前回、Vol.201でご説明致しましたのは、「Shri-Yantra」の多数の三角形が織り成す「一番外側」でした。これは、「Shri-Yantra」の原型である「Shri-Mandala」に於いて、チベットや日本密教同様に、「様々な意味を持つ神々が配置されていた」「本来の曼荼羅の意味」が踏襲され継承されているものです。
しかし、前回も述べましたように、その事をしっかり説く人もあれば、全ての三角形を上向き下向きで、Shiva神とDurga(Shakti)女神の象徴としてしまう説き方が現在混在しています。
言い換えれば、シヴァ派の一派が、もし恣意的な画策をした結果ならば、伝統的な「様々な神々が意味深く配置されていること」は、語りたくないことでしょう。
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ところがこの一方で、
古今東西のあらゆる信仰・宗教・神秘・スピリチュアルに共通して、確かに存在するテーマがあります。
それは「答えを言わない・教えない」ことと「正体をバラさない・見せない・教えない・隠す」ことです。
この二つは、しばしば同源同義にもなりますが、しばしば全く次元が異なる場合もあります。
前者については、以前「ウパニシャド」に関連してご説明しました。幾つかの解釈がありますが、このテーマで大切なことは「ウパ(留まる)ニシャド(手前)」という意味合いです。
「禅問答の原点」とも言える、師弟の間の問答に於いて、師の教えは、常に「手前で留まり・答えを言わない」のです。
単純に「考えさせる」という意味合いも確かにあります。
が、例えば「インド音楽」の場合、ひとつの格言に「インド音楽は、Sa(Sadaj/ド)で始まりSa(Sadaj/ド)で終わる」というものがあります。これは、「開始音と終止音」のことではなく、あくまでも「極論的な格言」です。
しかし、だからと言って「Saをひとつ弾いた(歌った)だけでオシマイ」とはなりません。否、実は、「成り立ってしまう」のですが、それでは、数千のRaga(旋法)の存在する必要も意味もなくなってしまいます。
ヴェーダの叡智は、「この原理は、全てに通じる」と説きます。そもそも「生命体」は、「宇宙より出で、宇宙に帰る」であり、シヴァ神が司る「創造と破壊」は、「始まりは終わりであり、終わりは始まりである」ということです。
分かり易く「Upanishad」を言うならば、
もし師が「答え」を言ってしまったらば? それは「弟子」の「終わり」を宣告したことになってしまう。というように解釈することが出来ます。「謎・問い」が「蝋燭に火を付けること」だとすれば「答え」は、「火を消すこと」のような。
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紀元前5,000年以上前に、袂を分かったペルシア教とブラフマン教ですが、後にペルシアで宗教改革が起こり、生き残ったゾロアスター教が、それ以前の信仰を継承したのが「拝火」ですが、(実際は「拝土」「拝水」「拝気」のセットですが)、上記で「蝋燭」を引き合いに出しましたが、もしお手元に「蝋燭」があれば、灯して眺めてみて下さい。
向かい合わずに何気に見ているだけならば、「ああ、蝋燭の炎が燃えている」程度ですが、
「よし!同じ形が、何分後に現われるか確かめてやろう!」とでも思った途端。何時間経っても「二度と同じ形が現われないこと」に気づかされることでしょう。
信仰と共に、ヴァーダ音楽(後のインド音楽)も、ペルシア音楽と袂を分かったのですが、共通する「即興演奏」の基本は「再び同じ形は二度と現われないが、常に動いて(即興演奏を繰り広げて)いて、常に同じ様相(同じRagaやDastgah:いずれも古くは様々な名称)が保たれている」ということです。
私は、30歳代のインド弦楽器シタールやペルシア弦楽器タールの即興演奏の練習に、何度も「蝋燭」を用いたことがあります。「炎の方向が、旋律の方向(上行や下行やジグザグ)、高さが音の高さ、太さが音の強さ、形が展開の発展性」として、「即興の譜面」として「蝋燭の炎」で練習するのです。
これはかなり真髄に迫る修行法と確信しています。
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「答えを言わない・教えない」ことと「正体をバラさない・見せない・教えない・隠す」の共通点(同源同義性)は、前者が「答えを提示した時が、終わりの時」であるとするならば(解釈のひとつに過ぎませんが)、後者もまた「正体を現した時が、終わりの時」である、ということでもあります。
これが「古今東西に普遍的に存在する(観念なのか?真実なのか?はさておき)」簡単な証拠が、例えば「スーパーマン」は、日常は「うだつの挙がらない下っ端新聞記者」である「正体」を公表しません。
しかし、女性記者仲間(でしたっけ?)は知っています。しかし、そもそも「新聞記者」も、「地球人に化けている姿」に他ならず、もしかしたら、宇宙人としての正体は、例の「火星人」の様相かも知れませんし、映画「エイリアン」に登場するような化け物かも知れません。
そして、実際(事実)世界中の人間が、少なくともアニミズムの時代に於いては、このことを良く理解していました。そして、世界の宗教の中でも、最もアニミズム性が強く残っているヒンドゥー教は、(本来日本の神道も、でしたが)、例えば、神々の名前は、化身とは別にも、それぞれ百はあるという事実。
無論、ヒンドゥー教がインドを支配する過程で、地域の土着信仰を「取り込んだ」という政治的側面もありますが、「同じ地域で多数の名がある」ことの方が顕著です。
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この意味に於いては、
「神々の姿を描いたMandala」に対し、「それを三角形で表した:Shri-Yantra」は、「置き換え・転換・転化・隠し」の意味合いもあり、それを考えると「シヴァ派うんぬん」ばかりではない、深い意味もあろう、ということです。
今回の図を見て下さってお分かりいただけるように、前回の「一番外側の三角形」が、いずれも「臨機応変」即ち「外因=外部からの刺激や情報や力」に対して、真っ先に立ち向かう「外堀の警護」のような要素が強かった。逆に言えば「反応性が強い神々が配置された」のに、対し、
今回の「ひとつ内側の三角形(に象徴された神々)」では、「外因・環境・条件・タイミング・時期」が何であれ、「生きる目的・歩み」に常に欠かせない「基本的な力」を象徴しています。言わば「警護」だとするならば、外堀外側が、番兵、対外的な防衛軍(行政的に言えば:外務省、)だったのに対し、内側の警護兵は、日常的な実務も司る、内政的・警察的な要素を持っている、ということです。そして、次回ご説明します、更に内側には、「人間力の様々な要素」つまり、厚生省・文部省・農林省的な性質が見られ、更に内側には、「個々個人の基本的な力=生命力」が象徴されています。
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