前回に続けて、名詞の語尾変化、今回は「格」について。
1.格(かく)・・・男性名詞の格変化
名詞と形容詞は、文中における役割の違い=格によって語尾が変わります。格は全部で8つあります。
deva- (神)という男性名詞の単数形を例にとりながら、8つの格の意味についておおまかに説明します。
(eを長母音として発音するのを忘れないでください)
主格 | देवः devaḥ 神は 主語、述語となる形容詞や名詞 |
対格 | देवम् devam 神を 動詞の直接目的語「~を」(「彼は私に本をくれた」という場合の「本を」)、 動作の方向(「彼は町へ行く」というときの「~へ」) 他の用法:時間の継続(「長い年月」)、距離 |
具格 | देवेन devena 神によって 道具、手段、原因、方法「~で」(「私はペンで書く」) 受動文の行為者「~によって」(「この仕事は私によってなされた」 |
為格 | देवाय devāya 神のために、神へ 間接目的語「~のために」「~へ」(「彼は私に本をくれた」の「私に」) 祈りを捧げる神格に対して(「ガネーシャ神へ帰依いたします」) |
奪格 | देवात् devāt 神から ある動作の出発点(「彼は町からやってくる」の「町から」)、原因、理由(「人は訓練から学ぶ」) 他の用法:比較対象(「彼は私より背が高い」の「私より」) |
属格 | देवस्य devasya 神の 所有、所属(「これは父の家だ」という場合の「の」) 他の用法:為格の代わりに、間接目的語を示すことがある。 |
処格 | देवे deve 神において ある状態が起きる場所、また動作の目的となる場所 他の用法:~の間で、時間の経過 |
呼格 | देव deva 神よ! 呼びかけ |
日本語では、主語を表すときに「神は…」のように、名詞に助詞「は」を付けますが、
サンスクリット語では、助詞の代わりに語尾を変化させることで、文中の役割を明確にするのです。
(インドの伝統的な文法学では番号で呼ばれます。
名詞は「1番」、対格は「2番」、具格は「3番」…。
呼格は「sambodhanam」)
上のdeva-の例では単数形しか挙げていませんが、
前回出てきた「数(すう)」の説明を覚えているでしょうか。
単数、両数、複数の語尾、それぞれが別の形になるのですね。
つまり、8(格)×3(数)=24の語尾があるということ。
まず、aで終わる男性名詞の代表として
deva-の格変化の一覧表を載せます。
deva-(男性名詞、神)の格変化 | |||
格 | 単数 | 両数 | 複数 |
主格 | devaḥ | devau | devāḥ |
対格 | devam | devau | devān |
具格 | devena | devābhyām | devaiḥ |
為格 | devāya | devābhyām | devebhyaḥ |
奪格 | devāt | devābhyām | devebhyaḥ |
属格 | devasya | devayoḥ | devānām |
処格 | deve | devayoḥ | deveṣu |
呼格 | deva | devau | devāḥ |
この「格変化の多さ」に面食らう人が多いとは思いますが、
ここでは、「サンスクリット語」について広く知って
欲しいという気持ちで書いているので、
変化表は眺めるだけにして、気軽に読んでください。
2.sandhi(サンディ)
サンスクリット語には「サンディ」(連声)という、前後の音との関係に従って音が変化する規則があります。
1 文末に来た時、語末の-sが -ḥ(visarga)に変わる。
例:devas(神は)→ devaḥ (語尾が-ḥとなっているものは、本来は-s)
2 語末の -mは次に続く単語の語頭が子音の場合、-ṃ(anusvāra)に変わる。
例:「私は神を見る」 देवम् पश्यामि devam paśyāmi → देवं पश्यामि devaṃ paśyāmi
注: 後ろに子音があるとmの発音は自然にanusvāraになっているので意識しなくても大丈夫です。
3.文章の例
(例文中では、本来起きるはずの音の変化(サンディ)は無視しています)
(1)कृष्णः सर्वज्ञः।
kṛṣṇaḥ sarvajñaḥ.
「クリシュナは一切を知る者である」
単語をひとつひとつみていくと、
कृष्णः / kṛṣṇa- クリシュナ(男性名詞)の 単数、主格
सर्वज्ञः / sarvajña- 全知者(男性名詞)の 単数、主格
「AはBである」という文章では、AもBも、それぞれ主格です。
最初の単語kṛṣṇa-は主語であり、sarvajña-は述語で、
be動詞にあたるものが省略されても文章として成り立ちます。
(2) कृष्णः।
kṛṣṇaḥ.
「クリシュナがいる」
कृष्णः / kṛṣṇa- クリシュナ(男性名詞)の 単数、主格
be動詞が省略されて、名詞の主格形1つだけでも
「クリシュナがいる」という意味の文章になります。
(3) ॐ गणेशाय नमः
oṃ gaṇeśāya namaḥ.
「オーン ガネーシャ神へ帰依いたします」
ॐ / oṃ 聖音
गणेशाय / gaṇeśa- ガネーシャという意味の男性名詞、単数、為格。「ガネーシャ神へ」
नमः / namas 動詞nam-(拝む)から出来た中性名詞で「南無」「礼拝」「帰依」の意味。
(中性名詞ですが、格変化をしない不変化辞として扱います。)
ナマステー नमस्ते namaste という挨拶の言葉の「ナマス」と同じ。
namas、namo、namaḥは全部同じ単語です。(サンディの影響で変化)
namas という単語や、動詞nam-は、為格「~に対して」とともに使います。
ですので、
ॐ नमः
oṃ namaḥ.
の下線部分に、好きな神様の名前の為格単数を入れれば祈りの言葉になります。
aで終わる男性名詞の為格単数は、語尾を-āyaに変えるだけ。
例えば
शिवाय śivāya シヴァ神へ
इन्द्राय indrāya インドラ神へ
कृष्णाय kṛṣṇāya クリシュナ神へ
(他の母音や子音で終わる名詞の場合は語尾が異なります。)
(4) अर्जुण ईश्वरेण मनुष्याः उत्पन्नाः।
arjuṇa īśvareṇa manuṣyāḥ utpannāḥ.
「アルジュナよ、至高神によって人間は生み出された。」
अर्जुण / arjuṇa- アルジュナという意味の男性名詞の単数、呼格です。意味は「アルジュナよ」
ईश्वरेण / īśvara- 至高神(イーシュヴァラ)という意味の男性名詞の単数、具格。「至高神によって」
मनुष्याः / manuṣya- 人間という意味の男性名詞の複数、主格です。つまり主語。「人間たちは」
उत्पन्नाः / utpanna- 動詞utpad-からできた過去受動分詞で、「生み出された」という意味です。これが述語にあたり、動詞の代わりになっています。分詞は名詞と同じように格変化し、主語「人間」と同じ男性形、複数、主格です。
主語と述語は、性と数と格が一致していることが原則です。
次回は、aで終わる中性名詞を紹介します。
(文章:prthivii)
コメント