これまでに母音で終わる名詞の格変化をあげてきました。
そろそろ「動詞」についても紹介したいところですが、
動詞を学ぶ前に大切な
「गुण (guṇa グナ) と वृद्धि (vṛddhi ヴリッディ)」
について説明します。
和書であれ洋書であれサンスクリット語の文法書のほとんどが
グナとヴリッディを真っ先に挙げています。
そもそも、サンスクリット文法の規定を定めた
紀元前5世紀の文法家パーニニによる
「अष्टाध्यायी Aṣṭādhyāyī」(八つの章)の
冒頭にも出てきます。
1.1.1 वृद्धिरादैच्। vṛddhirādaic. 「ā、ai、auはヴリッディである」
1.1.2 अदेङ् गुणः। adeṅguṇaḥ. 「「a、e、oはグナである」
耳で聞いて覚えるための簡潔な文体であるため、
これだけでは何のことか分からないと思います。
サンスクリット語では、
動詞語根から語幹が派生するとき、
(例:√जि ji-(勝つ)→ जयति jayati 彼は勝つ)
動詞語根から名詞が派生するとき、
(例:√सू sū-(元気付ける)→ सवितृ savitṛ サヴィトリ)
名詞の語尾が変化するとき、
(例:गिरि giri-(山)→ गिरेः gireḥ 山から または 山の)
など、
頻繁に「母音が交替する」現象があり、
そうしたときに現れる音の種類を「グナ」や「ヴリッディ」と定義しています。
こうした「母音の交替」は
サンスクリット語と同じインドヨーロッパ語族の現代語にもあります。
英語でも不規則動詞では
begin began begun「始まる」
のように、語幹の母音が交替する例がありますね。
サンスクリット語では、
この母音の交替が頻繁に、また規則的に起こるため、
単語の成り立ちを理解するにはどうしても必要な知識です。
サンスクリット語の研究をした欧米の研究者たちは
インドヨーロッパ語族のラテン語等との比較から
グナとヴリッディを「母音交替」「母音階梯」として把握しました。
弱韻 |
a |
ā |
i, ī |
u, ū |
ṛ |
ḷ |
guṇa |
a |
ā |
e |
o |
ar |
al |
vṛddhi |
ā |
ā |
ai |
au |
ār |
上記のパーニニの説明ではarやārは
グナ、ヴリッディの定義に含まれていませんでしたが、
他の部分でのパーニニの説明(1.1.51 उरण् रपरः ।)や
語幹母音の実際の変化から、補記した表になっています。
インドの伝統的な教え方にはない手法ですが、
母音交替の理解の助けになるかと思います。
例えば、「作る、する」という意味の√कृ kṛ- は
動詞語根 のときは弱韻(元の母音ṛ)、
現在形能動態3人称単数 のとき करोति karoti(ar、グナに相当)、
現在形使役3人称単数 のとき कारयति kārayati(ār、ヴリッディに相当)、
と変化しています。
(文章:prthivii)
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