今回はサンスクリット語の母音の話ですが、その前に問題です。
ヨーガ、ヨガ、二つの書き方がありますね。
サンスクリット語の発音に則れば、どちらが正しいでしょうか。
答えは、母音の説明の後で。
では、サンスクリット語の母音を紹介します。
1.単母音(単一の母音)
単母音 |
デーヴァナーガリー文字 |
カタカナ |
IAST |
音声記号 |
備考 |
短母音 |
अ |
「ア」 |
a |
ɐ or ə |
日本語のアよりやや弱い |
長母音 |
आ |
「アー」 |
ā |
aː |
日本語の長母音より短め |
短母音 |
इ |
「イ」 |
i |
i |
|
長母音 |
ई |
「イー」 |
ī |
iː |
日本語の長母音より短め |
短母音 |
उ |
「ウ」 |
u |
u |
|
長母音 |
ऊ |
「ウー」 |
ū |
uː |
日本語の長母音より短め |
短母音 |
ऋ |
「リ」 |
ṛ |
ɻ |
母音としてのr |
長母音 |
ॠ |
「リー」 |
ṝ |
ɻː |
rの長母音 |
短母音 |
ऌ |
「リ」 |
ḷ |
ɭ |
母音としてのl |
長母音 |
ॡ |
「リー」
|
ḹ |
ɭː |
理論的にlの長母音。 実例が無いので 母音の数に含めない場合も |
表の左列から、
1.短母音、長母音の区別
2.デーヴァナーガリー文字
3.カタカナ読み。サンスクリット語をカタカナで表すには限界がありますが、慣例に従っています。
4.その次のIASTとは、The International Alphabet of Sanskrit Transliteration の略で、
ローマ字に発音記号を加えてサンスクリット語を正確に表記する転写方式です。
5.国際音声記号(IPA)で表しています。発音の手がかりにしてください。
(文字の書き方まで触れると一気に煩雑になってしまうので、それはまた別の機会にします。)
母音にrやlが入っていることに戸惑ったのではないでしょうか。
はなかなか馴染めない発音ですが、英語のr、lを発音するのと同じ舌の位置で軽く舌を震わせると感じが出ると思います。
日本語にはアイウエオという五つの母音しかありませんが、本当はないわけではなく、短母音と長母音の区別を意識しないだけ。例えば、おばさんとおばあさん、鳥と通り、の違いのように。
次に、二重母音(二つの母音が混じった母音)です。
|
デーヴァナーガリー文字 |
カタカナ |
IAST |
音声記号 |
備考 |
二 重 母 音
|
ए |
常に「エー」 |
e |
eː |
日本語の長母音より短め |
ऐ |
アイ |
ai |
ai |
|
|
ओ |
常に「オー」 |
o |
oː |
日本語の長母音より短め |
|
औ |
アウ |
au |
au |
|
二重母音は4つとも長母音として扱います。
eは必ず「エー」、oは必ず「オー」と発音するのがサンスクリット語のきまりです。
最初の質問の答え、これでわかりましたよね。
サンスクリット語では
ヨーガ
が正解です。
(注:ヒンディー語では短く発音されるため、ヨガ、とか、ヨゥガと聞こえます)
短母音と長母音の区別でいえば、たとえばクリシュナ神の異名として知られている
वासुदेव vāsudeva ヴァースデーヴァは、「ヴァスデーヴァの息子」、というのが本来の意味で、クリシュナを指します。
ヴァースデーヴァとヴァスデーヴァをうっかり間違えてしまうと、
クリシュナに祈っているつもりが、相手はお父さんだった、なんてことに…。
それはちょっと残念ですよね。
だからこそ、サンスクリット語では短母音なのか長母音なのかの区別が、とても大切なのです。
ちなみにदेव devaは神という意味の男性名詞。
eは長母音なのでデーヴァ、が正しいのですが、現代語ではデウと発音されます。(ややこしいですね)
このように、現代語では、本来長母音だった発音が短母音に、
語中や語末の短母音aは消える傾向があり、また、ローマ字で
長母音と短母音の違いを意識せずに書いている人が多いため、
サンスクリット語の原文がわかりにくくなっています。
ただ、文意が変わってしまうような読み方の間違えさえ気を付ければ、
古代インドでも、おそらくは地方ごとに多少の訛りによる差異はあったでしょうから、
日本語訛りは寛容なるインドの神々にお許しいただきましょう。
次回は子音を紹介します。
(文章:prthivii)
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