師に感謝の祈りを捧げる神聖な満月、グル・プールニマー。
この日は、叡智の光そのものである聖仙ヴィヤーサの誕生を祝う日でもあります。
ヴィヤーサは、霊的叡智の結晶である『ヴェーダ』を編纂し、壮大な叙事詩『マハーバーラタ』を著した大聖人であり、すべてのグルたちの源と仰がれる存在です。
そのような偉大な魂が生を受けたのは、王宮でも寺院でもなく、ヤムナー川の中洲にひっそりと浮かぶ孤島でした。
この場所には、私たちの歩みを導く深い意味が秘められています。
ヴィヤーサの誕生は、聖仙パラーシャラと、美しく慎ましい乙女サティヤヴァティーとの出会いから始まります。
サティヤヴァティーは漁師の娘であり、自らの身体から漂う魚の匂いに悩みながらも、渡し守として川を渡る人々に仕えていました。
ある日、彼女の舟に乗り合わせたパラーシャラは、サティヤヴァティーの曇りのない清らかさを見抜き、その心に光を見ます。
パラーシャラは、サティヤヴァティーとの間に神聖な子どもを授かることを願います。
ためらうサティヤヴァティーに対し、パラーシャラは祝福を授けました。
その瞬間、サティヤヴァティーの身体から漂っていた魚の匂いは麗しい芳香へと変わり、やがて生まれてくる子どもは計り知れない智慧を持つ偉大な聖人となる運命を授かります。
こうしてサティヤヴァティーは、パラーシャラが霊力によって創造したヤムナー川の中洲の孤島にて、ひとりの子どもを出産しました。
「島で生まれた者」を意味する「ドヴァイパーヤナ」と名付けられたその子どもがヴィヤーサであり、生まれるとすぐに世界のための苦行の道へと旅立ったと伝えられます。
このヴィヤーサの誕生の舞台となった「川」と「島」には、私たちの魂の旅路を照らし出す、霊的な象徴が隠されています。
川は、古来より清めの象徴とされ、俗から聖への渡し場になる場所でした。
特に、ヤムナー川は死を司る神ヤマの妹とされる女神でもあり、その流れはあらゆる罪を洗い清めると信じられます。
この聖なる川は、ヴィヤーサという崇高な魂を迎え入れるための神聖な通路の役割を果たしたと語られています。
そして、川の中に浮かぶ「島」は、広大な俗世の流れから切り離された、聖なる空間を象徴します。
そこは、瞑想と内省のための聖域であり、神聖な知識が降ろされるにふさわしい場所です。
ヴィヤーサは、この世の混乱に飲み込まれることなく、永遠の真理を編み上げるという大業を果たしました。
その原点には、俗世から隔絶されたこの「霊性の島」での誕生がありました。
人は誰しも、人生のどこかでこの「内なる島」を必要とします。
それは、絶えず移ろいゆく日々の奔流の中で、決して揺らぐことのない、深く清らかな聖域です。
この神聖な空間に身を委ねるとき、私たちは日常の喧騒ではかき消されてしまう魂の声に、そっと耳を傾けることができます。
その静寂の中でこそ、私たちは自分自身の本質へと渡り、迷いのない叡智と、確かな平安を見出すことが可能になります。
ヴィヤーサがヤムナー川の孤島で生まれたという神話は、移ろいゆく俗世の波間にあっても、私たちが内なる清らかな中心を見失わずに歩むための、深い導きであるように感じられます。
その誕生の情景に心を重ねるとき、私たちもまた、自らの内面に静かに浮かぶ小さな島へと舟を漕ぎ出すことができます。
その先にこそ、私たちの魂を成長させ、人生をより芳しく豊かにする光が待っているはずです。
(文章:ひるま)
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