  • इति (iti) - 〜とは、〜という意味(引用を示す不変化詞)
  • तत् (tad) - それ
  • असौ (asau) - あの、かの(指示代名詞 男性/女性 単数 主格)
  • तेजोमय (tejomaya) - 輝きに満ちた(形容詞 中性 単数 主格/対格、तेजस् tejas 「輝き」の派生語)
  • तेजः (tejaḥ) - 輝き、光明、威力(名詞 中性 単数 主格/対格)
  • अग्निः (agniḥ) - 火、火神アグニ(名詞 男性 単数 主格)
  • देवता (devatā) - 神格、神性(名詞 女性 単数 主格)
  • सवितुः (savituḥ) - サヴィトリ神の(名詞 男性 単数 属格)
  • इति (iti) - 〜とは
  • सविता (savitā) - サヴィトリ神(太陽神の一形態、名詞 男性 単数 主格)
  • सावित्रम् (sāvitram) - サヴィトリ神に関するもの(名詞 中性 単数 主格/対格、形容詞としても用いられる)
  • आदित्यः (ādityaḥ) - アーディティヤ(アディティ女神の子、太陽神の総称、名詞 男性 単数 主格)
  • वै (vai) - 実に、確かに(強調の不変化詞)
  • वरेण्यम् (vareṇyam) - 選ばれるべき、最も優れた、崇拝に値する(形容詞 中性 単数 主格/対格)
  • इति (iti) - 〜とは
  • अत्र (atra) - ここで、この文脈において(副詞)
  • प्रजापतिः (prajāpatiḥ) - 生類の主、創造主プラジャーパティ(名詞 男性 単数 主格)
  • भर्गः (bhargaḥ) - 光輝、輝き、栄光(名詞 中性 単数 主格/対格)
  • इति (iti) - 〜とは
  • आपः (āpaḥ) - 水(複数主格、宇宙の原初的な水や生命力を象徴することもある)
  • वै (vai) - 実に、確かに
  • देवस्य (devasya) - 神の(名詞 男性 単数 属格)
  • इति (iti) - 〜とは
  • इन्द्रः (indraḥ) - インドラ神(ヴェーダの主要神、雷霆神)(名詞 男性 単数 主格)
  • देवः (devaḥ) - 神、輝く者(名詞 男性 単数 主格)
  • द्योतते (dyotate) - 輝く(√dyut 「輝く」の現在 三人称 単数 中動相)
  • इति (iti) - 〜という理由で、〜なので(理由を示す)
  • सः (saḥ) - その、かの(指示代名詞 男性 単数 主格)
  • इन्द्रः (indraḥ) - インドラ
  • तस्मात् (tasmāt) - それゆえに、したがって(副詞)
  • सर्वपुरुषः (sarvapuruṣaḥ) - すべての人、万物の内なるプルシャ(存在)(名詞 男性 単数 主格)
  • नाम (nāma) - 名は〜、〜と呼ばれる(副詞)
  • रुद्रः (rudraḥ) - ルドラ神(シヴァ神の古形、暴風神、破壊と再生の神)(名詞 男性 単数 主格)
  • धीमहि (dhīmahi) - 我々は瞑想する、我々は熟考する(√dhī/dhyai 「思う、瞑想する」の祈願法 一人称 複数 能動相)
  • इति (iti) - 〜とは
  • अन्तरात्मा (antarātmā) - 内なる自己、内在するアートマン(名詞 男性 単数 主格)
  • धियः (dhiyaḥ) - 知性、思考、理解力(名詞 女性 複数 対格、『ガーヤトリー・マントラ』の語)
  • इति (iti) - 〜とは
  • अन्तरात्मा (antarātmā) - 内なる自己
  • परः (paraḥ) - 最高の、至高の、彼方の(形容詞 男性 単数 主格)
  • यः (yaḥ) - 〜であるところの者/もの(関係代名詞 男性 単数 主格、『ガーヤトリー・マントラ』の語)
  • इति (iti) - 〜とは
  • सदाशिवपुरुषः (sadāśivapuruṣaḥ) - 永遠なる吉兆なる存在(サダーシヴァはシヴァ神の至高形態の一つ、プルシャは存在・意識)(名詞 男性 単数 主格)
  • नः (naḥ) - 我々の、我々を、我々に(人称代名詞 一人称 複数 属格/対格/与格の短縮形、『ガーヤトリー・マントラ』の語)
  • इति (iti) - 〜とは
  • अस्माकम् (asmākam) - 我々の(人称代名詞 一人称 複数 属格)
  • स्वधर्मे (svadharme) - 自己のダルマ(本来的義務・本性・法)において(名詞 男性/中性 単数 処格)
  • प्रचोदयात् (pracodayāt) - 促したまえ、鼓舞したまえ(√cud 「促す、駆り立てる」に接頭辞 pra- が付いた動詞の祈願法 三人称 単数 能動相、『ガーヤトリー・マントラ』の語)
  • इति (iti) - 〜とは
  • प्रचोदितः (pracoditaḥ) - 促された、鼓舞された(過去受動分詞 男性 単数 主格)
  • कामः (kāmaḥ) - 願望、意志、愛(名詞 男性 単数 主格)
  • इमान् (imān) - これらの(指示代名詞 男性 複数 対格)
  • लोकान् (lokān) - 諸世界を(名詞 男性 複数 対格)
  • प्रत्याश्रयते (pratyāśrayate) - 依り所とする、帰依する、支える(√śri 「頼る、行く」に接頭辞 prati- と ā- が付いた動詞の現在 三人称 単数 中動相)
  • यः (yaḥ) - 〜であるところの(関係代名詞 男性 単数 主格)
  • परः (paraḥ) - 最高の、至高の
  • धर्मः (dharmaḥ) - 法、義務、本性、秩序(名詞 男性 単数 主格)
  • इति (iti) - ということ、という意味
  • एषा (eṣā) - これ(指示代名詞 女性 単数 主格)
  • गायत्री (gāyatrī) - ガーヤトリー(韻律・マントラ・女神)(名詞 女性 単数 主格)

解説:
この第5節は、ガーヤトリー・マントラ(गायत्री मन्त्र, gāyatrī mantra)の聖なる言葉の一つひとつに込められた、深遠なる宇宙観と内なる真理への洞察を解き明かします。これは単なる字句の解説ではなく、マントラが持つ多層的な象徴性を明らかにし、その霊的な力を理解するための鍵を与えます。

まず、マントラの冒頭「तत् (tat)」は、単に「それ」という指示代名詞に留まらず、宇宙の根源にある「輝きに満ちた本質(तेजोमय तेजः, tejomaya tejaḥ)」、そしてヴェーダ儀礼の中心であり変容の力を持つ「火(अग्नि, agni)なる神性(देवता, devatā)」そのものであるとされます。これは、ガーヤトリーが祈る対象の超越性と遍在性を示唆します。

次に「सवितुः (savituḥ)」は、文字通りには太陽神サヴィトリですが、ここではより普遍的な「輝けるアーディティヤ(आदित्यः, ādityaḥ)」、すなわち宇宙を照らす根源的な光明として捉えられます。そして、その「崇拝すべき(वरेण्यम्, vareṇyam)」輝きは、万物の創造主であり父祖である「プラジャーパティ(प्रजापतिः, prajāpatiḥ)」と同一視され、その創造的な力が強調されます。

特に注目すべきは、「भर्गः (bhargaḥ)」、すなわち「光輝」が「原初の水(आपः, āpaḥ)」であるとされる点です。これは一見、逆説的に響くかもしれません。しかし、インドの宇宙観において、水(アーパハ)は万物生成の根源であり、生命と浄化の象徴です。光輝(バールガ)はこの生命の源である水の中に宿り、それを輝かせている、あるいは水そのものが光輝の顕現であるという、深遠な合一のヴィジョンを示しています。光と水、エネルギーと媒体が分かち難く結びついている様を描写します。

「神の(देवस्य, devasya)」という言葉は、その語源(√dyut「輝く」)に立ち返り、「輝く者」として、ヴェーダの主神「インドラ(इन्द्रः, indraḥ)」と結びつけられます。さらに、このインドラは、破壊と再生を司る「ルドラ(रुद्रः, rudraḥ)」、すなわちシヴァ神の古形であり、あらゆる存在の内奥に宿る普遍的本質「サルヴァプルシャ(सर्वपुरुषः, sarvapuruṣa)」であるとされます。これは、多様な神格の背後にある唯一の究極実在を示唆する、ウパニシャッド的な汎神論・一元論の思想を反映しています。

マントラの中核をなす祈りの言葉「धीमहि (dhīmahi) - 我らは瞑想する」は、外なる対象への祈りではなく、「内なる自己(अन्तरात्मा, antarātmā)」への深い眼差し、内省そのものであるとされます。そして、瞑想によって啓発されるべき「諸々の知性(धियः, dhiyaḥ)」は、単なる個々の思考力ではなく、「至高なる内なる自己(परः अन्तरात्मा, paraḥ antarātmā)」、すなわち普遍的な叡智の顕現であると解釈されます。

関係代名詞「यः (yaḥ) - かの御方」は、この普遍的な叡智の源泉であり、永遠の吉兆(शिव, śiva)をもたらす存在、「サダーシヴァ・プルシャ(सदाशिवपुरुषः, sadāśivapuruṣaḥ)」、すなわち至高のシヴァ意識を指し示します。

「नः (naḥ) - 我らを/我々の」という祈願の主体は、「我々が自らの本来的使命(स्वधर्मे, svadharme)」を全うできるよう促されることを願う、と解釈されます。ここでの処格(स्वधर्मे)の使用は、単に「我々を」促すのではなく、「我々がダルマに則って生きるように」という祈りの具体的な方向性を示唆しているのかもしれません。

最後に、「प्रचोदयात् (pracodayāt) - 促したまえ」という祈願の動詞は、単なる懇願を超え、宇宙的な創造と維持のプロセスそのものと結びつけられます。この促しによって目覚めた「聖なる意志(प्रचोदितः कामः, pracoditaḥ kāmaḥ)」こそが、宇宙の諸世界(इमान् लोकान्, imān lokān)を根底から支える(प्रत्याश्रयते, pratyāśrayate)力であり、それこそが宇宙の「最高の法(परः धर्मः, paraḥ dharmaḥ)」であるという、壮大な哲学的意味が付与されています。個人の祈りが、宇宙的な秩序と創造の力へと繋がっていくのです。

このように、このウパニシャッドは、ガーヤトリー・マントラの言葉を解き明かすことを通して、宇宙の根源、神々の本質、そして自己の内なる深淵へと私たちを導きます。それぞれの言葉が、深遠な哲理と象徴性を帯びており、マントラの詠唱と瞑想が、単なる儀式ではなく、宇宙的真理と自己の本質を悟るための道であることを示しています。「これこそがガーヤトリー(の本質)である(इत्येषा गायत्री, ity eṣā gāyatrī)」という結びの言葉は、この深遠な解釈全体が、ガーヤトリーという聖なる響きの真髄であることを宣言しているのです。

第6節

सा च किं गोत्रा कत्यक्षरा कतिपादा । कति कुक्षयः ।
कानि शीर्षाणि । सांख्यायनगोत्रा स चतुर्विंशत्यक्षरा
गायत्री त्रिपादा चतुष्पादा । पुनस्तस्याश्चत्वारः पादाः
षट् कुक्षिकाः पञ्च शीर्षाणि भवन्ति । ॥ 6 ॥
sā ca kiṃ gotrā katyakṣarā katipādā | kati kukṣayaḥ |
kāni śīrṣāṇi | sāṃkhyāyanagotrā sa caturviṃśatyakṣarā
gāyatrī tripādā catuṣpādā | punas tasyāś catvāraḥ pādāḥ
ṣaṭ kukṣikāḥ pañca śīrṣāṇi bhavanti || 6 ||
さて、かのガーヤトリーは、いかなる血統(ゴートラ)に連なり、いくつの音節(アクシャラ)をもち、いくつの詩脚(パーダ)をもつのか。また、いくつの胎(ククシ)、いくつの頭(シールシャ)があるのか。
かのガーヤトリーは、サーンキャーヤナの血統(ゴートラ)に属し、二十四の音節(アクシャラ)をもつ。三つの詩脚(トリパーダー)を有し、また四つの詩脚(チャトゥシュパーダー)をも有する。さらに、かのガーヤトリーには、四つの部分(パーダ)、六つの胎(ククシカー)、五つの頭(シールシャ)がある。

逐語訳:

  • सा (sā) - その(ガーヤトリーは)(指示代名詞 女性 単数 主格)
  • च (ca) - そして、また(接続詞)
  • किं गोत्रा (kiṃ gotrā) - いかなる血統に属する(形容詞句、疑問詞 kiṃ + gotrā「血統の」女性 単数 主格)
  • कत्यक्षरा (katyakṣarā) - いくつの音節を持つ(形容詞、kati「いくつの」+ akṣarā「音節を持つ」女性 単数 主格)
  • कतिपादा (katipādā) - いくつの詩脚を持つ(形容詞、kati「いくつの」+ pādā「詩脚を持つ」女性 単数 主格)
  • कति (kati) - いくつの(疑問詞、不変化)
  • कुक्षयः (kukṣayaḥ) - 胎、胴、内部空間(複数主格)
  • कानि (kāni) - どのような、いくつの(疑問代名詞 中性 複数 主格)
  • शीर्षाणि (śīrṣāṇi) - 頭部(複数主格)
  • सांख्यायनगोत्रा (sāṃkhyāyanagotrā) - サーンキャーヤナの血統に属する(形容詞 女性 単数 主格)
  • स (sa) - その(ガーヤトリーは)(原文ママ。文脈上は sā が自然。指示代名詞 男性/中性 単数 主格)
  • चतुर्विंशत्यक्षरा (caturviṃśatyakṣarā) - 二十四音節を持つ(形容詞 女性 単数 主格)
  • गायत्री (gāyatrī) - ガーヤトリー(名詞 女性 単数 主格)
  • त्रिपादा (tripādā) - 三つの詩脚を持つ(形容詞 女性 単数 主格)
  • चतुष्पादा (catuṣpādā) - 四つの詩脚を持つ(形容詞 女性 単数 主格)
  • पुनः (punaḥ) - さらに、また(副詞)
  • तस्याः (tasyāḥ) - その(ガーヤトリーの)(指示代名詞 女性 単数 属格)
  • चत्वारः (catvāraḥ) - 四つの(数詞 男性 複数 主格)
  • पादाः (pādāḥ) - 部分、足、詩脚(複数主格)
  • षट् (ṣaṭ) - 六つの(数詞)
  • कुक्षिकाः (kukṣikāḥ) - 小さな胎、胴、内部空間(kukṣi の指小辞形、複数主格)
  • पञ्च (pañca) - 五つの(数詞)
  • शीर्षाणि (śīrṣāṇi) - 頭部(複数主格)
  • भवन्ति (bhavanti) - ある、存在する(√bhū の現在 三人称 複数 能動相)

解説:
前節においてガーヤトリー・マントラの各語に秘められた深遠な哲学的意味が解き明かされたのに続き、この第6節では、探求の焦点がガーヤトリーそのものの属性、構造、そして象徴的な姿へと移ります。問いと答えの形式を通じて、ガーヤトリーの本質が多角的に明らかにされていきます。

まず、「いかなる血統(किं गोत्रा, kiṃ gotrā)に連なるか」という問いに対し、「サーンキャーヤナ(सांख्यायन, sāṃkhyāyana)の血統に属する」と答えています。サーンキャーヤナは古代インドの聖仙の名であり、リグ・ヴェーダ(ऋग्वेद, ṛgveda)の特定の学派(शाखा, śākhā)と関連付けられます。この言及は、ガーヤトリーが聖なるヴェーダの伝統に深く根ざし、由緒正しい系譜を通じて伝えられてきたものであることを示し、その権威を強調します。

次に、「いくつの音節(कत्यक्षरा, katyakṣarā)をもつか」という問いには、「二十四の音節(चतुर्विंशत्यक्षरा, caturviṃśatyakṣarā)をもつ」と答えます。これは、ガーヤトリーがヴェーダの主要な韻律の一つであり、通常8音節×3行=24音節で構成されるという事実に基づいています。しかし、この「二十四」という数は単なる音節数に留まらず、宇宙の構造や時間(例えば一日の二十四時間)とも結びつけられ、ガーヤトリーが宇宙全体を包含する力を持つことを象徴的に示唆します。

続いて、「いくつの詩脚(कतिपादा, katipādā)をもつか」という問いに対しては、「三つの詩脚(त्रिपादा, tripādā)を有し、また四つの詩脚(चतुष्पादा, catuṣpādā)をも有する」という、一見矛盾するような答えが示されます。「三足」は、ガーヤトリー韻律の三行構成や、第4節で示された三界(地 भूः (bhūḥ)・空 भुवः (bhuvaḥ)・天 स्वः (svaḥ))、あるいは存在を構成する三つの質( सत्त्व (sattva)・रजस् (rajas)・तमस् (tamas) - サットヴァ・ラジャス・タマス)といった宇宙の三分法的構造に対応します。一方、「四足」は、より深遠な理解を示唆します。例えば、プルシャ・スークタ(पुरुष सूक्त, puruṣa sūkta)に見られるように、万物の根源であるプルシャ(पुरुष, puruṣa)はその四分の一のみがこの現象世界に顕現し、残りの四分の三は超越的な領域に留まるとされます。この「四足」は、ガーヤトリーが現象世界(三界)を超えた、測り知れない超越的な次元をも内包することを示しているのかもしれません。また、次節以降で示されるように、四つのヴェーダに対応する可能性も示唆されます。

そして、節の後半では、ガーヤトリーはさらに擬人化され、身体的な特徴が付与されます。「四つの部分(चत्वारः पादाः, catvāraḥ pādāḥ)」、「六つの胎(षट् कुक्षिकाः, ṣaṭ kukṣikāḥ)」、「五つの頭(पञ्च शीर्षाणि, pañca śīrṣāṇi)」があると述べられます。ここでいう「パーダ」は、前半の詩脚とは異なり、身体の構成要素としての「部分」や「足」を指すと考えられます。「ククシ(कुक्षि, kukṣi)」あるいはその指小辞形「ククシカー(कुक्षिका, kukṣikā)」は「胎」や「内部空間」を意味し、万物を内包する母性的な側面や創造の力を象徴します。「シールシャ(शीर्ष, śīrṣa)」は「頭」であり、智慧や知識、権威を象徴し、後の節でヴェーダの補助学(वेदाङ्ग, vedāṅga)と結びつけられます。

このように、この節はガーヤトリーを単なる韻律やマントラとしてだけでなく、聖なる伝統に連なる権威ある存在、宇宙の構造を反映する原理、そして超越性と内在性を兼ね備えた神的な姿(女神デーヴィー)として、多層的に描き出しています。ここで提示された問いと答え、特に身体的特徴に関する記述は、続く節々で展開される具体的な象徴体系への序章となり、ガーヤトリーの深遠なる神秘への扉を開くのです。

第8節

के च पादाः काश्च कुक्षयः कानि शीर्षाणि ।
ऋग्वेदोऽस्याः प्रथमः पादो भवति । यजुर्वेदो द्वितीयः पादः ।
सामवेदस्तृतीयः पादः । अथर्ववेदश्चतुर्थः पादः ।
पूर्वा दिक् प्रथमा कुक्षिर्भवति । दक्षिणा द्वितीया कुक्षिर्भवति ।
पश्चिमा तृतीया कुक्षिर्भवति । उत्तरा चतुर्थी कुक्षिर्भवति ।
ऊर्ध्वं पञ्चमी कुक्षिर्भवति । अधः षष्ठी कुक्षिर्भवति ।
व्याकरणोऽस्याः प्रथमः शीर्षो भवति । शिक्षा द्वितीयः ।
कल्पस्तृतीयः । निरुक्तश्चतुर्थः । ज्योतिषामयनमिति पञ्चमः ।
का दिक् को वर्णः किमायतनं कः स्वरः किं लक्षणम्,
कानि अक्षरदैवतानि क ऋषयः कानि छन्दांसि का शक्तयः
कानि तत्त्वानि के चावयवाः । ॥ 8 ॥
ke ca pādāḥ kāśca kukṣayaḥ kāni śīrṣāṇi |
ṛgvedo'syāḥ prathamaḥ pādo bhavati | yajurvedo dvitīyaḥ pādaḥ |
sāmavedas tṛtīyaḥ pādaḥ | atharvavedaś caturthaḥ pādaḥ |
pūrvā dik prathamā kukṣir bhavati | dakṣiṇā dvitīyā kukṣir bhavati |
paścimā tṛtīyā kukṣir bhavati | uttarā caturthī kukṣir bhavati |
ūrdhvaṃ pañcamī kukṣir bhavati | adhaḥ ṣaṣṭhī kukṣir bhavati |
vyākaraṇo'syāḥ prathamaḥ śīrṣo bhavati | śikṣā dvitīyaḥ |
kalpas tṛtīyaḥ | niruktaś caturthaḥ | jyotiṣām ayanam iti pañcamaḥ |
kā dik ko varṇaḥ kim āyatanaṃ kaḥ svaraḥ kiṃ lakṣaṇam,
kāni akṣaradaivatāni ke ṛṣayaḥ kāni chandāṃsi kāḥ śaktayaḥ
kāni tattvāni ke cāvayavāḥ || 8 ||
では、その「部分(パーダ)」、「胎(ククシ)」、「頭(シールシャ)」とは、それぞれ何を指すのか。
リグ・ヴェーダが、かのガーヤトリーの第一の「部分」である。ヤジュル・ヴェーダが第二の「部分」である。
サーマ・ヴェーダが第三の「部分」である。アタルヴァ・ヴェーダが第四の「部分」である。
東方が第一の「胎」である。南方が第二の「胎」である。
西方が第三の「胎」である。北方が第四の「胎」である。
上方が第五の「胎」である。下方が第六の「胎」である。
文法学が、かのガーヤトリーの第一の「頭」である。発音学が第二の「頭」である。
祭式学が第三の「頭」である。語源学が第四の「頭」である。天体の運行(学)が第五の「頭」である。
さらに問いは続く。ガーヤトリーは、どのような方角に属し、どのような色を持ち、どのような場に宿り、どのような音を発し、どのような特徴を備えているのか。
また、その(二十四の)音節それぞれを守護する神々は誰で、それに関連する聖仙は誰で、対応する韻律は何で、宿る力(シャクティ)は何で、根源的な原理(タットヴァ)は何で、そしてその他の構成要素は何なのか。

逐語訳:

  • के (ke) - 何、どのような(疑問代名詞 男性 複数 主格)
  • च (ca) - そして、また(接続詞)
  • पादाः (pādāḥ) - 部分、足、詩脚(名詞 男性 複数 主格)
  • काः (kāḥ) - 何、どのような(疑問代名詞 女性 複数 主格)
  • च (ca) - そして、また(接続詞)
  • कुक्षयः (kukṣayaḥ) - 胎、胴、内部空間(名詞 女性 複数 主格)
  • कानि (kāni) - 何、どのような(疑問代名詞 中性 複数 主格)
  • शीर्षाणि (śīrṣāṇi) - 頭部(名詞 中性 複数 主格)
  • ऋग्वेदः (ṛgvedaḥ) - リグ・ヴェーダ(名詞 男性 単数 主格)
  • अस्याः (asyāḥ) - この、かの(ガーヤトリーの)(指示代名詞 女性 単数 属格)
  • प्रथमः (prathamaḥ) - 第一の(形容詞 男性 単数 主格)
  • पादः (pādaḥ) - 部分、足、詩脚(名詞 男性 単数 主格)
  • भवति (bhavati) - である、となる(√bhū の現在 三人称 単数 能動相)
  • यजुर्वेदः (yajurvedaḥ) - ヤジュル・ヴェーダ(名詞 男性 単数 主格)
  • द्वितीयः (dvitīyaḥ) - 第二の(形容詞 男性 単数 主格)
  • पादः (pādaḥ) - 部分、足(名詞 男性 単数 主格)
  • सामवेदः (sāmavedaḥ) - サーマ・ヴェーダ(名詞 男性 単数 主格)
  • तृतीयः (tṛtīyaḥ) - 第三の(形容詞 男性 単数 主格)
  • पादः (pādaḥ) - 部分、足(名詞 男性 単数 主格)
  • अथर्ववेदः (atharvavedaḥ) - アタルヴァ・ヴェーダ(名詞 男性 単数 主格)
  • च (ca) - そして、また(接続詞)
  • चतुर्थः (caturthaḥ) - 第四の(形容詞 男性 単数 主格)
  • पादः (pādaḥ) - 部分、足(名詞 男性 単数 主格)
  • पूर्वा (pūrvā) - 東の(形容詞 女性 単数 主格)
  • दिक् (dik) - 方向(名詞 女性 単数 主格)
  • प्रथमा (prathamā) - 第一の(形容詞 女性 単数 主格)
  • कुक्षिः (kukṣiḥ) - 胎、胴(名詞 女性 単数 主格)
  • भवति (bhavati) - である、となる
  • दक्षिणा (dakṣiṇā) - 南の(形容詞 女性 単数 主格)
  • द्वितीया (dvitīyā) - 第二の(形容詞 女性 単数 主格)
  • कुक्षिः (kukṣiḥ) - 胎、胴(名詞 女性 単数 主格)
  • भवति (bhavati) - である、となる
  • पश्चिमा (paścimā) - 西の(形容詞 女性 単数 主格)
  • तृतीया (tṛtīyā) - 第三の(形容詞 女性 単数 主格)
  • कुक्षिः (kukṣiḥ) - 胎、胴(名詞 女性 単数 主格)
  • भवति (bhavati) - である、となる
  • उत्तरा (uttarā) - 北の(形容詞 女性 単数 主格)
  • चतुर्थी (caturthī) - 第四の(形容詞 女性 単数 主格)
  • कुक्षिः (kukṣiḥ) - 胎、胴(名詞 女性 単数 主格)
  • भवति (bhavati) - である、となる
  • ऊर्ध्वम् (ūrdhvam) - 上方の(副詞)
  • पञ्चमी (pañcamī) - 第五の(形容詞 女性 単数 主格)
  • कुक्षिः (kukṣiḥ) - 胎、胴(名詞 女性 単数 主格)
  • भवति (bhavati) - である、となる
  • अधः (adhaḥ) - 下方の(副詞)
  • षष्ठी (ṣaṣṭhī) - 第六の(形容詞 女性 単数 主格)
  • कुक्षिः (kukṣiḥ) - 胎、胴(名詞 女性 単数 主格)
  • भवति (bhavati) - である、となる
  • व्याकरणः (vyākaraṇaḥ) - 文法学(名詞 男性 単数 主格)
  • अस्याः (asyāḥ) - この(ガーヤトリーの)(指示代名詞 女性 単数 属格)
  • प्रथमः (prathamaḥ) - 第一の(形容詞 男性 単数 主格)
  • शीर्षः (śīrṣaḥ) - 頭(名詞 男性 単数 主格)
  • भवति (bhavati) - である、となる
  • शिक्षा (śikṣā) - 発音学(名詞 女性 単数 主格)
  • द्वितीयः (dvitīyaḥ) - 第二の(形容詞 男性 単数 主格)(文法的には śīrṣaḥ が省略されていると解釈される)
  • कल्पः (kalpaḥ) - 祭式学(名詞 男性 単数 主格)
  • तृतीयः (tṛtīyaḥ) - 第三の(形容詞 男性 単数 主格)(同上)
  • निरुक्तः (niruktaḥ) - 語源学(名詞 男性 単数 主格)
  • च (ca) - そして、また(接続詞)
  • चतुर्थः (caturthaḥ) - 第四の(形容詞 男性 単数 主格)(同上)
  • ज्योतिषाम् (jyotiṣām) - 天文学の、星辰の(名詞 中性 複数 属格)
  • अयनम् (ayanam) - 道筋、進路、運行(学)(名詞 中性 単数 主格)
  • इति (iti) - 〜という(引用を示す不変化詞)
  • पञ्चमः (pañcamaḥ) - 第五の(形容詞 男性 単数 主格)(同上)
  • का (kā) - いかなる(疑問代名詞 女性 単数 主格)
  • दिक् (dik) - 方角(名詞 女性 単数 主格)
  • कः (kaḥ) - いかなる(疑問代名詞 男性 単数 主格)
  • वर्णः (varṇaḥ) - 色(名詞 男性 単数 主格)
  • किम् (kim) - いかなる(疑問代名詞 中性 単数 主格)
  • आयतनम् (āyatanaṃ) - 住処、基盤(名詞 中性 単数 主格)
  • कः (kaḥ) - いかなる(疑問代名詞 男性 単数 主格)
  • स्वरः (svaraḥ) - 音、音調(名詞 男性 単数 主格)
  • किम् (kim) - いかなる(疑問代名詞 中性 単数 主格)
  • लक्षणम् (lakṣaṇam) - 特徴、標識(名詞 中性 単数 主格)
  • कानि (kāni) - いかなる(疑問代名詞 中性 複数 主格)
  • अक्षरदैवतानि (akṣaradaivatāni) - 音節の守護神(名詞 中性 複数 主格)
  • के (ke) - いかなる(疑問代名詞 男性 複数 主格)
  • ऋषयः (ṛṣayaḥ) - 聖仙たち(名詞 男性 複数 主格)
  • कानि (kāni) - いかなる(疑問代名詞 中性 複数 主格)
  • छन्दांसि (chandāṃsi) - 韻律(名詞 中性 複数 主格)
  • काः (kāḥ) - いかなる(疑問代名詞 女性 複数 主格)
  • शक्तयः (śaktayaḥ) - 力、能力、シャクティ(名詞 女性 複数 主格)
  • कानि (kāni) - いかなる(疑問代名詞 中性 複数 主格)
  • तत्त्वानि (tattvāni) - 原理、要素、真実(名詞 中性 複数 主格)
  • के (ke) - いかなる(疑問代名詞 男性 複数 主格)
  • च (ca) - そして(接続詞)
  • अवयवाः (avayavāḥ) - 構成要素、部分、肢体(名詞 男性 複数 主格)

解説:
この第8節は、前節(第6節)で提示された問い、「ガーヤトリーには四つの部分(पाद, pāda)、六つの胎(कुक्षि, kukṣi)、五つの頭(शीर्ष, śīrṣa)がある」という神秘的な描写の具体的な内容を明らかにします。ここではガーヤトリーが、単なるマントラや韻律を超え、ヴェーダの聖典知識、宇宙の空間構造、そしてヴェーダ理解のための補助学問体系を統合した、壮大な宇宙的身体として描かれています。

まず、ガーヤトリーの「四つの部分(पाद, pāda)」は、インドの聖典知識の根幹を成す四つのヴェーダ(वेद, veda)そのものであるとされます。讃歌集であるリグ・ヴェーダ(ऋग्वेद, ṛgveda)、祭儀の執行に必要な散文形式のマントラを収めるヤジュル・ヴェーダ(यजुर्वेद, yajurveda)、歌詠(サーマン)を集めたサーマ・ヴェーダ(सामवेद, sāmaveda)、そして呪術、医療、哲学的思索を含むアタルヴァ・ヴェーダ(अथर्ववेद, atharvaveda)です。ガーヤトリー・マントラ自体はリグ・ヴェーダに由来しますが、このウパニシャッドにおいては、ガーヤトリーが四ヴェーダすべてを内包し、その精髄を体現する存在として尊ばれていることが示されます。ヴェーダ知識全体が、ガーヤトリーという宇宙的原理の顕現とみなされているのです。

次に、「六つの胎(कुक्षि, kukṣi)」は、空間の全方位、すなわち東(पूर्वा, pūrvā)、南(दक्षिणा, dakṣiṇā)、西(पश्चिमा, paścimā)、北(उत्तरा, uttarā)の四基本方位に、上方(ऊर्ध्वम्, ūrdhvam)と下方(अधः, adhaḥ)を加えた六方向に対応します。「ククシ」は「胎」や「内部空間」を意味し、ガーヤトリーが宇宙空間全体をその内に宿し、万物を育む母なる原理であることを象徴します。これはガーヤトリーの遍在性と、宇宙を生成し維持する力を示唆しています。

そして、「五つの頭(शीर्ष, śīrṣa)」は、ヴェーダーンガ(वेदाङ्ग, vedāṅga)と呼ばれる、ヴェーダを正しく理解し、実践するために不可欠な五つの補助学問体系に相当します。

  1. 文法学(व्याकरण, vyākaraṇa): 聖典の言葉を正確に解釈するための文法知識。
  2. 発音学(शिक्षा, śikṣā): マントラを正しく発音するための音声学。
  3. 祭式学(कल्प, kalpa): ヴェーダ儀礼を正しく執行するための規定。
  4. 語源学(निरुक्त, nirukta): ヴェーダの難解な語句の意味を解明する学問。
  5. 天文学/占星学(ज्योतिष, jyotiṣa): 儀式を行うべき適切な日時を決定するための天体の運行に関する知識。
    これらの「頭」は、ガーヤトリーが最高の叡智、ヴェーダ知識の宝庫であることを象徴します。通常、ヴェーダーンガは六つあり、韻律学(छन्दस्, chandas)も含まれますが、ここでは五つのみが挙げられています。これは、ガーヤトリー自身が代表的な韻律の名でもあるため、別の次元で包括的に理解されている、あるいはこのウパニシャッドの特定の伝承においては五つとされている、といった解釈が考えられます。

この節の最後には、さらに多くの問いが畳みかけるように提示されます。ガーヤトリーの属性(方角、色、住処、音、特徴)、その構成要素(音節の神々、聖仙、韻律、力、原理、部分)について、より詳細な知識を求める問いです。これらの問いは、ガーヤトリーの持つ多層的で深遠な意味合いをさらに探求する必要があることを示唆し、続く節々で展開される内容への序章となっています。

このように、第8節はガーヤトリーを、聖なる知識(ヴェーダ)、宇宙空間(六方)、そして学問体系(ヴェーダーンガ)を統合した、壮大かつ深遠な宇宙的原理として提示します。ガーヤトリーの詠唱や瞑想は、この宇宙的な身体との合一を目指す営みであり、自己と宇宙の根源的な繋がりを悟る道へと繋がっていくのです。

第9節

पूर्वायां भवतु गायत्री । मध्यमायां भवतु सावित्री ।
पश्चिमायां भवतु सरस्वती ।
रक्ता गायत्री । श्वेता सावित्री । कृष्णा सरस्वती । ॥ 9 ॥
pūrvāyāṃ bhavatu gāyatrī | madhyamāyāṃ bhavatu sāvitrī |
paścimāyāṃ bhavatu sarasvatī |
raktā gāyatrī | śvetā sāvitrī | kṛṣṇā sarasvatī || 9 ||
東方にはガーヤトリーがいる。中央にはサーヴィトリーがいる。
西方にはサラスヴァティーがいる。
ガーヤトリーは赤色、サーヴィトリーは白色、サラスヴァティーは黒色である。

逐語訳:

  • पूर्वायाम् (pūrvāyām) - 東方に(女性名詞 pūrvā「東」の単数処格)
  • भवतु (bhavatu) - いますように、あれかし(√bhū「ある、なる」の命令法 三人称 単数 能動相、存在を示す)
  • गायत्री (gāyatrī) - ガーヤトリー(女性名詞 単数 主格)
  • मध्यमायाम् (madhyamāyām) - 中央に(女性名詞 madhyamā「中央の」の単数処格)
  • भवतु (bhavatu) - いますように、あれかし
  • सावित्री (sāvitrī) - サーヴィトリー(女性名詞 単数 主格)
  • पश्चिमायाम् (paścimāyām) - 西方に(女性名詞 paścimā「西」の単数処格)
  • भवतु (bhavatu) - いますように、あれかし
  • सरस्वती (sarasvatī) - サラスヴァティー(女性名詞 単数 主格)
  • रक्ता (raktā) - 赤色の(形容詞 rakta「赤い」の女性 単数 主格)
  • गायत्री (gāyatrī) - ガーヤトリー
  • श्वेता (śvetā) - 白色の(形容詞 śveta「白い」の女性 単数 主格)
  • सावित्री (sāvitrī) - サーヴィトリー
  • कृष्णा (kṛṣṇā) - 黒色の(形容詞 kṛṣṇa「黒い」の女性 単数 主格)
  • सरस्वती (sarasvatī) - サラスヴァティー

解説:
第8節の終わりで提起された「ガーヤトリーはいかなる方角に属し(का दिक्, kā dik)、いかなる色を持つか(कः वर्णः, kaḥ varṇaḥ)」という問いに答える形で、この第9節は、ガーヤトリーの三つの顕現とその属性を明らかにします。それは、ガーヤトリー(गायत्री, gāyatrī)、サーヴィトリー(सावित्री, sāvitrī)、サラスヴァティー(सरस्वती, sarasvatī)という三つの神聖な名と姿において示されます。これらは、単一のガーヤトリー女神が時間や役割に応じて示す異なる側面、あるいは宇宙の異なる領域を司る様相と解釈できます。

まず、それぞれの女神が存在する「方角」が示されます。東方(पूर्वायाम्, pūrvāyām)は、夜明けと共に太陽が昇る方角であり、新たな始まり、覚醒、そして光明の到来を象徴します。ここにガーヤトリーが位置づけられることは、彼女が創造の原動力であり、無明を破る智慧の光をもたらす存在であることを示唆します。後の節(第12節)で、ガーヤトリーは朝のサンディヤー(सन्ध्या, sandhyā、日の出時の礼拝)の女神と同一視され、リグ・ヴェーダ(ऋग्वेद, ṛgveda)と結びつけられます。

中央(मध्यमायाम्, madhyamāyām)にはサーヴィトリーがいます。中央は空間的な中心であり、安定、均衡、そして力が頂点に達する点を表します。太陽が真南に位置する真昼のように、サーヴィトリーは宇宙の維持、生命力の輝き、そして明晰な知性を象徴すると考えられます。後の節(第13節)では、サーヴィトリーは昼のサンディヤーの女神、ヤジュル・ヴェーダ(यजुर्वेद, yajurveda)と結びつけられます。

西方(पश्चिमायां, paścimāyām)にはサラスヴァティーがいます。西方は太陽が沈む方角であり、一日の終わり、完成、そして内なる省察や深遠な知識へと向かう時を示します。サラスヴァティーは、学問、芸術、言葉、そして霊的な知恵の女神として広く知られています。ここに位置づけられることで、彼女が現象世界の背後にある真理や、宇宙のサイクルの完了、そして静寂の中にある深遠な理解を司ることを示唆します。後の節(第14節)では、サラスヴァティーは夕刻のサンディヤーの女神、サーマ・ヴェーダ(सामवेद, sāmaveda)と結びつけられます。

次に、それぞれの女神の色が明示されます。ガーヤトリーは赤色(रक्ता, raktā)、サーヴィトリーは白色(श्वेता, śvetā)、サラスヴァティーは黒色(कृष्णा, kṛṣṇā)です。これらの色は、インド哲学、特にサーンキヤ(सांख्य, sāṃkhya)学派の思想における宇宙の根源的構成要素である三つのグナ(त्रिगुण, triguṇa)と深く関連しています。

  • 赤色(ラジャス रजस्, rajas): 活動性、情熱、欲望、創造のエネルギーを象徴します。ガーヤトリーの赤色は、世界を生成し動かす力、生命の躍動を表します。
  • 白色(サットヴァ सत्त्व, sattva): 純粋性、調和、光明、知識、平静を象徴します。サーヴィトリーの白色は、宇宙の秩序を保つ力、清澄な智慧、そして解脱へと導く光を表します。
  • 黒色(タマス तमस्, tamas): 暗性、不活発、無知、潜在性を象徴します。サラスヴァティーの黒色は、一見、タマスの否定的な側面を連想させるかもしれません。しかし、ここではむしろ、万物を包み込み、形なき状態へと回帰させる宇宙の吸収力(संहार, saṃhāra)、計り知れない深遠さ、あるいは無知(タマス)を超越した絶対的な知恵の象徴と解釈するのが適切でしょう。黒はまた、無限の可能性を秘めた未顕現の状態をも示唆します。

このように、第9節は、ガーヤトリーという単一の聖なる原理が、方角(空間、時間)と色彩(性質、グナ)を通じて、宇宙の多様な局面において顕現する様を描き出します。東・中央・西、赤・白・黒という組み合わせは、宇宙の生成・維持・回帰(創造・保持・吸収)のダイナミックなサイクルと、その根底にある調和を示唆します。これは、ガーヤトリーへの祈りや瞑想が、単に個人的な救済を求めるだけでなく、宇宙全体の働きとその根源にある真理との繋がりを深める実践であることを教えています。後の節々で展開される、より具体的な女神の姿や属性への理解を深めるための重要な鍵となる一節です。

第10節

पृथिव्यन्तरिक्षं द्यौरायतनानि ।
अकारोकारमकाररूपोदात्तादिस्वरात्मिका । ॥ 10 ॥
pṛthivyantarikṣaṃ dyaurāyatanāni |
akārokāramakārarūpodāttādisvārātmikā || 10 ||
地 (pṛthivī)・空 (antarikṣa)・天 (dyauḥ) が、その住処(すみか)である。
かの女神は、ア・ウ・マの音をその姿とし、ウダッタ(高音)に始まるヴェーダの音調を、その本質とする。

逐語訳:

  • पृथिवी (pṛthivī) - 地(名詞 女性 単数)
  • अन्तरिक्षम् (antarikṣam) - 空、中間領域(名詞 中性 単数)
  • द्यौः (dyauḥ) - 天(名詞 女性 単数)
    • (これら三つが複合語の前半部 पृथिव्यन्तरिक्षंद्यौर् (pṛthivyantarikṣaṃdyauḥ) を形成)
  • आयतनानि (āyatanāni) - 住処、座、基盤(名詞 中性 複数 主格)
    • (複合語全体 पृथिव्यन्तरिक्षंद्यौरायतनानि (pṛthivyantarikṣaṃdyaurāyatanāni) は「地・空・天を住処とする」の意味)
  • अकार (akāra) - 文字「ア」の音(名詞 男性)
  • उकार (ukāra) - 文字「ウ」の音(名詞 男性)
  • मकार (makāra) - 文字「マ」の音(名詞 男性)
  • रूप (rūpa) - 形、姿、様相(名詞 中性)
  • उदात्त (udātta) - 高音(ヴェーダのアクセントの一種)(形容詞/名詞)
  • आदि (ādi) - ~など、~から始まる(接尾辞的に使用)
  • स्वर (svara) - 音、音調、アクセント(名詞 男性)
  • आत्मिका (ātmikā) - ~を本質とするもの、~そのものである(形容詞 女性 単数 主格)
    • (複合語全体 अकारोकारमकाररूपोदात्तादिस्वरात्मिका (akārokāramakārarūpodāttādisvarātmikā) は「ア・ウ・マの音を姿とし、ウダッタ等の音調を本質とする女性的存在」を意味する)

解説:
この第10節は、第8節の終わりで提起された「ガーヤトリーはいかなる場に宿るか(किम् आयतनम्, kim āyatanaṃ)」、そして「いかなる音を発するか(कः स्वरः, kaḥ svaraḥ)」という問いに応える形で、ガーヤトリーの本質的な属性をさらに明らかにします。前節で示された三つの姿(ガーヤトリー、サーヴィトリー、サラスヴァティー)に共通する普遍的な次元へと、私たちの理解を導きます。

まず前半では、ガーヤトリーの広大な住処(आयतनम्, āyatanaṃ)が示されます。それは「地(पृथिवी, pṛthivī)・空(अन्तरिक्षम्, antarikṣam)・天(द्यौः, dyauḥ)」という、ヴェーダ以来の伝統的な宇宙観における三つの世界すべてです。地は物質的な存在の基盤、空は生命が息づく中間領域、そして天は神々や光明が存在する超越的な領域を象徴します。ガーヤトリーがこれら三界すべてを住処とすることは、彼女が特定の場所に限定される存在ではなく、宇宙のあらゆる次元に遍在する根源的な原理であることを示しています。これはまた、第4節で解き明かされた三つのヴィヤーリティ(व्याहृति, vyāhṛti)、「ブール(भूः, bhūḥ、地)・ブヴァハ(भुवः, bhuvaḥ、空)・スヴァハ(स्वः, svaḥ、天)」が、ガーヤトリーそのものの顕現であることを裏付けています。

後半では、ガーヤトリーの音声的な本質が解き明かされます。彼女は「ア(अ, a)・ウ(उ, u)・マ(म, ma)の音をその姿(रूप, rūpa)とする」と述べられます。この三つの音素は、ヒンドゥー教において最も神聖視される聖音「オーム(ॐ, oṃ)」を構成する要素です。オームは、宇宙の創造・維持・破壊(あるいは覚醒・夢眠・熟睡)の三つの段階を象徴し、言葉を超えた究極的実在、ブラフマン(ब्रह्मन्, brahman)そのものの響きとされます。ガーヤトリーがこの三音素を自身の「姿」とすることは、彼女が単なるマントラではなく、宇宙の根本的な創造の響き、ブラフマンの顕現としての力を持つことを示唆します。

さらに、「ウダッタ(उदात्त, udātta)に始まるヴェーダの音調(स्वर, svara)を、その本質(आत्मिका, ātmikā)とする」と述べられます。ウダッタ(高音)は、アヌダッタ(अनुदात्त, anudātta、低音)、スヴァリタ(स्वरित, svarita、中間音/下降音)と共に、ヴェーダ聖典を正確に伝承し、その力を引き出すために不可欠な三つの基本的なアクセント(音調)です。ガーヤトリーがこれらの音調そのものを本質とすることは、彼女がヴェーダの叡智と力、その神聖な響きの源泉であることを示します。ガーヤトリー・マントラを正しく詠唱することは、単に言葉を発するだけでなく、この宇宙的な音調と共鳴し、その神聖な本質に触れることを意味します。

このように第10節は、ガーヤトリーを宇宙全体に遍在する原理であり、かつ聖音オームやヴェーダの神聖な響きそのものである、深遠な存在として描き出します。ガーヤトリーへの瞑想や詠唱は、この宇宙的な広がりと根源的な響きに自らを同調させ、存在の深奥にある真理へと至る道となるのです。

第11節

पूर्वा सन्ध्या हंसवाहिनी ब्राह्मी ।
मध्यमा वृषभवाहिनी माहेश्वरी ।
पश्चिमा गरुडवाहिनी वैष्णवी । ॥ 11 ॥
pūrvā sandhyā haṃsavāhinī brāhmī |
madhyamā vṛṣabhavāhinī māheśvarī |
paścimā garuḍavāhinī vaiṣṇavī || 11 ||
朝のサンディヤーに顕れるのは、白鳥(ハンサ)を乗り物とするブラーフミー(ブラフマー神の力)である。
昼のサンディヤーには、牡牛(ヴリシャバ)を乗り物とするマーヘーシュヴァリー(シヴァ神の力)である。
そして夕べのサンディヤーには、ガルダを乗り物とするヴァイシュナヴィー(ヴィシュヌ神の力)である。

逐語訳:

  • पूर्वा (pūrvā) - 東の、朝の(形容詞 女性 単数 主格)
  • सन्ध्या (sandhyā) - サンディヤー、黄昏時、移行期、接合点、礼拝(名詞 女性 単数 主格)
  • हंसवाहिनी (haṃsavāhinī) - 白鳥(ハンサ)を乗り物とする女神(複合語 女性 単数 主格)
    • हंस (haṃsa) - 白鳥、ガン
    • वाहिनी (vāhinī) - 乗る者、乗り物とする者(女性形)
  • ब्राह्मी (brāhmī) - ブラーフミー、ブラフマー神の女性的力・シャクティ(名詞 女性 単数 主格)
  • मध्यमा (madhyamā) - 中央の、中間の、昼の(形容詞 女性 単数 主格)
  • वृषभवाहिनी (vṛṣabhavāhinī) - 牡牛(ヴリシャバ)を乗り物とする女神(複合語 女性 単数 主格)
    • वृषभ (vṛṣabha) - 牡牛
    • वाहिनी (vāhinī) - 乗る者、乗り物とする者(女性形)
  • माहेश्वरी (māheśvarī) - マーヘーシュヴァリー、マヘーシュヴァラ(シヴァ神)の女性的力・シャクティ(名詞 女性 単数 主格)
  • पश्चिमा (paścimā) - 西の、夕べの(形容詞 女性 単数 主格)
  • गरुडवाहिनी (garuḍavāhinī) - ガルダを乗り物とする女神(複合語 女性 単数 主格)
    • गरुड (garuḍa) - ガルダ(神話上の聖鳥、ヴィシュヌ神の乗り物)
    • वाहिनी (vāhinī) - 乗る者、乗り物とする者(女性形)
  • वैष्णवी (vaiṣṇavī) - ヴァイシュナヴィー、ヴィシュヌ神の女性的力・シャクティ(名詞 女性 単数 主格)

解説:
この第11節は、ガーヤトリー女神の神秘をさらに深く解き明かし、第9節で示された三つの顕現(ガーヤトリー、サーヴィトリー、サラスヴァティー)が、宇宙を司る根本的な三つの力とどのように結びついているかを明らかにします。ここでは、一日の重要な節目である「サンディヤー」(सन्ध्या, sandhyā)の時間帯と、ヒンドゥー教の主要な三神格の女性的側面(シャクティ)とが関連づけられます。

「サンディヤー」(सन्ध्या, sandhyā)は、文字通りには「接合点」や「移行期」を意味し、特に夜明け、正午、日没という、一日の中で自然界のエネルギーが転換する神聖な時間帯を指します。これらの時間は、霊的な実践、特に「サンディヤー・ヴァンダナ」(सन्ध्यावन्दन, sandhyāvandana)と呼ばれる定時の礼拝にとって極めて重要視されます。この節は、ガーヤトリー女神が、これらサンディヤーの時間を通じて、宇宙の創造・維持・破壊(変容)を司る三つの神聖な力として顕現することを示しています。

まず、「朝のサンディヤー」(पूर्वा सन्ध्या, pūrvā sandhyā)において、女神は「ブラーフミー」(ब्राह्मी, brāhmī)として現れます。ブラーフミーは、宇宙の創造主であるブラフマー(ब्रह्मा, brahmā)神のシャクティ(शक्ति, śakti)、すなわち活動的な力、女性的な顕現です。彼女の乗り物(वाहन, vāhana)は「ハンサ」(हंस, haṃsa)、つまり白鳥(またはガン)であり、これは純粋性、真実と虚偽を見分ける識別力(विवेक, viveka)、そして霊的な覚醒の象徴です。これは第9節における東方の「赤色のガーヤトリー」に対応し、創造のエネルギー、日の出の活力、そしてリグ・ヴェーダ(ऋग्वेद, ṛgveda)の知識(後の第12節で関連付けられる)を体現します。

次に、「昼のサンディヤー」(मध्यमा सन्ध्या, madhyamā sandhyā)において、女神は「マーヘーシュヴァリー」(माहेश्वरी, māheśvarī)として顕れます。マーヘーシュヴァリーは、「偉大なる主」マヘーシュヴァラ(महेश्वर, maheśvara)、すなわちシヴァ(शिव, śiva)神のシャクティです。シヴァ神は破壊と再生、変容を司ります。彼女の乗り物は「ヴリシャバ」(वृषभ, vṛṣabha)、聖なる牡牛であり、これは力、安定性、そしてダルマ(धर्म, dharma、宇宙の法則、義務)の象徴です。これは第9節における中央の「白色のサーヴィトリー」に対応し、太陽が頂点にある昼間の力強さ、宇宙の秩序を維持しつつも変容を促す力、そしてヤジュル・ヴェーダ(यजुर्वेद, yajurveda)の儀礼(後の第13節)と結びつきます。

最後に、「夕べのサンディヤー」(पश्चिमा सन्ध्या, paścimā sandhyā)において、女神は「ヴァイシュナヴィー」(वैष्णवी, vaiṣṇavī)としてその姿を現します。ヴァイシュナヴィーは、宇宙の維持者であるヴィシュヌ(विष्णु, viṣṇu)神のシャクティです。彼女の乗り物は、神話上の聖鳥「ガルダ」(गरुड, garuḍa)であり、これは太陽のように輝き、驚異的な速さで飛翔し、悪を打ち破る力、霊的な速さ、そして保護の象徴です。これは第9節における西方の「黒色のサラスヴァティー」に対応し、一日の終わりにおける宇宙の維持力、万物を包み込む深遠な静けさや叡智、そしてサーマ・ヴェーダ(सामवेद, sāmaveda)の歌詠(後の第14節)と関連づけられます。

このように、第11節は、ガーヤトリーという単一の神聖な原理が、時間の流れの中で、宇宙の根源的な三つの働き(創造・維持・変容)を担う女神として顕現する様を見事に描き出しています。日々のサンディヤー礼拝は、単なる儀式ではなく、これらの宇宙的な力と繋がり、自己の内なる神性に目覚めるための機会となることを示唆しているのです。

第12節

पूर्वाह्णकालिका सन्ध्या गायत्री कुमारी
रक्ता रक्ताङ्गी रक्तवासिनीरक्तगन्धमाल्यानुलेपनी
पाशाकुशाङ्क्षमालाकमण्डलुवरहस्ता
हंसारूढा ब्रह्मदैवत्या ऋग्वेदसहिता
आदित्यपथगामिनी भूमण्डलवासिनी । ॥ 12 ॥
pūrvāhṇakālikā sandhyā gāyatrī kumārī
raktā raktāṅgī raktavāsinīraktagandhamālyānulepanī
pāśākuśāṅkṣamālākamaṇḍaluvarahastā
haṃsārūḍhā brahmadaivatyā ṛgvedasahitā
ādityapathagāminī bhūmaṇḍalavāsinī || 12 ||
朝のサンディヤーに顕れるガーヤトリーは、若き乙女にして、
赤き身体、赤き衣を纏い、赤き香油と花環に飾られ、
手には投縄、鉤、数珠、水瓶、与願の印を携え、
白鳥(ハンサ)に乗り、ブラフマー神を主神とし、リグ・ヴェーダを伴う。
太陽の軌道を進み、地界に住まう方である。

逐語訳:

  • पूर्वाह्णकालिका (pūrvāhṇakālikā) - 朝の時間に属する(女性形容詞 単数 主格)
  • सन्ध्या (sandhyā) - サンディヤー(接合時、礼拝)(女性名詞 単数 主格)
  • गायत्री (gāyatrī) - ガーヤトリー(女性名詞 単数 主格)
  • कुमारी (kumārī) - 若き乙女(女性名詞 単数 主格)
  • रक्ता (raktā) - 赤い(女性形容詞 単数 主格)
  • रक्ताङ्गी (raktāṅgī) - 赤い身体を持つ(女性形容詞複合語 単数 主格; रक्त-aṅgī 赤い-肢体を持つ)
  • रक्तवासिनी (raktavāsinī) - 赤い衣をまとう(女性形容詞複合語 単数 主格; रक्त-vāsinī 赤い-衣を着る者)
  • रक्तगन्धमाल्यानुलेपनी (raktagandhamālyānulepanī) - 赤い香料(gandha)と花環(mālya)と塗油(anulepana)を持つ(ī)(女性形容詞複合語 単数 主格)
  • पाशाङ्कुशाक्षमालाकमण्डलुवरहस्ता (pāśāṅkuśākṣamālākamaṇḍaluvarahastā) - 投縄(pāśa)・鉤(aṅkuśa)・数珠(akṣamālā)・水瓶(kamaṇḍalu)・与願(vara)を手(hasta)に持つ(ā)(女性形容詞複合語 単数 主格)
  • हंसारूढा (haṃsārūḍhā) - 白鳥(ハンサ)に乗る(女性形容詞複合語 単数 主格; हंस-ārūḍhā ハンサに-乗る)
  • ब्रह्मदैवत्या (brahmadaivatyā) - ブラフマー神を主神とする(女性形容詞複合語 単数 主格; ब्रह्म-daivatyā ブラフマーを-神格とする)
  • ऋग्वेदसहिता (ṛgvedasahitā) - リグ・ヴェーダと共にある(女性形容詞複合語 単数 主格; ऋग्वेद-sahitā リグ・ヴェーダと-共にいる)
  • आदित्यपथगामिनी (ādityapathagāminī) - 太陽の道を行く(女性形容詞複合語 単数 主格; आदित्य-patha-gāminī 太陽の-道を行く者)
  • भूमण्डलवासिनी (bhūmaṇḍalavāsinī) - 地の領域に住む(女性形容詞複合語 単数 主格; भू-maṇḍala-vāsinī 地の-領域に-住む者)

解説:
この第12節は、ガーヤトリー女神が顕現する三つの時(サンディヤー、सन्ध्या, sandhyā)のうち、最初の「朝のサンディヤー」(पूर्वाह्णकालिका सन्ध्या, pūrvāhṇakālikā sandhyā)における具体的な姿を、詩的に、そして象徴豊かに描き出しています。瞑想の対象(ध्यानमूर्ति, dhyānamūrti)としても心に描かれる美しい描写です。

まず、朝の女神は「若き乙女」(कुमारी, kumārī)とされます。これは、夜明けの清新さ、純粋無垢な状態、そしてあらゆる可能性を秘めた始まりの力を象徴します。新たな一日、新たな創造が始まるこの時にふさわしい姿です。

彼女の姿は「赤」で統一されています。赤き御身(रक्ताङ्गी, raktāṅgī)、赤き衣(रक्तवासिनी, raktavāsinī)、そして赤き香油、花環、塗油(रक्तगन्धमाल्यानुलेपनी, raktagandhamālyānulepanī)は、昇り来る太陽の光の色であり、生命の躍動、情熱、そして創造のエネルギー(ラジャス、रजस्, rajas)を表します。これは第9節で示された「赤色のガーヤトリー」(रक्ता गायत्री, raktā gāyatrī)の描写を具体化したものです。

女神が手に持つ五つの象徴物(पाशाङ्कुशाक्षमालाकमण्डलुवरहस्ता, pāśāṅkuśākṣamālākamaṇḍaluvarahastā)は、彼女が霊的な道を歩む者にもたらす力と恩寵を示唆します。

  • 投縄(पाश, pāśa): 執着や無知からの解放、あるいは慈悲による衆生の救済を象徴します。
  • 鉤(अङ्कुश, aṅkuśa): 象を導く鉤のように、散乱しがちな心を制御し、正しい方向へと導く力を表します。
  • 数珠(अक्षमाला, akṣamālā): マントラの詠唱や瞑想の実践、その継続性、そして宇宙のサイクルを象徴します。
  • 水瓶(कमण्डलु, kamaṇḍalu): 霊的な浄化、生命を育む甘露(アムリタ)、そして解脱へと導く神聖な知識を象徴します。
  • 与願の印(वर, vara): 手の形で示されるこの印(通常はヴァラダ・ムドラー)は、祈願者への恩寵、祝福、そして望みの成就を約束します。

これらの持ち物は、ガーヤトリーへの帰依が、束縛からの解放、心の制御、修練の継続、浄化、そして神聖な恩寵をもたらすことを示しています。

女神は「白鳥(ハンサ)に乗る」(हंसारूढा, haṃsārūḍhā)とされます。ハンサ(हंस, haṃsa)は、第11節で示されたように、創造神ブラフマー(ब्रह्मा, brahmā)の乗り物であり、ブラーフミー(ब्राह्मी, brāhmī)としての女神の側面を強調します。また、ハンサは純粋性と、真実と虚偽を見分ける霊的な識別力(विवेक, viveka)の象徴でもあります。

彼女は「ブラフマー神を主神とし」(ब्रह्मदैवत्या, brahmadaivatyā)、「リグ・ヴェーダ(ऋग्वेद, ṛgveda)を伴う」(ऋग्वेदसहिता, ṛgvedasahitā)と述べられます。これは、朝のガーヤトリーが宇宙創造の原理と、ヴェーダの中でも最も古層に属するリグ・ヴェーダの叡智と力に深く結びついていることを示します。

最後に、「太陽の軌道を進み」(आदित्यपथगामिनी, ādityapathagāminī)、「地界に住まう」(भूमण्डलवासिनी, bhūmaṇḍalavāsinī)とあります。これは、女神が天上の太陽の運行という宇宙のリズムと調和しつつ、第10節で示された三界(地・空・天)の中でも、特に私たちが生きるこの地上世界(भूमण्डल, bhūmaṇḍala)に恩恵をもたらす存在であることを示しています。

このように、第12節は朝のガーヤトリー女神を、若々しい創造のエネルギー、浄化と導きの力、そして宇宙的な叡智と地上の生命を結びつける神聖な存在として描き出し、深い瞑想と祈りの対象として提示しています。

第13節

मध्याह्नकालिका सन्ध्या सावित्री युवती श्वेताङ्गी
श्वेतवासिनीश्वेतगन्धमाल्यानुलेपनी त्रिशूलडमरुहस्ता
वृषभारूढा रुद्रदैवत्यायजुर्वेदसहिता आदित्यपथगामिनी
भुवोलोके व्यवस्थिता । ॥ 13 ॥
madhyāhnakālikā sandhyā sāvitrī yuvatī śvetāṅgī
śvetavāsinīśvetagandhamālyānulepanī triśūlaḍamaruhastā
vṛṣabhārūḍhā rudradaivatyāyajurvedasahitā ādityapathagāminī
bhuvoloke vyavasthitā || 13 ||
真昼のサンディヤーに顕(あらわ)れるサーヴィトリーは、若々しい女性の姿をとり、白き御身に白き衣をまとい、白き香油と花環にて飾られる。
御手には三叉戟(トリシューラ)と小太鼓(ダマル)を掲げ、聖なる牡牛(ヴリシャバ)に乗り、ルドラ神を主(しゅ)とし、ヤジュル・ヴェーダと共に在(あ)る。
太陽の道を進み、空界(ブヴァルローカ)に座(ざ)す方である。

逐語訳:

  • मध्याह्नकालिका (madhyāhnakālikā) - 正午の時間に属する(女性形容詞 単数 主格)
  • सन्ध्या (sandhyā) - サンディヤー、接合時、礼拝(女性名詞 単数 主格)
  • सावित्री (sāvitrī) - サーヴィトリー(太陽神サヴィトリに関連する女神、ガーヤトリーの一形態)(女性名詞 単数 主格)
  • युवती (yuvatī) - 若々しい女性、成年に達した女性(女性名詞 単数 主格)
  • श्वेताङ्गी (śvetāṅgī) - 白い身体を持つ(女性形容詞複合語 単数 主格; श्वेत-अङ्गी, śveta-aṅgī 白い-肢体を持つ)
  • श्वेतवासिनी (śvetavāsinī) - 白い衣をまとう(女性形容詞複合語 単数 主格; श्वेत-वासिनी, śveta-vāsinī 白い-衣を着る者)
  • श्वेतगन्धमाल्यानुलेपनी (śvetagandhamālyānulepanī) - 白い香料(गन्ध, gandha)・花環(माल्य, mālya)・塗油(अनुलेपन, anulepana)を持つ(ई, ī)(女性形容詞複合語 単数 主格)
  • त्रिशूलडमरुहस्ता (triśūlaḍamaruhastā) - 三叉戟(त्रिशूल, triśūla)と小太鼓(डमरु, ḍamaru)を手(हस्त, hasta)に持つ(आ, ā)(女性形容詞複合語 単数 主格)
  • वृषभारूढा (vṛṣabhārūḍhā) - 牡牛(वृषभ, vṛṣabha)に乗る(आरूढा, ārūḍhā)(女性形容詞複合語 単数 主格)
  • रुद्रदैवत्या (rudradaivatyā) - ルドラ神(रुद्र, rudra)を主神(दैवत्य, daivatya)とする(女性形容詞複合語 単数 主格)
  • यजुर्वेदसहिता (yajurvedasahitā) - ヤジュル・ヴェーダ(यजुर्वेद, yajurveda)と共に(सहिता, sahitā)ある(女性形容詞複合語 単数 主格)
  • आदित्यपथगामिनी (ādityapathagāminī) - 太陽(आदित्य, āditya)の道(पथ, patha)を行く者(गामिनी, gāminī)(女性形容詞複合語 単数 主格)
  • भुवोलोके (bhuvoloke) - 空界(ブヴァルローカ)(भुवस्-लोक, bhuvas-loka)において(男性名詞 単数 所格)
  • व्यवस्थिता (vyavasthitā) - 位置づけられている、確立されている、座している(過去受動分詞 女性 単数 主格)

解説:
この第13節は、一日の節目におけるガーヤトリー女神の顕現を描く三部作の第二部であり、太陽が天空の頂点に輝く「真昼のサンディヤー」(मध्याह्नकालिका सन्ध्या, madhyāhnakālikā sandhyā)における女神の姿を詳述します。朝の若々しい乙女(कुमारी, kumārī)から、ここでは「サーヴィトリー」(सावित्री, sāvitrī)という名で呼ばれる、より成熟した力を持つ「若々しい女性」(युवती, yuvatī)へと女神は変容します。サーヴィトリーは、太陽神サヴィトリ(सवितृ, savitṛ)の女性的エネルギー、すなわち生命を刺激し活性化させる太陽の光輝そのものを体現する存在です。

朝の女神が創造のエネルギーを象徴する「赤」に彩られていたのに対し、真昼のサーヴィトリーは「白」(श्वेत, śveta)を基調とします。白き御身(श्वेताङ्गी, śvetāṅgī)、白き衣(श्वेतवासिनी, śvetavāsinī)、白き香油・花環・塗油(श्वेतगन्धमाल्यानुलेपनी, śvetagandhamālyānulepanī)は、真昼の強烈な太陽の光、曇りのない純粋性、そして宇宙の根源的性質の一つであるサットヴァ(सत्त्व, sattva、純質・光明・調和)を象徴します。この純白の輝きは、無明を払い、真理を明らかにする知性の光、そして霊的な浄化の力を示唆します。

彼女が手に持つのは「三叉戟」(त्रिशूल, triśūla)と「小太鼓」(डमरु, ḍamaru)です。これらは破壊と再生、変容を司るルドラ神(後のシヴァ神)の象徴的な持ち物であり、第11節で示されたマーヘーシュヴァリー(माहेश्वरी, māheśvarī、シヴァ神のシャクティ)としての側面を強調します。三叉戟は、創造・維持・破壊の三つの力、あるいは三つのグナ(गुण, guṇa、サットヴァ・ラジャス・タマス)を統合し超越する力を象徴します。小太鼓の響きは、宇宙創造の原初音(नाद, nāda)、存在の根源的なリズム、そして古い形態を打ち破り新たな始まりを告げる変容の振動を表します。これらは、内なる障害を打ち砕き、宇宙の真理と調和するための力を授ける象徴と解釈できます。

女神は「聖なる牡牛」(वृषभ, vṛṣabha)に乗ります(वृषभारूढा, vṛṣabhārūḍhā)。これはシヴァ神の忠実な乗り物であるナンディン(नन्दिन्, nandin)を連想させ、力強さ、忍耐、安定性、そして宇宙の秩序であるダルマ(धर्म, dharma)を象徴します。霊的な道を歩む上での不動の決意と、正しい行いを支える力を表します。

彼女は「ルドラ神(रुद्र, rudra)を主神とし」(रुद्रदैवत्या, rudradaivatyā)、「ヤジュル・ヴェーダ(यजुर्वेद, yajurveda)と共に在る」(यजुर्वेदसहिता, yajurvedasahitā)とされます。ルドラはヴェーダにおけるシヴァ神の古名であり、時に荒ぶる力として恐れられながらも、障害を取り除き、浄化をもたらす神聖な力として崇められます。ヤジュル・ヴェーダは、儀礼(ヤジュニャ, यज्ञ, yajña)の執行に関するマントラや規則を主とし、行動(カルマ, कर्म, karma)を通じて宇宙との調和を図る道を説きます。真昼のサーヴィトリーは、浄化と変容の力、そして儀礼的・実践的な行いを通じて真理に至る道を示唆します。

最後に、彼女は「太陽の道を進み」(आदित्यपथगामिनी, ādityapathagāminī)、地界(भूमण्डल, bhūmaṇḍala)に住まう朝の女神とは異なり、「空界」(भुवोलोक, bhuvarloka)に座す(व्यवस्थिता, vyavasthitā)と述べられます。ブヴァルローカは、地界(ブールローカ, भूर्लोक, bhūrloka)と天界(スヴァルローカ, स्वर्लोक, svarloka)の中間に位置する領域であり、エネルギーが変容し、精神性が高められる場とされます。これは、霊的な実践を通じて、物質的な次元からより微細なエネルギーの次元へと意識が上昇する過程を象徴的に示しているとも考えられます。

このように第13節は、真昼のサンディヤーにおけるサーヴィトリー女神を、成熟した力と純粋な光明に満ち、変容と浄化を促し、儀礼と実践を通じて空界へと導く神聖な存在として描き出しています。真昼の礼拝や瞑想は、この強力なエネルギーに触れ、内なる変容を加速させるための貴重な機会となるでしょう。

第14節

सायं सन्ध्या सरस्वती वृद्धा कृष्णाङ्गी कृष्णवासिनी
कृष्णगन्धमाल्यानुलेपना शङ्खचक्रगदाभयहस्ता
गरुडारूढा विष्णुदैवत्या सामवेदसहिता आदित्यपथगामिनी
स्वर्गलोकव्यवस्थिता । ॥ 14 ॥
sāyaṃ sandhyā sarasvatī vṛddhā kṛṣṇāṅgī kṛṣṇavāsinī
kṛṣṇagandhamālyānulepanā śaṅkhacakragadābhayahastā
garuḍārūḍhā viṣṇudaivatyā sāmavedasahitā ādityapathagāminī
svargalokavyavasthitā || 14 ||
夕刻のサンディヤーに顕(あらわ)れるサラスヴァティーは、叡智深き老女(ヴリッダー)の姿をとり、黒き御身に黒き衣を纏(まと)い、黒き香(こう)と花環(はなわ)と塗油(ずゆ)にて飾られる。
御手(みて)には法螺貝(シャンカ)、円盤(チャクラ)、棍棒(ガダー)、施無畏印(アバヤ・ムドラー)を掲げ、聖鳥ガルダに乗り、
ヴィシュヌ神を主(あるじ)とし、サーマ・ヴェーダを伴(ともな)い、太陽の道を進み、天界(スヴァルガローカ)に座(いま)す方である。

逐語訳:

  • सायं (sāyaṃ) - 夕方、夕刻(副詞)
  • सन्ध्या (sandhyā) - サンディヤー、黄昏時、接合時、礼拝時(女性名詞 単数 主格)
  • सरस्वती (sarasvatī) - サラスヴァティー(女神の名前、知識と芸術の女神)(女性名詞 単数 主格)
  • वृद्धा (vṛddhā) - 老いた、成熟した、叡智深き(形容詞 女性 単数 主格)
  • कृष्णाङ्गी (kṛṣṇāṅgī) - 黒い身体を持つ(複合語 女性 単数 主格; कृष्ण-अङ्गी (kṛṣṇa-aṅgī) 黒い-肢体)
  • कृष्णवासिनी (kṛṣṇavāsinī) - 黒い衣を纏う(複合語 女性 単数 主格; कृष्ण-वासिनी (kṛṣṇa-vāsinī) 黒い-衣を着る者)
  • कृष्णगन्धमाल्यानुलेपना (kṛṣṇagandhamālyānulepanā) - 黒い香料(गन्ध, gandha)・花環(माल्य, mālya)・塗油(अनुलेपन, anulepana)を持つ(आ, ā)(複合語 女性 単数 主格)
  • शङ्खचक्रगदाभयहस्ता (śaṅkhacakragadābhayahastā) - 法螺貝(शङ्ख, śaṅkha)・円盤(चक्र, cakra)・棍棒(गदा, gadā)・施無畏(अभय, abhaya)を手(हस्त, hasta)に持つ(आ, ā)(複合語 女性 単数 主格)
  • गरुडारूढा (garuḍārūḍhā) - ガルダ(गरुड, garuḍa)に乗る(आरूढा, ārūḍhā)(複合語 女性 単数 主格)
  • विष्णुदैवत्या (viṣṇudaivatyā) - ヴィシュヌ神(विष्णु, viṣṇu)を主神(दैवत्य, daivatya)とする(複合語 女性 単数 主格)
  • सामवेदसहिता (sāmavedasahitā) - サーマ・ヴェーダ(सामवेद, sāmaveda)と共に(सहिता, sahitā)ある(複合語 女性 単数 主格)
  • आदित्यपथगामिनी (ādityapathagāminī) - 太陽(आदित्य, āditya)の道(पथ, patha)を行く者(गामिनी, gāminī)(複合語 女性 単数 主格)
  • स्वर्गलोकव्यवस्थिता (svargalokavyavasthitā) - 天界(スヴァルガローカ)(स्वर्ग-लोक, svarga-loka)に座している(व्यवस्थिता, vyavasthitā)(複合語 女性 単数 主格)

解説:
この第14節は、ガーヤトリー女神の一日における三つの顕現を描く詩的な描写の締めくくりです。ここでは、太陽が西に傾き、一日が終わろうとする「夕刻のサンディヤー」(सायं सन्ध्या, sāyaṃ sandhyā)における女神の姿が、「サラスヴァティー」(सरस्वती, sarasvatī)として、そして「叡智深き老女」(वृद्धा, vṛddhā)として描かれます。朝の純粋な乙女(कुमारी, kumārī)、昼の力強い若き女性(युवती, yuvatī)とは対照的に、この姿は一日の経験を経て得られた円熟した智慧、そして宇宙の深遠な静寂を象徴します。「वृद्धा (vṛddhā)」は単なる老齢ではなく、尊敬と経験に裏打ちされた成熟を示唆する言葉です。

女神の姿は「黒」(कृष्ण, kṛṣṇa)で統一されています。黒き御身(कृष्णाङ्गी, kṛṣṇāṅgī)、黒き衣(कृष्णवासिनी, kṛṣṇavāsinī)、黒き香油・花環・塗油(कृष्णगन्धमाल्यानुलेपना, kṛṣṇagandhamālyānulepanā)は、夜の訪れを告げる夕闇の色であると同時に、宇宙の根源的性質の一つであるタマス(तमस्, tamas)を象徴します。タマスはしばしば不活性や闇と結び付けられますが、ここでは、万物が溶解し還っていく根源的な静寂、測り知れない深遠さ、そして形而上の真理の超越性を表します。それは、朝の創造の「赤」(रक्त, rakta)、昼の維持と純粋性の「白」(श्वेत, śveta)とは異なる、究極的な安らぎと智恵の色なのです。

女神が手に持つのは、宇宙の維持者ヴィシュヌ神(विष्णु, viṣṇu)の象徴です。法螺貝(शङ्ख, śaṅkha)は宇宙の原初の音、覚醒を促す響き。円盤(चक्र, cakra)は宇宙の秩序と時間の循環、悪を断ち切る力。棍棒(गदा, gadā)は知識の力、精神的な強さ。そして施無畏印(अभयमुद्रा, abhayamudrā)は、恐れを取り除き、平安と保護を与える約束の印です。これらは、女神がヴィシュヌ神のシャクティ(शक्ति, śakti)、すなわち女性的エネルギーであるヴァイシュナヴィー(वैष्णवी, vaiṣṇavī)(第11節参照)として、宇宙の維持と調和、そして帰依者への保護を司ることを示しています。

女神は聖鳥「ガルダ」(गरुड, garuḍa)に乗ります。ガルダは、ヴィシュヌ神を乗せ、驚異的な速さで飛翔し、無知や束縛(蛇で象徴される)を克服する力を持つ存在です。これは、霊的な智慧による意識の飛翔、速やかな解脱への道を象徴します。

彼女は「ヴィシュヌ神を主とし」(विष्णुदैवत्या, viṣṇudaivatyā)、「サーマ・ヴェーダ(सामवेद, sāmaveda)を伴う」(सामवेदसहिता, sāmavedasahitā)とされます。サーマ・ヴェーダは美しい旋律で詠唱される聖歌集であり、神聖な音(नाद, nāda)による宇宙との調和、そして深い信仰と瞑想を促します。夕刻の女神は、宇宙の維持者ヴィシュヌの力と、サーマ・ヴェーダの奏でる聖なる音楽と歌の力とを結びつけます。

最後に、女神は「太陽の道を進み」(आदित्यपथगामिनी, ādityapathagāminī)、地界(भूमण्डल, bhūmaṇḍala)の朝、空界(भुवोलोक, bhuvarloka)の昼とは異なり、「天界(スヴァルガローカ)」(स्वर्गलोक, svargaloka)に座す(स्वर्गलोकव्यवस्थिता, svargalokavyavasthitā)と述べられます。これは、意識の最も高められた状態、精神的な達成と至福の境地を象徴します。一日の終わりである夕刻は、外面的な活動から内面へと意識を向け、この深遠な叡智、静寂、そして天上の調和と繋がるための神聖な時間となるのです。

第15節

अग्निवायुसूर्यरूपाऽऽवहनीयगार्हपत्यदक्षिणाग्निरूपा
ऋग्यजु सामरूपा भूर्भुवःस्वरिति व्याहृतिरूपा
प्रातर्मध्याह्नतृतीयसवनात्मिका सत्त्वरजस्तमोगुणात्मिका
जाग्रत्स्वप्नसुषुप्तरूपा वसुरुद्रादित्यरूपा
गायत्रीत्रिष्टुब्जगतीरूपा ब्रह्मशङ्करविष्णुरूपेच्छा-
ज्ञानक्रियाशक्तिरूपा स्वराड्विराड्वषड्ब्रह्मरूपेति । ॥ 15 ॥
agnivāyusūryarūpā''vahanīyagārhapatyadakṣiṇāgnirūpā
ṛgyaju sāmarūpā bhūrbhuvaḥsvariti vyāhṛtirūpā
prātarmadhyāhnatṛtīyasavanātmikā sattvarajastamoguṇātmikā
jāgratsvapnasuṣuptarūpā vasurudrādityarūpā
gāyatrītriṣṭubjagotīrūpā brahmaśaṅkaraviṣṇurūpecchā-
jñānakriyāśaktirūpā svarāḍvirāḍvaṣaḍbrahmarūpeti || 15 ||
(かのガーヤトリーは)火・風・太陽の姿をとり、アーハヴァニーヤ・ガールハパティヤ・ダクシナーという三聖火の姿をとる。
リグ・ヴェーダ、ヤジュル・ヴェーダ、サーマ・ヴェーダの姿であり、「ブール・ブヴァハ・スヴァハ」という三大ヴィヤーフリティ(聖なる発声)の姿である。
朝・昼・第三(夕)のサヴァナ(祭儀の時間)をその本質とし、サットヴァ・ラジャス・タマスという三グナ(宇宙の性質)をその本質とする。覚醒・夢眠・熟睡という三状態の姿をとり、ヴァス神群・ルドラ神群・アーディティヤ神群の姿をとる。
ガーヤトリー・トリシュトゥブ・ジャガティーという三韻律の姿であり、ブラフマー・シャンカラ(シヴァ)・ヴィシュヌという三神の姿をとる。
意欲(イッチヤー)・知識(ジュニャーナ)・行為(クリヤー)という三つのシャクティ(力)の姿であり、スヴァラージ(自ら輝く者)・ヴィラージ(宇宙の顕現)・ヴァシャット(聖なる供犠)・ブラフマン(絶対者)の姿である、と

逐語訳:

  • अग्निवायुसूर्यरूपा (agnivāyusūryarūpā) - 火(अग्नि, agni)・風(वायु, vāyu)・太陽(सूर्य, sūrya)の形態(रूप, rūpa)を持つ(女性 単数 主格)
  • आवहनीयगार्हपत्यदक्षिणाग्निरूपा (āvahanīyagārhapatyadakṣiṇāgnirūpā) - アーハヴァニーヤ火(आहवनीय, āhavanīya)・ガールハパティヤ火(गार्हपत्य, gārhapatya)・ダクシナー火(दक्षिणाग्नि, dakṣiṇāgni)の形態(रूप, rūpa)を持つ(女性 単数 主格)
  • ऋग्यजुःसामरूपा (ṛgyajuḥsāmarūpā) - リグ(ऋक्, ṛk)・ヤジュス(यजुस्, yajus)・サーマ(साम, sāma)の形態(रूप, rūpa)を持つ(女性 単数 主格)
  • भूर्भुवःस्वरिति व्याहृतिरूपा (bhūrbhuvaḥsvariti vyāhṛtirūpā) - 「ブール(भूर्, bhūr)・ブヴァハ(भुवः, bhuvaḥ)・スヴァハ(स्वः, svaḥ)」という(इति, iti)ヴィヤーフリティ(व्याहृति, vyāhṛti)の形態(रूप, rūpa)を持つ(女性 単数 主格)
  • प्रातर्मध्याह्नतृतीयसवनात्मिका (prātarmadhyāhnatṛtīyasavanātmikā) - 朝(प्रातः, prātaḥ)・正午(मध्याह्न, madhyāhna)・第三(तृतीय, tṛtīya)のサヴァナ(सवन, savana)を本質(आत्मिका, ātmikā)とする(女性 単数 主格)
  • सत्त्वरजस्तमोगुणात्मिका (sattvarajastamoguṇātmikā) - サットヴァ(सत्त्व, sattva)・ラジャス(रजस्, rajas)・タマス(तमस्, tamas)のグナ(गुण, guṇa)を本質(आत्मिका, ātmikā)とする(女性 単数 主格)
  • जाग्रत्स्वप्नसुषुप्तरूपा (jāgratsvapnasuṣuptarūpā) - 覚醒(जाग्रत्, jāgrat)・夢眠(स्वप्न, svapna)・熟睡(सुषुप्त, suṣupta)の形態(रूप, rūpa)を持つ(女性 単数 主格)
  • वसुरुद्रादित्यरूपा (vasurudrādityarūpā) - ヴァス(वसु, vasu)・ルドラ(रुद्र, rudra)・アーディティヤ(आदित्य, āditya)の形態(रूप, rūpa)を持つ(女性 単数 主格)
  • गायत्रीत्रिष्टुब्जगतीरूपा (gāyatrītriṣṭubjagatīrūpā) - ガーヤトリー(गायत्री, gāyatrī)・トリシュトゥブ(त्रिष्टुभ्, triṣṭubh)・ジャガティー(जगती, jagatī)の形態(रूप, rūpa)を持つ(女性 単数 主格)
  • ब्रह्मशङ्करविष्णुरूपा (brahmaśaṅkaraviṣṇurūpā) - ブラフマー(ब्रह्म, brahma)・シャンカラ(शङ्कर, śaṅkara)・ヴィシュヌ(विष्णु, viṣṇu)の形態(रूप, rūpa)を持つ(女性 単数 主格)
  • इच्छाज्ञानक्रियाशक्तिरूपा (icchājñānakriyāśaktirūpā) - 意欲(इच्छा, icchā)・知識(ज्ञान, jñāna)・行為(क्रिया, kriyā)のシャクティ(शक्ति, śakti)の形態(रूप, rūpa)を持つ(女性 単数 主格)
  • स्वराड्विराड्वषड्ब्रह्मरूपेति (svarāḍvirāḍvaṣaḍbrahmarūpeti) - スヴァラージ(स्वराज्, svarāj)・ヴィラージ(विराज्, virāj)・ヴァシャット(वषट्, vaṣaṭ)・ブラフマン(ब्रह्म, brahman)の形態(रूप, rūpa)である(इति, iti、〜ということ)

解説:
この第15節は、ガーヤトリー女神(गायत्री, gāyatrī)の本質が、宇宙の森羅万象に遍満する包括的な原理であることを、息をのむような壮大さで明らかにしています。ここでは、一連の「三重性」(一部例外あり)を通して、ガーヤトリーが多様な顕現形態をとりながらも、その根底にある一つの真理であることを示します。

まず、宇宙論的・儀礼的な側面が示されます。ガーヤトリーは、自然界の根源力である火(अग्नि, agni)・風(वायु, vāyu)・太陽(सूर्य, sūrya)の姿をとります。これは、彼女が物質世界の基盤そのものであることを意味します。同時に、ヴェーダの祭祀(ヤジュニャ, यज्ञ, yajña)の中心となる三聖火、すなわち神々への供物を捧げる東のアーハヴァニーヤ火 (आहवनीय, āhavanīya)、家長の火であり他の二火の源である西のガールハパティヤ火 (गार्हपत्य, gārhapatya)、祖霊供養や浄化に関わる南のダクシナーグニ (दक्षिणाग्नि, dakṣiṇāgni) の姿をとるとされます。これにより、ガーヤトリーは聖なる儀礼の実践と不可分に結びつきます。

次に、聖典と聖音の側面です。彼女は、ヴェーダの叡智を伝える三つの主要な聖典、リグ・ヴェーダ (ऋग्वेद, ṛgveda)、ヤジュル・ヴェーダ (यजुर्वेद, yajurveda)、サーマ・ヴェーダ (सामवेद, sāmaveda) の姿そのものです。さらに、ガーヤトリー・マントラの前にも唱えられる、地(भूर्, bhūr)・空(भुवः, bhuvaḥ)・天(स्वः, svaḥ)の三界を象徴する聖なる発声、ヴィヤーフリティ (व्याहृति, vyāhṛti) の姿でもあります。これは、ガーヤトリーが聖なる知識と言葉(ヴァーチ, वाच्, vāc)の源泉であることを示唆します。

時間と実践の側面では、一日の節目に行われる祭儀の時間区分であるサヴァナ (सवन, savana) の三つ(朝、昼、夕)の本質であるとされます。これは前節(第12-14節)で描かれた、朝(ガーヤトリー)、昼(サーヴィトリー)、夕(サラスヴァティー)の女神の顕現と呼応しており、日々の実践における女神の臨在を強調します。

哲学的・心理的な側面では、インド哲学の根幹をなすサーンキヤ哲学の三つのグナ (गुण, guṇa) 、すなわち純質・調和のサットヴァ (सत्त्व, sattva)、激質・活動のラジャス (रजस्, rajas)、暗質・惰性のタマス (तमस्, tamas) という宇宙の根本性質を内包します。また、ヴェーダーンタ哲学が説く人間の意識の三状態、覚醒 (जाग्रत्, jāgrat)・夢眠 (स्वप्न, svapna)・熟睡 (सुषुप्त, suṣupta) の姿をとります。これは、ガーヤトリーが宇宙の構成原理であると同時に、私たちの内なる意識の状態にも深く関わっていることを示します。

神話的・韻律的な側面では、ヴェーダに登場する三群の神々、ヴァス (वसु, Vasu, 8柱)・ルドラ (रुद्र, Rudra, 11柱)・アーディティヤ (आदित्य, Āditya, 12柱) の姿をとります。また、ヴェーダ詩の主要な三つの韻律、ガーヤトリー (गायत्री, gāyatrī, 24音節)・トリシュトゥブ (त्रिष्टुभ्, triṣṭubh, 44音節)・ジャガティー (जगती, jagatī, 48音節) の姿でもあります。興味深いことに、ガーヤトリー自身が韻律の一つでありながら、ここでは他の主要な韻律をも包括する存在として描かれています。さらに、ヒンドゥー教の中心となる三神、創造神ブラフマー (ब्रह्मा, brahmā)・破壊と再生の神シャンカラ (शङ्कर, śaṅkara, シヴァ)・維持神ヴィシュヌ (विष्णु, viṣṇu) の姿をもとるとされます。

最後に、形而上学的な力と究極的実在の側面です。女神は、宇宙を動かす三つの根源的な力(シャクティ, शक्ति, śakti)、すなわち意欲 (इच्छा, icchā)・知識 (ज्ञान, jñāna)・行為 (क्रिया, kriyā) の姿をとります。そして、自ら輝き他に依存しない絶対者としてのスヴァラージ (स्वराज्, svarāj)、宇宙全体として顕現した広大なる存在ヴィラージ (विराज्, virāj)、神聖な供犠とその力を象徴する聖句ヴァシャット (वषट्, vaṣaṭ)、そして万物の根源であり究極の実在であるブラフマン (ब्रह्मन्, brahman) そのものの姿である、と締めくくられます。

このように第15節は、ガーヤトリーを単なる特定の女神やマントラとしてではなく、宇宙のあらゆる次元、現象、原理、力を内包する、普遍的かつ根源的な存在として描き出しています。この節を瞑想することは、個人の意識を宇宙大の広がりへと拡張し、万物の根底に流れる聖なる力との一体感を深める助けとなるでしょう。

第16節

प्रथममाग्नेयं द्वितीयं प्राजापत्यं तृतीयं सौम्यं
चतुर्थमीशानं पञ्चममादित्यं षष्ठं गार्हपत्यं
सप्तमं मैत्रमष्टमं भगदैवतं नवममार्यमणं
दशमं सावित्रमेकादशं त्वाष्ट्रं
द्वादशं पौष्णं त्रयोदशमैद्राग्नं चतुर्दशं वायव्यं
पञ्चदशं वामदेवं षोडशं मैत्रावरुणं
सप्तदशं भ्रातृव्यमष्टादशं वैष्णवमेकोनविंशं वामनं
विंशं वैश्वदेवमेकविंशं रौद्रं द्वाविंशं कौबेरं
त्रयोविंशमाश्विनं चतुर्विंशं ब्राह्ममिति प्रत्यक्षरदैवतानि । ॥ 16 ॥
prathamam āgneyaṃ dvitīyaṃ prājāpatyaṃ tṛtīyaṃ saumyaṃ
caturtham īśānaṃ pañcamam ādityaṃ ṣaṣṭhaṃ gārhapatyaṃ
saptamaṃ maitramaṣṭamaṃ bhagadaivataṃ navamam āryamaṇaṃ
daśamaṃ sāvitram ekādaśaṃ tvāṣṭraṃ
dvādaśaṃ pauṣṇaṃ trayodaśam aindrāgnaṃ caturdaśaṃ vāyavyaṃ
pañcadaśaṃ vāmadevaṃ ṣoḍaśaṃ maitrāvaruṇaṃ
saptadaśaṃ bhrātṛvyam aṣṭādaśaṃ vaiṣṇavam ekonaviṃśaṃ vāmanaṃ
viṃśaṃ vaiśvadevam ekaviṃśaṃ raudraṃ dvāviṃśaṃ kauberaṃ
trayoviṃśam āśvinaṃ caturviṃśaṃ brāhmam iti pratyakṣaradaivatāni || 16 ||
第一の音節は火神アグニに、第二は創造神プラジャーパティに、第三はソーマ神に、第四は支配神イーシャーナに、第五は太陽神アーディティヤに、第六は家主の聖火ガールハパティヤに、
第七は契約神ミトラに、第八は幸運神バガに、第九は盟友神アーリヤマンに、第十は光輝神サヴィトリに、第十一は工匠神トヴァシュトリに、第十二は滋養神プーシャンに、第十三はインドラ・アグニ両神に、
第十四は風神ヴァーユに、第十五はヴァーマデーヴァ神に、第十六はミトラ・ヴァルナ両神に、第十七は対立する力に、第十八は維持神ヴィシュヌに、第十九は矮人神ヴァーマナに、第二十は万神ヴィシュヴェーデーヴァに、
第二十一は荒神ルドラに、第二十二は富神クベーラに、第二十三は双神アシュヴィンに、第二十四は至高の実在ブラフマンに捧げられる。これらが各音節に宿る神々である。

逐語訳:

  • प्रथमम् (prathamam) - 第一の(もの)(中性 単数 主格/対格)
  • आग्नेयम् (āgneyam) - 火神アグニに属する(中性 単数 主格/対格)
  • द्वितीयम् (dvitīyam) - 第二の(もの)(中性 単数 主格/対格)
  • प्राजापत्यम् (prājāpatyam) - 創造神プラジャーパティに属する(中性 単数 主格/対格)
  • तृतीयम् (tṛtīyam) - 第三の(もの)(中性 単数 主格/対格)
  • सौम्यम् (saumyam) - ソーマ神に属する(中性 単数 主格/対格)
  • चतुर्थम् (caturtham) - 第四の(もの)(中性 単数 主格/対格)
  • ईशानम् (īśānam) - 支配神イーシャーナに属する(中性 単数 主格/対格)
  • पञ्चमम् (pañcamam) - 第五の(もの)(中性 単数 主格/対格)
  • आदित्यम् (ādityam) - 太陽神アーディティヤに属する(中性 単数 主格/対格)
  • षष्ठम् (ṣaṣṭham) - 第六の(もの)(中性 単数 主格/対格)
  • गार्हपत्यम् (gārhapatyam) - 家主の聖火ガールハパティヤに属する(中性 単数 主格/対格)
  • सप्तमम् (saptamam) - 第七の(もの)(中性 単数 主格/対格)
  • मैत्रम् (maitram) - 契約神ミトラに属する(中性 単数 主格/対格)
  • अष्टमम् (aṣṭamam) - 第八の(もの)(中性 単数 主格/対格)
  • भगदैवतम् (bhagadaivatam) - 幸運神バガを主神とする(中性 単数 主格/対格)
  • नवमम् (navamam) - 第九の(もの)(中性 単数 主格/対格)
  • आर्यमणम् (āryamaṇam) - 盟友神アーリヤマンに属する(中性 単数 主格/対格)
  • दशमम् (daśamam) - 第十の(もの)(中性 単数 主格/対格)
  • सावित्रम् (sāvitram) - 光輝神サヴィトリに属する(中性 単数 主格/対格)
  • एकादशम् (ekādaśam) - 第十一の(もの)(中性 単数 主格/対格)
  • त्वाष्ट्रम् (tvāṣṭram) - 工匠神トヴァシュトリに属する(中性 単数 主格/対格)
  • द्वादशम् (dvādaśam) - 第十二の(もの)(中性 単数 主格/対格)
  • पौष्णम् (pauṣṇam) - 滋養神プーシャンに属する(中性 単数 主格/対格)
  • त्रयोदशम् (trayodaśam) - 第十三の(もの)(中性 単数 主格/対格)
  • ऐन्द्राग्नम् (aindrāgnam) - インドラ神とアグニ神に属する(中性 単数 主格/対格)
  • चतुर्दशम् (caturdaśam) - 第十四の(もの)(中性 単数 主格/対格)
  • वायव्यम् (vāyavyam) - 風神ヴァーユに属する(中性 単数 主格/対格)
  • पञ्चदशम् (pañcadaśam) - 第十五の(もの)(中性 単数 主格/対格)
  • वामदेवम् (vāmadevam) - ヴァーマデーヴァ神に属する(中性 単数 主格/対格)
  • षोडशम् (ṣoḍaśam) - 第十六の(もの)(中性 単数 主格/対格)
  • मैत्रावरुणम् (maitrāvaruṇam) - ミトラ神とヴァルナ神に属する(中性 単数 主格/対格)
  • सप्तदशम् (saptadaśam) - 第十七の(もの)(中性 単数 主格/対格)
  • भ्रातृव्यम् (bhrātṛvyam) - 対立する力、敵対者(あるいは兄弟の子)に属する(中性 単数 主格/対格)
  • अष्टादशम् (aṣṭādaśam) - 第十八の(もの)(中性 単数 主格/対格)
  • वैष्णवम् (vaiṣṇavam) - 維持神ヴィシュヌに属する(中性 単数 主格/対格)
  • एकोनविंशम् (ekonaviṃśam) - 第十九の(もの)(中性 単数 主格/対格)
  • वामनम् (vāmanam) - 矮人神ヴァーマナに属する(中性 単数 主格/対格)
  • विंशम् (viṃśam) - 第二十の(もの)(中性 単数 主格/対格)
  • वैश्वदेवम् (vaiśvadevam) - 万神ヴィシュヴェーデーヴァに属する(中性 単数 主格/対格)
  • एकविंशम् (ekaviṃśam) - 第二十一の(もの)(中性 単数 主格/対格)
  • रौद्रम् (raudram) - 荒神ルドラに属する(中性 単数 主格/対格)
  • द्वाविंशम् (dvāviṃśam) - 第二十二の(もの)(中性 単数 主格/対格)
  • कौबेरम् (kauberam) - 富神クベーラに属する(中性 単数 主格/対格)
  • त्रयोविंशम् (trayoviṃśam) - 第二十三の(もの)(中性 単数 主格/対格)
  • आश्विनम् (āśvinam) - 双神アシュヴィンに属する(中性 単数 主格/対格)
  • चतुर्विंशम् (caturviṃśam) - 第二十四の(もの)(中性 単数 主格/対格)
  • ब्राह्मम् (brāhmam) - 至高の実在ブラフマンに属する(中性 単数 主格/対格)
  • इति (iti) - このように、と
  • प्रत्यक्षरदैवतानि (pratyakṣaradaivatāni) - 各々の音節の神格(中性 複数 主格)

解説:
この第16節は、ガーヤトリー・マントラ (गायत्री मन्त्र, gāyatrī mantra) の核心部分、すなわち「तत्सवितुर्वरेण्यं भर्गो देवस्य धीमहि धियो यो नः प्रचोदयात् (tatsaviturvareṇyaṃ bhargo devasya dhīmahi dhiyo yo naḥ pracodayāt)」を構成する二十四の音節 (अक्षर, akṣara) それぞれに宿る守護神格 (दैवत, daivata) を明示する、極めて重要な箇所です。インドの聖音哲学において、音節は単なる音の響きではなく、宇宙の創造的エネルギーを内包する神聖な力 (शक्ति, śakti) の顕現であり、特定の神格と深く結びついています。各音節を意識的に唱えることは、その音節に対応する神格の力を呼び覚まし、その恩恵を呼び込む行為とされます。

ここに列挙される神格は、ヴェーダからプラーナに至るヒンドゥー教の広大な神々の体系を反映しており、宇宙の多様な側面を網羅しています。

  • 火神アグニ (अग्नि, agni):祭祀の中心、浄化の力
  • 創造神プラジャーパティ (प्रजापति, prajāpati):万物の創造主
  • ソーマ (सोम, soma):神々の飲料、月、植物の滋養
  • 支配神イーシャーナ (ईशान, īśāna):シヴァ神の一形態、東北方の守護神
  • 太陽神アーディティヤ (आदित्य, āditya):生命の源、光明
  • 家主の聖火ガールハパティヤ (गार्हपत्य, gārhapatya):家庭の祭祀の中心
  • 契約神ミトラ (मित्र, mitra):盟約、友情、太陽神の一側面
  • 幸運神バガ (भग, bhaga):幸運、富、分配
  • 盟友神アーリヤマン (अर्यमन्, aryaman):歓待、祖霊、太陽神の一側面
  • 光輝神サヴィトリ (सवितृ, savitṛ):活性化させる太陽、ガーヤトリー・マントラの主神
  • 工匠神トヴァシュトリ (त्वष्टृ, tvaṣṭṛ):神々の武具や道具を作る工匠
  • 滋養神プーシャン (पूषन्, pūṣan):道を示す者、家畜の守護者、滋養
  • インドラ・アグニ (इन्द्राग्नी, indrāgnī):雷霆神と火神の強力なペア
  • 風神ヴァーユ (वायु, vāyu):風、生命の息吹(プラーナ)
  • ヴァーマデーヴァ (वामदेव, vāmadeva):シヴァ神の一面、あるいは古代の聖仙
  • ミトラ・ヴァルナ (मित्रावरुणौ, mitrāvaruṇau):契約と宇宙法則を司る神々のペア
  • 対立する力 (भ्रातृव्य, bhrātṛvya):文字通りには「敵対者」や「従兄弟」。これは克服すべき内外的障害、あるいは競争原理を象徴し、マントラの力がそれを制御し超越する可能性を示唆します。
  • 維持神ヴィシュヌ (विष्णु, viṣṇu):宇宙の維持と秩序の守護者
  • 矮人神ヴァーマナ (वामन, vāmana):ヴィシュヌの第五化身、三歩で宇宙を測った
  • 万神ヴィシュヴェーデーヴァ (विश्वेदेवाः, viśvedevāḥ):すべての神々の集合体
  • 荒神ルドラ (रुद्र, rudra):シヴァ神の古名、破壊と再生、嵐の力
  • 富神クベーラ (कुबेर, kubera):富と財宝の守護神、北方の守護神
  • 双神アシュヴィン (अश्विनौ, aśvinau):暁の神々、医術と若返りの神
  • 至高の実在ブラフマン (ब्रह्मन्, brahman):宇宙の究極的根源、絶対者

このように、ガーヤトリー・マントラは、これらの多様な神々の力を一つの聖なる音の流れの中に凝縮しています。唱える者は、個々の音節を通じてこれらの神格と繋がり、その特質や恩恵を内面化することができます。特に注目すべきは、最後の第二十四音節が究極の実在であるブラフマン (ब्रह्मन्, brahman) に捧げられている点です。これは、マントラの旅が、多様な神格の顕現を通じて、最終的には万物の根源である絶対者との合一へと至る道であることを明確に示しています。この知識は、ガーヤトリー・マントラの詠唱 (जप, japa) や瞑想を、より深く、意識的なものとし、霊的な変容を促すための貴重な鍵となるでしょう。

第17節

प्रथमं वासिष्ठं द्वितीयं भारद्वाजं तृतीयं गार्ग्यं
चतुर्थमुपमन्यवं पञ्चमं भार्गवं षष्ठं शाण्डिल्यं
सप्तमं लोहितमाष्टमं वैष्णवं नवमं शातातपं
दशमं सनत्कुमारमेकादशं वेदव्यासं द्वादशं शुकं
त्रयोदशं पाराशर्यं चतुर्दशं पौण्ड्रकं पञ्चदशं क्रतुं
षोडशं दाक्षं सप्तदशं काश्यपमष्टादशमात्रेयम्-
एकोनविंशमगस्त्यं विंशमौद्दालकमेकविंशमाङ्गिरसं
द्वाविंशं नामिकेतुं त्रयोविंशं मौद्गल्यं चतुर्विंशमाङ्गिरस
वैश्वामित्रमिति प्रत्यक्षराणामृषयो भवन्ति । ॥ 17 ॥
prathamaṃ vāsiṣṭhaṃ dvitīyaṃ bhāradvājaṃ tṛtīyaṃ gārgyaṃ
caturtham upamanyavaṃ pañcamaṃ bhārgavaṃ ṣaṣṭhaṃ śāṇḍilyaṃ
saptamaṃ lohitam aṣṭamaṃ vaiṣṇavaṃ navamaṃ śātātapaṃ
daśamaṃ sanatkumāram ekādaśaṃ vedavyāsaṃ dvādaśaṃ śukaṃ
trayodaśaṃ pārāśaryaṃ caturdaśaṃ pauṇḍrakaṃ pañcadaśaṃ kratuṃ
ṣoḍaśaṃ dākṣaṃ saptadaśaṃ kāśyapam aṣṭādaśam ātreyam-
ekonaviṃśam agastyaṃ viṃśam auddālakam ekaviṃśam āṅgirasaṃ
dvāviṃśaṃ nāmiketuṃ trayoviṃśaṃ maudgalyaṃ caturviṃśaṃ āṅgirasa-
vaiśvāmitram iti pratyakṣarāṇām ṛṣayo bhavanti || 17 ||
第一の音節は聖仙ヴァシシュタに、第二は聖仙バラドヴァージャに、第三は聖仙ガールギャに、第四は聖仙ウパマニュに、第五は聖仙バールガヴァに、第六は聖仙シャーンディリヤに、
第七は聖仙ローヒタに、第八は聖仙ヴァイシュナヴァに、第九は聖仙シャータータパに、第十は聖仙サナットクマーラに、第十一は聖仙ヴェーダヴィヤーサに、第十二は聖仙シュカに、第十三は聖仙パーラーシャリヤに、
第十四は聖仙パウンドラカに、第十五は聖仙クラトゥに、第十六は聖仙ダークシャに、第十七は聖仙カーシュヤパに、第十八は聖仙アートレーヤに、第十九は聖仙アガスティヤに、第二十は聖仙ウッダーラカに、
第二十一は聖仙アーンギラサに、第二十二は聖仙ナーミケートゥに、第二十三は聖仙マウドガルヤに、第二十四は聖仙アーンギラサと聖仙ヴィシュヴァーミトラに(由来する)。
これらが各音節に対応する聖仙たちである。

逐語訳:

  • प्रथमम् (prathamam) - 第一の(もの)(中性 単数 主格/対格)
  • वासिष्ठम् (vāsiṣṭham) - 聖仙ヴァシシュタに属する、由来する(中性 単数 主格/対格)
  • द्वितीयम् (dvitīyam) - 第二の(もの)
  • भारद्वाजम् (bhāradvājam) - 聖仙バラドヴァージャに属する、由来する
  • तृतीयम् (tṛtīyam) - 第三の(もの)
  • गार्ग्यम् (gārgyam) - 聖仙ガールギャに属する、由来する
  • चतुर्थम् (caturtham) - 第四の(もの)
  • उपमन्यवम् (upamanyavam) - 聖仙ウパマニュに属する、由来する
  • पञ्चमम् (pañcamam) - 第五の(もの)
  • भार्गवम् (bhārgavam) - 聖仙バールガヴァ(ブリグの子孫)に属する、由来する
  • षष्ठम् (ṣaṣṭham) - 第六の(もの)
  • शाण्डिल्यम् (śāṇḍilyam) - 聖仙シャーンディリヤに属する、由来する
  • सप्तमम् (saptamam) - 第七の(もの)
  • लोहितम् (lohitam) - 聖仙ローヒタに属する、由来する
  • अष्टमम् (aṣṭamam) - 第八の(もの)
  • वैष्णवम् (vaiṣṇavam) - 聖仙ヴァイシュナヴァ(ヴィシュヌに帰依する聖仙)に属する、由来する
  • नवमम् (navamam) - 第九の(もの)
  • शातातपम् (śātātapam) - 聖仙シャータータパに属する、由来する
  • दशमम् (daśamam) - 第十の(もの)
  • सनत्कुमारम् (sanatkumāram) - 聖仙サナットクマーラに属する、由来する
  • एकादशम् (ekādaśam) - 第十一の(もの)
  • वेदव्यासम् (vedavyāsam) - 聖仙ヴェーダヴィヤーサに属する、由来する
  • द्वादशम् (dvādaśam) - 第十二の(もの)
  • शुकम् (śukam) - 聖仙シュカに属する、由来する
  • त्रयोदशम् (trayodaśam) - 第十三の(もの)
  • पाराशर्यम् (pārāśaryam) - 聖仙パーラーシャリヤ(パラーシャラの子孫)に属する、由来する
  • चतुर्दशम् (caturdaśam) - 第十四の(もの)
  • पौण्ड्रकम् (pauṇḍrakam) - 聖仙パウンドラカに属する、由来する
  • पञ्चदशम् (pañcadaśam) - 第十五の(もの)
  • क्रतुम् (kratum) - 聖仙クラトゥに属する、由来する
  • षोडशम् (ṣoḍaśam) - 第十六の(もの)
  • दाक्षम् (dākṣam) - 聖仙ダークシャ(ダクシャの子孫)に属する、由来する
  • सप्तदशम् (saptadaśam) - 第十七の(もの)
  • काश्यपम् (kāśyapam) - 聖仙カーシュヤパに属する、由来する
  • अष्टादशम् (aṣṭādaśam) - 第十八の(もの)
  • आत्रेयम् (ātreyam) - 聖仙アートレーヤ(アトリの子孫)に属する、由来する
  • एकोनविंशम् (ekonaviṃśam) - 第十九の(もの)
  • अगस्त्यम् (agastyam) - 聖仙アガスティヤに属する、由来する
  • विंशम् (viṃśam) - 第二十の(もの)
  • औद्दालकम् (auddālakam) - 聖仙ウッダーラカに属する、由来する
  • एकविंशम् (ekaviṃśam) - 第二十一の(もの)
  • आङ्गिरसम् (āṅgirasam) - 聖仙アーンギラサ(アンギラスの子孫)に属する、由来する
  • द्वाविंशम् (dvāviṃśam) - 第二十二の(もの)
  • नामिकेतुम् (nāmiketum) - 聖仙ナーミケートゥに属する、由来する
  • त्रयोविंशम् (trayoviṃśam) - 第二十三の(もの)
  • मौद्गल्यम् (maudgalyam) - 聖仙マウドガルヤ(ムドガラの子孫)に属する、由来する
  • चतुर्विंशम् (caturviṃśam) - 第二十四の(もの)
  • आङ्गिरसवैश्वामित्रम् (āṅgirasavaiśvāmitram) - 聖仙アーンギラサと聖仙ヴィシュヴァーミトラに属する、由来する (āṅgirasa-vaiśvāmitram)
  • इति (iti) - このように、と
  • प्रत्यक्षराणाम् (pratyakṣarāṇām) - 各々の音節の(男性/中性 複数 属格)
  • ऋषयः (ṛṣayaḥ) - 聖仙たち(男性 複数 主格)
  • भवन्ति (bhavanti) - 存在する、〜である(動詞 essere の3人称 複数 現在形)

解説:
前節ではガーヤトリー・マントラ (गायत्री मन्त्र, gāyatrī mantra) の二十四の音節 (अक्षर, akṣara) それぞれに宿る神格(デーヴァター, देवता, devatā)が明らかにされましたが、この第17節では、さらにその霊的な源流へと遡り、各音節に対応する二十四の聖仙(リシ, ऋषि, ṛṣi)が示されます。リシとは、深遠な瞑想の中でヴェーダのマントラ(聖句)を「見た」(感得した)とされる賢者たちであり、神聖な知識の伝承において極めて重要な役割を担っています。彼らは単なる作者ではなく、宇宙の真理が顕現するための媒体となった存在です。

ここに列挙される聖仙たちの名前は、インド数千年の精神史を彩る偉大な賢者たちの系譜そのものです。例えば、第一音節のヴァシシュタ (वसिष्ठ, vasiṣṭha) は、リグ・ヴェーダ (ऋग्वेद, ṛgveda) における主要な七聖仙の一人であり、叙事詩『ラーマーヤナ』 (रामायण, rāmāyaṇa) では聖王ラーマの師としても知られます。第十一音節のヴェーダヴィヤーサ (वेदव्यास, vedavyāsa) は、ヴェーダ聖典を編纂し、壮大な叙事詩『マハーバーラタ』 (महाभारत, mahābhārata) や多くのプラーナ (पुराण, purāṇa) を著したとされる伝説的な大賢者です。彼の息子であり第十二音節に名を連ねるシュカ (शुक, śuka) は、至高のバクティ(信愛)を説く『バーガヴァタ・プラーナ』 (भागवतपुराण, bhāgavata-purāṇa) の語り手として有名です。

また、第十九音節のアガスティヤ (अगस्त्य, agastya) は南インドにヴェーダ文化を伝えたとされる聖仙、第二十音節のウッダーラカ (उद्दालक, uddālaka) はウパニシャッド (उपनिषद्, upaniṣad) における深遠な哲学的対話で知られ、そして第二十四音節には、このガーヤトリー・マントラそのものを最初に感得したとされるヴィシュヴァーミトラ (विश्वामित्र, viśvāmitra) の名が見られます。このように、ガーヤトリー・マントラは、ヴェーダ、ウパニシャッド、叙事詩、プラーナといったインドの叡智の源流たる聖仙たちの霊的な力と深く結びついているのです。

この知識は、マントラの詠唱 (जप, japa) や瞑想の実践において重要な意味を持ちます。各音節を唱える際に、対応する聖仙を心に観想し、敬意を捧げる「リシ・ニヤーサ」 (ऋषि न्यास, ṛṣi nyāsa) という行法があります。これは、単に名前を記憶するのではなく、その音節を通じて聖仙の意識、智慧、徳性、そして霊的な力と繋がり、自らの内に招き入れるための神聖な作法です。これにより、マントラは単なる音の連なりを超え、生きた霊的エネルギーの流れとして体験されます。

インドの音の哲学、「シャブダ・ヴィディヤー」 (शब्द विद्या, śabda vidyā) において、音節(アクシャラ, अक्षर, akṣara)は「不滅なるもの」を意味し、宇宙の創造的エネルギーの顕現と考えられます。この節は、ガーヤトリーの各音節が、これらの偉大な聖仙たちの深遠な霊的体験と不可分に結びついた、聖なる力の担い手であることを示しています。

特筆すべきは、最後の第二十四音節がアーンギラサ (आङ्गिरस, āṅgirasa) とヴィシュヴァーミトラ (विश्वामित्र, viśvāmitra) という二人の聖仙に捧げられている点です。アーンギラサは火神アグニ (अग्नि, agni) と縁深く、火の儀礼と聖なる言葉の力に通じた聖仙族です。マントラの感得者ヴィシュヴァーミトラと共に挙げられることで、ガーヤトリー・マントラの成就には、霊的な洞察力と、それを顕現させる儀礼的・言語的な力の両方が統合されていることを象徴しているのかもしれません。この聖仙たちの知識は、ガーヤトリー・マントラへの理解を深め、その実践をより豊かで意義深いものとするでしょう。

第18節

गायत्रीत्रिष्टुब्जगत्यनुष्टुप्पङ्क्तिर्बृहत्युष्णिगदितिरिति
त्रिरावृत्तेन छन्दांसि प्रतिपाद्यन्ते । ॥ 18 ॥
gāyatrītriṣṭubjagatyanuṣṭuppaṅktirbṛhatyuṣṇigaditiriti
trirāvṛttena chandāṃsi pratipādyante || 18 ||
ガーヤトリー、トリシュトゥブ、ジャガティー、アヌシュトゥブ、パンクティ、ブリハティー、ウシュニク、アディティといった(ヴェーダの主要な)韻律は、三度の反復によって、その神聖なる本質が確立される(あるいは、完全に成就される)。

逐語訳:

  • गायत्री (gāyatrī) - ガーヤトリー(24音節の韻律、女性 単数 主格)
  • त्रिष्टुभ् (triṣṭubh) - トリシュトゥブ(44音節の韻律、女性 単数 主格、連声で -j に変化)
  • जगती (jagatī) - ジャガティー(48音節の韻律、女性 単数 主格)
  • अनुष्टुप् (anuṣṭup) - アヌシュトゥブ(32音節の韻律、女性 単数 主格、連声で -p に変化)
  • पङ्क्तिः (paṅktiḥ) - パンクティ(40音節の韻律、女性 単数 主格、連声で -r に変化)
  • बृहती (bṛhatī) - ブリハティー(36音節の韻律、女性 単数 主格)
  • उष्णिक् (uṣṇik) - ウシュニク(28音節の韻律、女性 単数 主格、連声で -g に変化)
  • अदितिः (aditiḥ) - アディティ(韻律の一種、あるいは「無限」の意、女性 単数 主格、連声で最後の -ḥ が脱落)
  • इति (iti) - このように、〜と(不変化詞)
  • त्रिरावृत्तेन (trirāvṛttena) - 三回(त्रिः, triḥ)の反復(आवृत्ति, āvṛtti)によって(男性/中性 単数 具格)
  • छन्दांसि (chandāṃsi) - 諸々の韻律(छन्दस्, chandas、中性 複数 主格/対格)
  • प्रतिपाद्यन्ते (pratipādyante) - 確立される、成就される、完全に理解される、教示される、与えられる(動詞 prati-pad の使役受動態 現在 3人称 複数)

解説:
この第18節は、ヴェーダ聖典における「韻律(छन्दस्, chandas)」の重要性と、その力を完全に引き出すための鍵について述べています。古代インドにおいて、韻律は単なる詩のリズムや形式ではありませんでした。それは、宇宙の根源的な秩序と調和(ऋत, ṛta)を反映する音の構造であり、聖仙(ऋषि, ṛṣi)たちが深遠な瞑想の中で感得した神聖な力の担い手と考えられていました。言葉に特定の韻律を与えることは、その言葉に特別な効力と生命を吹き込む行為そのものだったのです。

ここに列挙されているガーヤトリー(गायत्री, gāyatrī)、トリシュトゥブ(त्रिष्टुभ्, triṣṭubh)、ジャガティー(जगती, jagatī)、アヌシュトゥブ(अनुष्टुभ्, anuṣṭubh)、パンクティ(पङ्क्ति, paṅkti)、ブリハティー(बृहती, bṛhatī)、ウシュニク(उष्णिग्, uṣṇig)、そしてアディティ(अदिति, aditi)は、ヴェーダで用いられる主要な韻律です。特に最初の三つは、第15節でガーヤトリー女神自身の顕現形態としても語られており、これらの韻律そのものが神聖なエネルギーの多様な側面を表現していることを示唆します。それぞれが持つ音節数(例:ガーヤトリーは24音節、アヌシュトゥブは32音節)とリズムは、固有の霊的な響きと力を持ちます。

本節の核心は、「三度の反復によって(त्रिरावृत्तेन, trirāvṛttena)」という句にあります。なぜ三度なのでしょうか。インドの精神的伝統において、「三」という数字は特別な意味を持ちます。それは完全性、成就、安定性を象徴し、多くの聖なる概念と結びついています。例えば、宇宙の三つの領域(地界・空界・天界)、時間の三相(過去・現在・未来)、存在の三つの性質・グナ(गुण, guṇa:サットヴァ・ラジャス・タマス)、意識の三状態(覚醒・夢眠・熟睡)、そしてヒンドゥー教の三主神(ブラフマー・ヴィシュヌ・シヴァ)などです。マントラや聖句を三度唱えることは、これらの多層的な次元すべてにその力を浸透させ、完全な効果を発揮させるための神聖な作法とされます。日々の儀礼であるサンディヤー・ヴァンダナ(सन्ध्यावन्दन, sandhyāvandana)において、ガーヤトリー・マントラが朝・昼・夕に繰り返し唱えられるのも、この原理に基づいています。

そして、この三度の反復によって、これらの韻律は「प्रतिपाद्यन्ते (pratipādyante)」される、と述べられます。この動詞は多義的ですが、ここでは単に「教えられる」「理解される」という意味を超えて、「(その本来の力が)確立される」「完全に成就される」「効力が発揮される」「顕現される」といった、より深くダイナミックな意味合いで解釈するのが適切でしょう。三度の反復という意識的な実践を通じて、韻律に秘められた神聖なエネルギーが活性化され、確固たるものとなり、唱える者やその環境に具体的な影響をもたらすのです。抽象的な知識が、生きた力と体験へと昇華されるプロセスが示唆されています。

したがって、この節は、ヴェーダの叡智の核心である音と言葉の力を最大限に引き出すための、実践的な鍵を提示しています。それは、単に聖句を知るだけでなく、それを定められた韻律に乗せ、敬虔な心で三度繰り返すことの重要性です。この実践を通じて、私たちは宇宙のリズムと調和し、聖なる韻律に宿る力を自らの内に呼び覚まし、確立することができるのです。それは、音の響きを通じて、深遠なる真理との繋がりを深めるための、古来より受け継がれてきた道筋を示しています。

第19節

प्रह्लादिनी प्रज्ञाविश्वभद्रा
विलासिनी प्रभा शान्ता मा कान्ति स्पर्शा दुर्गा सरस्वती विरूपा
विशालाक्षी शालिनी व्यापिनी विमला तमोऽपहारिणीसूक्ष्मावयवा
पद्मालया विरजा विश्वरूपा भद्रा कृपासर्वतोमुखीति
चतुर्विंशतिशक्तयो निगद्यन्ते । ॥ 19 ॥
prahlādinī prajñāviśvabhadrā
vilāsinī prabhā śāntā mā kānti sparśā durgā sarasvatī virūpā
viśālākṣī śālinī vyāpinī vimalā tamo'pahāriṇīsūkṣmāvayavā
padmālayā virajā viśvarūpā bhadrā kṛpāsarvatomukhīti
caturviṃśatiśaktayo nigadyante || 19 ||
歓びを満たす力、深き智慧、遍く世界の安寧、
戯れる優美、光輝、静寂、母なる育む力、美しさ、霊的な触れ合い、難事を越えさせるドゥルガー、知恵の女神サラスヴァティー、万の姿をとる力、
広大なる眼差し、満ち足りて輝く力、遍く満ちる力、汚れなき清浄、無明の闇を打ち破る力、微細なる次元に至る力、
蓮華に宿る聖性、塵ひとつなき純粋、宇宙そのものの姿、吉祥なる恵み、慈悲、そして全てを見守る眼差し。
これら二十四のシャクティ(神聖なる力)が説き明かされる。

逐語訳:

  • प्रह्लादिनी (prahlādinī) - 歓喜をもたらすもの、喜びを満たす力(女性 単数 主格)
  • प्रज्ञा (prajñā) - 深き智慧、叡智(女性 単数 主格)
  • विश्वभद्रा (viśvabhadrā) - 遍く世界の安寧、普遍的な吉祥(女性 単数 主格)
  • विलासिनी (vilāsinī) - 戯れる優美、光輝に満ちたもの、遊戯する力(女性 単数 主格)
  • प्रभा (prabhā) - 光輝、光明(女性 単数 主格)
  • शान्ता (śāntā) - 平安、静寂、静まった状態(女性 単数 主格)
  • मा (mā) - 母、ラクシュミー女神の別名、母なる育む力、測定する力(女性 単数 主格)
  • कान्ति (kānti) - 美しさ、輝き、魅力(女性 単数 主格)
  • स्पर्शा (sparśā) - 触れること、霊的な触れ合い、感応(女性 単数 主格)
  • दुर्गा (durgā) - ドゥルガー(女神)、困難を乗り越えさせる力、近づき難き者(女性 単数 主格)
  • सरस्वती (sarasvatī) - サラスヴァティー(女神)、知恵・言葉・芸術の力(女性 単数 主格)
  • विरूपा (virūpā) - 多様な姿をとる力、変幻自在なるもの(女性 単数 主格)
  • विशालाक्षी (viśālākṣī) - 広大なる眼差しを持つもの、大きな瞳を持つもの(女性 単数 主格)
  • शालिनी (śālinī) - 満ち足りて輝く力、豊かさと優雅さを備えるもの(女性 単数 主格)
  • व्यापिनी (vyāpinī) - 遍く満ちる力、あまねく広がるもの(女性 単数 主格)
  • विमला (vimalā) - 汚れなき清浄、純粋無垢(女性 単数 主格)
  • तमः-अपहारिणी (tamaḥ-apahāriṇī) - 闇(無明)を打ち破る力、除去するもの(連声形 tamo'pahāriṇī)
  • सूक्ष्म-अवयवा (sūkṣma-avayavā) - 微細なる部分を持つもの、微細なる次元に至る力(連声形 sūkṣmāvayavā)
  • पद्म-आलया (padma-ālayā) - 蓮華に宿るもの、蓮華を住処とする聖性(ラクシュミー)(女性 単数 主格)
  • विरजा (virajā) - 塵ひとつなき純粋、情念を超えたもの(女性 単数 主格)
  • विश्वरूपा (viśvarūpā) - 宇宙そのものの姿、万物の形をとるもの(女性 単数 主格)
  • भद्रा (bhadrā) - 吉祥なる恵み、幸いをもたらすもの(女性 単数 主格)
  • कृपा (kṛpā) - 慈悲、恩寵(女性 単数 主格)
  • सर्वतः-मुखी (sarvataḥ-mukhī) - 全ての方角に顔を向けるもの、全てを見守る眼差し(連声形 sarvatomukhī)
  • इति (iti) - このように、と(不変化詞)
  • चतुर्विंशति (caturviṃśati) - 二十四(数詞)
  • शक्तयः (śaktayaḥ) - シャクティたち、諸々の力・エネルギー(शक्ति, śakti 女性 複数 主格)
  • निगद्यन्ते (nigadyante) - 説き明かされる、述べられる、称えられる(動詞 ni-gad の受動態 現在 3人称 複数)

解説:
この第19節は、ガーヤトリー・マントラ (गायत्री मन्त्र, gāyatrī mantra) の深遠なる構造を解き明かす上で、極めて重要な側面を提示します。これまでの節で、マントラの二十四音節それぞれに宿る神格 (देवता, devatā)、聖仙 (ऋषि, ṛṣi)、そして関連する韻律 (छन्दस्, chandas) が示されましたが、本節では、それぞれの音節に内在する二十四の「シャクティ (शक्ति, śakti)」が明らかにされます。

シャクティとは、単なる力やエネルギーという言葉では捉えきれない、インド哲学における根源的な概念です。それは宇宙を創造し、維持し、変容させる能動的な原理であり、しばしば女神として人格化されます。静的な存在原理であるシヴァ (शिव, śiva) に対し、シャクティはそのダイナミックな顕現力とされます。したがって、この節で列挙される二十四のシャクティは、ガーヤトリー・マントラが秘める、宇宙を動かす神聖なる女性的エネルギーの多様な様相を示しているのです。

列挙されるシャクティの名前は、その性質を雄弁に物語っています。「プラフラーディニー (प्रह्लादिनी, prahlādinī)」は内なる歓喜を湧き上がらせる力、「プラジュニャー (प्रज्ञा, prajñā)」は物事の本質を見抜く深遠な智慧、「シャーンター (शान्ता, śāntā)」は揺るぎない心の平安をもたらす力です。また、「タモーパハーリニー (तमः-अपहारिणी, tamaḥ-apahāriṇī)」は無知や迷妄という心の闇を打ち破る力、「ヴィマラー (विमला, vimalā)」は一切の汚れなき純粋性、「クリパー (कृपा, kṛpā)」は無条件の慈悲といった、霊的な変容に不可欠な要素も含まれています。

特筆すべきは、ヒンドゥー教で篤く信仰される女神たちの名が直接含まれている点です。「ドゥルガー (दुर्गा, durgā)」は困難や障害を打ち砕く無敵の戦女神であり、「サラスヴァティー (सरस्वती, sarasvatī)」は智慧、言語、芸術、音楽を司る清らかな女神です。さらに「マー (मा, mā)」は「母」を意味し、万物を育む母性を象徴すると同時に、豊穣と幸運の女神ラクシュミー (लक्ष्मी, lakṣmī) の別名としても知られ、「パドマーラヤー (पद्म-आलया, padma-ālayā)」(蓮華に宿るもの)もまた、ラクシュミー女神を強く示唆します。このように、ガーヤトリー・マントラは、宇宙の創造・維持・破壊(あるいは変容)を司る三女神、すなわちサラスヴァティー、ラクシュミー、ドゥルガー(あるいはカーリー)の根源的な力を内に秘めていることが示唆されます。

これらの二十四のシャクティは、ガーヤトリー・マントラの二十四の音節と響き合い、マントラの詠唱 (जप, japa) や瞑想を通じて活性化されると考えられます。各音節を唱える際に、対応するシャクティの質を心に念じることで、その力を自らの内に呼び覚まし、培うことができるでしょう。例えば、「ター (ता, tā)」の音節に対応する「プラフラーディニー」を意識すれば歓喜が、「त् (त्, t)」に対応する「プラジュニャー」を意識すれば智慧が深まるといった具合です(具体的な対応関係は流派により異なる場合があります)。

ガーヤトリー・マントラの宇宙は、神々、聖仙、韻律、そしてこの節で明らかにされるシャクティという、四つの次元(あるいは柱)によって豊かに織りなされています。この二十四のシャクティの知識は、ガーヤトリー・マントラが単なる祈りの言葉ではなく、宇宙の根源的な創造エネルギー、変容力、そして解放へと導く慈悲の力の凝縮であることを深く理解させます。それは、マントラの実践を通じて、私たちがこれらの神聖な力と直接繋がり、自らの内なる神性を開花させるための、貴重な導きとなるのです。

第20節

पृथिव्यप्तेजोवाय्वाकाशगन्धरसरूपस्पर्शशब्दवाक्यानि
पादपायूपस्थत्वक्चक्षुश्रोत्रजिह्वाघ्राणमनोबुद्ध्यहङ्कार-
चित्तज्ञानानीति प्रत्यक्षराणां तत्त्वानि प्रतीयन्ते । ॥ 20 ॥
pṛthivyaptejovāyvākāśagandharasarūpasparśaśabdavākyāni
pādapāyūpasthtvakcakṣuśrotrajihvāghrāṇamanobuddhyahaṅkāra-
cittajñānānīti pratyakṣarāṇāṃ tattvāni pratīyante || 20 ||
地、水、火、風、空(エーテル)。
香り、味、形(色)、触覚、音、言葉。
足、排泄器官、生殖器官、皮膚、目、耳、舌、鼻。
そして心(マナス)、知性(ブッディ)、自我意識(アハンカーラ)、心素(チッタ)、知識(ジュニャーナ)。
これらが、ガーヤトリーの各音節に対応する根本原理(タットヴァ)として知られる。

逐語訳:

  • पृथिवी-अप्-तेजस्-वायु-आकाश-गन्ध-रस-रूप-स्पर्श-शब्द-वाक्यानि (pṛthivī-ap-tejas-vāyu-ākāśa-gandha-rasa-rūpa-sparśa-śabda-vākyāni) - 地・水・火・風・空・香り・味・形・触覚・音・言葉(これらを)(中性 複数 対格)
  • पाद-पायु-उपस्थ-त्वक्-चक्षुस्-श्रोत्र-जिह्वा-घ्राण-मनस्-बुद्धि-अहङ्कार-चित्त-ज्ञानानि (pāda-pāyu-upastha-tvak-cakṣus-śrotra-jihvā-ghrāṇa-manas-buddhi-ahaṅkāra-citta-jñānāni) - 足・排泄器官・生殖器官・皮膚・目・耳・舌・鼻・心・知性・自我意識・心素・知識(これらを)(中性 複数 対格、あるいは主格)
  • इति (iti) - このように、〜と(不変化詞)
  • प्रत्यक्षराणाम् (pratyakṣarāṇām) - 各々の音節の(男性/中性 複数 属格)
  • तत्त्वानि (tattvāni) - 諸々の根本原理、本質的要素(中性 複数 主格/対格)
  • प्रतीयन्ते (pratīyante) - 知られている、認識される、理解される(動詞 prati-i の受動態 現在 3人称 複数)

解説:
この第20節は、ガーヤトリー・マントラ (गायत्री मन्त्र, gāyatrī mantra) の二十四の音節 (अक्षर, akṣara) が、宇宙を構成する根本原理である「タットヴァ (तत्त्व, tattva)」と深く結びついていることを明らかにします。「タットヴァ」とは、「それ(तत्, tat)であること(त्व, tva)」を意味し、存在の本質、あるいは宇宙を織りなす基本的な構成要素を示す、インド哲学における極めて重要な概念です。

ここに列挙されるタットヴァのリストは、インドの深遠な宇宙観を反映しています。まず、物質世界を形成する五つの基本的な状態、「五大元素 (पञ्चमहाभूत, pañcamahābhūta)」― 地 (पृथिवी, pṛthivī)、水 (अप्, ap)、火 (तेजस्, tejas)、風 (वायु, vāyu)、空(あるいは虚空、エーテル) (आकाश, ākāśa) が挙げられます。これらは単なる物質ではなく、それぞれ固体性、流動性、変容力、運動性、空間性という宇宙の基本的な性質を象徴します。

次に、これらの元素から生じ、私たちの感覚器官によって捉えられる五つの微細な要素、「五感覚対象 (तन्मात्र, tanmātra に相当するもの)」― 香り (गन्ध, gandha)、味 (रस, rasa)、形・色 (रूप, rūpa)、触覚 (स्पर्श, sparśa)、音 (शब्द, śabda) が示されます。続けて、私たちが外界に働きかけるための「五行為器官 (कर्मेन्द्रिय, karmendriya)」― 足 (पाद, pāda)、排泄器官 (पायु, pāyu)、生殖器官 (उपस्थ, upastha)、(本文では省略されているが通常は手 (पाणि, pāṇi) と発声器官 (वाक्, vāk) を含む)と、外界を知覚するための「五知覚器官 (ज्ञानेन्द्रिय, jñānendriya)」― 皮膚 (त्वक्, tvak)、目 (चक्षुस्, cakṣus)、耳 (श्रोत्र, śrotra)、舌 (जिह्वा, jihvā)、鼻 (घ्राण, ghrāṇa) が列挙されます。

さらに、内的な世界を司る四つの「内的器官 (अन्तःकरण, antaḥkaraṇa)」― 感覚と思考を統合する心 (मनस्, manas)、判断と決断を下す知性 (बुद्धि, buddhi)、自己という感覚を生み出す自我意識 (अहङ्कार, ahaṅkāra)、そして記憶や印象の貯蔵庫である心素 (चित्त, citta) が続きます。

注目すべきは、このリストが伝統的なサーンキヤ (सांख्य, sāṃkhya) 哲学などのタットヴァ体系を踏襲しつつも、「言葉 (वाक्य, vākya)」と「知識 (ज्ञान, jñāna)」を独自に含んでいる点です。「言葉」はマントラそのものの本質であり、「知識」はガーヤトリーが祈願する智慧 (धी, dhī) と深く関わります。これは、ガーヤトリー・マントラが宇宙の構成要素だけでなく、言語による表現力と、それを超えた深遠な認識(知識・智慧)をも内包することを示唆しているのかもしれません。

これらのタットヴァは、ガーヤトリーの各音節に宿るエネルギーとして捉えられます。前節で述べられた「シャクティ (शक्ति, śakti)」が宇宙の動的な顕現力を表すのに対し、本節の「タットヴァ」は存在の静的な構成原理を示します。マントラの詠唱や瞑想、特に「ニヤーサ (न्यास, nyāsa)」と呼ばれる技法においては、各音節を唱える際に、対応するタットヴァを身体の特定部位や意識の中に観想します。例えば、「भूः (bhūḥ)」の音節と共に地のタットヴァを足に観想し、安定性を確立するなどです。これにより、実践者はマントラの響きを通じて、自己という小宇宙(ミクロコスモス)と大宇宙(マクロコスモス)の根本原理に働きかけ、調和と統合、そして変容を促すのです。

この節は、ガーヤトリー・マントラが単なる祈りの言葉ではなく、宇宙のあらゆる次元―物質から精神、感覚から超感覚、存在の構成要素からそれを知る智慧まで―を包括する、聖なる音の構造体であることを教えてくれます。それは、自己と宇宙の深遠な真理を探求するための、力強い「音のヨーガ (शब्द योग, śabda yoga)」とも言えるでしょう。

第21節

चम्पकातसीकुङ्कुमपिङ्गलेन्द्रनीलाग्निप्रभोद्यत्सूर्य-
विद्युत्तारकसरोजगौरमरतकशुक्लकुन्देन्दुशङ्खपाण्डु-
नेत्रनीलोत्पलचन्दनागुरुकस्तूरीगोरोचनघनसारसन्निभं
प्रत्यक्षरमनुस्मृत्य समस्तपातकोपपातकमहापातका-
गम्यागमनगोहत्याब्रह्महत्याभ्रूणहत्यावीरहत्या-
पुरुषहत्याऽऽजन्मकृतहत्यास्त्रीहत्यागुरुहत्यापितृहत्या-
प्राणहत्याचराचरहत्याऽभक्ष्यभक्षणप्रतिग्रह-
स्वकर्मविच्छेदनस्वाम्यार्तिहीनकर्मकरणपरधनापहरण-
शूद्रान्नभोजनशत्रुमारणचण्डालीगमनादिसमस्त-
पापहरणार्थं संस्मरेत् । ॥ 21 ॥
campakātasīkuṅkumapiṅgalendranīlāgniprabhodyatsūrya-
vidyuttārakasarojagauramaratakaśuklakundenduśaṅkhapāṇḍu-
netranīlotpalacandanāgurukastūrīgorocanaghanasārasannibhaṃ
pratyakṣaramanusmṛtya samastapātakopapātakamahāpātakā-
gamyāgamanagohathyābrahmahatyābhrūṇahatyāvīrahatyā-
puruṣahatyā''janmakṛtahatyāstrīhatyāguruhatyāpitṛhatyā-
prāṇahatyācarācarahatyā'bhakṣyabhakṣaṇapratigraha-
svakarmavicchedanasvāmyārtihīnakarmakaraṇaparadhanāpaharaṇa-
śūdrānnabhojanaśatrumāraṇacaṇḍālīgamanādisamasta-
pāpaharaṇārthaṃ saṃsmaret || 21 ||
チャンパカの花の黄金色、亜麻の花の青、サフランの朱、褐色の輝き、サファイアの深青、燃える炎の光、昇りゆく太陽の暁光、稲妻の閃光、星々の煌めき、蓮華の淡紅色、輝くような白黄色、エメラルドの翠色、純粋な白、クンダの花の清白、月の柔らかな光、法螺貝の真珠色、淡い黄色、瞳の青、青蓮の紺青、白檀の芳香、沈香の深み、麝香の高貴な香り、ゴローチャナの鮮やかな黄色、樟脳の清澄さ——これら二十四の輝きや芳香に比すべき各音節の特質を、一つひとつ深く心に念じる。
そうすることによって、大小さまざまな罪過、許されざる交わり、牛の殺生、聖職者の殺害、胎児の殺害、英雄の殺害、人の殺害、生涯にわたる殺生、女性の殺害、師の殺害、父の殺害、生き物の殺生、動くもの動かぬものの殺害、食してはならぬものの摂取、受けてはならぬものの受領、自らの務めの放棄、主人の苦しみを顧みぬ行い、他者の財産の略取、下層カーストの食物の摂取、敵の殺害、アウトカーストの女性との交わりなど、あらゆる罪、そのすべての障りを取り除くために

逐語訳:

  • चम्पक-आतसी-कुङ्कुम-पिङ्गल-इन्द्रनील-अग्निप्रभ-उद्यत्सूर्य-विद्युत्-तारक-सरोज-गौर-मरतक-शुक्ल-कुन्द-इन्दु-शङ्ख-पाण्डु-नेत्रनील-उत्पल-चन्दन-अगुरु-कस्तूरी-गोरोचन-घनसार-सन्निभम् (campaka-ātasī-kuṅkuma-piṅgala-indranīla-agniprabha-udyatsūrya-vidyut-tāraka-saroja-gaura-marataka-śukla-kunda-indu-śaṅkha-pāṇḍu-netranīla-utpala-candana-aguru-kastūrī-gorocana-ghanasāra-sannibham) - チャンパカ花・亜麻花・サフラン・褐色・サファイア・火の輝き・昇る太陽・稲妻・星・蓮・白黄色・エメラルド・白・クンダ花・月・法螺貝・淡黄色・瞳の青・青蓮・白檀・沈香・麝香・ゴローチャナ(牛黄)・樟脳に似た、のような(ものを)(中性 単数 対格、または副詞的に「〜のように」)
  • प्रति-अक्षरम् (prati-akṣaram) - 各々の音節を(対格)、あるいは音節ごとに(副詞的)
  • अनुस्मृत्य (anusmṛtya) - 深く心に念じて、思い起こして(絶対分詞)
  • समस्त-पातक-उपपातक-महापातक-अगम्यागमन-गोहत्या-ब्रह्महत्या-भ्रूणहत्या-वीरहत्या-पुरुषहत्या-आ जन्मकृतहत्या-स्त्रीहत्या-गुरुहत्या-पितृहत्या-प्राणहत्या-चराचरहत्या-अभक्ष्यभक्षण-प्रतिग्रह-स्वकर्मविच्छेदन-स्वामि-आर्ति-हीन-कर्मकरण-परधनापहरण-शूद्रान्नभोजन-शत्रुमारण-चण्डालीगमन-आदि-समस्त-पाप-अपहरण-अर्थम् (samasta-pātaka-upapātaka-mahāpātaka-agamyāgamana-gohatyā-brahmahatyā-bhrūṇahatyā-vīrahatyā-puruṣahatyā-ā-janmakṛtahatyā-strīhatyā-guruhatyā-pitṛhatyā-prāṇahatyā-carācarahatyā-abhakṣyabhakṣaṇa-pratigraha-svakarmavicchedana-svāmi-ārti-hīna-karmakaraṇa-paradhanāpaharaṇa-śūdrānnabhojana-śatrumāraṇa-caṇḍālīgamana-ādi-samasta-pāpa-apaharaṇa-artham) - 全ての罪・小さな罪・大きな罪・禁じられた関係・牛殺し・バラモン殺し・胎児殺し・英雄殺し・人殺し・生涯にわたる殺生・女性殺し・師殺し・父殺し・生命殺し・動くものと動かないものの殺害・禁じられた食物の摂取・不適切な贈物の受領・自らの義務の放棄・主人の苦しみに無関心な行為・他者の財産の盗取・シュードラの食物の摂取・敵の殺害・チャンダーラ女性との交わり・などの・全ての・罪を・取り除く・目的のために(目的を示す副詞句)
  • संस्मरेत् (saṃsmaret) - 深く念ずべきである、瞑想すべきである(動詞 sam-smṛ の願望法 3人称 単数)

解説:
この第21節は、ガーヤトリー・マントラ (गायत्री मन्त्र, gāyatrī mantra) の実践が持つ、深遠なる浄化力とその具体的な方法について説き明かしています。それは、単なる言葉の詠唱を超え、意識的な観想 (ध्यान, dhyāna) を伴う深みへと私たちを誘います。

まず、ガーヤトリー・マントラの二十四の音節 (अक्षर, akṣara) それぞれが、固有の色彩、光沢、あるいは芳香といった感覚的な特質と結びつけられています。チャンパカ (चम्पक, campaka) の温かい黄金色、亜麻 (आतसी, ātasī) の澄んだ青、サファイア (इन्द्रनील, indranīla) の深淵な青、昇る太陽 (उद्यत्सूर्य, udyatsūrya) の希望に満ちた輝き、樟脳 (घनसार, ghanasāra) の清らかな透明感など、列挙される二十四の様相は、自然界の美しさと神聖さを映し出しています。これらは単なる比喩ではなく、各音節に内在する微細なエネルギー (शक्ति, śakti) や宇宙原理 (तत्त्व, tattva) を、私たちの感覚に近い形で捉えようとする試みと言えるでしょう。例えば、黄金色は豊穣や太陽のエネルギー、青色は無限の空や深遠な智慧、白色は純粋性や超越性を象徴します。マントラの各音節を唱える際に、対応するこれらの色彩や質感を心に鮮やかに思い描く (अनुस्मृत्य, anusmṛtya) ことで、その音節の持つ潜在的な力が呼び覚まされ、私たちの内なる世界に深く浸透すると考えられます。

そして、この観想を伴うマントラの実践は、驚くべき浄化の力を持つとされます。後半では、大小さまざまな罪過 (पातक, pātaka)、社会的な禁忌、倫理的な過ち、そしてあらゆる形態の殺生 (हत्या, hatyā) が詳細に列挙されています。このリストは、古代インド社会の法典 (धर्मशास्त्र, dharmaśāstra) に見られる罪の分類を反映しており、当時の倫理観や社会規範を垣間見せます。特に殺生に関する項目が多いことは、アヒンサー (अहिंसा, ahiṃsā) すなわち非暴力を重んじるインドの精神文化を物語っています。カーストに関する規定(शूद्रान्नभोजन, śūdrānnabhojana など)は、現代の価値観とは異なりますが、これも当時の文脈の中で理解する必要があります。

重要なのは、この罪のリストが、私たちを断罪するためではなく、ガーヤトリー・マントラの普遍的な浄化力がいかに広範囲に及ぶかを示すために挙げられている点です。過去の行為によって心に残された否定的な刻印、すなわちサンスカーラ (संस्कार, saṃskāra) は、私たちの現在の認識や行動に影響を与え続けます。マントラの音の振動と、色彩や光の観想によって生じる肯定的なエネルギーは、これらのサンスカーラを浄化し、心を解放へと導く力を持つのです。それは単なる罪の赦しではなく、意識そのものの変容を促す深遠なプロセスです。

この節は、ガーヤトリー・マントラの実践が、音 (शब्द, śabda)、形・色 (रूप, rūpa)、そして意識 (चित्त, citta) を統合する、力強い精神的修養であることを示唆します。各音節に宿る聖なる輝きを心に念じ、その光によって内なる闇を照らし出すことで、私たちは過去の束縛から解放され、本来の純粋で輝かしい自己へと回帰することができるのです。そのために「深く念ずべきである (संस्मरेत्, saṃsmaret)」と、このウパニシャッドは優しく、しかし力強く私たちに勧めています。

第22節

मूर्धा ब्रह्मा शिखान्तो विष्णुर्ललाटं रुद्रचक्षुषी चन्द्रादित्यौ
कर्णौ शुक्रबृहस्पती नासापुटे अश्विनौ दन्तोष्ठावुभे सन्ध्ये
मुखं मरुतः स्तनौ वस्वादयो हृदयं पर्जन्य उदरमाकाशो नाभिरग्निः
कटिरिन्द्राग्नी जघनं प्राजापत्यमूरू कैलासमूलं जानुनी विश्वेदेवौ
जङ्घे शिशिरः गुल्फानि पृथिवीवनस्पत्यादीनि नखानि महती
अस्थीनि नवग्रहा असृक्केतुर्मांसमृतुसन्धयः कालद्वयास्फालनं संवत्सरो
निमेषोऽहोरात्रमिति वाग्देवीं गायत्रीं शरणमहं प्रपद्ये । ॥ 22 ॥
mūrdhā brahmā śikhānto viṣṇurlalāṭaṃ rudracakṣuṣī candrādityau
karṇau śukrabṛhaspatī nāsāpuṭe aśvinau dantoṣṭhāvubhe sandhye
mukhaṃ marutaḥ stanau vasvādayo hṛdayaṃ parjanya udaramākāśo nābhiragniḥ
kaṭirindrāgnī jaghanaṃ prājāpatyamūrū kailāsamūlaṃ jānunī viśvedevau
jaṅghe śiśiraḥ gulphāni pṛthivīvanaspatyādīni nakhāni mahatī
asthīni navagrāhā asṛkketurmāṃsamṛtusandhayaḥ kāladvayāsphālanaṃ saṃvatsaro
nimeṣo'horātramiti vāgdevīṃ gāyatrīṃ śaraṇamahaṃ prapadye || 22 ||
その頭頂は創造主ブラフマー、髪の結び目は維持者ヴィシュヌ、額は破壊者ルドラ、両の眼は月と太陽。
両耳は賢師シュクラとブリハスパティ、両鼻孔は生命を司るアシュヴィン双神、歯と唇は曙と黄昏の二つのサンディヤー。
顔は風神マルトたち、両胸は富をもたらすヴァス神群、心臓は恵みの雨をもたらすパルジャニヤ、腹部は広大なる虚空アーカシャ、臍は変容の火アグニ。
腰は雷霆神インドラと火神アグニ、臀部は創造主プラジャーパティに属するもの、両腿はカイラーサ山の不動なる基、両膝はヴィシュヴェーデーヴァ神群。
両すねは静寂なる冬(シシラ)の季節、両くるぶしは大地と草木のすべて、爪は偉大なるもの(大地)。
骨組みは九つの惑星(ナヴァグラハ)、血液は流転を示すケートゥ、肉体は季節の移ろい、二つの時の拍動(昼夜・歳月)は一年という周期、瞬きは昼と夜の巡り。
――このように顕現される言葉(ヴァーク)の女神、ガーヤトリーに、私は深く帰依する。

逐語訳:

  • मूर्धा (mūrdhā) - 頭頂(女性 単数 主格)
  • ब्रह्मा (brahmā) - ブラフマー神(男性 単数 主格)
  • शिखा-अन्तः (śikhā-antaḥ) - 髪の先端、髪の結び目(連声形 śikhāntaḥ)(男性 単数 主格)
  • विष्णुः (viṣṇuḥ) - ヴィシュヌ神(男性 単数 主格)(連声形 viṣṇur)
  • ललाटम् (lalāṭam) - 額(中性 単数 主格)
  • रुद्रः (rudraḥ) - ルドラ神(男性 単数 主格)(連声によりरुद्र (rudra) となる)
  • चक्षुषी (cakṣuṣī) - 両目(中性 双数 主格)
  • चन्द्र-आदित्यौ (candra-ādityau) - 月と太陽(連声形 candrādityau)(男性 双数 主格)
  • कर्णौ (karṇau) - 両耳(男性 双数 主格)
  • शुक्र-बृहस्पती (śukra-bṛhaspatī) - シュクラ(金星)とブリハスパティ(木星)(男性 双数 主格)
  • नासा-पुटे (nāsā-puṭe) - 両鼻孔(中性 双数 主格)
  • अश्विनौ (aśvinau) - アシュヴィン双神(男性 双数 主格)
  • दन्त-ओष्ठौ (danta-oṣṭhau) - 歯と唇(連声形 dantoṣṭhau)(男性 双数 主格)
  • उभे (ubhe) - 両方の(形容詞 中性/女性 双数 主格)
  • सन्ध्ये (sandhye) - 二つのサンディヤー(曙と黄昏、境界)(女性 双数 主格)
  • मुखम् (mukham) - 顔、口(中性 単数 主格)
  • मरुतः (marutaḥ) - マルト神群(風神)(男性 複数 主格)
  • स्तनौ (stanau) - 両胸(男性 双数 主格)
  • वसु-आदयः (vasu-ādayaḥ) - ヴァス神群など(連声形 vasvādayaḥ)(男性 複数 主格)
  • हृदयम् (hṛdayam) - 心臓(中性 単数 主格)
  • पर्जन्यः (parjanyaḥ) - パルジャニヤ神(雨神)(男性 単数 主格)
  • उदरम् (udaram) - 腹部(中性 単数 主格)
  • आकाशः (ākāśaḥ) - 虚空、空(アーカシャ)(男性 単数 主格)
  • नाभिः (nābhiḥ) - 臍(女性 単数 主格)
  • अग्निः (agniḥ) - アグニ神(火神)(男性 単数 主格)
  • कटिः (kaṭiḥ) - 腰(女性 単数 主格)
  • इन्द्र-अग्नी (indra-agnī) - インドラ神とアグニ神(男性 双数 主格)
  • जघनम् (jaghanam) - 臀部(中性 単数 主格)
  • प्राजापत्यम् (prājāpatyam) - プラジャーパティ(創造神)に属するもの(形容詞 中性 単数 主格)
  • ऊरू (ūrū) - 両腿(男性 双数 主格)
  • कैलास-मूलम् (kailāsa-mūlam) - カイラーサ山の根元(中性 単数 主格)
  • जानुनी (jānunī) - 両膝(中性 双数 主格)
  • विश्वे-देवौ (viśve-devau) - ヴィシュヴェーデーヴァ神群(全ての神々)(男性 双数 主格)
  • जङ्घे (jaṅghe) - 両すね(女性 双数 主格)
  • शिशिरः (śiśiraḥ) - 冬(シシラ)の季節、寒冷期(男性 単数 主格)
  • गुल्फानि (gulphāni) - くるぶし(中性 複数 主格)
  • पृथिवी-वनस्पति-आदीनि (pṛthivī-vanaspati-ādīni) - 大地と植物など(中性 複数 主格)
  • नखानि (nakhāni) - 爪(中性 複数 主格)
  • महती (mahatī) - 偉大なるもの(形容詞 女性 単数 主格、大地 Mahī を指す可能性)
  • अस्थीनि (asthīni) - 骨(中性 複数 主格)
  • नव-ग्रहाः (nava-grahāḥ) - 九つの惑星(男性 複数 主格)
  • असृक् (asṛk) - 血液(中性 単数 主格)
  • केतुः (ketuḥ) - ケートゥ(彗星、流星、月の降交点)(男性 単数 主格)
  • मांसम् (māṃsam) - 肉(中性 単数 主格)
  • ऋतु-सन्धयः (ṛtu-sandhayaḥ) - 季節の変わり目、季節の接合点(女性 複数 主格)
  • काल-द्वय-आस्फालनम् (kāla-dvaya-āsphālanam) - 二つの時間(昼と夜、あるいは過去と未来など)の接触・拍動(中性 単数 主格)
  • संवत्सरः (saṃvatsaraḥ) - 一年、歳(男性 単数 主格)
  • निमेषः (nimeṣaḥ) - まばたき(男性 単数 主格)
  • अहः-रात्रम् (ahaḥ-rātram) - 昼と夜(連声形 ahorātram)(中性 単数 主格)
  • इति (iti) - このように、〜と(不変化詞)
  • वाक्-देवीम् (vāk-devīm) - 言葉(ヴァーク)の女神(女性 単数 対格)
  • गायत्रीम् (gāyatrīm) - ガーヤトリー(女性 単数 対格)
  • शरणम् (śaraṇam) - 避難所、帰依(中性 単数 対格)
  • अहम् (aham) - 私は(代名詞 単数 主格)
  • प्रपद्ये (prapadye) - 帰依する、身を委ねる(動詞 pra-pad の中動態 現在 1人称 単数)

解説:
この第22節は、ガーヤトリー女神(गायत्री, gāyatrī)の姿を、壮大な宇宙そのものとして描き出す、深遠な観想の詩節です。ここでは、古代インド思想の根幹をなす「大宇宙(マクロコスモス)と小宇宙(ミクロコスモス)の照応」という思想が、ガーヤトリー女神という人格的な神格を通して鮮やかに表現されます。女神の身体の各部位が、宇宙を構成する神々、天体、自然現象、時間、そして生命の諸相と重ね合わせられ、ガーヤトリーが単なるマントラの守護神ではなく、宇宙全体を内包する普遍的な存在であることが示されます。

この描写は、ヴェーダ文献、特に『リグ・ヴェーダ』の「プルシャ・スークタ (पुरुष सूक्त, puruṣa sūkta)」に描かれる原人プルシャの解体から宇宙が創造される神話の系譜を引いています。頭頂が創造主ブラフマー (ब्रह्मा, brahmā)、髪の結び目が維持者ヴィシュヌ (विष्णुः, viṣṇuḥ)、額が破壊(変容)者ルドラ (रुद्रः, rudraḥ) とされるのは、宇宙の三つの基本的な働き(創造・維持・破壊)が女神の最も高い部分に集約されていることを象徴します。両目が月 (चन्द्र, candra) と太陽 (आदित्य, āditya) であることは、ガーヤトリーが昼夜を超えた全知の光を持ち、宇宙全体を照らし見守る眼差しを持つことを示唆します。

身体の各部位と神格・要素の対応には、それぞれ象徴的な意味が込められています。例えば、両耳は賢者たちの師であるシュクラ (शुक्र, śukra) とブリハスパティ (बृहस्पति, bṛhaspati) であり、聖なる知識や教えを受け入れる器官であることを示します。両鼻孔は生命力(プラーナ, प्राण, prāṇa)や若さをもたらすアシュヴィン双神 (अश्विनौ, aśvinau) で、呼吸を通して生命エネルギーを取り込む通路です。臍は火神アグニ (अग्निः, agniḥ) であり、生命活動の中心、変容と浄化のエネルギーの座を示します。腹部が広大な虚空(आकाश, ākāśa)であることは、無限の可能性や受容性を象徴します。骨組みが九つの惑星(नवग्रह, navagraha)であることは、宇宙のリズムや運命の構造が身体の基盤にあることを示し、血液がケートゥ (केतुः, ketuḥ) という流転や変化を象徴する天体であることは、生命の流れや予測不可能な変化を内包することを示唆します。

このような宇宙的身体の観想は、特にタントラ (तन्त्र, tantra) の伝統における「ニヤーサ (न्यास, nyāsa)」という実践と深く結びついています。ニヤーサとは、マントラの音節や神格、あるいはこの詩節に描かれるような宇宙的要素を、自身の身体の対応する部位に意識的に配置(安置)する瞑想法です。この実践を通して、行者は自身の身体が単なる肉体ではなく、神聖な宇宙の縮図であることを体感し、自己と宇宙、自己と神との一体化(合一)を目指します。例えば、自身の頭頂にブラフマー神の創造のエネルギーを、額にルドラ神の変容の力を、心臓にパルジャニヤ神の慈雨のような恵みを感じる、といった具合です。

前の第21節では、ガーヤトリー・マントラの各音節の輝きを観想することによる罪障浄化が説かれました。この第22節は、その浄化された意識が、さらに広大な宇宙的ヴィジョンへと開かれていく段階を示しています。自己の身体が、神々や宇宙原理と一体となったガーヤトリー女神の身体そのものであると観想することは、個我(アハンカーラ, अहंकार, ahaṃkāra)の感覚を超え、普遍的な自己(アートマン, आत्मन्, ātman)へと至るための力強い助けとなります。

詩節の最後は、「このように顕現される言葉(ヴァーク, वाक्, vāk)の女神、ガーヤトリーに、私は深く帰依いたします (वाग्देवीं गायत्रीं शरणमहं प्रपद्ये, vāgdevīṃ gāyatrīṃ śaraṇamahaṃ prapadye)」という力強い帰依(シャラナーガティ, शरणागति, śaraṇāgati)の表明で締めくくられます。「プラパディエー (प्रपद्ये, prapadye)」という言葉は、単なる信仰告白ではなく、自己の全てを明け渡し、完全に身を委ねるという深い決意を含んでいます。この宇宙的なガーヤトリーのヴィジョンを前にして、行者は自らの限界を超えた大いなる存在に全てを捧げ、その保護と導きを求めるのです。この帰依こそが、ガーヤトリー・マントラの真髄に触れ、その恩寵を受け取るための鍵となります。この節は、ガーヤトリー・マントラの探求が、自己変容と宇宙的意識への目覚め、そして神聖なるものへの完全なる帰依へと続く道であることを示しています。

第23節

य इदं गायत्रीरहस्यमधीते तेन क्रतुसहस्रमिष्टं भवति ।
य इदं गायत्रीरहस्यमधीते दिवसकृतं पापं नाशयति ।
प्रातरमध्याह्नयोः षण्मासकृतानि पापानि नाशयति ।
सायं प्रातरधीयानो जन्मकृतं पापं नाशयति । ॥ 23 ॥
ya idaṃ gāyatrīrahasyamadhīte tena kratusahasramiṣṭaṃ bhavati |
ya idaṃ gāyatrīrahasyamadhīte divasakṛtaṃ pāpaṃ nāśayati |
prātaramadhyāhnayoḥ ṣaṇmāsakṛtāni pāpāni nāśayati |
sāyaṃ prātaradhīyāno janmakṛtaṃ pāpaṃ nāśayati || 23 ||
このガーヤトリーの深遠なる奥義を修める者は、あたかも千の祭祀を成就したる功徳を得られる。
このガーヤトリーの奥義を修める者は、その日一日に成した罪を滅する。
朝と真昼にこれを修める者は、過去六ヶ月の間に成した罪障を滅する。
夕べと朝にこれを修め続ける者は、生涯にわたって積み重ねた罪障さえも滅する。

逐語訳:

  • यः (yaḥ) - 〜する者、誰であれ(関係代名詞 男性 単数 主格)
  • इदम् (idam) - これを(指示代名詞 中性 単数 対格)
  • गायत्री-रहस्यम् (gāyatrī-rahasyam) - ガーヤトリーの秘密、奥義(中性 単数 対格)
  • अधीते (adhīte) - 学ぶ、習得する、修める(動詞 adhi-i の中動態 現在 3人称 単数)
  • तेन (tena) - 彼によって(指示代名詞 tad の男性/中性 単数 具格)
  • क्रतु-सहस्रम् (kratu-sahasram) - 千の祭式、祭祀(中性 単数 主格)
  • इष्टम् (iṣṭam) - 祭祀された、執行された、望まれた(動詞 yaj の過去受動分詞 中性 単数 主格)
  • भवति (bhavati) - 〜となる、〜である(動詞 bhū の現在 3人称 単数)
  • यः (yaḥ) - 〜する者、誰であれ(関係代名詞 男性 単数 主格)
  • इदम् (idam) - これを(指示代名詞 中性 単数 対格)
  • गायत्री-रहस्यम् (gāyatrī-rahasyam) - ガーヤトリーの秘密、奥義(中性 単数 対格)
  • अधीते (adhīte) - 学ぶ、習得する、修める(動詞 adhi-i の中動態 現在 3人称 単数)
  • दिवस-कृतम् (divasa-kṛtam) - 一日のうちになされた(形容詞 中性 単数 対格)
  • पापम् (pāpam) - 罪、悪業、罪障(中性 単数 対格)
  • नाशयति (nāśayati) - 破壊する、消滅させる、滅する(動詞 naś の使役 現在 3人称 単数)
  • प्रातः-मध्याह्नयोः (prātaḥ-madhyāhnayoḥ) - 朝と正午において([prātar と madhyāhna の] 双数 処格)
  • [अधीयानः (adhīyānaḥ) - 学んでいる者、修めている者(動詞 adhi-i の中動態 現在分詞 男性 単数 主格)- 文脈上省略]
  • षण्-मास-कृतानि (ṣaṇ-māsa-kṛtāni) - 六ヶ月の間になされた(形容詞 中性 複数 対格)
  • पापानि (pāpāni) - 諸々の罪、悪業、罪障(中性 複数 対格)
  • नाशयति (nāśayati) - 破壊する、消滅させる、滅する(動詞 naś の使役 現在 3人称 単数)
  • सायम् (sāyam) - 夕方に(副詞)
  • प्रातः (prātaḥ) - 朝に(副詞)
  • अधीयानः (adhīyānaḥ) - 学んでいる者、修めている者(動詞 adhi-i の中動態 現在分詞 男性 単数 主格)
  • जन्म-कृतम् (janma-kṛtam) - 生まれ(生涯)を通じてなされた(形容詞 中性 単数 対格)
  • पापम् (pāpam) - 罪、悪業、罪障(中性 単数 対格)
  • नाशयति (nāśayati) - 破壊する、消滅させる、滅する(動詞 naś の使役 現在 3人称 単数)

解説:
この第23節は、前節で示された宇宙的なガーヤトリー女神への深き帰依(शरणं प्रपद्ये, śaraṇaṃ prapadye)の実践がもたらす、具体的な果実(फल, phala)について語り始めます。それは、ガーヤトリー・マントラとその背後にある深遠な教え、すなわち「ガーヤトリーの秘密(गायत्री रहस्यम्, gāyatrī rahasyam)」を修めることによって得られる、計り知れない功徳と浄化の力です。

まず、この奥義を修めることは、「千の祭式(क्रतुसहस्रम्, kratusahasram)」を執行した功徳に等しいと述べられます。「クラトゥ(क्रतु, kratu)」はヴェーダ時代の重要な祭祀、特に供物を捧げる儀礼を指し、「千(सहस्र, sahasra)」はその完全性と無限性を示す聖数です。古代インドにおいて最高の宗教的行為とされた壮大な祭祀に匹敵する価値が、この内なる知識の習得と実践にあると宣言することは、ウパニシャッド(उपनिषत्, upaniṣad)に特徴的な、外面的な儀礼(कर्मकाण्ड, karmakāṇḍa)から内面的な智慧(ज्ञानकाण्ड, jñānakāṇḍa)への価値観の転換を反映しています。真の祭祀とは、物質的な供物ではなく、自己の内なる聖域で知識の火(ज्ञानाग्नि, jñānāgni)を灯し、無知やエゴを捧げることにある、という深遠な洞察が示唆されます。

次に、この実践が持つ浄化力について、段階的に説明されます。「修める(अधीते, adhīte)」という言葉は、単なる知的な学習ではなく、読誦(जप, japa)、瞑想(ध्यान, dhyāna)、そして生活における体現を含む、継続的な精神的修養を意味します。
日々この奥義を修めるならば、その日一日に無意識のうちに積み重ねてしまうかもしれない否定的な行為や思考の痕跡、すなわち罪(पाप, pāpa)を滅することができます。「パーパ」とは、単なる道徳的な罪悪感ではなく、魂の本来の輝きを覆い隠し、苦しみの原因となる微細なエネルギーの汚れ、カルマ(कर्म, karma)の法則によって蓄積される否定的なサンスカーラ(संस्कार, saṃskāra)を指します。ガーヤトリーの実践は、これらの汚れを日々浄化し、心を清澄に保つ力を持つのです。

さらに、実践の時間と継続性が、浄化の効果を深めることが示されます。朝(प्रातः, prātaḥ)と真昼(मध्याह्न, madhyāhna)という、一日の中でも特に神聖とされるサンディヤー(सन्ध्या, sandhyā)の時間帯に修めることで、過去六ヶ月間に蓄積された罪障までも滅することができるとされます。これらの時間帯は、太陽のエネルギーが転換し、プラーナ(प्राण, prāṇa)の流れが変化する時であり、意識が微細な領域にアクセスしやすく、霊的な実践の効果が高まると伝統的に考えられています。

そして、夕べ(सायम्, sāyam)と朝(प्रातः, prātaḥ)の両方のサンディヤーに、日々欠かさず修め続けるならば、その浄化力は過去生から持ち越したものも含め、生涯にわたって蓄積された根深い罪障(जन्मकृतं पापं, janmakṛtaṃ pāpaṃ)さえも滅すると述べられます。これは、ガーヤトリーの奥義への献身的な実践が、私たちの存在の最も深いレベルにまで浸透し、カルマの束縛からの解放(मोक्ष, mokṣa)へと導く可能性を秘めていることを示しています。

前節の宇宙的ガーヤトリーへの帰依によって開かれた心に、この奥義の知識と実践が深く根付くとき、それは単なる罪の免除ではなく、自己の本質的な純粋性を取り戻し、意識そのものを変容させる、深遠なる霊的錬金術となるでしょう。この節は、ガーヤトリーの実践がもたらす恩恵の偉大さを力強く宣言し、継続的な修養への励ましを与えています。

第24節

य इदं गायत्रीरहस्यं ब्राह्मणः पठेत् तेन गायत्र्याः
षष्टिसहस्रलक्षाणि जप्तानि भवन्ति । सर्वान् वेदानधीतो भवति ।
सर्वेषु तीर्थेषु स्नातो भवति । अपेयपानात् पूतो भवति ।
अभक्ष्यभक्षणात् पूतो भवति । वृषलीगमनात् पूतो भवति ।
अब्रह्मचारी ब्रह्मचारी भवति ।
पङ्क्तिषु सहस्रपानात् पूतो भवति ।
अष्टौ ब्राह्मणान् ग्राहयित्वा ब्रह्मलोकं स गच्छति । ॥ 24 ॥
ya idaṃ gāyatrīrahasyaṃ brāhmaṇaḥ paṭhet tena gāyatryāḥ
ṣaṣṭisahasralakṣāṇi japtāni bhavanti | sarvān vedānadhīto bhavati |
sarveṣu tīrtheṣu snāto bhavati | apeyapānāt pūto bhavati |
abhakṣyabhakṣaṇāt pūto bhavati | vṛṣalīgamanāt pūto bhavati |
abrahmacārī brahmacārī bhavati |
paṅktiṣu sahasrapānāt pūto bhavati |
aṣṭau brāhmaṇān grāhayitvā brahmalokaṃ sa gacchati || 24 ||
このガーヤトリーの奥義をバラモンが読誦し修めるなら、その者によっては、実に六千万回のガーヤトリー・マントラ読誦が成就されたことになる。
その者はすべてのヴェーダを修めた者となり、すべての聖地で沐浴を終えた者となる。
飲むべきでないものを飲んだ罪からも浄められ、食すべきでないものを食した罪からも浄められる。
ヴリシャリーとの交わりの罪からも浄められ、かつて禁欲行を守れなかった者も、真の禁欲行者となる。
不浄とされる集団での飲食の罪からも浄められる。そして、八人のバラモンにこの奥義を授けた者は、かのブラフマーの世界へと到達する。

逐語訳:

  • यः (yaḥ) - 〜する者、誰であれ(関係代名詞 男性 単数 主格)
  • इदम् (idam) - これを(指示代名詞 中性 単数 対格)
  • गायत्री-रहस्यम् (gāyatrī-rahasyam) - ガーヤトリーの秘密、奥義(中性 単数 対格)
  • ब्राह्मणः (brāhmaṇaḥ) - バラモン、聖職者階級の者、あるいは知識と徳を備えた者(男性 単数 主格)
  • पठेत् (paṭhet) - 読誦するであろう、学ぶであろう、修めるであろう(動詞 paṭh の願望法 3人称 単数)
  • तेन (tena) - 彼によって、その者によって(指示代名詞 tad の男性/中性 単数 具格)
  • गायत्र्याः (gāyatryāḥ) - ガーヤトリー(マントラ)の(女性 単数 属格)
  • षष्टि-सहस्र-लक्षाणि (ṣaṣṭi-sahasra-lakṣāṇi) - 六千万(60×1000×100)(中性 複数 主格・対格)
  • जप्तानि (japtāni) - 唱えられた(もの)(動詞 jap の過去受動分詞 中性 複数 主格)
  • भवन्ति (bhavanti) - 〜となる、存在する(動詞 bhū の現在 3人称 複数)
  • सर्वान् (sarvān) - すべての(形容詞 男性 複数 対格)
  • वेदान् (vedān) - ヴェーダを(男性 複数 対格)
  • अधीतः (adhītaḥ) - 学んだ者、修めた者(動詞 adhi-i の過去受動分詞 男性 単数 主格)
  • भवति (bhavati) - 〜となる、〜である(動詞 bhū の現在 3人称 単数)
  • सर्वेषु (sarveṣu) - すべての(形容詞 中性/男性 複数 処格)
  • तीर्थेषु (tīrtheṣu) - 聖地、聖なる水場において(中性 複数 処格)
  • स्नातः (snātaḥ) - 沐浴した者(動詞 snā の過去受動分詞 男性 単数 主格)
  • भवति (bhavati) - 〜となる、〜である(動詞 bhū の現在 3人称 単数)
  • अपेय-पानात् (apeya-pānāt) - 飲むべきでないものを飲むことから(名詞 pāna「飲むこと」に否定接頭辞 a- と形容詞語尾 -ya がついた apeya「飲むべきでない」からの複合語、単数 奪格)
  • पूतः (pūtaḥ) - 浄められた者(動詞 pū の過去受動分詞 男性 単数 主格)
  • भवति (bhavati) - 〜となる、〜である(動詞 bhū の現在 3人称 単数)
  • अभक्ष्य-भक्षणात् (abhakṣya-bhakṣaṇāt) - 食べるべきでないものを食べることから(名詞 bhakṣaṇa「食べること」に否定接頭辞 a- と形容詞語尾 -ya がついた abhakṣya「食べるべきでない」からの複合語、単数 奪格)
  • पूतः (pūtaḥ) - 浄められた者(動詞 pū の過去受動分詞 男性 単数 主格)
  • भवति (bhavati) - 〜となる、〜である(動詞 bhū の現在 3人称 単数)
  • वृषली-गमनात् (vṛṣalī-gamanāt) - ヴリシャリー(シュードラ階級の女性、あるいは不道徳な女性)との交わりから(名詞 gamana「行くこと、交わること」との複合語、単数 奪格)
  • पूतः (pūtaḥ) - 浄められた者(動詞 pū の過去受動分詞 男性 単数 主格)
  • भवति (bhavati) - 〜となる、〜である(動詞 bhū の現在 3人称 単数)
  • अ-ब्रह्मचारी (a-brahmacārī) - 禁欲行を守らない者(男性 単数 主格)
  • ब्रह्मचारी (brahmacārī) - 禁欲行者(男性 単数 主格)
  • भवति (bhavati) - 〜となる、〜である(動詞 bhū の現在 3人称 単数)
  • पङ्क्तिषु (paṅktiṣu) - 列、集団、食事の席において(女性 複数 処格)
  • सहस्र-पानात् (sahasra-pānāt) - 多くの人々との飲食から(直訳は「千の飲み物から」だが、文脈上、不浄とされる多くの人が集まる食事の席での飲食を指すと考えられる、奪格)
  • पूतः (pūtaḥ) - 浄められた者(動詞 pū の過去受動分詞 男性 単数 主格)
  • भवति (bhavati) - 〜となる、〜である(動詞 bhū の現在 3人称 単数)
  • अष्टौ (aṣṭau) - 八人の(数詞 男性 複数 対格)
  • ब्राह्मणान् (brāhmaṇān) - バラモンたちを、バラモンたちに(男性 複数 対格)
  • ग्राहयित्वा (grāhayitvā) - 教えて、理解させて、伝授して(動詞 grah の使役、絶対分詞)
  • ब्रह्म-लोकम् (brahma-lokam) - ブラフマーの世界、最高天界を(男性 単数 対格)
  • सः (saḥ) - 彼は、その者は(指示代名詞 tad の男性 単数 主格)
  • गच्छति (gacchati) - 行く、到達する(動詞 gam の現在 3人称 単数)

解説:
『ガーヤトリー・ラハスヨーパニシャッド』の終章を飾るこの第24節は、これまで探求されてきたガーヤトリーの深遠なる奥義(गायत्री रहस्यम्, gāyatrī rahasyam)を学び、修め、そして伝承することによって得られる、究極的な功徳(पुण्य, puṇya)と恩恵を高らかに宣言します。前節で示された罪障消滅の力が、ここでは具体的な善果と結びつけられ、最終的な霊的到達点とそのための重要な道筋が示されます。

まず、この奥義を「バラモン(ब्राह्मणः, brāhmaṇaḥ)」(ここでは知識と徳性を備えた探求者を指す広義の意味合いも含む)が読誦し修める(पठेत्, paṭhet)ことの功徳は、想像を絶するほど大きいとされます。それは実に「六千万回(षष्टिसहस्रलक्षाणि, ṣaṣṭisahasralakṣāṇi)」ものガーヤトリー・マントラの読誦(जप, japa)に匹敵すると述べられます。この天文学的な数字は、単なる量的な比較ではなく、奥義の理解と実践が持つ「質」の深さが、機械的な反復の「量」を遥かに凌駕することを示唆しています。真の理解を伴う一回の読誦が、無数の形式的な読誦よりも強力な変容力を持つという、霊性の本質を突いた表現です。

さらに、この奥義を修めた者は、「すべてのヴェーダ(सर्वान् वेदान्, sarvān vedān)を修めた者」となり、「すべての聖地(सर्वेषु तीर्थेषु, sarveṣu tīrtheṣu)で沐浴を終えた者」となるとされます。これは、ガーヤトリーの奥義が、ヴェーダの全知識体系の精髄を含み、聖地巡礼によって得られるすべての浄化と恩寵を内包していることを意味します。通常は生涯をかけた努力を要するこれらの成就が、この一つの奥義の探求によって達成されるというのです。

続く一連の「〜からも浄められる(पूतः भवति, pūtaḥ bhavati)」という表現は、この奥義が持つ広範な浄化力を強調します。「飲むべきでないもの(अपेय, apeya)」「食すべきでないもの(अभक्ष्य, abhakṣya)」の摂取や、「ヴリシャリー(वृषली, vṛṣalī)」(伝統的にはシュードラ階級の女性を指すが、広く社会的に許されない関係の相手とも解釈される)との交わりといった、当時の社会規範や儀礼的純粋さに関わる過ちからの解放が説かれます。これらは、現代の視点とは異なる規範を含みますが、心身の清浄さを保つことの重要性を象徴的に示しています。特に注目すべきは、「禁欲行を守れなかった者(अब्रह्मचारी, abrahmacārī)も真の禁欲行者(ब्रह्मचारी, brahmacārī)となる」という一節です。これは、過去の過ちが帳消しになるというだけでなく、奥義の実践を通じて内なる変容が起こり、本質的な清らかさと自己制御(ब्रह्मचर्य, brahmacarya)を取り戻すことを示唆しています。

最後に、このウパニシャッドは、知識の伝承という重要な使命について語ります。「八人のバラモン(अष्टौ ब्राह्मणान्, aṣṭau brāhmaṇān)にこの奥義を授けた(ग्राहयित्वा, grāhayitvā)者」は、「ブラフマーの世界(ब्रह्मलोकम्, brahmalokam)」、すなわち最高の天界、完全なる解放の状態へと到達すると約束されます。「八」という数字は、しばしば完全性や宇宙の調和を象徴します。自らがこの奥義によって変容を遂げた後、その智慧の光を他者と分かち合うことこそが、究極の霊的完成への道であると示されているのです。個人的な解脱だけでなく、他者の覚醒を助ける行為が、最も尊い功徳となるという、ウパニシャッドの持つ利他の精神と教育的側面がここに表れています。

この最終節は、ガーヤトリーの奥義が個人の浄化と変容、知識と功徳の獲得をもたらすだけでなく、その智慧を分かち合うことを通じて、自他共に最高の境地へと至る道を開くことを示しています。それは、ガーヤトリーという宇宙的原理への深い理解と帰依が、個人の内なる世界と外なる世界、そして未来へと続く世代をつなぐ、壮大な霊的旅路であることを告げているのです。

終結句

इत्याह भगवान् ब्रह्मा ॥
ityāha bhagavān brahmā ||
かく、尊き主ブラフマーは説いた。

逐語訳:

  • इति (iti) - このように、かく(不変化詞)
  • आह (āha) - 言った、語った、説かれた(動詞 ah の完了 3人称 単数)
  • भगवान् (bhagavān) - 尊き主、祝福された方、神聖なる方(形容詞、男性 単数 主格)
  • ब्रह्मा (brahmā) - ブラフマー神、創造神(男性 単数 主格)

解説:
この『ガーヤトリー・ラハスヨーパニシャッド』の締めくくりとなる簡潔な一句、「इत्याह भगवान् ब्रह्मा (ityāha bhagavān brahmā)」は、これまで展開されてきたガーヤトリー女神に関する深遠な教え(रहस्य, rahasya)のすべてが、宇宙の創造主であるブラフマー神 (ब्रह्मा, brahmā) 御自身によって語られたものであることを厳かに宣言します。「इति (iti)」という言葉は、先行する全ての節の内容を包括し、その教えの究極的な権威と起源が、至高の存在である「भगवान् ब्रह्मा (bhagavān brahmā)」、すなわち尊き主ブラフマーにあることを明示しています。

この一文は、本ウパニシャッドの冒頭、第1節における「यो ब्रह्मा स ब्रह्मोवाच (yo brahmā sa brahmovāca)」(そのブラフマーがブラフマーとして語った)という記述と美しく呼応しています。これにより、聖仙ヤージュニャヴァルキヤ (याज्ञवल्क्य, yājñavalkya) やヴァシシュタ (वसिष्ठ, vasiṣṭha) の問いに始まるこの聖典全体が、単なる人間の哲学的思索ではなく、創造神ブラフマー自身による直接の啓示、すなわちシュルティ (श्रुति, śruti) であるという構成を完結させています。

「भगवान् (bhagavān)」という称号は、単に「神」を意味するだけでなく、「幸運、威光、力、栄光、知識、離欲」といった六つの神聖な属性(भग, bhaga)を完全に備えた存在への深い敬意を表す言葉です。この称号をブラフマー神に冠することで、ガーヤトリーの奥義が宇宙の根源から流れ出た、疑うことのできない最高の真理であることが強調されます。この教えは、人間の限られた知性を超えた、神聖な智慧の顕現なのです。

この短い終結の句は、深遠な権威と静かなる畏敬の念を呼び起こします。それは、この教えを受け取る者に対し、その内容を真摯に受け止め、自らの生と実践において体現していくよう静かに促します。ガーヤトリーの奥義が創造主ブラフマー自身から直接授けられたものであるという認識は、その教えの普遍性と超越性を際立たせ、単なる理論的知識としてではなく、私たちの存在そのものを変容させる力を持つ生きた智慧として受け取ることの重要性を示唆します。

シュルティ、すなわち天啓の聖典としてのウパニシャッドの伝統において、このような結びの言葉は、語られた教えが神聖なる言葉(दिव्य वाक्, divya vāk)であることを保証し、その権威を確立する役割を果たします。第24節で、この奥義を修め、他者に伝えることの功徳が説かれましたが、この最後の句は、その尊い教えが確かなる源泉を持つことを再確認させるものです。かくして、ガーヤトリーの奥義は、時空を超えた永遠の智慧として、私たちの精神に深く刻まれることでしょう。

結語

इति गायत्रीरहस्योपनिषत् समाप्ता ॥
iti gāyatrīrahasyopaniṣat samāptā ||
ここに『ガーヤトリー・ラハスヨーパニシャッド』は終わる。

逐語訳:

  • इति (iti) - このように、かく(不変化詞、先行する内容全体を指し示す)
  • गायत्री-रहस्य-उपनिषत् (gāyatrī-rahasya-upaniṣat) - ガーヤトリーの奥義のウパニシャッド(女性 単数 主格)
  • समाप्ता (samāptā) - 完結した、成就された、終わった(動詞 sam-āp の過去受動分詞、女性 単数 主格)

解説:
「इति गायत्रीरहस्योपनिषत् समाप्ता (iti gāyatrīrahasyopaniṣat samāptā)」—この静謐にして荘厳な一句は、古代インドの聖典、特にウパニシャッド (उपनिषत्, upaniṣad) の伝統的な結びの言葉です。それは、単なる物語の終わりを告げるのではなく、深遠な智慧の開陳が完了したことを示す、儀式的な意味合いを帯びています。

「इति (iti)」という不変化詞は、これまで語られてきた『ガーヤトリー・ラハスヨーパニシャッド』の全内容—聖仙たちの問い、創造の神秘、ガーヤトリー・マントラの各音節の深遠な意味、女神の宇宙的な姿、そしてその実践がもたらす恩恵—そのすべてを包括し、一つの完成された教えとして指し示します。

そして「समाप्ता (samāptā)」という言葉は、この聖典の主題である「ガーヤトリー・ラハスヤ・ウパニシャッド」という女性名詞に合わせて、女性形の過去受動分詞となっています。この語は「終わった」という意味を持ちますが、その語源を探ると、接頭辞「सम् (sam)」と動詞「आप् (āp)」の過去受動分詞「आप्त (āpta)」から成り立っています。「सम् (sam)」は「完全に、共に、良く」、「आप्त (āpta)」は「得られた、達成された、到達した」を意味します。したがって、「समाप्ता (samāptā)」は、単なる物理的な終了ではなく、「完全なる成就」「知識の完全な獲得」という深遠なニュアンスを内包しているのです。それは、このウパニシャッドを通じて伝えられるべきガーヤトリーの奥義が、余すところなく、完全に開示され、成就されたことを宣言しています。

古来、ヴェーダ (वेद, veda) やウパニシャッドの教えは、師から弟子へと口承(श्रुति, śruti、「聞かれたもの」の意)によって神聖に伝えられてきました。文字に記されるようになってからも、聖典の読誦 (पठन, paṭhana) と聴聞 (श्रवण, śravaṇa) は極めて重要な実践と見なされています。この結びの言葉は、声に出して読誦された聖なる言葉(वाक्, vāk)が、その場に満ち、宇宙の記録に刻まれ、一つの区切りを迎えたことを示す役割も担っています。

『ガーヤトリー・ラハスヨーパニシャッド』は、宇宙の根源的音聲であり、ヴェーダ知識の精髄とされるガーヤトリー (गायत्री, gāyatrī) の本質を解き明かしてきました。その起源から、マントラの構造、宇宙論的な展開、女神としての姿、そしてその実践がもたらす浄化と覚醒の力に至るまで、多岐にわたる深遠な教えが語られました。

この簡潔な結びの句は、その神聖なる教えの伝達が完了したことを示すと同時に、読者や聴聞者に対して、ここからが真の探求の始まりであることを静かに示唆します。聖典の学びは終わりを迎えましたが、その教えを自らの内に深く降ろし、瞑想と実践を通じて体得し、人生においてその智慧を花開かせるという旅は、まさにこれから始まるのです。創造神ブラフマー (ब्रह्मा, brahmā) から聖仙たちへ、そして師資相承 (गुरु-शिष्य-परम्परा, guru-śiṣya-paramparā) の系譜を経て、今この瞬間にこの教えに触れた私たちへと続く智慧の流れが、この「समाप्ता (samāptā)」の一語によって一つの円環を閉じ、同時に新たな円環の始まりを告げているかのようです。それは、終わりであり、始まりでもある、永遠の智慧の継承を象徴する、力強くも静かな宣言なのです。

最後に:ガーヤトリーの光を携えて

『ガーヤトリー・ラハスヨーパニシャッド』の深遠なる奥義を巡る旅は、ここに一つの区切りを迎えます。聖仙たちの問いに始まり、創造主ブラフマー自身の言葉によって開示されたこの教えは、単なるマントラを超えた、宇宙的原理としてのガーヤトリー(गायत्री, gāyatrī)の真髄を私たちに示してくれました。

私たちは、このマントラが原初の水から聖音オーム(ॐ, oṃ)、ヴィヤーフリティ(व्याहृति, vyāhṛti)を経て顕現する宇宙創成のプロセスの中に位置づけられることを見ました。そして、「तत् सवितुर् वरेण्यं भर्गो देवस्य धीमहि धियो यो नः प्रचोदयात्」という聖句の一語一語に、火神アグニ(अग्नि, agni)から絶対実在ブラフマン(ब्रह्मन्, brahman)に至る神々、聖仙、韻律、シャクティ(शक्ति, śakti)、そして宇宙を構成するタットヴァ(तत्त्व, tattva)が凝縮されている様を学びました。

さらに、ガーヤトリー女神が、朝・昼・夕のサンディヤー(सन्ध्या, sandhyā)において、それぞれブラーフミー(ब्राह्मी, brāhmī)、マーヘーシュヴァリー(माहेश्वरी, māheśvarī)、ヴァイシュナヴィー(वैष्णवी, vaiṣṇavī)として顕現し、その姿が赤・白・黒の色彩と、リグ・ヤジュル・サーマの三ヴェーダと結びつく様を観想しました。女神の身体そのものが、神々、天体、自然、時間を含む大宇宙(マクロコスモス)の縮図であるという壮大なヴィジョンは、自己と宇宙の深遠なる一体性を示唆します。

このウパニシャッドは、ガーヤトリーの奥義を修めることが、千の祭祀にも勝る功徳をもたらし、日々、あるいは生涯にわたる罪障(पाप, pāpa)をも浄化する計り知れない力を持つと説きます。そして、その智慧を他者と分かち合うことが、究極の境地であるブラフマーの世界(ब्रह्मलोकम्, brahmalokam)へと至る道を開くと約束します。

『ガーヤトリー・ラハスヨーパニシャッド』の学びはここで終わりますが、この奥義を心に灯し、日々の実践を通じてその光を輝かせていく旅は、これから始まります。ガーヤトリー・マントラの詠唱と瞑想が、皆様にとって、内なる神性を開花させ、普遍的な智慧と慈悲に満ちた存在へと至るための、力強い導きとなりますよう、心より祈念いたします。

尊き主ブラフマーによって説かれたこの教えが、永遠に輝き続けますように。

【サンスクリット原文出典】
Sanskrit Documents. "Gayatri-rahasya Upanishad"
https://sanskritdocuments.org/doc_upanishhat/gaayatriirahasyopanishhat.html

【原文と節番号について】

本解説記事で参照した上記のサンスクリット語原文には、節を示す明確な番号が付されていません。

しかし、読者の皆様の理解を助け、解説の便宜を図るため、本記事においては独自の節番号(例:「第1節」「第2節」など)を付記しております。これらの番号は、原文の区切りと内容に基づいて便宜的に設定したものであり、原文そのものに固有の番号付けが存在するわけではない点にご留意ください。

コメント

この記事へのコメントはありません。

CAPTCHA


RANKING

DAILY
WEEKLY
MONTHLY
  1. 1
  2. 2
  3. 3
  1. 1
  2. 2
  3. 3
  1. 1
  2. 2
  3. 3

CATEGORY

RECOMMEND

RELATED

PAGE TOP