インドには全土で800とも1000ともいわれる言語が存在しています。
そのなかで、連邦公用語として定められているのが、
インドで最も話者の多いヒンディー語です。
サンスクリット語の文法とは似ていないけれど、
サンスクリット語からの借用語は多く、
両者ともデーヴァナーガリー文字を使って表記(*1)します。
この文字はネパールでも使われていますし、
インド亜大陸を旅行される方は
覚えておくととても便利ですよ。
ただ、その「読み方」はサンスクリット語とヒンディー語では
大きく異なる部分があります。
例えば、神を意味する「バグワン」
あるいは「バグワーン」という言葉は
サンスクリット語では「バガヴァーン」(*2)と言います。
文字で書くとどちらも
भगवान् ですが、読み方が違うのです。
本来、デーヴァナーガリーの子音を表わす文字は
子音+母音a(発音記号では ə =弱いa )を含んでいて、
भ は bha(バ)、ग は ga(ガ)です。
そして、サンスクリット語では綴りのとおりに
bha ga vā n バガヴァーンと読みます。
それに対してヒンディー語は、
位置によってaを発音しない場合があります。
最初のbhaの母音aは発音するけど
二番目のgaの母音aは省略されてgだけになって、
バグワン(またはバグワーン)になります。
サンスクリット語に由来する単語に関して、本来とは違う
ヒンディー語での読み方の特徴をまとめました。
上の規則ほど適用の優先順位が高くなります。
(1)語頭の子音字に含まれる短母音aは発音される。(全ての語頭の母音は発音される)
(2)語末の子音字に含まれる短母音aは省略される。
例:(サ)ガネーシャgaṇeśa →(ヒ)ガネーシュ ganesh
例:(サ)シヴァśiva →(ヒ)シヴ shiv
(3)重子音(連続する二つの子音)の前後ではaは発音される。
例:(サ)ナマステー namaste →(ヒ)ナマステ namaste(-st-が重子音)
(4)ある文字の直前または直後の子音字に含まれるaが規則によって
発音されない場合は、その文字自身のaは発音される。
たとえば、短母音aを含む子音字が三つ続くとき、(2)の規則に
よって語末のaが省略されるので、その前のaは発音する。
例:(サ)ナガラnagara →(ヒ)ナガル nagar (nagraではない)
(5)ある文字の直前または直後の子音字に含まれるaが規則によって
発音される場合は、その文字自身のaは発音しない。
たとえば、語頭のaは必ず発音されるので、その次のaは省略される。
例:(サ)ガナパティgaṇapati →(ヒ)ガンパティ ganpati
(6)長母音が短めに発音されることがある。
例:(サ)ヨーガyoga →(ヒ)ヨガ、ヨグ yoga
例:(サ)アーサナāsana →(ヒ)アサンasan
例:(サ)シローダーラー śirodhārā →(ヒ)シロダラ shirodhara
(語末が本来長母音āのときは、短いaを発音します)
(7)व vaの文字をwaと読む場合がある。
例:(サ)イーシュヴァラīśvara →(ヒ)イーシュワルishwar
細かい法則はこれら以外にもありますし、
インドは広い国土のため、方言による違いもかなりあって、
ここに挙げた発音は一例です。
サンスクリット語に由来する単語も日常語として
使われている以上は、現代的な発音になるのは
仕方ないかもしれません。
ただ、古代より連綿と引き継がれてきたサンスクリット語の
優美な音から受ける印象と、ヒンディー語読みの音の印象とは
大きく違います。おそらく音に敏感な方であれば
その影響は少なくないでしょう。
サンスクリット語による読み方に注意を払って、
音の違いを感じてみてくださいね。
*1 サンスクリット語には固有の文字はないので、
南インドでは丸っこいグランタ文字、タミル文字、
マラヤーラム文字を使うこともあります。
*2 バガヴァッドギーターの「バガヴァッド」と同じ言葉
(文章:prthivii)
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