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インド音楽

旋法からラーガ(彩り)へ

Kerze und Harmonium

古代インド科学音楽では、オクターブを22〜12の微分音(Shrti/シュルティ)に分割させた後、それらから順列組み合わせ的な方法によって、多くの音階「Jati(ジャーティー)」を見出し、それに主音や副主音、さらには「開始音」「終始音」などを定めて「独立した個性を持つ音階」を編み出しました。これは最早「音階」を越えていますが、しばらくは「Jati」の呼称が続いていたようです。

実は、ある程度同様のことは世界中の音楽にみることができます。私は、このことをレクチャーコンサートで説明するとき、日本の唱歌「赤とんぼ」と「海」を例に挙げます。いずれも同じ音階ですが、全く異なる音の動きと、それによって確立した雰囲気を持っています。その音の動きを象徴的に導いているのが主音です。
古代インド科学音楽のある流派では、主音、副主音、開始音、終始音および音の動きの特徴を定めたものに、音階を意味した古い名称「Murchchana(ムールッチャナー)」を持ち出したりもしました。
ある意味これは、とても理に叶った考え方で、基本の音階を「Jati」とし、「約束事を付加した音階」というような意味、すなわち「旋法」という意味で「Murchchana」としたものです。もちろん、既に「旋法」の語が使われている古代ギリシア・ローマの「教会旋法」は、単なる「音階」に過ぎませんので区別すべきです。

恐らく、この「Murchchana」の演奏で数百年が経ったのでしょう。その段階では、「約束事を付加したJati」の感覚が踏襲されていたと考えられます。つまり「Jati」ありきの上に「Murchchana」が派生したという感覚です。
しかし、紀元前後から10世紀までの間に、インド科学音楽は、急速に発展し、個々の「Murchchana」には、次々新たな「音の動き」の良いアイディアが加えられました。
そうしているうちに、「ふっ」とある考えが浮かんだようなのです。と言いますか、大きな発想の転換が行われたと考えられるのです。このことはインド現地の研究者も語ってはいませんが、画期的な変化なのです。

それは、「Jati」に色々な約束事を加味して「Muruchchana」を創作したはずなのに、その個性を逸脱しないように、あらたな約束事を加えて行くうちに、「個性は既に存在していたのではないか?」と気づいた訳です。人間が創った「旋法」だと思っていたが、実は既に存在しているものを、人間があれこれ時間を掛けてやっとそれに気づいたのだという、「精霊」のような「旋法」の存在です。
それに気づいてからは、急速にその探究が進み、「この音の動きもこの旋法の本質を表しているに違いない」と次々に定型が加えられたのです。

そして、この発展時期に、「旋法」の名前も、「Murchchana」から「Raga(ラーガ)」に改められました。「Raga」とは、元々は「Rag(心を揺り動かす)・Rang(彩る)」という熟語を略したもので、この時期に、「旋法」の音の動きは、人間の心を大きく揺さぶり、また彩ると強く実感していたのでしょう。もちろん「アーユルヴェーダ(の中の音楽療法)」における実践も盛んに行われていたに違いありません。

肝腎なことは、この時期に、「旋法:Raga」は、三つの立場に分かれたということです。ひとつは、人間に聴かせ、心を彩ったり、様々な心と体の治療に活用できる「音の薬」としての「旋法:Raga」、言わば「人間本意」「人間の為の」ものです。ふたつめは、これと全く逆に、卓越した音楽家は更に精進を重ね、実演の度に「Ragaの本質」に迫ろうとする姿勢が重んじられた、言わば「Raga本意」のものです。みっつめは、正しく実演した「旋法:Raga」は、正しく天上・宇宙と交信できたはずでありますから、天上の音楽家、楽師、さらには神々とのコミュニケーションに繋がるはずだ、という考えです。

(文章:若林 忠宏

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