ナーガ・パンチャミー2020

7月に入ると、暑季が続いていた広大なインドの大地に、恵みの雨が降り注ぎます。
乾いた大地が潤い始めるこの時は、シュラヴァナ月(7月~8月)と呼ばれ、1年の中でもっとも神聖な月とされています。
一説に、天地創造の神話である「乳海撹拌」は、このシュラヴァナ月に起きたと伝えられます。

この神聖なシュラヴァナ月における祝祭のひとつに、ナーガ・パンチャミーと呼ばれる蛇神を讃える祝祭があります。
ナーガ・パンチャミーはシュラヴァナ月の新月から5日目に祝福され、2020年は7月25日に迎えます。
雨季に入り、さ迷い出る蛇の被害を受けないよう、祈りを捧げたことがこの祝祭の始まりだと伝えられます。

インドでは広く、蛇は多産や豊穣の象徴とされ、また脱皮を繰り返す姿が輪廻と不死の象徴として崇められてきました。
宇宙を維持するヴィシュヌ神は、永遠を意味する「アナンタ」という大蛇に横たわり眠っています。
私たちの内に存在する根源的な生命エネルギーもまた、尾てい骨に蛇のようにとぐろを巻いて眠っていると言われます。
「クンダリニー」と称されるそのエネルギーは、古代より、多くの探求者がその覚醒に努めてきたものに他ありません。

一方で、シヴァ神は首にぐるりと三周巻きついた蛇と共に描かれます。
三周の蛇は、過去、現在、未来の三つのサイクルを象徴していると伝えられ、それを身につけるシヴァ神は、心の動きによって生じる「時」を超越した、永遠の存在であることを示しているのだと言います。

そんなシヴァ神は、乳海攪拌の過程において生み出された猛毒ハラーハラを飲み、世界を救いました。
一説に、シヴァ神が飲んだ猛毒ハラーハラの一部はこの地にこぼれ落ち、今でも蛇がその毒を宿しているといわれることがあります。

霊性修行の道のりが記された神話としても伝えられる乳海撹拌において生み出された猛毒ハラーハラは、強欲や執着、嫉妬や愛憎、怒気や慢心など、私たちの揺れ動く心から生まれるネガティブな質に例えられます。
揺れ動く私たちの心は、まるで、くねくねと動き回る蛇のようであり、この地にこぼれ落ちた猛毒は、私たちの心を通して、面に湧き出てくるのかもしれません。

夏至を過ぎ、冬至に向かい始める今は、夜が少しずつ長くなり、人々の心に大きく作用する冷たい月の影響が出てくるといわれます。
今この時、慈悲深いシヴァ神に心を定めることで、時に猛毒のような苦悩を生み出す心の働きは静まり、あらゆるネガティブな質を制御することができるでしょう。
そうして一人ひとりの心が清らかになる時、シヴァ神が願うように、この世界には平和が満ちるに違いありません。

参照:Naga Panchami