ヨーガにおいて広く実践されるアーサナに、ヴィーラバドラ・アーサナがあります。英雄のポーズ、戦士のポーズなどとして知られるこのポーズは、まさにその姿が戦う戦士のように見える勇ましいアーサナです。非暴力が説かれるヨーガの教えの中で実践されるこのヴィーラバドラ・アーサナには、とても深い意味があります。
ヴィーラバドラは、シヴァ神が化身した姿として知られています。シヴァ神の最初の妃であるサティーは、父親であるダクシャの反対を押し切りシヴァ神と結婚をしました。ある時、父親のダクシャが重要な祭祀にシヴァ神を招かなかったことに嘆き悲しんだサティーは、自らを火に投げ入れ命を断ちます。それを知ったシヴァ神は怒りのあまりヴィーラバドラを生み出し、ダクシャの首を切り落とします。
こうした「戦い」は、霊性を育む教えの中で、私たちの内にあるものと伝えられます。怒りや悲しみ、憎しみや嫉妬、さまざまに沸き起こるエネルギーに、私たちは日々悩み苦しみ、内なる世界はまるで戦場のように混乱しています。そのエネルギーは、シヴァ神が怒りのあまりヴィーラバドラとなりダクシャの頭を切り落としたように、時に自分自身の制御を超えることもあります。
ヴィーラバドラ・アーサナは、そんな強く沸き起こるエネルギーを制御するアーサナでもあります。大きく広げた足は地を強く踏みしめ、足腰を支えるために腹部はきつく締まり、広げた両腕が自由に伸びながら、胸部は大きく開きます。下半身は力強く地につく一方で、上半身は伸び伸びと空に高まるこのアーサナでは、自分自身の内のエネルギーをバランスよく用いることを学ばなければなりません。
シヴァ神は、後にダクシャを許し、頭を失ったダクシャに羊の頭を与えました。怒りから許し、戦いから平和、3つのステップがあるヴィーラバドラ・アーサナは、シヴァ神がダクシャを倒したエネルギーの変化をあらわしているとも伝えられます。
この姿勢を通じて勝ち得るものは、内なる世界の均衡であり、平安です。自分自身の内で、絶え間なく続くさまざまな戦いに打ち勝つために、ヨーガの術を通じ、エネルギーの制御を学び続けたいと感じています。
(文章:ひるま)
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