3月23日はホーリーですね。
春を迎える季節のお祭りにふさわしく、
色とりどりの粉や水を掛け合う、賑やかな祭礼です。
サンスクリット語では होली holī、होलिका holikā、होला holā
などといいますが、古典文学作品などには
春祭り
वसन्तोत्सव (वसन्त-उत्सव)
vasantotsava(vasanta-utsava)
ヴァサントートゥサヴァ(分かち書きするとヴァサンタ・ウトゥサヴァ)
とか、
カーマ神の祭り
कामोत्सव (काम-उत्सव)
kāmotsava(kāma-utsava)
カーモートゥサヴァ(分かち書きするとカーマ・ウトゥサヴァ)
のような名前で出てきます。
カーマ神は「愛」の神様で、
南の暖かい空気をもたらす春の風は
しばしば「カーマ神の軍」と文学的に表現されます。
春になると人々の心がウキウキしたり
胸がときめいたりするのも カーマ神のしわざかもしれません。
7世紀に書かれた文学作品
दशकुमारचरित
daśakumāracarita
ダシャクマーラチャリタ
では、ホーリーにあたる春の祭りについて少し触れています。
その中から、春の訪れを詩的に表わしている部分を紹介します。
「さて、南の風はカーマ神の軍を引き連れて、
マラヤ山の木々に絡まり棲みつく蛇の残餌のごとく、ごく微かに
白檀の芳しい香りという荷を抱いて優しくそよぎ、
別れの心に愛の炎を燃え上がらせました。
また、サハカーラ樹の新芽や蜜を喜ぶコキーラ鳥たちや
蜜蜂たちの甘いささやきの 低くざわめく南風で
地上を騒がせ、頑なな女の心にも気まぐれを起こさせるのです。
そして(略)木々に蕾をつけ、 春の大祭を待ちわびる人々の心を弾ませながら、
春の季節はやって来ました。」
日本語では複数の文に分けて訳しましたが、
実は原文ではひとつの文章です。
原文をデーヴァナーガリーで書くとこうなります。
अथ मीनकेतनसेनानायकेन मलयगिरिमहीरुहनिरन्तरावासिभुजङ्गमभुक्तावशिष्टेनेव सूक्ष्मतरेण धृतहरिचन्दनपरिमलभरेणेव मन्दगतिना दक्षिणानिलेन वियोगिहृदयस्थं मन्मथानलमुज्ज्वलयन् सहकारकिसलयमकरन्दास्वादनरक्तकण्ठानां मधुकरकलकण्ठानां काककलकलेन दिक्चक्रं वाचालयन् मानिनीमानसोत्कलिकामुपनयन् माकन्दसिन्दुवाररक्ताशोककिंशुकतिलकेषु कलिकामुपपादयन् मदनमहोत्सवाय रसिकमनांसि समुल्लासयन् वसन्तसमयः समाजगाम १।५।१
これが全部ひとつの文章なのには驚かされます。
いくつもの語をずらずらと繋げて一つの単語としたり、
韻を踏んだり、言葉遊びがあったり、
技巧的に凝ったこういう文体のことを
「美文体 काव्य kāvya」といいます。
原典からの和訳は平凡社東洋文庫から出版され(現在は絶版)、
日本語のタイトルは「十王子物語」です。
物語のあらすじは、
敵に国を奪われた王子とその友人たち(大臣や豪商の息子など)が
森でちりぢりに生き別れ、知略と勇気をもって様々な冒険をしながら
途中で恋人も得て、16年後に全員再会して敵を破り
王座につく、というお話です。
敵と戦ったり、魔術を使って敵を欺いたり、
神の恩寵によって神通力を得たり、運命的な恋に落ちたり、
と、ファンタジー小説のような盛りだくさんの内容。
インドの古典文学を読むと
当時の文化や社会が分かって面白いですよ。
(文章:prthivii)
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