用語辞典:ウについて
日本語の「ウ行」は、インド語の「U」の他、「V=ヴァ」も含まれるという解釈もあろうかと思います。またインド人の発音も地域によって「Ⅴ/W」が「ヴァ、ワ、ウァ」のいずれかに偏る場合も少なくありません。私もしばしば街中で大声で「おーい!ヴァカバヤシ~!」などと呼ばれました。その人の言語習慣では「W」は、もっぱら「V」なのです。更に、ベンガル地方ではAとOの間の発音で、「おーい!ヴォカバヤシ~!」と呼ばれましたが、ベンガル語で「ヴォカ」は「馬鹿」のことですから、時々見知らぬ人がその声を聞いて私を見てニヤニヤしたりしていました。
幾つかの理由で、本稿では、勝手ながら、幾つかの「V」の単語を「ア行のウ」に含ませながら、多くは「ワ行」に廻わさせていただきました。宜しくご了承ください。
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ヴァーユ:
(1)ブラフマン教の「天空神」。転じて「風の神」。一般に「ワーユ」と発音されるが、「ヴァーユ/ウァーユ」の発音も多く聞く。インドラ天空神との棲み分けは、ブラフマン教中後期から困難になっている。更に「最古の経典」とされる「リグ・ヴェーダ」に「ヴァータ風神」も記されているというが、筆者は疑問を抱いている。(ヴェーダでさえも後世の加筆が在り得るという衝撃の事実の一例か)。いずれもブラフマン教高位の神々だが、仏教では中下位に収められた。大雑把に解釈すれば「インドラ神:天空」「ヴァータ神:空間」「ワーユ神:風」のような傾向は在る。インドラ神が司どる天空も、大気圏~地球周囲を越えない。超えて宇宙に至るとそこはブラフマン神の領域となる。ヴァータ神が司る領域は、厳密には空間や無に近いが、ワーユ神が司る「風」には動き・動く力・動かす力がある。この分別の観念は仏教では説明し切れていない(※)。
※筆者の寡聞による場合、失礼をお詫びし、詳しいお話を学ばさせていただければ幸いです。(2)万物の五大元素のひとつ、「風」。五大元素では、「空間」は、「アーカーシュ」と呼ばれるが、風は、風神と同じ語。ところが、ご存知の方も多いと思われる、アーユルヴェーダの「地、火、風」を象徴とする「トゥリ:ドーシャ(トゥリ・ダートゥ)」では「ヴァータ」の語が採用されている。ここでは「ヴァータ」は、「風と空間」の双方の象徴を担っている。
ヴェーダの故郷、ペルシアでは「万物は四元素」と説かれ、「地、水、火、空」だが、インドに至った一派のブラフマン教では、「空」を「無・動かない空間」「有・力・風」の二つの観念に分けたことで「万物元素」が「五」に至った。故に、ヴェーダに於いて最も重要な観念であると考えられ、近隣の古代ペルシア文明、古代中国文明の観念には無い、古代インド文明独特の個性な重要要素と言える。
ウダーナ・ヴァータ:
アーユルヴェーダの生命体活性力の三大要素、「地、火、風」を象徴とする「トゥリ:ドーシャ(トゥリ・ダートゥ)」のひとつ「ヴァータ(風)」を五種に細分化したもののひとつ。「呼吸器・喉・声帯」に作用する「風」及び、「空気を動かす力」。比較的分かり易い象徴のように思えるが、他に「忍耐力・向上心・勤勉・持久力・快活さ・理知性・記憶力・表現力」とも関わる。こうなると、論理思考力が貧困だと理解し切れない。つまり、厳密には、細分化されたウパ・ダートゥであるこの「ウダーナ・ヴァータ」も、更に「現象的作用」と「精神的作用」、すなわち「目視出来る体・臓器」と「目視出来ない・精神・心・思考」のふたつの「現場」に二分されて作用していると説かれている。しかし、二分それぞれの呼称用語は失われている。
ウダッタ:
ヴェーダ詠唱法・音取り用語のひとつ。「高められた音」。実際は、基礎音の半音上が主。三音唱法はもちろん、二音唱法では割愛し、基音の下の音(アヌダッタ)を取る流派が多い。三音唱法でもアヌダッタより頻度が少ない流派が多い。つまり「ウダッタ」より「アヌダッタ」が優先されているということは、「ヌダッタ」が「ウダッタ」が歌われるようになった後、Retronymで改称されたか、ふたつとも改称された可能性もある。もしくは、現代生き残った流派が、紀元前の詠唱法とかなり異なっているか?であろう。
ウパ:
「副/サブ」の意味で多くの語彙の接頭辞に用いられる。
ウパ・ヴェーダ:ヴェーダの副読本。(後世の恣意的な加筆に注意すべきものが少なくない)
ウパ・ダートゥ;アーユルヴェーダの「要素:ダートゥ」の「派生要素」。生命体から「排出される・分泌される・生える」ものが主。
ウパ・デーシャ:ヴェーダーンタ学派が言う「聖なる教え」。
以下のように「派生/二次的」のニュアンスの語彙も多い。
ウパ・マーナ:比較・類推からの認識(詳しくは「ア行・ウ-その2-」参照)
ウパ・ニャーヤ:ニャーヤ学派の認識論・認識法の「起承転結」の「転」と「結」を繋ぐ概念「再確認」。
また、ヴェーダの「奥義書:ウパニシャッド」は、頻繁に「ウパ(近くに)ニシャッド(座る)」と説かれ、この場合の「ウパ」には、「側・寄り添う→対峙・組の一方(サブ・カルチャーのサブ)」の意味合いがこめられている。(詳しくは「ア行・ウ-その2-」参照)
ウパ・パダ:インド占星術に於ける12の座の重要な座のひとつ。ここでのパダは、「座、Status、Stage」。「パダ」は、古典音楽の声楽様式「Dhrupad(Dhruva-Pada)」などでも「楽章/楽節」の意で用いられる多様な語だが、「在るべき処」の意味で共通している。
ウパデーシャ・サーハスリー : インドの聖人シャンカラ(700‐750)の著書。『真実の自己の探求』
ウパ・サ(ム)パダ:
ヴェーダ、アーユルヴェーダ、仏教(主に小乗仏教)に於ける「善行・禁欲・煩悩、欲望を絶つ意識」
小乗仏教に於いては出家の誓いのような意味があり、入門儀式の基本。
ウパ・シャーヤ:
アーユルヴェーダに於ける「試験治療」。病態を認識するための試験的な治療。
ウペク・インドリヤ:
ヴェーダが説いた五つの気分・感情知覚のひとつ「無関心」。ペアで論じられる「肉体的苦痛/肉体的快楽」「精神的苦痛/精神的快楽」の四つに、単独で加えられる重要な概念。
古今東西一般に、感情は、「好き:嫌い」「楽しい:悲しい」という対極構造で理解されるが、ヴェーダでは「恋愛感情・愛情・好意・嫌悪・憎悪・恨み」は同源同質、同じグループにあり、対極とされるグループでは、「敬意・尊重・分別・差別・隔離・卑下・蔑視・軽蔑」が同源同質と説く。後者のグループ以上に、最も「冷酷・冷淡」な気分感情が「無関心」とされる。これには「不理解・誤解」も含まれ、現代人の傾向に多く見られる「分かった気になる」もまた同質と言えよう。
料理に喩えれば「味が浸みない素材」であり、塗料に喩えれば「鉄やプラスティックには水性塗料が乗らない・定着しない」に等しく。「不理解・誤解・決め付け・分かった気になる=無関心の領域」は、情報至上主義に偏る現代の大きな課題であるが、ほとんど説かれず警告も皆無である。
逆に言えば「探究心」は、「知りたい→分かりたい」の先にあり、ヴェーダ的には「理想の愛情」と言える。何故ならば「知りたい→知った、と満足して終わる」「分かりたい→分かった気になる=自己中な解釈・思い込み・決め付け」のように変質し得るが、「果て無き探究心」は、自己中の入り込む領域が次第に無くなって行く。現代では「知りたい」と同義に理解される「好奇心」「興味関心」は、本来論外だが、「自己愛の一表出」として説明される。「無関心」は「精神・意識領域」に限定されるように誤解されるが、「気づかない・すれ違う・かみ合わない・向かい合わない」という「動作・現象」の形態でもあり、「感受性の欠如」の意味で身体面にも関わってくる、より高次のテーマである。
ウッサーハ:
ハタヨーガ・プラディーピカーが説く「六つの必須精神性」のひとつ。「熱意」。
「勇気、忍耐、識別、決断、出家」と共に説かれ、その筆頭に上げられる。アーユルヴェーダでは、「チャラカプラヤットナ」と同義とされる。
ウーシナ:
アーユルヴェーダの症状名のひとつ。「熱性」。主に過剰な場合に言われるが、過小も危険。
ウーシマ:
アーユルヴェーダに於ける「体温」。
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