豊かな自然が溢れるインドには、黄金色の花が空から降り注ぐにように咲き乱れ、大地を宝石箱のごとく飾り立てる美しい情景があります。
暑い夏の時期に花を咲かすゴールデンシャワーと呼ばれるこの花には、私たちの心を豊かに育むクリシュナ神にまつわる物語が伝わります。
南インドで語られる、ある少年にまつわる言い伝えです。
その少年は、夜な夜な母親が語るクリシュナ神の物語に、心を躍らせながら耳を傾ける日々を過ごしていました。
少年の心には、いつしかクリシュナ神に謁見したいという切なる願いが芽生えるようになります。
その願いを胸に、少年はクリシュナ寺院を訪れます。
少年の献身的な姿勢に胸を打たれたクリシュナ神は、そこに姿を現しました。
クリシュナ神は、自らが腰に身につけていたアランジャナムと呼ばれる黄金の鎖を少年に授けます。
次の日、寺院の僧侶がクリシュナ神の像から黄金の鎖がなくなっていることに気づきます。
その出来事は、瞬く間に村中に知れ渡りました。
その頃、少年が黄金の鎖を身につけていることに母親が気づきます。
少年は母親に昨日の出来事を説明するも、母親は信じることができません。
やがて、少年は盗人として村人たちから非難されてしまいます。
母親は耐えられず、少年の腰から鎖をもぎ取ると、木に投げつけました。
すると、鎖が木に引っかかり、黄金色の花が咲き乱れるようになったと伝えられます。
それ以来、この花は神聖視されるとともに、クリシュナ神に捧げられる花として崇められるようになりました。
ヴィシュヌ神はこの美しさを他の地へ広めるために、その花をさまざまな方向に飛ばしたといわれます。
そうして多くの地域でこの黄金色の花が咲き誇るようになりました。
日本ではナンバンサイカチとして知られ、沖縄などで美しい花を咲かせています。
溢れる神の恩寵は、そこに向けられた心にふんだんに注がれるということを、この眩い花は伝えています。
明媚な自然のあらわれが神格化されたインドの文化では、私たちを豊かに育むこの自然を見つめるとき、そこにある偉大な恵みを知ることが可能になります。
こうした教えを胸に、与えられた一瞬一瞬の喜びを見失うことなく、実りある日々を過ごしていきたいと感じます。
(文章:ひるま)
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