万物の力の源泉として一切の生類に宿る女神は、大自然の巡りの中で、さまざまに異なる容姿や名前で崇められます。
そんな女神たちを讃えるとりわけ吉祥な時が、季節の変化の時に祝福される、9日間のナヴァラートリの祝祭です。
その9日間は、女神たちが凶悪な悪魔と戦った時とされ、私たちにとっては、女神の礼拝を通じて、季節の変わり目に生じる心身の不調を祓う大切な時となります。
この凶悪な悪魔との9日間の戦いにおいて生まれた、カウシキーと呼ばれる女神がいます。
悪魔たちとの戦いで苦戦を強いられていた神々が、無敵の女神の力を得るべく、一心に祈りを捧げていた時のことでした。
ガンジス川で沐浴をするためにやってきた、シヴァ神の妃であるパールヴァティー女神の身体のコーシャ(真我を包む鞘)から、非常に美しい女神が生まれます。
その女神は、コーシャから生まれたため、カウシキーと呼ばれるようになりました。
素晴らしく美しい容姿で現れたカウシキー女神に、悪魔の王は心を奪われます。
そして、カウシキー女神を手に入れようと、魔王は悪魔たちを統率するドゥームラローチャナを女神のもとへ送りました。
ドゥームラローチャナは、灰色の目を意味し、幻想に覆われた真実の見えない目を意味します。
魔王の指示のもと、ドゥームラローチャナは意気揚々とカウシキー女神と対顔し戦いに挑みます。
しかし、カウシキー女神の「フーン」という一声で、ドゥームラローチャナは灰になってしまったと伝えられます。
カウシキー女神が発したこの「フーン」は、例えば、シヴァ神を象徴するビージャ・マントラ(種子真言)として唱えられてきたものです。
肉体を持って生まれた私たちは、そこで経験するさまざまな事象に惑わされ、真我でもあるシヴァ神を見失うことが少なくありません。
そうして繰り広げられる人生という舞台で悩み苦しみ、多くの戦いに直面しています。
しかし、コーシャから生まれたカウシキー女神は、シヴァ神を象徴する「フーン」という一声で悪魔を倒したように、常にシヴァ神から離れることはありませんでした。
ナヴァラートリは、そんな女神の力を呼び覚ます吉祥な時といわれます。
心身ともに乱れがちな季節の変わり目は、道を踏み外し、さまざまな困難に直面する時ともいわれてきました。
この時に女神たちへの祈りを捧げることで、カウシキー女神のように幻想に打ち勝ち、真実の中で生きるための無敵の力が授けられるはずです。
(文章:ひるま)
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