春の心地よい満月の日に祝福されるホーリー・フェスティバルは、ドゥランディーと呼ばれるカラフルな色粉や色水の掛け合いが有名な祝祭です。
華やかな色彩を放つ神々が見守るインドの地で、人生を彩り、日々を至福で満たすことの意味をはっきりと見せてくれたのは、このホーリー・フェスティバルかもしれません。
そんなホーリー・フェスティバルの前夜には、ホーリカー・ダハンと呼ばれる火を焚く儀式が厳かに行われます。
ホーリカー・ダハンは、プラフラーダとホーリカーに見られる神話以外にも、霊性を育むさまざまな言い伝えがあります。
そのひとつが、プータナーにまつわる神話です。
魔女であったプータナーは、悪王であるカンサに、生まれたばかりのクリシュナ神の命を奪うことを命じられます。
プータナーは、美しい女性の姿となって、赤子のクリシュナ神に近づきました。
そして、猛毒を塗った乳房をクリシュナ神に吸わせ、その命を奪おうとします。
しかし、すべてを見抜いていたクリシュナ神は、その乳房からプータナーの生命力を吸い尽くしました。
プータナーは苦しさのあまり、もとの魔女の姿に変わり果て、そのまま息絶えます。
魔女の身体を見て驚いた村人たちは、薪に火をつけ、プータナーの身体を焼いたと伝えられます。
それがホーリーの日であったと伝えられ、人々は見上げるような焚き火を囲みながら、悪を払う祈りの儀式を行います。
プータナーにまつわるさまざまな解釈のひとつでは、プータナーが冬を象徴し、その死は冬の終わりを意味すると伝えられます。
冬が終わり、春が始まる時。
この時は、冬の間に溜め込んだ不純物が排出され、心身だけでなく、自然にも好ましくない質が満ちると信じられてきました。
欲望や感覚が不安定になり、個々の内でも悪質が高まるとされるのがこの時です。
そんな悪質を象徴するプータナーが焼かれた時、その煙からは芳しい香りが放たれたといわれます。
クリシュナ神に吸い尽くされたことで、あらゆる罪が浄化され、プータナーが天界に登ったからでした。
魔女であり、クリシュナ神の命を奪おうとしたプータナーですら、クリシュナ神の前では清められ、救済に導かれました。
季節が移り変わる変化の時、燃え上がる炎を囲みながら神々に心を定めれば、心身や周囲の環境が浄化され、純粋な喜びを享受できるに違いありません。
そこでは、色とりどりの花の香りが満ちる春のような、芳しい至福が広がるはずです。
(文章:ひるま)
参照:History of Holi: Holi Story, Importance of Festival Celebrations
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