インドに滞在する楽しみの一つに、手でいただく食事があります。レストラン等ではフォークやスプーンが提供されますが、家庭に入れば、現在でも手で食事をとるのが通常です。私自身も、インドで食事をとる時はなるべく手を使い、古くから受け継がれてきた慣習を学んでいます。食事がより楽しくなるこの食し方について、インドの人々が実践する大切な意味を見つめ直したいと思います。
まず、ムドラーでも重要視されるように、五大元素をあらわす五本の指は、それぞれに大切な意味と役割があります。親指はアグニ(火)、人差し指はヴァーユ(風)、中指はアーカーシャ(空)、薬指はプリティヴィー(地)、小指はジャラ(水)をあらわし、これらに繋がる手で直接食事をとる時、それぞれの要素が調和され、心身と食物のエネルギーのバランスが保たれると伝えられます。
指先で感じ取った食物の温度や状態は、しっかりと脳に伝わり、身体は適切な消化を促します。農作から調理まで、多くの人を経て得られる食事には、目には見えないさまざまな思いやエネルギーが関わっています。重要な行為器官の一つである聖なる手は、こうした思いやエネルギーを浄化し、より清らかなものとして体内に運ぶ助けをしてくれるといわれます。
指先は、ラクシュミー女神が住まう場所として、古くからマントラの中でも讃えられてきました。食事というかけがえのない豊かさを、女神の力によって取り入れる時、それは何よりもの豊かさとして、私たちの心身を育みます。
また、私たち人間は母親の胎内から出た後、たくさんの菌の力を借りて生きています。特に、私たちの身体にとって常在菌となる微生物との関わりはとりわけ重要であり、手で直接食事をとることは、こうした微生物との関わりを強めてくれるといわれます。
食事は、毎日欠かさずに誰もが行う重要な行為です。食文化が異なる日本では、なかなか手で食事をする機会はないかもしれませんが、インド料理を食する機会があれば、ぜひ、手でとる食事に秘められた大切な意味を感じて見てください。大自然と調和をしながら幸せに生きる、インド古来の偉大な叡智を学ぶことができるはずです。
(文章:ひるま)
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