インドの数ある祝祭の中でもとりわけ重要視される1月のマカラ・サンクラーンティでは、インドの各地でさまざまな祝祭が執り行われます。中でも、南インド・ケーララ州のサバリマラ巡礼は、世界的にも有名な祝祭です。
年間1億人もの巡礼者が訪れるといわれるサバリマラ巡礼では、ヴィシュヌ神とシヴァ神の息子と信じられるアイヤッパ神が礼拝されます。サバリマラは、アイヤッパ神が悪魔を倒した後、瞑想についた場所として崇められます。アイヤッパ神の生まれはさまざまに異なる伝承がありますが、一説に、乳海攪拌において生まれたと伝えられています。
乳海攪拌で悪神たちに盗まれたアムリタ(不死の甘露)を取り返そうと、ヴィシュヌ神はモーヒニーという美女になりすましました。モーヒニーは悪神たちを誘惑し、その間に神々はアムリタを取り戻します。この時、シヴァ神も美しいモーヒニーに一目惚れをし、アイヤッパ神が生まれたといわれます。
アイヤッパ神は、両膝にヨーガパッタ(紐)を固定し中腰で座る独特な姿勢が、他の神々とは異なり目を引く存在です。ヒンドゥー教の多くの神々は、男神と女神が対になり夫婦として描かれ、足を組んで座る男神の膝の上には、妃である女神やその子どもが座ることもあります。ヨーガパッタで両膝を固定し座るアイヤッパ神は、その膝に座る者はいないことを意味し、禁欲者であることを示しているのだといわれます。
不安定な中腰で座る姿は、アイヤッパ神が動きの中で瞑想状態にあることを意味しているともいわれます。瞑想は、ただじっと座って目を閉じるものではありません。日々の一瞬一瞬の動きの中で、どれだけ大きな気づきを持ち、意識的であれるかが問われるものでもあります。膝に固定されたヨーガパッタは、動の中にある静を象徴しています。
サバリマラ巡礼においては、女性の立ち入りは禁止され(現在は立ち入りを認める動きもあります)、菜食を努め、髪や爪を切ってはならず、ベッドで寝ることや社交の場に出ることも禁じられるなど、数多くのとても厳しい戒行を努めなければなりません。それでも、巡礼者の数は増え続けているといわれます。
私たちは、日々の中でさまざまに揺れ動く心に悩まされることが多くあります。ヴィシュヌ神とシヴァ神の情事によって生まれながら、禁欲を貫くアイヤッパ神のエネルギーは意味深いものです。そんなアイヤッパ神への巡礼という動きの中で努める戒行によって、心が定まり究極的に目覚める意識を、人々は求めているのかもしれません。
(文章:ひるま)
参照:https://en.wikipedia.org/wiki/Sabarimala
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