今回サンスクリット原文とともに紹介するマントラは、シヴァ神を祈念するマントラとして有名な「नमः शिवाय namaḥ śivāya ナマ(ハ)シヴァーヤ」のご利益を説いたものです。「न ナ」「म マ」「शि シ」「व ヴァ」「य ヤ」という各音それぞれを別々に説く五つの詩節もあわせた「पञ्चाक्षरस्तोत्रम् pañcākṣarastotram パンチャークシャラ・ストートラ」の最後の一節にあたります。
このなかに「ナマ(ハ)シヴァーヤ」というマントラ自体は出てきませんが、「ナ」「マ」「シ」「ヴァ」「ヤ」という五つの音節を含んでいるため、これを「パンチャークシャラ(パンチャ・アクシャラ)」=「五音節のもの」と呼んでいます。
ナハマの「ハ」は気音で、母音の後に軽く息を添えるだけの音節を作らない音であり、次の「シ」の音と同化して「ナマッシヴァーヤ」のように発音される場合もあります。そのため、音節には数えられていません。
「五音節のもの」のように、インドでは、尊いもの、聖なるものを直接的な言葉で言わず、婉曲表現を用いることが好まれてきました。歴史の長いサンスクリット語には多様な語彙と高度な文法があるため、豊かな言語表現が可能となっています。
【原文】
पञ्चाक्षरमिदं पुण्यं यः पठेच्छिवसन्निधौ।
शिवलोकमवाप्नोति शिवेन सह मोदते॥
pañcākṣaram_idaṃ puṇyaṃ yaḥ paṭhec_chiva(śiva)-sannidhau.
śiva-lokam_avāpnote śivena saha modate .*1
パンチャークシャラミダン プンニャン ヤハ パテーッチヴァサンニダウ
シヴァローカマヴァープノーティ シヴェーナ サハ モーダテー*2
*1 -(ハイフン)は複合語内の単語区切り、_(アンダーバー)は通常の単語区切り
*2 太字は有気音、下線は反舌音)
【逐語訳】
吉祥なるこの五音節(namaḥ śivāya)をシヴァの御前で唱えるものは、シヴァの世界に達し、シヴァとともに歓喜する。
【単語の意味と文法の解説】
左から、デーヴァナガーリー表記、ローマ字表記、<名詞の語幹形、または動詞の語根形 >、語意、(文法的説明)、「訳」、という順番で説明しています。√の記号は動詞語根を表わします
पंच- <pañca-> 五つ(男性名詞、複合語で次のakṣaraを修飾)「五つの~」
अक्षरम् akṣaram <akṣaram> 音節(中性名詞、単数、対格)「音節を」
इदम् idaṃ <idam> この(代名詞中性形、単数、対格)「この」
पुण्यं puṇyaṃ <puṇya-> 吉祥(中性名詞、単数、対格)「吉祥な物を」
यः yaḥ <yat> 誰か(関係代名詞、男性形、単数、主格)「~する者は」
पठेच् paṭhec <√paṭh> 詠む、唱える(本来の語形はपठेत् paṭhet;連声により変化;
願望法能動態、3人称、単数)「唱えるならば」
छिव chiva <śiva->シヴァ(本来はśiva;連声により変化;男性名詞、複合語)「シヴァの~」
सन्निधौ sannidhau <sannidhi-> 目前(男性名詞、単数、処格)「目の前で」
शिव <śiva-> シヴァ(男性名詞、複合語)「シヴァの」
लोकम् lokam <loka-> 世界(男性名詞、単数、対格)「世界を」
अवाप्नोति avāpnote < ava√āp> 到達する(現在反射態、3人称、単数)「(彼は)到達する」
शिवेन śivena シヴァ(男性名詞、単数、具格)「シヴァと」
सह saha ともに(不変化詞+具格)「~とともに」
मोदते modate <√mud> 喜ぶ(現在反射態、3人称、単数)「(彼は)喜ぶ」
また、これと似たものに次のようなマントラがあります。
冒頭のpañcākṣaram がliṅgāṣṭakam に代わっており、リンガを讃える八つの詩節のご利益を説く内容になっていますが、全体的な文章の構成は同じです。
【原文】
लिङ्गाष्टकमिदं पुण्यं यः पठेच्छिवसन्निधौ ।
शिवलोकमवाप्नोति शिवेन सह मोदते ॥
liṅgāṣṭakam_idaṃ puṇyaṃ yaḥ paṭhec_chiva(śiva)-sannidhau.
śiva-lokam_avāpnote śivena saha modate.
リンガーシュタカミダン プンニャン ヤハ パテーッチヴァサンニダウ
シヴァローカマヴァープノーティ シヴェーナ サハ モーダテー
【逐語訳】
吉祥なるリンガ(=シヴァ)八賛歌リンガ八賛歌をシヴァの御前で唱えるものは、シヴァの世界に達し、シヴァとともに歓喜する。
【単語の意味と文法の解説】
लिङ्ग <liṅga-> リンガ(男性名詞、複合語)「リンガの」
अष्टकम् aṣṭakam <aṣṭaka-> 八つのもの(男性名詞、単数、対格)「八つの(讃歌)を」
(文章:pRthivii)
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