今回は、バガヴァッド・ギーター1.31を題材に、
現在形の例を紹介します。
निमित्तानि च पश्यामि विपरीतानि केशव । न च श्रेयोऽनुपश्यामि हत्वा स्वजनमाहवे ॥१-३१॥ nimittāni ca paśyāmi viparītāni keśava na ca śreyas-anupaśyāmi hatvā svajanam āhave ||(-の部分は連声無しで表記) 「そしてクリシュナよ、私は不吉な前兆を見ます。 戦で親族を殺しても、私は幸福を見出しません。」
繰り返しになりますが、
動詞は「語幹+語尾」のセットで単語として意味をなします。
語尾は、主語が何なのかを明示する役割があります。
現在形パラスマイパダの語尾は、次のようなものです。
単数 | 両数 | 複数 | |
1人称 | -mi*(私は~) | -vaḥ*(私たち二人は~) | -maḥ*(私たちは~) |
2人称 | -si(あなたは~) | -thaḥ(あなたたち二人は~) | -tha(あなたたちは~) |
3人称 | -ti(彼(それ)は~) | -taḥ(彼ら二人(それら二つ)は~) | -nti(彼ら(それら)は~) |
*語幹の最後の母音-a-は、m、vの前で長母音になります。
また、動詞は語幹の作られ方によって10種類に分類され、
前回は「1類」の動詞を説明しました。
(詳しくは前回の記事(現在形 1類動詞パラスマイパダ)をご覧ください。)
次に「4類」の動詞の場合は
1.語根の母音は変化しない。
2.語根の後に-y-をつける。
3.最後に-a-を添えた形が語幹になる。
例をあげると、
語根が√paś(見る)という動詞の場合は、
語幹は paśya- になります。
√paś(見る)の現在形パラスマイパダ | |||
単数 | 両数 | 複数 | |
1人称 | paśyāmi(私は見る) | paśyāvaḥ(私達二人は見る) | paśyāmaḥ(私達は見る) |
2人称 | paśyasi(あなたは見る) | paśyathaḥ(あなた達二人は見る) | paśyatha(あなたは見る) |
3人称 | paśyati(彼は見る) | paśyataḥ(彼ら二人は見る) | paśyanti(彼らは見る) |
4類動詞のなかには、不規則な変化をするものもあります。
(1)短母音が長母音になるもの、
√kram(歩く) → krāmya-
√div(遊ぶ) → dīvya-
√śam(静まる) → śāmya-
(2)鼻音を失うもの
√rañj(染まる) → rajya-
√bhraṁś(落ちる) → bhraśya-
(3)その他
√vyadh(刺し通す) → vidhya-
√śo(鋭くする) → śya-
例文:バガヴァッド・ギーター1.31から。
निमित्तानि च पश्यामि विपरीतानि केशव । न च श्रेयोऽनुपश्यामि हत्वा स्वजनमाहवे ॥१-३१॥ nimittāni ca paśyāmi viparītāni keśava na ca śreyas-anupaśyāmi hatvā svajanam āhave ||(-の部分は連声無しで表記) 「そしてクリシュナよ、私は不吉な前兆を見ます。 戦で親族を殺しても、私は幸福を見出しません。」
この文章のなかには、現在形で表わされている動詞が二つあります。
ひとつめが paśyāmi です。
ちょうど4類動詞で紹介した √paś(見る)ですね。
語尾に注目しながら、上の表と見比べてみると、
-mi というのは、1人称単数の語尾であることがわかります。
つまり「私は見る」という意味になります。
もうひとつの anupaśyāmi は、
anu + √paś →(見出す、思い巡らす)という動詞。
こちらも語尾が1人称単数なので
「私は見出す」という意味ですが、
同じ行の冒頭に na という否定辞がついていますので、
「私は見出さない」という否定文になります。
その他の単語
nimitta- 前兆(中性・複数・対格)
ca そして(接続詞、格変化しない)
viparīta- 不吉な(中性・複数・対格)
keśava- 美髪の者=クリシュナ(男性・単数・呼格)
śreyas- 幸福(中性・単数・対格)
hatvā √han(殺す)の絶対分詞「殺して」
svajana- 親族(男性・単数・対格)
āhava- 戦争(男性・単数・処格)
(文章:prthivii)
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