ルドラークシャ(ルドラクシャ)は、日本では金剛菩提樹として知られる植物です。ヒンドゥー教では、シヴァ神が長い瞑想から目覚めたときに、地上のすべての神々と人類の繁栄のために、彼の目から流れおちた涙によって生じたという神話があります。シヴァ神の絵画は、必ずといってよいほど、ルドラークシャの数珠を身につけた姿で描かれています。シヴァ派の敬虔な信者は、ルドラークシャを肌身離さず身につけています。
ルドラークシャは、通常は紐を通して数珠として使用されます。数珠は、マントラ(真言)を唱える際に用いられ、タントラのエッセンスを集めた『タントラサーラ』では、ルドラークシャの数珠による功徳を以下のように述べています。
『ジャパ(念仏)を行うにあたり、親指の先をもちいて数を数える方法は、通常の数を数える方法に比べて8倍の功徳がある。プトラジーヴァ(ツゲモドキ属の植物)と呼ばれる神聖な木の種子でできた数珠をもちいると、通常の10倍の功徳がある。法螺貝からつくられた数珠をもちいると、通常の100倍の功徳がある。光り輝く石からつくられた数珠をもちいると、通常の1,000倍の功徳がある。宝石でできた数珠をもちると、通常の10,000倍の功徳がある。水晶の数珠もまた同様の功徳があるが、真珠でできた数珠は、通常の10万倍の功徳がある。そして、蓮からできた数珠は、前述の数珠のさらに10倍の功徳がある。金でできた数珠は、100万倍の功徳がある。それらすべての中でもさらに、クシャソウのの結び目、トゥラシー(ホーリーバジル)の数珠、そして神聖なルドラークシャからできた数珠は、無限大の功徳をもたらす。』
ルドラークシャの功徳についての記述は、『シュリーマド・デーヴィー・バーガヴァタム』、『シヴァ・プラーナ』、『ルドラークシャ・ジャーバーラ・ウパニシャッド』の聖典において詳しく述べられています。シヴァ神自身は、『シュリーマド・デーヴィー・バーガヴァタム』の中で、ルドラークシャの功徳について、次のように述べています。
『ルドラークシャを所有することの功徳は、三界によく知れ渡っている。プンニャ(偉大な功徳)は、ルドラークシャを一瞥するだけで生じる。それに触れることで、一千万倍の功徳が生じる。それを身に着けることで、十億倍の功徳が生じる。そして、それを用いて毎日ジャパを行うことで、十億倍のさらに一千万倍の功徳が生じる。これに関しては、疑問の余地がない。』
ルドラークシャの実には、表面に溝が入っており、その溝の数によって、神格、占星術上の惑星、功徳が対応づけられています。「ネパール・インドの聖なる植物」(T.C.マジュプリア著)[1]におけるルドラークシャの解説では、溝の数によって、次のような神格が対応づけられています。
1本 パラブラフマー(最高神ブラフマー)
2本 シヴァ・シャクティー(シヴァとのその神妃シャクティー)
3本 ブラフマー・ヴィシュヌ・マヘーシュ(ブラフマー、ヴィシュヌ、シヴァの主要三神)
4本 チャトゥラーナナ(四つの顔をもつ者の意味でブラフマーの異名の一つ)
5本 パンチャムキー(シヴァの妻)
6本 シヴァプトラ・スカンダ(シヴァの息子スカンダ軍神)
7本 サプタマートリカー(七母神)、サプタルシ(七聖仙)
8本 八体のシヴァ神像
9本 ナヴァ・ドゥルガー(ドゥルガー女神の九つの姿)
10本 ダシャ・アヴァターラ(ヴィシュヌ神の10化身)
11本 エーカーダシャ・ルドラ(男性と女性の姿をあわせもつルドラ神の男性としての11分身)
12本 太陽神、ジョーティーシュ・ヴァクラ(光るシヴァ神)
13本 ヴィシュヴァデーヴァ(すべての神々)
14本 第四のインドラ神、ブヴァネーシュヴァラ(世界の主)
15本以上 ルドラ神
その中で、もっとも貴重なものは1本の溝をもつルドラークシャであり、「それをもつ者は、この世の富を見守っている吉祥の女神ラクシュミーの、この上ない祝福をうけるという幸運にあやかるようになり、すべての快楽を迎えうけ、それを享受することになる」[1]と言われています。
ルドラークシャには、その果肉や種子に薬効があると考えられ、インドやネパールでは民間療法として古くから活用されてきました。アーユルヴェーダでは、ヴァータ(風)、ピッタ(火)の性質を中和し、咳を和らげるといわれます。また種子を粉末にしたパウダーも、塗り薬や飲み薬として活用されています。
敬虔な信者たちに、古くから祈りの対象として、また薬として活用されてきたルドラークシャには、ヒンドゥー教のエッセンスと叡知が込められています。
参考文献
[1] T.C.マジュプリア著・西岡直樹訳、「ネパール・インドの聖なる植物」(八坂書房、1989)
※この原稿は、「ハムサの会 会誌No.54 2015年秋号」に掲載されました。
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