ヒンドゥー教において、私たちを育む力は、偉大な母を意味する神聖な女性のエネルギーとして崇められます。シャクティと呼ばれるその力は、宇宙全体を動かす根源の力であり、女性の肉体と生殖能力をとってあらわれる一方、男性の内にも潜在的に見えない形で存在しています。シャクティは成長を司るだけでなく、あらゆる変化の源です。それは、スヴァータントラヤとして独立した存在であり、自らの意思に従って世界全体を動かします。
ヒンドゥー教の宗派の1つであるシャクティ派において、シャクティは最高の存在として崇められます。また、ヴィシュヌ派ではヴィシュヌ神の力をあらわし、シヴァ派ではシヴァ神の力をあらわす重要な存在であり、プルシャとプラクリティの関係で崇められます。古代の賢者であるリシ達は、女性原理をシャクティとし、女神として崇めてきました。
シャクティは、有力な男神の配偶神であり、母神として崇められるマートリカーとしても活躍します。マートリカーは、7人(サプタ・マートリカー)や8人(アシュタ・マートリカー)で伝えられる場合があります。「Hindu Goddesses」の著者であるDavid R. Kinsleyは、シャクティについて、神々の王であるインドラ神の妻、シャチー女神に基づいたエネルギーであるといいます。シャチー女神はインドラーニー女神として知られるマートリカーの1人です。
シャクティとして崇められる女神は、南インドのタミル・ナードゥ州やケーララ州、アーンドラ・プラデーシュ州において、広くアンマとして親しみを持って崇められています。南インドの村には、シャクティの化身に捧げる寺院が多く存在します。シャクティは村の守り神であり、悪人を懲らしめ、病気を治し、村に幸せをもたらす存在であり、村人たちは1年に1度、盛大に女神たちを崇める祝祭を執り行います。
インド亜大陸には、シャクティ・ピータと呼ばれる51のシャクティ崇拝の聖地があります。シャクティ・ピータは、シヴァ神が焼身をはかった最愛の妻サティーの身体を抱え、悲しみのあまり破壊の踊りを踊った際、ヴィシュヌ神がその破壊の踊りを止めようと、武器であるスダルシャナ・チャクラでサティーの身体をバラバラにし、そのサティーの身体の一部一部が落ちた場所として知られています。インド、スリランカ、ネパール、バングラデシュ、チベット、パキスタンにもわたるシャクティ・ピータの多くは、高名な聖地として崇められるようになりました。アマルナート、ジワーラー、マニカルニカー、カーマーキャー、ナイナー・デーヴィーなどがあります。
あらゆる創造に内在する偉大な力である原初のシャクティは、アーディ・シャクティとして、ヒンドゥー教では古代から崇められてきました。ヒンドゥー教に限らず、インドでは母なる存在を深く崇める伝統が受け継がれています。シャクティへの祈りのマントラや賛歌の中でも、ビージャ・マントラ(種子真言)である「MA」は、シャクティを呼び覚まし崇める重要なマントラです。そのマントラを唱える時、偉大なシャクティと繋がり、母なる女神からの恩寵を授かることができるでしょう。
私たちは、常に母なるシャクティの慈愛の力に包まれています。困難に直面したとき、慈愛の源泉であるシャクティに祈りを捧げてみましょう。愛しい我が子たちを救うために、きっと温かい手を差し伸べてくれるに違いありません。
(SitaRama)
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