インドでは2016年9月17日から9月30日までの約2週間、ピトリ・パクシャと呼ばれる先祖供養の期間を迎えます。
日本において先祖供養が行われるお彼岸の中日は、秋分の日(昼と夜の長さがほぼ同じになる日)として知られています。
悟り(仏)の世界を彼岸、煩悩に満ちた世界を此岸と呼ぶ仏教では、彼岸は西に、此岸は東にあるとされてきました。
太陽が真東から昇り真西に沈むこの秋分(また春分)は、彼岸と此岸がもっとも通じやすくなるとされ、この時に先祖を供養する行いがされるようになったといわれます。
インドではこの先祖供養にあたるのが、ピトリ・パクシャと呼ばれる期間です。
バードラパダ月(8月~9月)の満月からアーシュヴィナ月(9月~10月)の新月までの約2週間がその時にあたります。
この間は、先祖が地上にもっとも近づくといわれ、熱心な先祖供養が行われます。
それにはある言い伝えがあります。
マハーバーラタに登場する不死身の英雄カルナ王は、多くの人々に金や銀を与えてきましたが、天界に行った時、食事と水を与えられず空腹に苦しみました。
それは、カルナ王が人々に金と銀しか与えず、食事と水を施さなかったことに理由がありました。
神々はカルナ王に、地上に戻り人々に食事と水を施す機会を与えます。
再び地上に戻り、人々へ食事と水を施したカルナ王は、その後、天界で幸せに暮らしたと伝えられます。
カルナ王が地上に戻ったのが、このピトリ・パクシャの約2週間であるとされ、人々は先祖だけでなく、貧しい人々への食事の施しを熱心に行います。
インドでは、私たちは先祖と血縁関係で結ばれているだけでなく、先祖の行いや思いの影響を非常に強く受けていると信じられています。
先祖を飢えさせないよう、先祖だけでなく、貧しい人々にも食事や水を恵むことで、先祖の魂は満たされ、私たちもまた祝福されると伝えられます。
何より、そうして行われる善行こそが私たち自身の行いを清め、これから先をより良い方向へ導くと信じられています。
このピトリ・パクシャの期間には、以下のようなことを心がけることが勧められています。
・ピトリ・パクシャの期間中は、祖先が何らかの形でその存在を私たちに知らせに来ると考えられています。したがって、自分の周囲にやってくる動物、鳥、虫を傷つけないことが勧められます。
・ピトリ・パクシャの期間中は、家の外に水や食べ物を置き、動物、鳥、虫がいつでも食せるようにすることが勧められます。
・ピトリ・パクシャの期間中は、助けを必要としている人に、進んで手を差し伸べることが勧められ、貧しい人には寄付を行うことが勧められます。
・ピトリ・パクシャの期間中は、贅沢を控え、食事は菜食に、飲酒や喫煙は避けることが勧められます。贅沢品を購入することも勧められません。
・ピトリ・パクシャの期間中は、祝賀行事は避けるべきであるとされ、何らかの朗報があった場合は、ピトリ・パクシャの期間を終えた後に祝賀を行うことが勧められます。
・ピトリ・パクシャの期間中は、カラスに水や餌を与えることが勧められます。カラスは死の神であるヤマ神の使いであると信じられる一方、祖先そのものであると信じられることがあります。
・ピトリ・パクシャの期間中は、悔い改める期間でもあるため、言葉や行動で人を傷つけないようにすることが勧められます。議論や争いに巻き込まれないようにし、嘘をつかないように注意します。
コメント