インドの人々がいつの時も胸に抱く言葉に、ラーマの御名があります。かのガーンディーも、その最後の言葉は「ヘイ・ラーム(おお、神よ)」であったといわれます。
春のナヴァラートリの最後には、このラーマの御名があちらこちらに響き渡ります。2017年は4月5日となるこの日は、ラーマの降誕を祝福するラーマ・ナヴァミーです。ヴィシュヌ神の7番目の化身であるラーマは、この地にはびこる悪の力を倒すために、このラーマ・ナヴァミーに降誕したと伝えられます。
正義の象徴として崇められるラーマの御名は、すべてのマントラの中でも最上のマントラであるといわれ、シヴァ神も、パールヴィティー女神にラーマの御名を唱える必要性を述べました。
ラーマの御名が秘める意味には、諸説あります。一説に、「ラ」はアシュタークシャラ・マントラのヴィシュヌ神を象徴し、「マ」はパンチャークシャラ・マントラのシヴァ神を象徴するといわれます。世界の言語には、「ラ」の音が太陽や放射をあらわしている例が多くありますが、世界を意味する「マ」と共に、ラーマの音節は、世界の光を象徴しているともいわれます。
神々を象徴する真髄の音であり、世界の光であるラーマの御名には、悪を倒す強い力があると信じられてきました。その事実は、「ラーヴァナスヤ・マーラナム(=ラーマ)」が示しています。ラーヴァナは「魔王」、マーラナは「死」を意味し、ラーマの御名が悪を倒す神聖な音であることがわかります。
ラーヴァナには10の頭があり、それは、視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚の5つの知覚器官、そして、発声・操作・移動・生殖・排泄の5つの行為器官を意味すると伝えられてきました。感覚や行為に囚われる私たちは、真実を見失うという大きな罪を犯し、さまざまな苦難を経験しなければなりません。ラーマの御名を唱えることは、私たちを感覚や行為から解放し、心身を浄化する究極の術の一つとなり得ます。
自身の内面に潜む不浄な傾向を克服するために、非常に重要な期間とされるナヴァラートリにおいて、断食や瞑想を通じて自分自身と向き合った後、その内なる世界で、正義の象徴であるラーマが生まれていることを確かめてみるのも良いかもしれません。そして、常にその光が自分自身の内にあるように、ラーマの御名を唱え続けたいと感じています。
(文章:ひるま)
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