インド科学音楽、および、それを基礎にした後世から今日に至るインド古典音楽のリズム「Tala(ターラ)」のふたつめの重要な要素「付加リズム」は、平たく言えば「足し算リズム」というもので、リズムサイクルが、拍数の塊を足して作られた構造を持っているというものです。
例えば、日本の唱歌「チューリップ」や「もみじ」のような、四分の四拍子が四小節でひとまとまりのリズムをインド科学音楽のリズムサイクルで解釈すると、「4+4+4+4」の16拍子ということになります。唱歌「さくら」は、一行目が「4+4+4+4」なのに、二行目が「4+4」で終ってしまっている。これはインド科学音楽から見れば、極めて「非科学的」なのです。もし正すならば、「4+4+4+4」+「4+4」の24拍子として、常に厳守せねばなりません。
この「付加リズム」も、オリエントに共通し、ひいては北アフリカ、西アフリカ、カリブ海に共通します。しかし、カリブ海では、もっぱら「4+4」か「3+3」の二種類で、オリエントでも、「4+4」「3+3」「3+2+2+3」の10拍子、が良く演奏される曲の80%を占めます。しかし、理論的には、とりわけオスマントルコ宮廷音楽では、数曲しか演奏されないリズムパターンを多く含み、百数十種あると言われて居ます。
ところが、インド科学音楽では、数百種あるのです。
一説には、「4拍子から0.5拍刻みで108拍子まである」と言われます。つまり、4拍子、4.5拍子、5拍子、5,5拍子.............107.5拍子、108拍子ということです。108が「おしまい」なのは、流石に仏教を生んだ国です。
4拍子が最少なのは、3拍子は二分したとしても「1,5拍の2小節」では、音楽が作り得ないという、突然非論理的で現実的な考えからのようです。4拍子は、ぎりぎり「2+2」で作り得るのだそうです。
しかし実際は、ある程度の長さを持たせたもの、かつ長過ぎないものが多く起用されています。例えば、「3+2+2の7拍子」「4+4の8拍子」「4+3+2の9拍子」「2+3+2+3の10拍子」「4+4+1.5+1.5の11拍子」「3+3+3+3の12拍子」「4+4+4+4の16拍子」などが群を抜いて多用されています。
これらは、「重たいターラ」と「軽いターラ」に二分されています。その根拠は、各拍の塊は、「小節」のような感覚で「Vibhag(ヴィバーグ)」と呼ばれますが、「Vibhag」の拍数が多い方、全体の拍数が多い方がより「重い」であり、更に全体が均一に二分できることも「重たい」の重要な条件です。
故に、10拍子、12拍子、16拍子は、真ん中で二分できますから、重たいと言えます。8拍子も二分できますが、各「Vibhag」の拍数はまだしも、全体が短か過ぎます。
例外的に、7拍子が古典音楽に多用されているのは、実は、より古くは、倍の長さの「3+4+3+4の14拍子」を、洒落で半分のところでループして生まれ、一時大流行したからであると考えられます。
この7拍子は、中世インド・イスラム宮廷音楽の担い手に多く含まれていたアフガン人楽師の故郷の民謡に多く、西アジアから東欧に掛けても人気のリズムなので、それにあやかりつつ、古典音楽の要素を持たせたターラであるかも知れません。しかし、古典音楽で多用されても、やはり「重たいターラ」とは、言えない訳です。
この「重たい、軽い」を簡単に説明しますと、まず「重い曲」というのは、厳格で難しい楽曲様式を用い、難しいRagaを用い、意味深い歌詞を持つものであり、「軽い曲」はその逆であるわけです。何度か申し上げましたが、インド科学音楽、およびそれを基礎としたインド古典音楽は、非常に周到な論理的探究を行う一方で、具体的な実演では、突然現実的な感覚になるのです。しかし、これも何度も申しましたが、「論理的、科学的考察」によって「森全体を把握」したからこそ、現実論に専念できるわけなのです。
(文章:若林 忠宏)
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