西洋でも同じような曖昧と誤用が重ねられて来た。
前回、私たち庶民のいささか姑息な「大げさや美化の習慣」と、「権力者の恣意」が対立せず。都合よく相互作用をもたらして、「精神世界に関する大切な言葉を曖昧にし、互いの誤用を許し合う」という歴史を重ねて来た、と述べました。
同じことが西洋(とりあえず英語を例に)でも言えます。
元々英語では「魂=Soul/心=Spirit/思考=Mind/感情=Heart/気分=Feeling」ですが、日本人にとっての日本語の語彙と同様に、「より深い→より浅い」という普遍性はあります。しかし、その基準も定義も同様に存在しません。日本もそうですが、より昔の人は、より分別出来、近年に近いほど曖昧や誤用が目立つ、ということも特徴です。それでも、例えば「Soul-Music」などは、現在に生きる個々の黒人の音楽的好み・嗜好性よりも、深く広い「民族のルーツ」と繋がっているイメージを持っています。
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余談ですが、そもそもこのような言葉は、日本でも欧米でもレコード会社が「売らんかな」で創作した言葉です。「Soul-Music」の前(一部では後も)の「売り文句」は「Black-Music」で、後に「差別用語」とされましたが、黒人人権運動家がむしろ誇りを持って「Black」を使った影響もあります。その前(時期は重なりながら)に至っては、後の時代では考えられない「Race-Music(人種音楽)」で、実際は、南部プランテーションで開放され北部大都会で工員などで給料を得たが、家土地は買えないので、酒とジュークボックス代に(白人以上に)金を使った層を対象にしていました。当時の黒人たちは、その「売り文句」を「おっ!俺たち向けの音楽だな」とむしろ歓迎していた訳です。
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他にも「Mind-Control」などは、1950年代の中国共産党が「再教育・洗脳」で用いたとか、ヴェトナム反戦の時代のアメリカの新興宗教の様相にて言われた、などとされ。必ずしも日本人の造語ではないようですが、「思考回路・思考性に強い影響を与え制御する」という意味では、正しい語法と言えます。
しかし、もしかしたら英語圏は、日本よりも「誤用・好き勝手な解釈」が氾濫しているかも知れません。例えば、前述の「Soul-Music」の範疇で、私が大好きな曲で、私のBlues-Bandの十八番でもある曲「Trouble in Mind」も、詩的には、「心の悩み」のような感じですが、正しい解釈では「思考内のトラブル」ですから、「そりゃあ君個人の問題だ」となり歌にはなり得ない。ところが、そもそも「心の悩み」は、前回述べたように「心=内面世界の子供」を悩ませている「駄目親(感情領域と思考領域が駄目)」な訳ですから、全てを正しくして曲のタイトルにするならば、「感情の乱れ/Trouble in Heart」な訳です。しかし、これでは詩的でないので売れません。
言い換えれば、英語圏の人々もまた、「Heartは、常に清純で暖かく美しくあると思いたい」「あれこれ悩むのは、むしろMindだと思いたい」という「すり替えと美化」が習慣的に定着している、ということなのです。
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余談ですが、私のサイケデリック・ロックバンドで必ずオープニングで演奏するのが、ヤードバーズというバンドの「Heartful of Soul」です。内容もどうでも良いような歌詞ですが、タイトルは全く意味不明。「雰囲気」でつけた感じです。
このようにして、英語圏でも日本人と同じような恣意や習慣によって「精神世界の語彙」は、かなり曖昧で好き勝手にされていると言えます。
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ちなみに、「Mental」は、ラテン語由来らしく、スペイン語とイタリア語で共通して「Mente=Mind=
思考」です。この2、30年スポーツの世界で「メンタル面の強化」などと言いますが、「雰囲気に呑まれたり、感情制御が出来ないことで力を出し切れないことを防ぐ為」というおおよその普遍性があります。しかるに「気分感情を制御する=思考力=思考性に権限を置く」という意味で「メンタル」は、珍しく「正しい語法」で浸透しているとも言えます。」
(※)「おいおい!ラテン圏まで話がズレると、インド音楽療法から脱線し過ぎだ」と叱られそうですが、インドの歌の歌詞から、庶民にとっての「精神世界の語彙」を考える時、「ペルシア語~ラテン語」をかなり学ぶ必要があることも痛感しました。
私がインド~中近東・中央アジア音楽の次に年月と想いを込めて取り組んだ、カリブ海(主に西語圏)で歌に歌われる言葉は、もっぱら「Corazón」です。この「Corazón」もまた英語の「Heart」同様に、様々な意味合いで歌に好まれて用いられますが、カリブ海では、特に「意味合い」の深みと幅が豊かな印象があります。基本的に「感情=心」という点では誤用なのですが、「あの人はコラソンを持っている」などと(キューバなどで)言う場合、かなり深みが感じられます。
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かつてキューバに於ける「Musico」の意味合いを聞いた時に感動したのですが、それと同様の豊かさを感じるのです。「Musico」は、訳せば「音楽家」ですが、誰も彼もではなく「本物に限る」ということでした。では、「イマイチや偽者は?」と聞けば、「Musicoなどとは呼ばないし、どうしても言わねばならない時は(皮肉を込めて)Musicianと言うね!」という答えでした。英語圏の音楽家に対するキューバ優位の自尊もあるのでしょうけど。
キューバ贔屓かも知れませんが、これを合わせて考えると「Corazón」の数多くの誤用も、単なる「大げさ」や「美化」ではなく、(むしろキューバではいまだにそれらは馬鹿にされると思いたい。※)「(深みと本物志向を持った)洒落っ気」と思えてなりません。
(※)否、むしろラテン圏は「大げさ」は得意。しかし何か微笑ましいし凛々しい。日本のようなハッタリや姑息さが感じられない気がする。
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「それに対して日本人と来たら、もっぱら『大げさと美化』なのだから」と迄言ったらキューバ贔屓も度が過ぎると叱られそうですが、実際、日本人の語法で「より深くなった」というものがあまり思い当たらないのも事実です。そこに加えて、「別系統だが同じように誤用・好き勝手がまかり通る英語」を、正しく直すなどということがなく、更に「誤用・好き勝手」に訳して混用するものですから、日本に於ける「精神世界の語彙」は、世界で一番混沌としているかも知れません。
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尤も、私の「キューバ・ソン音楽」の十八番である「Corazón de Chivo」の「Chivo」は、「仔山羊」ですが、私が子どもの頃日本でも流行ったチャチャチャの名曲「Corazón de Melon」が「メロンの気持ち」なので、初め「仔山羊の気持ち(心)か」と歌っていました。私は世界中の曲で、まず歌詞をローマナイズで学び、数年歌い込んでから「単語の意味~歌詞の意味」を詳しく学びます。日本語の意味を早々に聞いてしまって、「意味も知らずに聴いた時の第一印象」を(日本語の観念で)壊したくないからです。
「仔山羊の気持ち」の歌詞を聴いてびっくりしました。
なんと「俺の親父が生まれ育った東部にや、いまだに音楽だけは勝てないね!。だけど親父たちの飯の趣味は頂けないぜ!仔山羊のハツの煮物なんか喰ってみろよ、ありゃあ喰いもんじゃねえ」という歌詞です。数年歌い込んだ後でしたから、今更歌い方も変わらず。むしろ「西の外れの首都で、東部産の音楽『ソン』を演っているフリークたちの心情」が分かってノリも一層よくなった感じでした。その代わり、それ迄「Corazón」という言葉を聴いたり歌ったりしている時、思わず「うっとり気分」だったのが、すっかり冷めましたが。
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(文章:若林 忠宏)
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