2016年11月、インドは500ルピーと1000ルピーの紙幣を突然無効にすることを発表しました。インド在住の方はもちろん、日本でも旅行で残った高額紙幣を持っている人は多いでしょうから驚いた方も多いでしょう。インド国内では混乱が拡大しているようです。
今回はそんなインドのお札とサンスクリット語の繋がりについて。
インドでは触ることすら躊躇するほどかなり汚れたお札が流通していることもあり、お札をじっくりとご覧になる方は少ないかもしれませんが、実はルピー札のなかにサンスクリット語が書かれているのです。
また、インドは多言語、多文字の国だという話を以前しましたが、その証拠もお札に表れています。
500ルピーを例にしてお札を見ると、
お札の表には
पांच सौ रुपये
Five hundred rupees
と、ヒンディー語と英語で「500ルピー」と書いてあります。
お札を裏返すと、左側に15の文字が並んでいます。
公用語に準ずる22の指定言語のうち、
アッサム語・ベンガル語・グジャラート語・カンナダ語・カシミール語・コンカニ語・マラヤーラム語・マラーティー語・ネパール語・オリヤー語・パンジャーブ語・サンスクリット・タミル語・テルグ語・ウルドゥー語の15です。
これらの文字の下から4つ目、
पाञ्चशतं रूप्यकाणि (pāñcaśataṁ rūpyakāṇi)
と書いてあるのがサンスクリット語による
「500ルピー」表記です。
別の額の紙幣の場合、
たとえば1ルピー紙幣ならサンスクリット語で
एकरूप्यकम्(ekarūpyakam)
2ルピー紙幣なら
द्वे रूप्यके(dve rūpyake)
と書いてあります。
ルピーを意味する単語rūpyakaは
単数、つまり1ルピーのときはrūpyakam
両数、つまり2ルピーのときはrūpyake
複数、つまりそれ以上の数字になるとrūpyakāṇi
というふうに、語尾が変化しています。
そして、これらの語尾から
rūpyakaという単語が中性名詞であることがわかります。
このrūpyakaは、もともと रूप्य rūpya「銀」を意味する単語からできており、「ルピー」の語源でもあります。
インドでは紀元前6世紀ごろからすでに銀貨が使われており、その名残が、現代の通貨の名称として残っているのです。
さらに語源を遡ると
रूप्य rūpyaの語源はरूप rūpa色、形、物質を意味する単語。
この単語は、般若心経の有名な一節
「色即是空」 रूपं शून्यता rūpaṁ śūnyatā
の रूप rūpa 「色」と同じです。
お金や物質的なものに囚われすぎることは空しいけれど、現実の世界で生活する以上、お金も必要。
高額ルピー札の廃止による混乱がおさまってインドの社会が安定することを願っています。
(文章:pRthivii)
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